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居座る稲田朋美防衛相~「誤解」34回、「緊張感」16回、理解も納得もできない釈明

 一つ前の稲田朋美防衛大臣の「自衛隊としてもお願い」発言に関する投稿「防衛相の資質問われる『自衛隊としてお願い』発言」の続きです。

 稲田氏が特定の都議候補の名を挙げて「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と述べたことに対しては、公務員の地位を利用した選挙運動を禁じた公職選挙法136条の2に明白に違反しており、発言を撤回したところで選挙違反の既遂であることに変わりはない、との指摘が法律の専門家からは挙がっています。そうであるなら罷免でも辞任でも、稲田氏は即刻、防衛相の任から離れて然るべきですが、どうやら安倍晋三首相はあくまでも稲田氏を防衛相にとどめておく意向のようです。稲田氏に続投を支持したと報じられています。

 稲田氏には公選法違反の事実のほか、防衛省と自衛隊の政治的中立を危機にさらした責任があり、安倍首相には内閣の責任者、閣僚の任命権者としての責任があるのですが、違法行為が内閣の判断で野放しにされかねない状況のようです。木村草太・首都大学東京教授(憲法学)は朝日新聞の取材に「稲田氏は発言当日に撤回したが、違法行為をした事実は消えない」と述べ「菅義偉官房長官は発言撤回を理由に稲田氏の職務を続行させる考えを示した。これは違法行為がすでになされたのに、官房長官自身が違法性がないと表明したことになる。発言が違法ではないとの判断は内閣の判断ということになり、稲田氏だけでなく菅氏、そして安倍内閣の責任問題につながってくるだろう」と指摘しています。

※朝日新聞デジタル「『撤回しても違法の既遂、内閣の責任問題』木村草太教授」=2017年6月28日

 http://www.asahi.com/articles/ASK6X55XPK6XUTFK00Y.html

 その稲田氏は6月30日、閣議後の定例の記者会見で、問題の発言と自らの進退についての見解を述べました。結論としては、発言のうち誤解を招きかねない部分を撤回して謝罪する、辞任はせずに緊張感を持って職務に邁進する、ということでした。しかし防衛省のホームページにアップされている記者会見での質疑の一問一答の詳報を読むと、その言いぶりと主張の内容は到底、理解も納得もしがたいものです。まさに「地位に恋々」という言葉が浮かんできます。

 詳報はかなり長いのですが、白熱した質疑が交わされた様子がよく分かります。

※「■防衛大臣記者会見概要 平成29年6月30日(11時15分~12時11分)」

 http://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2017/06/30.html

 1時間近くに及んだ会見で、稲田氏は突き詰めると二つのことしか言っていません。「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」との発言のうち「防衛省・自衛隊、防衛相」は誤解を招く恐れがあるから撤回しておわびするということと、辞任はせずにしっかりと緊張感を持って職務に邁進する、ということです。

 前者については、公務員の地位を利用した選挙運動のつもりはなく、自民党員としてその場にいたつもりだったこと、「防衛省・自衛隊、防衛相」は自衛隊への協力に感謝していることを述べるのが真意だったこと、しかし誤解を招く恐れがあるので撤回する、ということを繰り返し言い張っています。しかし、発言はどう読んでも「誤解」の余地はなく、文字通り「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党として」特定候補への支援を呼び掛けているとしか受け取りようのないものです。会見では記者もそのことを繰り返し追及していますが、何を言われようとも「誤解を招きかねない」の一点張り。わたしが数えた限りですが「誤解」という言葉を34回も口にしています(報道では「35回」という数字もあるようです)。

 進退についても、何を言われても「緊張感を持ってしっかりと職務に邁進してまいりたい」「しっかりと緊張感を持って、防衛大臣としての職責を果たしていかなければならない」と繰り返すのみ。こちらも「緊張感を持って」というフレーズを16回繰り返しました。表現は異なりますが、同じニュアンスの物言いがほかにあります。

 記者たちも相当激しく突っ込んだ様子がうかがえますが、答えはまったくかみ合っていません。稲田氏の言葉遣いは記録を目で追っている限りでは丁寧ながらも、その答えの内容から言うならば、これほど閣僚の職責も、衆院議員としての責任もなめ切って、そして何よりも国民を愚弄する態度はないだろうと感じます。以下に備忘も兼ねて、やり取りの一部を書きとめておきます。

 Q:法曹資格をお持ちの大臣に対して大変失礼かと思うのですが、この発言については、公職選挙法136条の2に違反するものではありませんか。 

A:今、記者御指摘の公職選挙法についてでございます。公職選挙法を遵守すること、これは政治家として当然でございますが、そういった地位を利用した選挙運動を行うということは全く意図しておらず、しかしながら、誤解を招きかねない発言であり、撤回をしたということでございます。

 

Q:全く誤解を招く余地はなくて、それはもう誤解を全く招かないのですよ。この当時の発言で、法曹資格をお持ちの稲田大臣はこれを公職選挙法違反と判断されるかどうか、136条の2に違反すると考えられるかどうかということを聞きたいのですが。

A:防衛大臣としては、防衛省・自衛隊として感謝するという趣旨はございました。そして、誤解を招きかねない「防衛省・自衛隊、防衛大臣」のところは撤回をしているところでございます。あくまでも自民党員として、自民党の国会議員として、その場に伺っているということであり、そういった意図は全くございません。さらに、私としては、その公職選挙法、地位を利用した選挙活動を行うという意図は全くないということでございます。

 

Q:意図はなくても、発言は、公職選挙法136条の2に違反するというふうに法律の専門家、法曹の方は仰います。これは、撤回してもしなくても既遂であると、公職選挙法違反の既遂であるというふうに考えられる法律家の方が多いのですが、それについて法曹資格をお持ちの稲田大臣はどうお考えになりますか。

A:私といたしましては、発言の誤解を招く部分、この点については、撤回を申し上げているところでございますし、地位を利用した選挙運動を行うということは全く意図もしておりません。そして、私は自民党の国会議員として、応援演説に伺ったところでありますが、そういった誤解を招く点については撤回をし、お詫びを申し上げているところであって、地位を利用した選挙運動を行う意図というものは全くなかったということであります。

 

Q:地位を利用した選挙運動ではないですか。まさにこれが、公職選挙法の136条の2に違反するというふうに法律の専門家は仰るわけですよ。撤回したからといって、既遂は既遂ですから、撤回しても意味はないのですよ。それについて法曹資格を持つ稲田大臣はどうお考えですか。

A:そういう御指摘があるということは報道で承知しておりますが、私といたしましては、公職選挙法、政治家として基本的に遵守すべきものであって、その地位を利用した選挙運動を行うことなど全く企図、意図はしておりません。そして、誤解を招く発言については撤回し、そして、お詫びを申し上げているところでございます。

 

Q:誤解を招くことでは全くないと思うのですが、どういうふうに誤解を招くのですか。「防衛省・自衛隊、防衛大臣、自民党」と言っているじゃないですか。誤解を招くところは一切ないじゃないですか。何をどう誤解するのですか。我々を馬鹿だと言っているのですか。

A:そんなことは申し上げておりません。私は「防衛省・自衛隊、防衛大臣」としてお願いをするという意図はなく、あくまでも自民党としてお願いをしたいという趣旨でその場にいたわけでございます。しかしながら、御指摘のようにそれが真意について誤解を招きかねないものであることから、撤回し、お詫びを申し上げているところであり、御指摘の公職選挙法に関しては、しっかりと守っていくべきものであることは当然でございますし、そういった政治的地位を利用する意図は全くないということでございます。

 

Q:大臣が前言を撤回したり、軌道修正するケースというのは今回が初めてではないと思うのですけれども、御自分でこういうことを繰り返される原因がどこにあると考えるか聞かせてください。

A:今、記者の御指摘の件は、弁護士時代、すなわち13年前のことですけれども、訴訟に出廷していたということを記憶違いに基づいて事実の異なる答弁を行ってしまった件について、国会においてお詫びをして訂正をさせていただいたところでございます。私としては国会の場でも国会において、しっかりと誠実に今後は答弁をしてまいりたいと申し上げたと同時に、これからは一層緊張感をもって、誠実に防衛大臣としての職務を全うしてまいりたいと考えているところでございます。

 

Q:つまり、失言を何回か繰り返されているわけですけれども、原因は御自身でどうお考えですか。反省されていないんじゃないかと、だから繰り返すのではという気もするのですが、御自身はどのようにお考えですか。

A:今回のことも含めて、政治家の言葉というのは重いわけですから、しっかりと緊張感を持って職務に邁進してまいりたいと考えているところです。

 

Q:大臣が、昨年防衛大臣に就任した時というのは、報道もそうなのですけれども、総理は抜擢の意味を込めたと思います。将来を見据えたというところも報道でありますが、今、党内でも交代論は強まっていて、あと防衛省・自衛隊でも困惑が強く広がっているのですけども、結果的に、こういう状態に陥ったことについて、大臣は、一政治家としてどうお考えですか。

A:報道は承知をいたしておりますし、様々な御批判も指摘をいただいているところでございます。私としては、そういった御批判についてしっかり真摯に受け止めて、そして緊張感を持って誠実に職務に邁進してまいりたいと考えています。

 

Q:先程、政治家の言葉は重いと仰いましたけども、特に、23万人の実力組織の指揮官に服する防衛大臣の言葉は重いと思いますが、そこで、自衛隊の中立性に関わるような失言、暴言をされたわけですから、責任は極めて重いと思うのですが、それでも辞めるおつもりはありませんか。

A:はい。緊張感を持って職務に邁進したいと考えております。 

 

Q:大臣が野党時代は、かなり政権幹部の出処進退に厳しく当たられていたと思うのですが、当時の総理大臣に、内閣総辞職を迫ったりとか、出処進退ということに厳しい方だったと思うのですが、当の御自身の釈明がですね、それが整合性がきちんとつく政治姿勢だと言えるのか、その点、いかがお考えでしょうか。

A:御指摘のとおり、野党時代、大変厳しい質問を予算委員会、所属委員会でしたことも事実でございます。そういう意味において、私自身もしっかりと緊張感を持って、この厳しい安全保障環境の下で、防衛大臣としての職責を果たしていかなければならないということは、痛感をいたしております。

 

Q:相手に対しては責任を迫って、辞めろと言いながら、御自身はほとんど説明がつかないような状態で続投というのは、その整合性をどうやって付けるのでしょうか。

A:そういった御批判は真摯に受け止めますけれども、緊張感を持ってしっかりと職務に邁進してまいりたいと考えております。

 

 稲田氏が多用している「しっかり」という言葉遣いは、実は安倍首相もよく口にしています。おそらく「緊張感を持ってしっかりやれ」と、直接安倍首相に指示を受けたのではないかと想像します。そしてこれも想像ですが、稲田氏は仮に自ら辞任を申し出たいと思っても、安倍首相がそれを許さないのだろうと思います。そうだとすると、そこまでして稲田氏を続投させなければならない理由は何なのでしょうか、どんな事情があるのでしょうか。

 新聞の論調の「2極化」を感じる中で、安倍政権支持の論調が目立つ読売新聞も産経新聞も、今や社説やコラムで稲田氏を極めて厳しく批判しています。安倍首相にとっては、直ちに稲田氏を更迭した方が痛手は少なくて済むはずですし、防衛省と自衛隊の名誉を守るためにも、そうするほかないように思うのですが、そうしないのはなぜでしょうか。その事情を探るのもマスメディアの役割だろうと思います。

※読売新聞・6月30日付社説「稲田防衛相発言 政治的中立に疑念持たれるな」 

 http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170630-OYT1T50016.html

※産経新聞「産経抄」6月30日:「防衛省の『お子様』大臣」

 http://www.sankei.com/column/news/170630/clm1706300003-n1.html

 

 今、わたしたちの社会は大きな曲がり角にあるのではないかという気がしています。「自民一強」の中の「安倍一強」の果てに、「共謀罪」法が参院で委員会採決を飛ばして本会議での採決が強行されるような事態になっています。平行して、安倍首相は憲法改正にどんどん前のめりになり、自らの考える9条改正案をいきなり外部で発表し、既成事実化させた上で自民党内の合意形成手続きを後追いさせるような、乱暴なやり方を通しています。そうしたことに自民党内からは反対の声が聞こえてこず、異論や疑問があったとしても大きな声になりません。そうしたことと、今回の稲田氏の発言が首相サイドの意向によって不問に付されようとしていることは無関係ではないでしょう。

 だからこそ今、おかしいことをおかしいと言う、言える空気を社会の中に維持しておくことが必要だと思います。「共謀罪」法は成立してしまいましたが、それでも「共謀罪」が悪法として猛威を振るうようなことがないようにするには、社会の誰であっても萎縮することなくモノを言うことを続けていくことしかないのだと思います。

 やはり、稲田氏の発言が不問に付されるのはおかしい。一体どんな事情があるのか、マスメディアは取材を深めていかなければならないと思います。 

【写真】稲田朋美防衛相の会見の様子を伝える朝日、毎日、読売3紙の6月30日付夕刊

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防衛相の資質問われる「自衛隊としてお願い」発言

 稲田朋美防衛相が6月27日夜、東京都議選自民党候補の集会で応援演説に立ち「防衛省自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と発言しました。自衛隊員の政治的行為の制限を定めた自衛隊法を持ち出すまでもなく、自衛隊防衛省自民党の候補支援のために政治利用したに等しい発言だと、わたしは受け止めています。 

※47news=共同通信「稲田氏『自衛隊としてお願い』都議選で、野党『私物化』批判」

 https://this.kiji.is/252404163074901495 

 稲田朋美防衛相は27日、東京都板橋区で開かれた都議選の集会で「防衛省自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と訴えた。自衛隊を政治利用するもので、行政の中立性を逸脱したと受け取られる可能性がある。野党は「行政の完全な私物化だ」と批判。稲田氏は同日深夜、「誤解を招きかねず、撤回したい」と述べた。

(中略)

 自衛隊法は、隊員の政治的行為を制限している。稲田氏の発言は、防衛省自衛隊が組織を挙げて候補者を支援すると主張したようなもので、法に抵触する恐れもある。 

  報道によると、稲田氏は27日夜のうちに発言を撤回したようですが「誤解を招きかねない」というのが理由のようであり、発言の意図に問題はなかったと考えているようにも感じられます。だとすれば、現職の防衛相が選挙応援で「防衛省自衛隊として」と口にすることの意味を理解しているとは言い難く、防衛相としての資質が問われても仕方がないように思います。

 稲田氏には南スーダンPKO派遣部隊の「日報」問題を巡って、省内を掌握できていないとの批判があり、森友学園問題でも、学園の代理人弁護士として訴訟に出廷したことはないと国会で言明した直後に、出廷したことを示す裁判所の記録が存在することを報じられ、謝罪したこともありました。今回の「自衛隊としてお願い」発言に対しては、野党は辞職を求めており、28日以降の展開に注目したいと思います。

 

 「自衛隊としてお願い」発言は東京発行の新聞各紙も28日付朝刊で報じました。1面に置いたのは朝日新聞毎日新聞東京新聞。読売新聞と産経新聞は2面に記事1本。日経新聞は4面ですが、見出しは読売、産経より大きめです。しばらく前から、安倍晋三政権に対する各紙のスタンスが2極化し、それが紙面に反映される傾向が強まっているように感じています。今回も安倍政権や政策に批判的な朝日、毎日、東京と政権支持の読売、産経、中間的な日経と、比較的はっきりと紙面の扱いが分かれたように思います。 

朝日新聞
・1面左肩・準トップ「都議選候補応援『自衛隊としてお願い』 稲田防衛相が発言、撤回」顔写真 ※見出し4段
・4面「野党『稲田氏は辞任を』/自衛隊の政治利用と批判」

毎日新聞
・1面左・3番手「都議選応援『自衛隊としてお願い』 稲田氏発言 後に撤回」顔写真 ※見出し4段
・5面「与党 都議選を危惧/稲田氏発言 野党『完全にアウト』」/稲田防衛相 集会での発言(要旨)

東京新聞
・1面トップ「稲田防衛相 都議選応援 『自衛隊としてお願い』 発言撤回 辞任は否定」写真・集会で演説する稲田防衛相 ※見出し4段/「『こればかりはまずい』政府高官」/「特定候補の支持を自衛隊法令禁じる」※「行政の中立性」用語説明
・2面「稲田氏発言に批判続々 『全自衛官が自民支持と誤解されるのでは』 都議選 応援演説」/都議選候補集会演説要旨/国会内での発言要旨/表・稲田防衛相が物議を醸した発言

▼読売新聞
・2面「都議選『自衛隊としてお願い』 稲田防衛相 自民候補集会で 発言撤回」顔写真 ※見出し3段

産経新聞
・2面「『自衛隊としてお願い』 稲田氏撤回、野党は辞任要求 都議選演説」顔写真 ※見出し3段

日経新聞
・4面「『防衛省・自エア遺体としてもお願いしたい』 都議選応援で稲田氏 行政の中立性で物議」写真・集会で演説する稲田防衛相 ※見出し4段/「行政の中立性」用語説明/「発言を撤回 辞任は否定 稲田氏」/「『即刻辞任を』民進代表」

 【写真】稲田氏の発言を6月28日付朝刊1面で伝えた朝日、毎日、東京の3紙

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「はてなダイアリー」から「はてなブログ」に移転しました

 2008年11月から続けてきた「はてなダイアリー」から「はてなブログ」に移転しました。記事、写真、コメントはすべて「はてなブログ」に引き継がれるそうです。過去記事は「はてなダイアリー」のURLをクリックしても「はてなブログ」に誘導されるとのことです。 

 プロフィル写真も更新しました。ツイッターフェイスブックで使用しているものと同一です。以前の写真をここに残しておきます。大阪に住んでいた2013年の1月に、京都ジャーナリスト9条の会にお招きいただき、2012年の衆院選報道について講演をさせていただいた際のものです。

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「一人一人が当事者」と本土に問うた翁長・沖縄知事の「慰霊の日」平和宣言

 6月23日は沖縄の「慰霊の日」でした。第2次大戦末期の1945年のこの日、沖縄の地上戦では日本軍司令官が自決し、組織的戦闘が終結したとされる日です。沖縄戦の全戦没者は約20万人。このうち一般住民の戦没者は約9万4千人とされます。沖縄戦は、人々が生まれ育ち、生活している土地が地上戦の戦場になり、おびただしい住民の犠牲を生んだ点に特徴があります。教訓は、軍隊は住民を守らないということだろうとわたしは受け止めています。日本の戦争指導部は、沖縄戦を本土決戦のための時間稼ぎと位置づけていました。軍事的に劣勢でも降伏はありえず、敗北が決まっていながら戦闘が続いたことが住民被害を大きくしました。戦後は沖縄は日本から切り離されて米統治下に置かれ、軍事拠点化されました。1972年に日本に復帰した後も基地は存在し続け、今は米軍普天間飛行場の移転先として、名護市辺野古への新基地建設工事が沖縄県の反対を押し切って進められています。
 ことしも「沖縄全戦没者追悼式」で沖縄県の翁長雄志知事は平和宣言を読み上げました。その全文を私も読んでみました。翁長知事が強調しているのはやはり基地の問題です。国土面積の約0・6%にすぎない島に、米軍専用施設面積の約70・4%が集中していること。復帰すれば基地負担も本土並みになるという45年前の期待とは裏腹に、米軍基地から派生する事件・事故、騒音・環境問題などに苦しみ、悩まされ続けていること。昨年起こった痛ましい事件、オスプレイの墜落をはじめとする航空機関連事故の度重なる発生、嘉手納飛行場における米軍のパラシュート降下訓練や相次ぐ外来機の飛来、移転合意されたはずの旧海軍駐機場の継続使用の問題―。「基地負担の軽減とは逆行していると言わざるを得ません」と断じ、特に普天間飛行場辺野古移設に対して「沖縄の民意を顧みず工事を強行している現状は容認できるものではありません」と批判しました。そして「辺野古に新たな基地を造らせないため、今後も県民と一体となって不退転の決意で取り組むとともに、引き続き、海兵隊の削減を含む米軍基地の整理縮小など、沖縄の過重な基地負担の軽減を求めてまいります」と決意を表明しています。
 そのすぐ後に続く文言に、しばし目が止まりました。「国民の皆さまには、沖縄の基地の現状、そして日米安全保障体制の在り方について一人一人が自ら当事者であるとの認識を深め、議論し、真摯に考えていただきたいと切に願っています」―。翁長知事の平和宣言は2015年から今年で3回目です。過去2回も普天間移設問題に言及し、日本政府に政策の見直しを求めることはありました。しかし、直接、沖縄県外の国民に呼び掛けたのは今年が初めてです。
 普天間飛行場の移設をどうするのか、辺野古移転を進めるのか、別の道を探るのか。この問題を沖縄県外、日本本土(ヤマト)の日本人はあまり意識せずにいるかもしれません。あるいは、それは政府が考えるべき問題であって、そんな大きな問題は自分には直接関係がないこと、と考えている人もいるでしょう。もしかしたら、今まで通りで良い、それで何の不都合があるのか、と考えている人もいるかもしれません。しかし、日本国の主権者は国民一人一人です。日本政府はその主権者の総意の元にしか成り立ちえません。現政権を支持していようがいまいが、あるいは政治に関心があろうがなかろうが、この関係に変わりはありません。日本政府の行動や姿勢が問われているときには、主権者である国民もまた問われているのです。翁長知事が言う「一人一人が自ら当事者である」との、この沖縄からの問いかけを受け止めることがないとすれば、主権者として無責任であるということになるでしょう。
 わたしは主権者の一人として、同じ主権者である沖縄の人々は、日本国内のほかの地域と同じように地域の自己決定権を手にできるようになってしかるべきだろうと、ある時期から考えるようになりました。そのために必要であり、なおかつ主権者としてできることは、主権者として中央政府に対して意思表示をしていくことです。それはつまるところは選挙での1票の行使に行き着くでしょう。沖縄の人たちが過剰な基地集中に苦しみ、およそ日本の他地域ではありえないほどに地域の自己決定権を奪われている状況を変え得るのは、主権者である国民一人一人の当事者意識だろうと思います。
 今年初めて、翁長知事が丁寧な口調ながらも「一人一人の当事者意識」と問うたことに、日本本土(ヤマト)の日本人はそれだけ沖縄の人たちが本土の自分たちを見るまなざしが険しくなってきていることを悟るべきだと思います。翁長知事の問いかけの意味を知るには、ヤマトのマスメディアの役割は小さくありませんが、この平和宣言の報道ぶりはどうだったでしょうか。東京発行の新聞各紙は23日の夕刊と24日の朝刊で、「慰霊の日」を報じました。23日は東京都議選の告示日。また前夜、かねて乳がんを公表し、ブログに闘病生活の日々をつづっていた元アナウンサーで歌舞伎俳優市川海老蔵さんの妻、小林麻央さんが前夜に死去したことが明らかになって、大きなニュースになりました。相対的に、沖縄の「慰霊の日」は扱いが限られたようです。その中では毎日新聞が23日夕刊1面で「『国民が当事者意識を』」の主見出しを立てているのが目を引きました。しかし総じて言えば、本土メディアの課題はなお大きいと言わざるを得ないと思います。
 以下に、東京発行の新聞各紙が翁長知事の「平和宣言」をどのように報じたか、手元にある朝日新聞毎日新聞、読売新聞の紙面から見出しや記事の書きぶりを書きとめておきます。いずれも東京本社発行の最終版です。

朝日新聞

・23日夕刊1面 見出し「戦後72年 沖縄の苦しみ 慰霊の日 平和宣言」
 「翁長氏は平和宣言で『戦争の不条理さと残酷さを体験した県民は、平和な世の中を希求する「沖縄のこころ」を強く持ち続けている』と述べた。米軍普天間飛行場名護市辺野古への移設計画については、平和宣言に3年連続で盛り込み、4月に埋め立て工事を始めた政府を強く批判した。/さらに、昨年12月に名護市沿岸でオスプレイが大破した事故など、『辺野古』以外の米軍基地問題にも広くふれ『米軍基地から派生する事件・事故、騒音・環境問題などに苦しみ、悩まされ続けている』と訴えた。」
・24日付朝刊3面 見出し「沖縄知事、強く政権批判 『平和宣言』名護市長選へ対決姿勢」
 「辺野古への移設反対を掲げて知事になった翁長氏は、過去2回の平和宣言でも辺野古問題にふれてきた。ただ、オスプレイの事故やパラシュート訓練など、沖縄が抱える様々な基地問題を具体的に列挙したのは初めて。対決色を前面に押しだした/理由がある。『保守、革新を乗り越えて』を合言葉にしてきた翁長氏はこれまで、政権と対立しつつもパイプの維持に努めてきた…」

毎日新聞

・23日夕刊1面 見出し「『国民が当事者意識を』 沖縄知事 基地問題で訴え 慰霊の日」
 「翁長雄志知事は平和宣言で今年も、米軍普天間飛行場宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設について『容認できない』と反対を主張。『沖縄の基地の現状、日米安全保障体制の在り方について、国民の一人一人が自ら当事者であるとの認識を深めてほしい』と訴えた。/4月に辺野古の埋め立て作業に着手した政府との対立が深まる中、翁長知事は3年連続で平和宣言の多くを基地問題に割き、『辺野古に新たな基地を造らせないため、今後も県民と一体となり不退転の決意で取り組む』と述べた。」
・24日付朝刊1面 見出し「辺野古 容認できない 沖縄慰霊の日 知事改めて反対」
 「翁長雄志知事は『沖縄の民意を顧みず工事を強行している現状は容認できない。沖縄の基地の現状、日米安全保障体制の在り方について、国民の一人一人が自ら当事者であるとの認識を深めてほしい』と訴えた。就任以降3年連続で平和宣言の多くを基地問題に割いた。/知事は『戦争の不条理と残酷さを体験した県民は、平和な世の中を希求する『沖縄のこころ』を強く持ち続けている」とも述べた。

▼読売新聞

・23日夕刊1面 見出し「沖縄戦 慰霊の日」
 「安倍首相と翁長雄志知事が哀悼の意を述べ、翁長氏は『平和宣言』で、米軍普天間飛行場宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を改めて強調した。」
・24日付朝刊4面 見出し「首相 沖縄負担軽減に意欲 『辺野古移設』は変わらず 慰霊の日
 「これに対し、翁長雄志知事は、追悼式の『平和宣言』で辺野古移設工事について、『工事を強行している現状は容認できるものではない。県民と一体となって不退転の決意で取り組む』と政府の対応を非難した。」

 なお、24日付朝刊では毎日新聞が「知事の平和宣言」と「首相あいさつ」の全文を、朝日新聞はそれぞれの要旨を掲載。朝日新聞の平和新聞の要旨には「国民の皆様には、自ら当事者であるとの認識を深め、真摯(しんし)に考えて頂きたいと切に願っています」の一文が入っています。
 読売新聞はネット上の自社サイトに平和宣言の全文をアップしています。毎日新聞も会員向けコンテンツとして全文をアップしています。沖縄県のサイトにはまだアップされていないようです。


【写真:6月23日夕刊と24日付朝刊の朝日、毎日、読売3紙の1面】
 

「共謀罪」成立、作家高村薫さん「悪いのはぜんぶ私たち」(京都新聞)

 6月15日に「共謀罪」(政府呼称「テロ等準備罪」)法が参院で可決、成立されたことに対して、京都新聞が作家の高村薫さんのインタビューを掲載しました。私が読んだのは同紙のサイトに15日夜にアップされた記事です。「共謀罪」が私たちの社会に生まれ落ちたことの意味をあれこれと考えてきましたが、今の私の気分にもっとも近い指摘だと感じています。高村さんの指摘を一部引用して紹介します。

※「共謀罪」成立、作家高村薫さん「悪いのはぜんぶ私たち」=京都新聞2017年6月15日 22時47分
 http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20170615000152

 しかし、悪いのはぜんぶ私たちですよ。政権のウソを見抜くことができず、高い支持率を与え、好き勝手にさせてしまったのだから。
 「テロ対策」というのはまやかし。再三の指摘にもかかわらず適用範囲はあいまいなままで、対象となる罪もテロとは無関係なものが多数含まれている。他方で、都合の悪い異論を封じ込めるに、これほど便利な法律はない。今は、政府の方針に堂々と言論で反対することができるけれど、共謀罪があれば、そうした行為と、処罰対象となる「反政府運動」とを結び付けるのは簡単。ほんの一歩、あるいは半歩ほどの違いしかない。
(中略)
 では、なぜ政府のウソを見抜けなかったのか。高い支持率を与えてしまったのか。それは考えることを放棄してしまったから。今の日本は情報が多すぎて「何が最善なのか」「何が本当なのか」が見えにくい。分かるのは「結局、世の中難しいね」っていうことだけ。そこで、自分で決断することに限界を感じ、ある種威勢の良い言葉で現状をスパッと切ってくれる政治家に飛びついてしまう。
(中略)
 繰り返しになるけれど、悪いのは私たち。ある意味、平和や民主主義が保障されてきた戦後社会に慣れすぎていた。安心感を覚え、権力に対する警戒心が失われていた。そう、この70年、権力は「優しい顔」をしていたんですよ。よく注視すると本当は違うけれど、市民感覚として権力は怖くなくなっていた。いつ権力が私たちに牙をむくか分からないのに。共謀罪はまさにそういう法律だったのです。私たちは本当に取り返しのつかないことをした、今は、そのことを肝に銘じることしかできない。

 今振り返ってみれば、「テロ対策」を持ち出してきた安倍晋三政権に対して、そうまでして「共謀罪」をなぜ入れたがるのかを社会全体でもっと深く考えるべきだったのだろうと思います。
 そもそも、安倍首相が言うように「共謀罪」がなければ「2020年の東京五輪は開催できないと言っても過言ではない」というのが本当ならば、日本は世界中をだまして五輪を誘致したも同然ということになります。共謀罪が過去3回、国会に提案されたときには、このようにテロ対策が前面に出ることはありませんでした。なぜ今回は「テロ対策」が強調されたのか。それは、3回も廃案になった共謀罪とは別の呼び方にすることに目的があり、意味があったのだろうと推察します。そしてその後の推移は、「テロ対策」がそのこと自体には社会の関心が極めて高いこともあって、安倍政権の思った通りだったのではないでしょうか。賛成意見が圧倒的に多い、とはなりませんでしたが、反対の声が賛成を圧倒することもありませんでした。
 しかし、それでもまだ、ここで絶望してはいけないのだと思います。「私たちは本当に取り返しのつかないことをした、今は、そのことを肝に銘じることしかできない」。そうだとしても、取り返しのつかないことになった、ということを肝に銘じて、その上でどうするのか、どうすればいいのかがより重要なのだと考えています「共謀罪」の乱用をどう防ぐのか、盗聴、私信や電子メールのチェックなどの野放図な拡大にどう歯止めをかけるのか、権力による監視をだれが監視するのかなど、社会的な議論が必要な課題が数多くあります。もちろん「テロ防止」も重要です。それらの議論の一つ一つで論点がかみ合い、議論が担保されるために、今後マスメディアが果たす役割もあるのだろうと思います。

安倍晋三内閣の支持率急落、読売12P減、朝日、毎日、日経、共同10―6P減

 6月15日(木)に「共謀罪」法が成立してから最初の週末に実施されたマスメディアの世論調査結果がいくつか報じられています。安倍晋三内閣の支持率は軒並み急落しました。前回比(前月比)では読売新聞調査では12ポイント減、共同通信調査、毎日新聞調査でも10ポイント減です。不支持率も軒並み上昇し、読売新聞調査では13ポイント増。毎日新聞やNNNの調査では、「支持」を「不支持」が上回りました。
 ネット上で目に止まったものを以下に書きとめておきます。支持率の下落幅の大きい順に並べました。

・読売新聞 「支持」49%(12P減) 「不支持」41%(13P増)※17、18日実施
共同通信 「支持」44・9%(10・5P減) 「不支持」43・1%(8・8P増)※17、18日実施
毎日新聞 「支持」36%(10P減) 「不支持」44%(9P増) 「関心がない」17%(1P増)※17、18日実施
産経新聞・FNN 「支持」47・6%(8・5P減) 「不支持」42・9%(8・2P増)※17、18日実施
日経新聞テレビ東京 「支持」49%(7P減) 「不支持」42%(6P増)※16―18日の3日間実施
・NNN(日本テレビ系列) 「支持」39・8%(6・3P減) 「不支持」41・8%(5・4P増)※16―18日の3日間実施
朝日新聞 「支持」41%(6P減) 「不支持」37%(6P増)※17、18日実施

 安倍内閣の支持率は急落はしましたが、それでも支持率自体は読売新聞、日経新聞テレビ東京の各調査ではそれぞれ49%、共同通信44・9%と、まだ相当に高いと言っていい水準を保っています。2015年に安全保障法制の採決を与党が強行して成立させた直後は、35%から高くても40%ちょっとといった水準でした。

【参考】 2015年9月19日未明:安保法案が参院本会議で可決、成立
※いずれも9月19、20日実施
朝日新聞 支持35%(1ポイント減)不支持45%(3ポイント増)
毎日新聞 支持35%(3ポイント増)不支持50%(1ポイント増)「関心がない」12%(3ポイント増)
・読売新聞 支持41%(4ポイント減)不支持51%(6ポイント増)
日経新聞テレビ東京 支持40%(6ポイント減)不支持47%(7ポイント増)
産経新聞・FNN 支持42・6%(0・9ポイント減)不支持47・8%(3・3ポイント増)
共同通信 支持38・9%(4・3ポイント減)不支持50・2%(3・8ポイント増)
・JNN 支持46・3%(0・8ポイント減)不支持49・5%(0・7ポイント増)

 ただ先月あたりから内閣支持率は低下傾向にありました。政権浮揚のために内閣改造なども取り沙汰されているようですが、どうでしょうか。今回の世論調査では、加計学園問題や森友学園問題、「共謀罪」法を参院法務委員会での採決を飛ばして本会議で採決にかけたやり口などに対して、相当に厳しい評価も表れているようです。2015年の安保法制の際には、まもなく内閣支持率は上向きに転じましたが、今回はそうもいかないのではないかとも感じます。間もなく始まる東京都知事選でどのような結果が出るのかも待ちたいと思います。
※参考過去記事
安倍晋三内閣の支持率の推移(2017年1月―)※随時更新」
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20170111/1484063382


【追記】2017年6月19日7時5分
 朝日新聞の調査結果を追加し、タイトルを「安倍晋三内閣の支持率急落、読売12ポイント、共同10・5ポイント、毎日10ポイント減」から改題しました。


【追記】2017年6月20日8時30分
 産経新聞・FNNの世論調査結果を一覧に加えました。また毎日新聞の調査結果に「関心がない」の回答結果を追加しました。

悪法は民主主義の基本を否定して誕生〜「共謀罪」法成立、在京紙の報道の記録

 かつての共謀罪と本質的に変わりがない「テロ等準備罪」(政府呼称)を新設する組織犯罪処罰法改正案は6月15日朝、参院法務委での採決を飛ばしたまま、本会議で採決が強行され可決、成立しました。安倍晋三政権がどう説明しようとも、改正法の実態をみれば、かつて3度も廃案になった共謀罪が、若干の装いと名前を変えてとうとう現代の日本社会に生まれ落ちたに等しいと思います。
 14日から15日朝にかけての国会の様子は、永く記録にとどめ、語り継いでいかなければならないと思います。「共謀罪」法案は参議院での審議は20時間にも達していませんでした。委員会での採決を飛ばして、いきなり本会議に進む「中間報告」は過去にも例はあるようですが、委員会の委員長が野党のときなどに限られており、今回は異例というより「異常」というほかないのではないかと感じます。与党が議論を一方的に打ち切り、そこへ進めば議席数の差で可決が明らかな採決へとゴリ押ししたのは、何のため、何が目的だったのでしょうか。加計学園の大学獣医学部開設を巡る問題で、安倍首相がこれ以上国会で追及されるのを防ぐために、国会会期を延長させないためだった、との指摘をよく目にします。もしそうなら「安倍1強」への巨大な忖度が働いた、と言うべきでしょう。議会制民主主義の自殺行為です。だれも止められないまま、ここまで来てしまいました。これが「安倍政治」の到達点です。
 「共謀罪」が、民主主義の基本的なルールである「話し合う」ことを否定しながら生まれたことは、そのこと自体が「共謀罪」の危険性を示してもいるのだと感じます。話し合いを否定して、数をたのんで強硬策を強引に進めでもしなければ、可決成立はおぼつかない法案だったということです。皮肉交じりで言えば、悪法にふさわしい誕生の仕方だったのかもしれません。戦前の治安維持法もそうですが、悪法は小さく生まれて大きく育ちます。これで終わりではない、始まりだと考えています。「共謀罪」の乱用をだれが見張るのか、止めるのか。そして、どうやって「表現の自由」を守るのか。いずれもマスメディアのジャーナリズムの課題です。もちろん、テロ対策は否定しませんが、それは別の話です。

 この悪法の誕生をマスメディアはどう報じたか。東京発行の新聞各紙の15日付朝刊と15日夕刊の報道を記録しておきます。各紙とも、東京本社発行の最終版です。

 写真:東京発行新聞各紙の15日付朝刊。経済専門紙の色彩が強い日経新聞は別として、「共謀罪」か「テロ準備罪」か、主見出しのタテ・ヨコ、白抜きかどうかなどの点で、朝日、毎日、東京の3紙と読売、産経2紙の2極化が顕著に読み取れます。日経もどちらかと言えば前者に近いように感じます。
※15日付朝刊の主な記事と見出しは以下の通りです(2017年7月3日追記)。

▼朝日新聞=記事14本、社説
・1面トップ「『共謀罪』法案 きょう成立 自公、参院委審議打ち切る 本会議で採決強行へ」/「疑惑封じ 異例手続き」視点:石松恒・国会担当キャップ
※総合面見開き(2、3面)見出し「疑問残したまま 『共謀罪』自公突進」
・2面:時時刻刻 「会期内ありき 奇策を強行 『加計国会』に幕引き図る」/「中間報告 与党委員長では異例 党議拘束ない法案など前例」
・3面「変遷『周辺者』も処罰 目的『対テロ』外れる」
・4面「2閣僚の問責決議案 否決 加計問題・『共謀罪』法案で野党提出」※賛成、反対意見
・社会面(35面)「不安置き去り 乱暴すぎる 国会で街で 抗議 深夜まで 共謀罪法案」「『熟議ほしかった』」/「仕事帰り、街頭へ」
・第2社会面(34面)問う「共謀罪」※6人「加計問題に『ふた』」ジャーナリスト田原総一朗さん(83)/「国会死にかけてる」宇宙物理学者 池内了さん(72)/「プライバシー危機」弁護士 亀石倫子さん(42)/「中身詰めきれず」評論家 荻上チキさん(35)/「尋常じゃない進め方」ジャーナリスト 青木理さん(50)/「数の力による暴挙」作家 落合恵子(72)
・社説「国会最終盤 極まる政権の強権姿勢」

▼毎日新聞=記事28本、社説
・1面トップ「『共謀罪』法案 成立へ 委員会省略し強行 会期延長なしで調整」/「立法府の劣化深刻」平田崇浩・政治部編集委員
※総合面見開き(2、3面)見出し「疑問点山積のまま 『加計隠し』で奇策」
・2面「『会期内に』官邸意向 都議選控え かじ切る」/「公明 渡りに船」/「中間報告って? 国会法根拠に委員会省略 与野党対決下では10年ぶり」質問なるほドリ
・3面:クローズアップ「『一般人』定義できず 法相答弁ぐらぐら」/「適用 捜査機関任せ」
・5面「『中間報告』で国会紛糾 『究極の強行採決』」/「民進 戦術裏目に」/「疑問点解消されず」政治アナリストの伊藤惇夫さん/「審議無視の禁じ手」武蔵勝宏・同志社大政策学部教授/共謀罪対象となる277犯罪※一覧
・11面:論点 「共謀罪」で社会は:「監視型捜査で市民活動萎縮」白取祐司・金川大法務研究科教授/「犯罪情報 各国共有に不可欠」岡本行夫・外交評論家/「裁判所のチェックには限界」門野博・弁護士、元裁判官
・12面「『共謀罪』テロ等準備罪新設へ」論点整理Q&A「刑事法 大きく変容」/「計画段階で処罰」/「対象犯罪は277」/「『通信傍受』を懸念」
※社会面見開き(26、27面)見出し「市民『だまし討ち』 権力の乱用に懸念」
・社会面(27面)「列島に渦巻く怒り 国会前」/「野党『数の横暴』批判 参院」/「不安しかない/民主主義が危うい/バカげた審議」札幌・名古屋・大阪・広島・博多・鹿児島/「『物言わぬ国民作る法律』消費者団体など相次ぐ反対の声」
・第2社会面(26面)「『白を黒にする力ある』」「『オウム』防げたのか 適切な情報利用必須」被害者・家族の会代表 永岡弘行さん/「政府に異論唱えにくく」佐々木光明・神戸学院大教授(刑事法)/「恣意的捜査にお墨付き」ジャーナリストの溝口敦さん/「国際条約締結に不可欠」萱野稔人・津田塾大教授(哲学)/「共謀罪」私はこう思う・反対「正当な目的 存在しない」首都大学東京教授・木村草太氏(36)/「『監視強化歯止めなし』 別府隠しカメラ 被告の労組危惧」
・社説「強引決着の『共謀罪』法案 参院の役割放棄に等しい」

▼読売新聞=記事7本
・1面トップ「テロ準備罪 きょう採決 委員会省略 与野党 徹夜の攻防 内閣不信任案 提出」/「中間報告」※用語説明
・2面「テロ準備罪 処罰対象は? 市民団体や企業 適用されず」ニュースQ+/ドキュメント テロ準備罪法案
・3面:スキャナー「テロ準備罪 与党『奇策』 自民、公明に配慮 参院『中間報告』」/「野党『戦術ミス』の声も 問責・不信任」
・第2社会面(34面)「緊迫審議 未明も テロ準備罪 与野党応酬 議場騒然」

▼日経新聞=記事5本
・1面トップ「『共謀罪』法案成立へ 与党、参院委採決省く 野党、内閣不信任案で抵抗」
・2面「加計問題 与党幕引き狙う 都議選に波及懸念 野党反発『極めて乱暴』 『共謀罪』巡り攻防」/「過去3度廃案、権限乱用恐れも ▼組織犯罪処罰法改正案」※用語説明
・3面「『中間報告』による国会採決 委員会採決を省略」きょうのことば
・4面「国会会期末 なぜドタバタ? 不信任案で対決色 野党『共謀罪』審議遅れ狙う」Q&A

▼産経新聞=記事5本
・1面トップ「テロ準備罪きょう成立 与党、国会会期延長せず」
・2面「与党、水面下の奇襲 テロ準備罪 委員会採決を省略」/「野党恨み節 時間稼ぎに躍起」
・5面「野党『女の壁』…良識の府? テロ準備罪めぐり 参院委大荒れ」
・27面(社会面)「賛成『テロ防ぐ必要がある』 反対『議論尽くされてない』 テロ準備罪 国会周辺騒然」

▼東京新聞=記事14本、社説
・1面トップ「『共謀罪』成立へ強行 自公 委員会採決を省略 参院本会議 早朝にも可決 野党が内閣不信任案」/「多くの論点 残したまま」/「民主主義ないがしろ」金井辰樹・政治部長
※総合面見開き(2、3面)見出し「『共謀罪』不安尽きず 『加計隠し』野党批判」
・2面:核心「自民、都議選影響を回避」/「与党委員長なのに…異例 与野党対決法案 安倍政権10年前も」/「『共謀罪』、秘密法・安保法の延長線上 改憲へ突き進む安倍政権」
・3面「一般人対象・心の中処罰 テロ対策 根拠曖昧」/ドキュメント「野党『採決ありき』 自民『平和のため』」
・特報面(24、25面)「地方 届かぬ声に怒り 県市町村議会 意見書40以上 国会議員 読んでない?」「反対や危惧『なぜ強引に推し進めるのか』 沖縄では『抗議活動 標的に』」
※社会面見開き(26、27面)見出し「自由が奪われる 国会 死にかけている」
・社会面(27面)「市民ら結集・参院騒然 国会周辺 国会内」/「政権めちゃくちゃすぎる 若者ら怒り」
・第2社会面(26面)「ゴリ押し手法 頂点に 大石芳野さん」※世界平和アピール七人委員会/七人委員会 アピール全文
・28面「数々の問題 置き去り 『共謀罪』9つの論点 国会論戦と取材班の目」※大型表
・社説「『共謀罪』法案 成立強行は疑惑隠しか」


 写真:東京発行新聞各紙の15日夕刊。朝刊と同じく朝日、毎日、東京の3紙と読売の違いが明らかです。見出しに「強行」の2文字がないのは読売だけです。その読売は1面の解説記事に「不安解消へ 更なる説明必要」の見出しを立て、本文では「国会審議で理解が深まることが期待されたが、与党による突然の『中間報告』により、審議が打ち切られた」「政府は捜査機関の権限乱用防止を徹底するとともに、引き続き改正法の内容を国民に説明し、不安解消に努めることが求められる」と書いています。さすがに、この採決のやり方は手放しでは支持できないのでしょうか。 ※東京地域では産経新聞は夕刊の発行はありません。

【15日夕刊】
▼朝日新聞
・1面トップ「『共謀罪』法 成立 採決強行 自公維賛成 参院本会議 懸念 消えぬまま」/「徹夜の反対 与党一蹴」
・2面「強引な国会運営『不安増幅』 野党『加計問題追及逃れだ』 『共謀罪』法成立」/「『問題だらけ』・『自由侵さぬ』」※討論要旨
・社会面(12、13面)見開き「『言論失った国会』 社会の萎縮 不安」/「投票時間制限 響く怒号 『共謀罪』法成立」/「『市民は見ている』『反対の声残す』 議場の外 夜通し抗議」/「安倍一強 やりたい放題」作家 室井佑月氏/「強行し幕引き 政権の焦り」国際政治学者 三浦瑠麗氏/「捜索受けたしこり いまも 作家・雨宮さん」/「監視対象拡大の恐れ 捜査関係者指摘」

▼毎日新聞
・1面トップ「『共謀罪』法 成立 早朝の審議 採決強行 計画段階で処罰可能 参院本会議」/「将来に禍根残す」元衆院議員・早川忠孝弁護士/「適切に運用する 安倍首相」
・10面「野党『稀代の悪法』 参院議場に怒号」「共謀罪」法 攻防ドキュメント/「外務省『懸案解消』」
・社会面(12、13面)見開き「徹夜の攻防 数頼み 監視社会 流れ加速」/「議長 投票打ち切る 野党『牛歩』時間切れ」/「政権のおごり 感じる」/「対象犯罪の選別不透明」フィリップ・オステン慶応大教授(国際刑事法)/「暴力団から市民守れる」田村正博京都産業大教授(社会安全政策)/「通信情報収集容易に」/「国民から声奪い 独裁の国に 検閲されるのは真っ平御免 タレントらツイート」

▼読売新聞
・1面トップ「テロ準備罪法 成立 277の組織犯罪処罰 参院委省略 徹夜国会 朝に採決 内閣不信任否決」/「不安解消へ さらなる説明必要」政治部・木村優里記者
・2面「『奇策』採決に野党反発 『適切な選択』与党は評価 テロ準備罪法 成立」/ドキュメント テロ準備罪法
・社会面(11面)「徹夜審議 大荒れ 『成立』拍手と怒号 テロ準備罪法」/「捜査当局 慎重に運用を」日弁連民暴委員長 木村圭二郎弁護士/「『五輪対策必要』元バレー代表 森田さん」

▼東京新聞
・1面トップ「強行『共謀罪』成立 市民処罰 恐れ残す 徹夜の攻防 参院採決」/「数の力で批判封殺」取材班の目:西田義洋・担当デスク
・2面「野党 決議連発し抵抗 審議打ち切りを批判 『共謀罪』成立」/「福島氏ら3氏の投票行動無効に 牛歩で時間切れ」/※賛成、反対討論要旨、民進(反対)、自民(賛成)、共産(反対)、維新(賛成)
・社会面(8、9面)見開き「国民も歴史も許さぬ」「『反対』叫び続ける」/国会周辺ドキュメント「緊急性どこに/参院 良識の府ではないのか」※1社全面/「徹夜講義の市民『あぜん』/「『黙ってたら変わらず』 治安維持法違反で逮捕」/「情報提供 拒否難しい」警察の活動に詳しい清水勉弁護士/「お任せ意識を捨てて」政治学者の姜尚中・東京理科大特命教授

▼日経新聞
・1面トップ「『共謀罪』法が成立 与党、採決を強行 反zない、準備段階で処罰 参院本会議 維新も賛成 自公『会期延長せず』」
・3面「民進代表『怒り込め抗議』 法相『安全安心に必要』 『共謀罪』法成立」/14、15日ドキュメント
・社会面トップ(13面)「徹夜国会 熟議置き去り 与党『牛歩なんて茶番』 野党『やり方荒っぽい』」/「慎重運用求める声 警察庁長官『対テロで意義』」

「共謀罪」法案、委員会採決を飛ばして参院本会議で採決強行へ ※追記:巨大な忖度、「安倍政治」の到達点

 こういうことになるとは思いもしませんでした。
 かつての「共謀罪」と本質的には変わりがない「テロ等準備罪」(政府呼称)を新設する組織犯罪処罰法改正案は6月14日、自民党公明党の与党が、参院法務委員会での採決を飛ばして本会議で採決に持ち込む手続きを進めました。民進党など野党は猛反発し、内閣不信任案などを提出して抵抗しましたが、与党は15日未明にも参院本会議での採決を強行する構えと報じられています。
※47news=共同通信「与党、『共謀罪』成立強行へ/野党、内閣不信任案で対抗」2017年6月14日
 https://this.kiji.is/247674750415144445?c=39546741839462401

 参院は14日夜の本会議で、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を巡り、参院法務委員会の採決を省略するため「中間報告」の手続きを進めた。自民党が提案した異例の手続きで、公明党と共に15日未明にも本会議採決を強行し成立を図る構えだ。民進党など野党は「暴挙だ」と猛反発。安倍内閣に対する不信任決議案の提出を含めて徹底抗戦した。終盤国会攻防はヤマ場を迎えた。
 夜の参院本会議では、民進、共産両党が提出した金田勝年法相への問責決議案が否決された。その後、中間報告を求めることを議題とする動議が可決された。

 衆院通過のときのように、与党は野党の反対を押し切って採決に入るぐらいのことはやるかもしれないと思っていましたが、まさか委員会の採決を飛ばしていきなりの本会議での採決に持ち込むとは、国会軽視もはなはだしく、民主主義社会の基本ルールである「話し合い」の価値をまったく認めないに等しいものです。法案それ自体に対して数多くの危険性が指摘されていること以上に、危うい発想の元で数をたのんだ横暴とも言える方法で可決成立させようとしていることは、決して忘れずにいたいと思います。
 ※写真は朝日、毎日、読売3紙のの14日夕刊(東京本社版)


【追記】2017年6月15日午前8時45分
 共謀罪法案は15日朝、参院本会議で採決の結果、投票総数235票のうち、賛成165票、反対70票で可決成立しました。共同通信の速報は午前7時47分でした。
 これが「安倍政治」の到達点です。「安倍1強」への巨大な忖度。だれも止めようともしない。とうとうここまで来てしまいました。
 でもこれで終わりではない、始まりだと考えています。共謀罪の乱用をだれが見張るのか、止めるのか。どうやって「表現の自由」を守るのか。マスメディアの課題です。


【追記】2017年6月15日午前8時50分
 東京発行の新聞各紙の15日付朝刊の1面です。
 https://twitter.com/newsworker/status/875115999703384064

「共謀罪」法案 在京紙の報道の記録(4) 6月12―14日

 一つ前の記事「『共謀罪』法案 在京紙の報道の記録(3)」の続きです。

◎6月12日(月)
【朝刊】 ※新聞休刊日明けで発行なし

【夕刊】
毎日新聞=記事2本
・2面・特集ワイド「国連の辛口採点 日本に何が― 政権の暴走の現れ メディアは萎縮」※「共謀罪」法案にも言及
・第2社会面(10面)「『共謀罪』審議を音読 全国44カ所 市民が再現」

東京新聞=記事2本
・1面トップ「読むと赤面『共謀罪』答弁 『コッカイオンドク!』全国一斉実施」
・社会面(9面)「『なんとしても廃案に』 『共謀罪』反対集会 渋谷」

◎6月13日(火)
【朝刊】
朝日新聞=記事4本
・1面「『共謀罪』週内に成立方針 自公、会期内目指す」
・4面「『加計』封じ 駆け足審議 『共謀罪』巡り政府・与党 会期内成立を優先」
・社会面(35面)問う「共謀罪」「『監視』の先 弾圧懸念 横浜事件ゆかりの人」/「法案反対署名 153万筆」

毎日新聞=記事2本
・5面「『共謀罪』会期末控え攻防 参院法務委 委員長職権で開催」
・社会面(29面)「共謀罪」私はこう思う・賛成「刑法改正での対応が筋」弁護士 加藤久氏(74)※消極的賛成

▼読売新聞=記事1本
・2面「委員長職権できょう一般質疑 テロ準備罪 参院審議」

産経新聞=記事1本
・5面「法相問責決議案 提出へ 民進、テロ準備罪採決で」

東京新聞=記事4本
・2面「『強行採決で空気変わった』 『共謀罪』反対 153万4500筆に 市民団体が追加提出」/「『共謀罪』法案きょう審議へ 参院委、職権で決定」/「法案の英訳応じず 国連報告者ケナタッチ氏要望」
・特報面(24〜25面)「監視社会慣れ 本当にいいの? 防犯カメラ 街中も電車内も 市民も歓迎論 日常の風景に/個人の行動が丸裸 『共謀罪』成立で乱用リスク 他者への疑念助長 排除の温床に」

日経新聞 ※見当たらず


【夕刊】
朝日新聞
・1面「法相問責決議案 民進が午後提出 『共謀罪』採決の動きに対抗」

毎日新聞=記事1本
・1面「『共謀罪』採決巡り攻防 与野党 参院委 午後質疑」

▼読売新聞=記事1本
・1面トップ「テロ準備罪 採決巡り攻防 民進党 法相問責決議案 提出へ」

東京新聞=記事2本
・1面「『共謀罪』午後採決の構え 参院委 審議20時間で与党」
・2面「『共謀罪、冤罪の懸念』『テロ対策に不可欠』 参院委、有識者3人質疑」

日経新聞=記事1本
・3面「『共謀罪』採決で駆け引き 参院法務委」

◎6月14日(水)
【朝刊】
朝日新聞=記事4本、質疑詳報
・1面「『共謀罪』採決強行の方針 自公、あすの参院委で」
・2面「『共謀罪』疑問解消せず 参院審議 あいまい答弁続く」
・5面・焦点採録 参院 法務委「犯罪集団と共に疑われるのが『周辺者』 『共謀罪』巡り政府答弁」表・参考人質疑での主な意見 ※質疑詳報
・第2社会面(30面)問う「共謀罪」「パロディー文化 萎縮懸念 著作権法『販売前の介入可能』」/「あきらめない」※法案反対の市民集

毎日新聞=記事4本
・1面トップ「『共謀罪』週内成立へ 参院委 与党あす採決」
・5面「野党『加計』も絡め抗戦 法相、地方創生相 問責案提出 『共謀罪』審議」
・第2社会面(26面)「『テロ防止 条約の目的に含まず』 『共謀罪』巡る政府説明否定 国連『立法ガイド』執筆・米大教授」/「『審議不足 廃案を』 『共謀罪』反対集会に5200人」

▼読売新聞=記事3本
・1面トップ「テロ準備罪 会期末へ攻防 野党 2閣僚問責案 提出 与党 小幅延長も」
・2面「『加計』追及へ徹底抗戦 内閣不信任案も視野 野党4党」/『時間切れ』狙い/戦略練る与党
・4面「捜査権限『拡大しない』 金田法相『監視社会』に反論 テロ準備罪」

産経新聞=記事5本、質問・回答2本、発言要旨1本
・1面トップ「日弁連幹部と類似 テロ準備罪批判 偏重か 国連特別報告者 ケナタッチ書簡 中立・公平性 疑問も」
・3面「『嘘』まき散らす国連報告者 ずさん調査『沖縄に行ってない』 ケイ氏、反米基地運動にも言及」/「政府、反発強める」/「テロ準備罪 16日にも成立 民共は法相問責決議案 提出」
・5面「民進『下手すぎる』国会戦術 テロ準備罪の質疑 法相問責で参会 自民『国会延長 短く済む』」/「海渡弁護士『ケナタッチ氏へ事前に助言せず』」質問状(要旨)/海渡氏からの回答/「日本はジャーナリストの結束がない」国連特別報告者 ケイ氏発言要旨

東京新聞=記事8本、質疑詳報
・1面トップ「共謀罪」国会論戦チェック「『歯止め』答弁 次々変わる 一般人対象→処罰あり得る 計画段階での役割特定→不要」
・3面「民共 法相問責案を提出 与党あす参院委採決目指す 『共謀罪』法案」/「強行採決、絶対許すな 日比谷野音で5200人集会」
・7面「『共謀罪』法案 参考人の発言要旨 参院法務委/人権に配慮、抑制的 福田充・日本大危機管理学部教授/監視データに規制なし 山下幸夫弁護士/『行為主義』ないがしろ 村井敏邦・一橋大名誉教授」/論戦のポイント※質疑詳報
・特報面(24、25面)「国会って何だ 不誠実な審議=国民への侮辱 『共謀罪』答弁ドタバタ■加計問題ウヤムヤ/丁寧に『理屈』尽くす場 『一強の緩みそのもの』 首相自ら議論ケイ氏」
・社会面(27面)トップ「背中いっぱい『共謀罪反対』 ネットに投稿、反響呼ぶ ラーメン『なんつッ亭』経営者『皆が関心を持って』」

日経新聞=記事1本
・4面「法相の問責決議案提出 民進と共産『共謀罪』で抵抗」

■6月12日〜6月14日の掲載記事数(朝刊のみ)と5月30日からの累計
朝日新聞:記事8本、質疑詳報1本 累計・記事34本、質疑詳報4本、社説1本
毎日新聞:記事6本 累計・記事22本、質疑詳報3本
・読売新聞:記事4本 累計・記事14本
産経新聞:記事6本 累計・記事15本
東京新聞:記事12本、質疑詳報1本 累計・記事55本、質疑詳報5本
日経新聞:記事1本 累計・記事12本

「共謀罪」法案 在京紙の報道の記録(3) 6月7―11日

 「『共謀罪』法案 在京紙の報道の記録(2)」の続きです。
▽6月7日(水)
 朝日新聞毎日新聞は朝刊の社会面にそれぞれ「問う『共謀罪』」(朝日)、「『共謀罪』私はこう思う」(毎日)のタイトルのコーナーを設けて、様々な分野の人たちの意見を断続的に紹介してきています。この日も朝日は国際政治学者 三浦瑠麗さん、毎日は企業法務に詳しい弁護士の意見を掲載しました。東京新聞は反対運動や集会をこまめに取材して紹介しています。一方の読売新聞、産経新聞は、国会の動き。一般紙5紙のそれぞれの特徴がよく分かる朝刊でした。

◎6月7日(水)
【朝刊】
朝日新聞=記事2本
・4面「『共謀罪』審議 会期末へ攻防 小幅延長か 焦点」
・第3社会面(29面)問う「共謀罪」学問の世界から「安全と自由の両立、議論足りない」国際政治学者 三浦瑠璃さん(36)

毎日新聞=記事2本
・2面「『共謀罪』与党に強硬論 野党 内閣不信任案を検討 参院法務委」
・社会面(27面)「共謀罪」私はこう思う・反対「企業活動の停滞 懸念」弁護士 山中真人氏(43)

▼読売新聞=記事1本
・4面「会期末へ 民進徹底抗戦 参院法務委 委員長解任決議案」

産経新聞=記事1本
・5面「民進、テロ準備罪遅延戦術 参院法務委員長 解任決議案提出」

東京新聞=記事5本
・1面「『共謀罪』広がる音読 『国会審議は不条理』 再現劇 6・11全国一斉開催」/「反対署名144万人」
・3面「審議日程が窮屈に 『共謀罪』法案 『加計』問題 与党、延長に慎重」
・6面「『日本は国連から心配される国に』 『共謀罪』反対集会」
・特報面(24・25面)「強硬あおるネット世論 『内政干渉だ』擁護する声 国連特別報告 政府が猛反発 重なる『リットン調査団』対応/書き込み 実は少数派 『炎上』参加わずか1% 目立つ『1人が何度も』 国内と世界 視点の溝 深まる」

日経新聞=記事2本
・4面「国会 大幅延長見送り 加計問題、早期幕引き図る 政府・与党方針 受動喫煙法案の成立断念」/「内閣不信任案を検討 野党、週内にも党首会談」


【夕刊】
朝日新聞=記事1本
・2面「委員長の解任決議案を否決 参院本会議『共謀罪』審議巡り」

毎日新聞=記事1本
・1面「法務委員長解任案 否決 『共謀罪』与党審議急ぐ 参院本会議」

▼読売新聞=記事1本
・3面「法務委員長の解任案を否決」

東京新聞=記事1本
・1面「法務委員長解任案 否決 参院

日経新聞=記事1本
・3面「参院法務委員長 解任案を否決 『共謀罪』の審議再開へ」

▽6月8日(木)
 朝日新聞の夕刊の文化面に、「共謀罪」法が成立した後の近未来を描いた演劇の紹介記事が載りました。主見出しは「『共謀罪』の怖さ 笑いで描く」。東京新聞は社会面に、映画の専門誌「キネマ旬報」が戦前の治安維持法の特集を組む、との記事を載せています。「多様な意見や情報を紹介しているか」という命題は、政治だけではなく文化の面の報道でも存在するように感じます。

◎6月8日(木)
【朝刊】
朝日新聞=記事2本
・4面「『共謀罪』きょう審議再開 参院 委員長解任案を否決」
・第2社会面:問う「共謀罪」学問の世界から「空気読まない者に疑いの目が向かう」文学者 小澤俊夫さん(87)

毎日新聞=記事1本
・5面「会期小幅延長へ 与党『共謀罪』法案成立期す」

▼読売新聞 ※見当たらず

産経新聞=記事2本
・1面「国会会期延長 不可避 テロ準備罪優先 与党、1〜2週間」
・5面「与野党攻防 最終章へ 自民 刑法改正案成立を重視 民進 審議遅延戦術ちぐはぐ」

東京新聞=記事1本、社説
・2面「『共謀罪』きょう審議再開 参院 廃案へ野党党首会談」
・社説「『共謀罪』と条約 政府の説明は崩れた」

日経新聞=記事1本
・4面「党首討論 初のゼロ 政治主導へ改革遠く 通常国会、野党が予算委優先」/「民進などの野党 きょう党首会談 内閣不信任案など協議」


【夕刊】
朝日新聞=記事3本
・1面「加計巡り内閣不信任検討 野党4党『共謀罪』の審議再開」
・3面(文化)「『共謀罪』の怖さ 笑いで描く 劇団チャリT企画が新作」
・社会面(15面)問う「共謀罪」・「疑問4コマで迫る 横浜の漫画家 SNS拡散」

毎日新聞=記事1本
・8面(総合面)「内閣不信任案の提出視野に協力 野党4党首一致」

▼読売新聞=記事1本
・3面「4野党が党首会談 内閣不信任も視野」

東京新聞=記事2本
・2面「『共謀罪』廃案へ連携 4野党党首『内閣不信任案も視野』」
・社会面(9面)トップ「『共謀罪』に危機感反映 治安維持法キネマ旬報』が特集 学問の自由を弾圧 思想犯として摘発 『黒沢監督ら先人の思い今こそ』」

日経新聞=記事1本
・1面「政府・与党、会期小幅延長へ 内閣不信任案検討 野党4党首が一致」

▽6月9日(金)
 朝日、毎日、東京の3紙が、そろって国会の質疑の詳報を掲載しました。質疑の詳報は、その作業を担当する記者が必要になりますし、紙面上も大きな紙幅を割きます。そうしてでも、読者に伝える必要がある、意味があると新聞社が判断しています。対して、読売新聞は政府見解のみ、産経新聞は記事自体が見当たりません(見落としの可能性はありますが)。この日も新聞の「2極化」がよく表れた各紙紙面だったと感じます。

◎6月9日(金)
【朝刊】
朝日新聞=記事5本、質疑詳報
・3面「『共謀罪』条文あいまい 『2人以上で計画した者』処罰対象 説明変転 『準備行為』何が該当 審理不足」/「国連報告者の懸念『追って対応』」
・4面「国会会期末へ 攻防激化 『共謀罪』対向の構え 野党4党、内閣不信任案を検討」/焦点採録参院法務委員会「労組への配慮規定 あえて置かず 刑事局長」※質疑詳報
・第2社会面(30面)問う「共謀罪」学問の世界から「時間切れの多数決 やっちゃいけない」教育評論家 尾木直樹さん(70)/「国内外の142団体 法案に反対表明 平和問題NGOら」

毎日新聞=記事2本、質疑詳報
・2面「『共謀罪参院委審議再開 民進・共産 攻勢強める」
・25面(第3社会面)「共謀罪」私はこう思う・反対「監視社会 さらに加速」元北海道警釧路方面本部長 原田宏二氏(79)/「『共謀罪』廃案を環境団体ら声明 14カ国142団体賛同」/参院委『共謀罪』法案 論戦ポイント ※質疑詳報

▼読売新聞=記事1本
・3面「『継続的な結合体』に適用 政府見解 参院法務委で審議再開 テロ準備罪」

産経新聞 ※見当たらず

東京新聞=記事4本、質疑詳報
・2面「周辺社も処罰対象 法相見解 一般人と協会曖昧 『共謀罪』」/「法案英訳 国連報告者に未提供 外務大臣『追って対応』」
・6面:参院法務委 論戦のポイント ※質疑詳報
・特報面(24、25面)「80年前 信念が罪に 末永敏事 『思想犯』にされた医師 拙者は反戦主義 治安維持法下の犠牲 『普通の市民』一変/痛恨の過去学ばぬ政府 拡大解釈の捜査横行『共謀罪』でも懸念 『維持法は適法』法相発言に反発も」
・第2社会面(26面)「『市民運動萎縮する』 『共謀罪』に反対声明 NGO4団体」

日経新聞 ※見当たらず

【夕刊】 ※見当たらず

▽6月10日(土)
 各紙とも天皇退位の特例法成立で大展開の朝刊でした。その中で「共謀罪」関係では、国連特別報告者のケナタッチ氏が日弁連のシンポにスカイプで参加したことを朝日、毎日、東京の3紙のほか、産経新聞もごく短く報じました。東京新聞は見出しが丁寧です。

◎6月10日(土)
【朝刊】
朝日新聞=記事2本
・第3社会面(37面)問う・「共謀罪」学問の世界から「科学者の思想 裁かれた歴史も」宇宙物理学者 池内了さん(72)/「『共謀罪』法案は『非常に危険』 国連報告者、シンポで警鐘」

毎日新聞=記事1本
・第3社会面(28面)「警察の監視活動 監督必要と提言 共謀罪国連報告者」

▼読売新聞=記事1本
・4面「参院委 テロ準備罪 自民来週採決提案」

産経新聞=記事1本
・第3社会面(24面)「国連報告者『政府は質問答えるべきだ』」※短信

東京新聞=記事2本
・2面「『共謀罪』で自民 来週の採決提案」
・社会面(27面)「『共謀罪』プライバシー保障措置を 国連特別報告者ケナタッチ氏 日弁連シンポ 電話参加」

日経新聞 ※見当たらず

 10日付朝刊は重要なニュースが多い紙面でした。その中で、各紙がどのニュースを、どんな見出しで、どんな優先順位で伝えたか、各紙それぞれの1面掲載の記事の見出しを書きとめておきます。

◎6月10日付朝刊
朝日新聞
1「象徴天皇 初の退位へ/来年12月か19年3月軸/特例法が成立」
2「加計文書 職員の報告放置/当初の調査後『省内に保管』/文科省再調査」
3「英与党 過半数割れ/総選挙 メイ首相は続投を表明」

毎日新聞
1「陛下退位 実現へ/特例法が成立/皇太子さま 来年末にも即位」
2「英総選挙 与党過半数割れ/メイ首相続投へ」
3「内閣府は行わず/加計文書 文科省再調査へ」

▼読売新聞
1「元号選定 本格化/天皇退位特例法 成立」
2「英保守党 過半数割れ/総選挙 EU離脱 影響必至」
3「柔道・卓球混合など追加/全339種目が決定/東京五輪
4「加計文書 再調査結果 会期中に」

日経新聞
1「英総選挙、与党が敗北/EU強行離脱に影/メイ首相、続投表明」
2「天皇退位時期 2案軸/18年2月末 19年4月1日/来年通常国会後に判断」
3「WD、日米連合入り協議/東芝と再会談、なお平行線」※WD=ウエスタンデジタル社

産経新聞
1「譲位 200年ぶり 上皇/特例法成立 今夏に皇室会議天皇誕生日 2月23日」
2「英与党 過半数割れ/総選挙 メイ首相続投表明」
3「柔道混合団体など新種目/東京五輪 バスケ3人制、卓球混複も」
4「領収書改竄 指示認める/除染費不正 安藤ハザマ社長謝罪」

東京新聞
1「天皇陛下 上皇に/退位 来年末にも/特例法 成立」
2「文科省『加計再調査』、内閣府は『行わず』/認定前 今治市と再三協議/獣医学部新設で特区担当」
3「英与党 過半数割れ/総選挙 メイ首相 続投に意欲」


▽6月11日(日)
 新聞各紙とも日曜日の朝刊には読書面を設け、新刊書の書評や話題の本の紹介記事を載せています。地方紙も含めて、多くの新聞に共通しています。朝日新聞はこの日、読書面でも「共謀罪」の特集記事を掲載。京都大の高山佳奈子教授が「共謀罪」法案を批判する立場から何冊かの本を紹介しました。

◎6月11日(日)
【朝刊】
朝日新聞=記事3本
・1面「辺野古も『共謀罪』もNO」※国会周辺の辺野古移設・「共謀罪」反対集会・写真
・読書面(11面)ひもとく「共謀罪京都大学教授(刑法)高山佳奈子「監視拡大 民主主義の危機」/テロとは無関係/背景に米の圧力
・第2社会面・問う「共謀罪」学問の世界から「政府の狙いは隣人を密告するマインド」哲学者 内田樹さん(66)※学者たちに聞くシリーズは終わり

毎日新聞=記事1本
・2面「政府、国連と溝 特別報告者見解 相次ぎ反論 『共謀罪』、秘密保護法 日韓合意見直し」

▼読売新聞=記事1本
・4面「会期延長幅 悩める自民 『加計』問題 批判集中を懸念 与野党攻防 最終盤へ」

産経新聞 ※見当たらず

東京新聞=記事1本
・1面・声 国会前「『共謀罪』廃案へ訴え」※国会周辺の辺野古移設・「共謀罪」反対集会、写真も

日経新聞 ※見当たらず

■6月7日〜6月11日の掲載記事数(朝刊のみ)と5月30日からの累計

朝日新聞:記事14本、質疑詳報1本 累計・記事26本、質疑詳報3本、社説1本

毎日新聞:記事7本、質疑詳報1本 累計・記事16本、質疑詳報3本

・読売新聞:記事4本 累計・記事10本

産経新聞:記事4本 累計・記事8本

東京新聞:記事13本、質疑詳報1本 累計・記事43本、質疑詳報4本

日経新聞:記事3本 累計・記事11本