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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

基地集中、辺野古、沖縄の民意またも明らか~衆院選雑感

 少し時間がたちましたが、衆院選の結果に思うところを備忘を兼ねて書きとめておきます。

 ◆希望が立たなかった新潟、沖縄は非与党が勝ち越し
 議席数は自民党の大勝に終わりましたが、小選挙区を都道府県別に見てみると、新潟と沖縄では非与党が勝ち越しました。新潟は4勝2敗、沖縄は3勝1敗です。共通している要因は、希望の党の公認候補が立たなかったことです。希望の党と立憲民主党が共倒れになった選挙区でも、両者の票を合計すれば自民党候補を上回っていたところは少なくありません。「たら」「れば」にどこまで意味があるかはともかく、希望の党が立憲民主党の候補に対抗馬を立てたことは、結果的に安倍晋三政権を利することになったのは間違いがなく、「安倍1強政治を終わらせる」との主張はどこまで本気だったのか、実は希望の党が目指していたのは、旧民進内の「左派」「リベラル」潰し、言葉を変えれば保守純化運動だったのではないか、という気すらします。
 今回の衆院選では「左派」「リベラル」と「保守」という切り分けもよく目にしましたが、そうした区分けが妥当か、という問題も浮上しているように思います。立憲民主党の枝野幸男代表は「『保守』か『リベラル』かではなくて、『上からの政治』か『草の根からの政治』か」と訴えました。それが支持を伸ばした一因のように思えます。

 ◆沖縄への差別の責任
 沖縄では、前回の衆院選では四つの小選挙区でいずれも非与党候補が勝利しました。今回は沖縄4区で自民党候補が勝利しましたが、それでも残り三つで共産、社民、無所属(自由党籍)の候補が再び勝利したことは、最大の争点の米軍普天間飛行場の辺野古移設に対して、反対との民意がまたもはっきりと示されたものだと、わたしは受け止めています。沖縄の基地の過剰な集中の問題に対しては、投開票前にこのブログにアップした記事で以下のように書きました。 

 国家事業に対する地元の民意は明らかなのに、それが一顧だにされないとは、その地域の未来への自己決定権が認められていないに等しいことです。ほかにそのような地域が日本国内にあるでしょうか。沖縄だけがそういう状況を強いられているのは、沖縄に対する差別としか言いようがありません。その差別を解消するには、日本政府の方針が変わらなければなりません。それは決して不可能ではありません。日本国の主権者である国民の選択の問題だからです。
 具体的には選挙を通じて、沖縄への差別としか言いようがない政策を撤回し、沖縄への基地負担の過剰な集中を解消する政策を持った政府を誕生させることです。それが実現しないのならば、個々人の投票行動のいかんを問わず(棄権は言うに及ばず)、主権者の一人である以上は誰しも、この差別の当事者であることを免れ得ません。今回に限らず、選挙ではいつもそのことが問われているのだと考えています。 

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 選挙の結果、安倍晋三政権は継続することになりました。沖縄に対する差別は解消されません。今回の衆院選で個々人がどのような投票行動を取ったかに関係なく、沖縄県外に住む日本人はわたしを始めとして、日本国の主権者として差別への責任を等しく負うことも明確だと、わたしは受け止めています。 

 以下に沖縄タイムス、琉球新報の10月23日付の社説の一部を引用して書きとめておきます。

※沖縄タイムス「[衆院選 沖縄選挙区]反辺野古 民意揺るがず」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/159916 

 自民党が圧勝した全国と比べ、県内の選挙結果は対照的だ。
 名護市辺野古沿岸部への新基地建設に反対する「オール沖縄」の候補が1、2、3区で比例復活組の自民前職を振り切った。
 前回2014年の衆院選に続く「オール沖縄」の勝利は、安倍政権の基地政策や強引な国会運営に対する批判にとどまらない。
 不公平な扱いに対する強烈な異義申し立てが広く県民の間に共有されていることを物語っている。
 とりわけ象徴的なのは、大票田の那覇市を抱える1区は、共産前職の赤嶺政賢氏(69)が接戦の末に自民、維新の前職らを制したことだ。
 共産党候補が小選挙区で当選したのは全国で沖縄1区だけである。
 翁長雄志知事のお膝元での勝利は知事の求心力を高めることになるだろう。 

 ※琉球新報「『オール沖縄』3勝 それでも新基地造るのか」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-599262.html 

 前回2014年の全勝には及ばなかったものの、1~3区で辺野古新基地建設に反対する「オール沖縄」勢力が当選、当選確実とした。辺野古新基地を容認する自民党は1議席を獲得したが、3氏は選挙区で落選した。
 沖縄選挙区の最大の争点である辺野古新基地建設に反対する民意が上回ったことは、安倍政権の強硬姿勢に県民は決して屈しないとの決意の表れである。
 国土面積の0・6%の沖縄に、在日米軍専用施設の70・38%が集中していることはどう考えても異常である。米軍基地を沖縄に押し込めることは、沖縄差別以外の何物でもない。
 国は迷惑施設の米軍基地の国内移設を打ち出せば、反対運動が起きると懸念しているにすぎない。それをあたかも普天間飛行場の返還には、辺野古新基地建設が唯一の解決策であるかのように偽装している。県民の多くはそれを見透かしている。
 普天間飛行場の一日も早い返還には「辺野古移設が唯一の解決策」とする安倍政権への県民の怒りが選挙結果に表れたといえよう。
 安倍政権が民主主義を重んじるならば、沖縄選挙区で自民党は1人しか当選できなかった現実を真摯(しんし)に受け止め、新基地建設を断念するのが筋である。それでも新基地を造るなら安倍首相はこの国のリーダーとして不適格だ。 

 10月23日付の琉球新報の紙面が手元にあります。1面、総合面、社会面を紹介します。

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与党の議席「多すぎる」51%(朝日調査)、「野党がもっと議席を」47%(読売調査)~民意は議席数ほどには安倍政権に期待していない

 衆院選の結果に対して朝日新聞と読売新聞がそれぞれ10月23、24日に実施した世論調査の結果が報じられています。
 読売新聞は与党3分2超の結果はよかったか、よくなかったかと2択で問い、次いで与野党の議席数について、どうなっていればよかったかを聞いています。朝日新聞は与党の議席について、多すぎる、ちょうどよい、少なすぎるの3択で尋ねています。
  結果は以下の通りです。
▼読売
 選挙結果:「よかった」48%、「よくなかった」36%
 議席:「野党がもっと議席を取った方がよかった」47%、「ちょうどよい」38%、「与党がもっと議席を取った方がよかった」9%
▼朝日
 与党の議席:「多すぎる」51%、「ちょうどよい」32%、「少なすぎる」3%
 読売新聞の2択の質問は、前置きを「与党3分の2超」だけではなく、例えば「立憲民主党が野党第1党」とか「公明党が議席減」を加えたりしただけでも数値が変わるのでは、という気もします。

 内閣支持率は以下の通りです。
▼朝日
 「支持」42%(17、18日の前回比4ポイント増)
 「不支持」39%(同1ポイント減)
▼読売
 「支持」52%(7、8日の前回比11ポイント増)
 「不支持」37%(同9ポイント減)
  内閣支持率は、明確に答えなかった人に重ね聞きする(「どちらかと言えば」の回答を迫るようなものです)かどうかでも大きく変わってきます。読売新聞の聞き方はよく分かりませんが、日経新聞は重ね聞きしていることを紙面で明らかにしたことがあります。読売新聞は他紙の調査結果との比較では、いつも高めに出る傾向がみられます。

 ほかに興味深い点は、自民党が単独で過半数を大きく超える議席を獲得した理由を尋ねた質問です。読売新聞の調査は四つの選択肢があり、回答は「民進党の分裂で野党候補者が乱立した」44%、「ほかの政党よりもましだと思われた」36%、「与党としての実績が評価された」10%、「安倍首相への期待が高かった」6%―でした。
 朝日新聞の調査では、安倍首相の政策が評価されたからだと思うかどうかを聞いています。結果は「政策が評価されたから」26%、「そうは思わない」65%でした。朝日新聞はさらに、安倍氏に今後も首相を続けてほしいか、安倍首相が進める政策に期待と不安とどちらが大きいかを尋ねています。結果は、「(首相を)続けてほしい」37%(前回比3ポイント増)、「そうは思わない」47%(同4ポイント減)であり、後者は「期待」が20%、「不安」54%でした。

 政党支持率も主な政党分を書きとめておきます。選挙戦を通じて無党派層が減り、自民と立憲民主の支持が伸びています。
▼朝日 ※かっこ内は前回
 自民39(32)%、立憲民主17(7)%、希望3(6)%、公明4(4)%、共産3(3)%、維新2(2)%、社民(1)1%、民進0(1)%、支持する政党はない21(27)%
▼読売
 自民43(33)%、立憲民主14(4)%、希望5(8)%、公明4(3)%、共産3(3)%、維新2(1)%、社民(1)0%、民進1(1)%、支持する政党はない24(38)%

 総じて感じるのは、やはり自民党が得た議席数の圧倒ぶりほどには、民意には「安倍政治」への期待や支持はない、ということです。選挙結果と民意にはズレがあると感じます。国会の議席数では盤石の基盤を持つ安倍晋三政権ではあっても、「世論の支持」という意味では、いつまた夏の都議選の時のような民意の離反が起きるか分からない、起きても不思議ではない状況が続くとみていいように思います。
 以前の「安倍1強」は、政治手法で強引なことをやっても、まもなく支持率はV字回復することが強みでした。衆院選を経て、見かけは「1強」が続きますが、その「強さ」はどうでしょうか。

「安倍政治」への民意と選挙結果にズレ

 衆院選は10月22日に投票が実施されました。台風の影響で開票作業は一部の自治体で23日まで行われ、全465議席が確定したのは23日夜になりました。自民党281、公明党29で与党は計310議席。野党は立憲民主党54、希望の党50、共産党12、日本維新の会11、社民党2、無所属26でした。自民党は3人を追加公認しており、新しい議席数は284、与党では計313議席となります。
 東京発行の新聞6紙の23日付朝刊は、東京都内で配達される遅版では、未確定議席の残りはおおむね10前後になっていました。写真は自宅購読の新聞や近隣のコンビニで買い求めた新聞の1面の様子です。

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 その後、都心部で配布された紙面を見ました。いくつかの新聞で、見出しが変わっているのが分かると思います。

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 安倍晋三首相が、少子化社会と北朝鮮の脅威を「国難」と呼び、「国難突破解散」と名付けて衆院解散を表明したのは9月25日でした。同じ日に東京都の小池百合子知事が「希望の党」を立ち上げて代表に就任。衆院解散の日の9月28日に、野党第1党だった民進党の前原誠司代表が両院議員総会で、民進党の公認候補予定者は希望の党に公認申請することを呼びかけ、了承されました。民進党の事実上の希望の党への合流で、一時は本格的な政権選択選挙になるかに思われましたが、希望の党は民進系の候補を、憲法改正や安全保障法制を踏み絵に選別。小池氏は「排除」という言葉を使いました。希望の党への合流に疑問を抱いた枝野幸男氏を中心に「立憲民主党」が結成され、流れは大きく変わりました。
 結果を見れば、「巨大与党」「自民1強」の構図は選挙前と変わりません。しかし、自民党あるいは安倍晋三政権が高い支持を得たというよりは、野党の分裂が小選挙区では相対的に自民党候補を浮上させた結果です。このブログでも指摘したことですが、選挙前、あるいは選挙期間中の世論調査では、内閣支持率を不支持率が上回っている結果が目立ち、また安倍首相への期待も決して高くありませんでした。民意の自民党や安倍政権への期待の実相と、選挙で自民党が獲得した議席数との間にはズレがあります。

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 東京発行の新聞各紙の社説や編集幹部、政治部長らの署名評論記事でも、野党の分裂で自民党が浮上したこと、安倍首相や政権への世論の支持や期待は高くはなかったことを指摘する内容が目に付きました。各紙の記事の見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
社説「政権継続という審判 多様な民意に目を向けよ」選挙結果と違う世論/筋通す野党への共感/白紙委任ではない
「『1強』政治 見直す機会に」中村史郎・ゼネラルエディター兼東京本社編成局長

▼毎日新聞
社説「日本の岐路 『安倍1強』継続 おごらず、国民のために」持続可能な社会保障に /緊張感ある国会審議を
「国民の声に耳を」佐藤千矢子・政治部長

▼読売新聞
社説「衆院選自民大勝 信任踏まえて政策課題進めよ 『驕り』排して丁寧な政権運営を」首相全面支持ではない/希望は新党の脆さ露呈/憲法改正論議を活発に
「おごらず政策実行を」前木理一郎・政治部長

▼日経新聞
社説「安倍政権を全面承認したのではない」勝手に自滅した野党/経済再生が政治の役割
「痛みと未来を語る責任」内山清行・政治部長

▼産経新聞
社説(「主張」)「自公大勝 国難克服への強い支持だ 首相は北対応に全力挙げよ」/「9条改正」ためらうな/社保改革の全体像示せ
「首相の強運 生かすとき」石橋文登・編集局次長兼政治部長

▼東京新聞・中日新聞
社説「安倍政権が継続 首相は謙虚に、丁寧に」国会は全国民の代表/続投不支持多数だが/森友・加計解明続けよ
「国民の声を聞け」深田実・論説主幹

 

※追記 2017年10月24日8時45分

(1)自民党が3人を追加公認していることを追加しました。

(2)東京発行6紙の社説、編集幹部・政治部長評論の中でわたしが目を引かれたのは読売新聞です。基本的には安倍晋三政権を支持し好意的に論じてはいるのですが、社説ではサブ見出しに「『驕り』排して丁寧な政権運営を」を掲げ、本文では以下のように、安倍首相にくぎを刺しています。ひと言触れて済ませたわけではなく、かなりの言葉を費やしています。

 今の野党に日本の舵かじ取りを任せることはできない。政策を遂行する総合力を有する安倍政権の継続が最も現実的な選択肢だ。有権者はそう判断したと言えよう。
 希望の党の結成や、民進党の分裂・合流、立憲民主党の結成という野党再編の結果、小選挙区で野党候補が乱立し、反自民票が分散した。これが、自民党に有利に働いた点も見逃せない。
 公示直後の世論調査で、内閣支持率は不支持率を下回った。首相は、自らの政策や政治姿勢が無条件で信任されたと考えるべきであるまい。与党の政権担当能力が支持されたのは確かだが、野党の敵失に救われた面も大きい。
 安倍政権の驕おごりが再び目につけば、国民の支持が一気に離れてもおかしくない。首相は、丁寧かつ謙虚な政権運営を心がけ、多様な政策課題を前に進めることで国民の期待に応えねばなるまい。 

 また前木理一郎・政治部長は署名評論の中で、安倍首相が「国難」と訴えた北朝鮮問題について、以下のように書いています。 

 来月初めの日米首脳会談では、北朝鮮問題への対応が最大のテーマとなるだろう。首相は選挙戦で北朝鮮への圧力を強調したが、軍事的選択肢に繰り返し言及するトランプ氏とだけ同一歩調をとるのは危険だ。中国などを含めた国際的連携を図り、北朝鮮の暴発を防ぐ包囲網を構築しなければならない。諸外国の首脳と比べても先輩格となった首相は、培った外交手腕を発揮すべきだ。 

 第2次安倍政権成立後のマスメディアの報道で顕著になっていることの一つは、安倍政権への支持と批判の2極化の傾向です。読売新聞は産経新聞とともに、基本的には安倍政権の政策を支持し、支持する政策については政治手法が強引であっても厳しい批判は避けてきたとわたしは受け止めています。そういうマスメディアがあることは「安倍1強政治」の強みの一部であるとも考えて来ました。その中で、今回の社説や署名評論も安倍政権を支持すればこそのものではあるとしても、内容自体は客観的な状況を踏まえた冷静さを持っており、その意味では朝日新聞や毎日新聞、東京新聞などとも、議論の前提になる情勢認識は共有しているように感じました。

 政権への支持、批判がマスメディアによって分かれるのは当然としても、事実や情勢認識を共有した上で各紙が主張を展開してこそ、複数のマスメディア、新聞が並び立つことの意義が深まるのだと考えています。

追悼 井戸秀明さん

 悲しい知らせに接しました。
 民放労連の前副委員長、元書記長の井戸秀明さんが10月20日、永眠されました。享年65歳。かねてより闘病中でした。
 井戸さんは、わたしが新聞労連委員長として2004年10月、新聞労連や民放労連、出版労連、全印総連などマスメディアや映画演劇、音楽、情報関連の産別組合でつくる日本マスコミ文化情報労組会議(略称・MIC=ミック)議長に就いた際、民放労連書記長としてMICの事務局長を兼任していらっしゃいました。2006年9月にわたしがMIC議長を退任するまでの2年間、議長―事務局長の関係で様々にお付き合いいただき、多くのことを教えていただきました。

 小泉純一郎政権の時代でした。雇用面の大幅な規制緩和で非正規雇用が一気に拡大に向かい、経営者から見れば安価で使い勝手がいい、つまりは低賃金で、「期間満了」を理由にコマ切れに雇い止めができる派遣社員などの不安定な雇用が社会問題になろうかという時期でした。「ワーキングプア」という言葉が生まれてもいました。既存の労働組合は「抵抗勢力」のレッテルを貼られました。マスメディア産業では、伝統的に正社員による企業別組合が、どう対応していくかが問われ始めていた時期でもありました。ただ、一般にはまだまだそんな意識は広がっておらず「働き方は、個人の選択の問題でしょ」との自己責任論が幅を利かせていました。
 そんな中で、井戸さんに教えていただいたことで、今も忘れず、変わらずに胸に刻んでいるのは、労働組合はいまそこにいる労働組合員だけのための存在ではない、ということです。労働組合は働く者の団結権を具現化したものです。一人一人は弱い存在なので、団結することで経営者と対等の立場に立ち、働き方、働かされ方について交渉できるようにすることを保障するものです。しかし、実際にはその権利を手にしようにもできない人たちが大勢います。権利を主張した途端に、仕事を失うからです。そうした人たちが権利を行使できるように、労働組合を作る、加入することを実現させられるのは、今、その権利を具現化している労働組合と、その権利を手にしている労働組合員をおいて他にない、ということです。そのことを2年間、様々な活動、運動に取り組む中で様々に教えていただきました。わたしは今は労働組合に所属していませんが、労働組合のその社会的な意義への理解は今もまったく変わりがありません。仮に労組が企業の殻に閉じこもり、あるいは企業内でも隣りで働く非正規雇用の方々と向き合うことがなければ、今日は手にしている「労働組合」という権利が明日も同じように手の中にあるかどうかは分からないでしょう。

 争議こそ、何をおいても労働組合が取り組むべきものだ、ということも教えていただきました。井戸さんは京都市に本社を置く京都放送(KBS)労組の出身でした。京都放送は1980年代から90年代にかけて、経営陣の内紛や、戦後最大の経済事件と呼んでもよいイトマン事件にも登場する人物たちの暗躍にさらされ、大揺れに揺れます。その中で労組が労働債権の確保を理由として裁判所に会社更生法適用を申請。民放局の初の倒産事例となりましたが、放送は継続され、免許停止や廃局の危機は免れました。労組主導による自主管理・経営再建の試みであり、労組が職場と仕事を、ひいては放送を守った戦い、争議だったのだと思います。
 そうしたすさまじい経験を経て、民間放送の産業別組合である民放労連の専従職に就かれた井戸さんでしたから、労働組合活動への姿勢にはいささかの揺らぎもありませんでした。しかしそれでありながら決して大言壮語はなく、語り口はいつも穏やか。時に、ピリリとユーモアを利かせた皮肉で場をなごませる、そんな情景も懐かしく思い出されます。

 わたしのMIC議長の任期中に、戦後60年を迎えました。その年、2005年の8月はMICと韓国のマスメディア労組の交流事業として、日韓の言論シンポジウムをソウルで開催しました。中心になって準備を進めていただいたのが井戸さんでした。8月15日は、井戸さんやMICの仲間、韓国の仲間とソウルで過ごしました。昼に夜に、日韓のメディア労働者同士が連帯と交流を深めました。翌年は、韓国の仲間が8月6日に広島に来てくれました。意義深い連帯と交流の活動でした。
 戦争は社会不安と貧困の帰結でもあります。だから戦争を未然に防ぐには、貧困をなくし社会を安定させなければなりません。そのためには労働者の地位の向上と待遇の改善は必須です。そのためにこそ、労働者の権利は保護されなければなりません。だから労働組合とは、本来的に平和勢力です。MICは毎年8月、隔年で広島と長崎で交互に地元のマスメディア労組の共闘会議と反核フォーラムを開くなど、 平和の問題にも積極的に取り組みました。その中で沖縄のマスコミ労協との交流が深まり、5月の平和行進にもMICからの参加者が増えていきました。そうした活動を踏まえて、井戸さんと相談しながら、沖縄のマスコミ労組との連帯をMICの正規の活動に位置付けたのは、今でもわたしがささやかながら誇りとすることの一つです。井戸さんはまた、三線(さんしん)で沖縄民謡を奏でるほど、沖縄の文化に精通した方でした。

 井戸さんが病に見舞われたのは5年前でした。当時、わたしは勤務先の都合で大阪にいました。関西に里帰りした井戸さんと、大阪でも何度かお会いしました。3年前にわたしが東京に戻ってからも、時折、気のおけない仲間で食事会を開いたりしていました。いつも前向きで病と向き合っていらっしゃったように思います。最後にお会いしたのは今年の夏の終わりでした。いつもの食事会の皆さんと病室にお見舞いにうかがいました。口調はいつもと変わらず、悲壮感とかそういったものはみじんも感じられませんでした。「じゃあ、また来ますね」。まだ時間はあるだろうと勝手に思い込んで、いつもの集まりのお開きの時のようなつもりで病室を後にしました。

 わたしが新聞労連委員長、MIC議長を務めた2年間は、今もわたしにとって何物にも代えがたい宝物のような時間です。「平和と正義」は当時のMICの合い言葉でした。今なお胸に刻む、様々の貴重な経験と教訓を得ました。井戸さんとは時にデモで並んで歩き、争議支援では一緒にシュプレヒコールを上げました。ともに過ごした時間と、井戸さんに教えていただいたことどもは、今後もわたしにとっては、とりわけ困難に行き当たった時には、進むべき道を示してくれる道しるべであり続けるだろうと思います。
 最後に献花いたします。奈良・長谷寺に咲いていたアジサイです。井戸さん、ありがとうございました。安らかにお眠りください。

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以下は、井戸さんとともに過ごしたMIC議長2年間の思い出の一部です。

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沖縄・平和大行進=2006年5月

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争議支援総行動=2005年11月

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夜の銀座デモ=2005年11月

沖縄の過剰な基地集中と主権者の選択~衆院選の投開票を前に

 10月22日投開票の衆院選で問われるべきことの一つとして、沖縄への米軍基地集中の問題があることをあらためて書きとめておきます。
 衆院選公示翌日の10月11日、沖縄本島北部で飛行中の米軍普天間飛行場所属のCH53E大型ヘリが訓練中に出火、東村高江の米軍北部訓練場に近い民有の牧草地に不時着して炎上しました。近くの住宅まで200~300メートルしかありませんでした。
 米軍は同型機の運用をいったんは停止していましたが、日本政府や沖縄県など地元自治体に事故原因を説明しないまま、18日に運用を再開しました。現場では米軍がヘリの残骸を解体し、19日から20日にかけて搬出しました。沖縄県警は航空危険行為処罰法違反容疑を視野に捜査を進めるものの、県警独自の現場検証もなく、米軍側の説明に基づく状況確認にとどまったと報じられています。事故機は部品に放射性物質を使用していることも明らかになっています。

 沖縄には全国の米軍専用施設の7割が集中し、普天間飛行場の移設先として日米両政府が合意している名護市辺野古では、日本政府が沖縄県の反対を押し切って新基地の建設を進めています。このブログでも紹介しましたが、琉球新報が9月に実施した県内世論調査では、辺野古移設を容認するのはわずか14%なのに対して、移設なしの撤去、県外・国外への移設を求める回答は、合わせて80・2%にも上っています。普天間飛行場の辺野古移設に対する県民の民意は明らかと言うべきでしょう。

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 このブログで何度も書いてきたことですが、衆院選の投開票を前にあらためて書きます。国家事業に対する地元の民意は明らかなのに、それが一顧だにされないとは、その地域の未来への自己決定権が認められていないに等しいことです。ほかにそのような地域が日本国内にあるでしょうか。沖縄だけがそういう状況を強いられているのは、沖縄に対する差別としか言いようがありません。その差別を解消するには、日本政府の方針が変わらなければなりません。それは決して不可能ではありません。日本国の主権者である国民の選択の問題だからです。
 具体的には選挙を通じて、沖縄への差別としか言いようがない政策を撤回し、沖縄への基地負担の過剰な集中を解消する政策を持った政府を誕生させることです。それが実現しないのならば、個々人の投票行動のいかんを問わず(棄権は言うに及ばず)、主権者の一人である以上は誰しも、この差別の当事者であることを免れ得ません。今回に限らず、選挙ではいつもそのことが問われているのだと考えています。

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【写真】事故を連日報じた琉球新報の紙面

安倍晋三首相への厳しい視線~備忘:衆院選 終盤情勢の報道

 衆院選の22日の投開票を前に、新聞各紙が情勢調査の結果を報じています。①自民党は堅調②希望の党失速③立憲民主党に勢い、第2党(野党第1党)をうかがう―といった点が共通しているようです。
 その一方で、各紙の調査結果を見ていて浮かび上がるのは、安倍晋三政権ないしは安倍首相への世論の厳しい視線です。内閣支持率は低落の傾向が続いているもよう。朝日新聞と毎日新聞が、今後も安倍氏が首相を続けることの賛否を聞いたところ、朝日新聞調査では「続けてほしい」34%に対し、「そうは思わない」が51%と過半数に達し、毎日新聞調査では「よいと思う」37%、「よいとは思わない」47%でした。
 以下は投開票日の直前の備忘として、書きとめておきます。


 ▼東京発行の新聞各紙の情勢記事掲載日と見出し
 ・朝日新聞
 10月19日(木)付朝刊「比例投票先 立憲伸び13%/本社世論調査 自民34%希望11%」
 ※17~18日に電話世論調査を実施(固定電話の有効回答1640人、携帯電話1574人)
 ・毎日新聞
 10月16日(月)付朝刊「自民 最大300超も/立憲は勢い増す/希望さらに失速/衆院選中盤情勢 本社総合調査」
 ※13~15日に特別世論調査(回答7万3087人)を実施し、取材情報を加味
 ・読売新聞
 10月20日(金)付朝刊「自民、勢い維持/衆院選終盤情勢 希望は苦戦/立憲民主が加速」
 ※17~19日に世論調査(回答4万5282人、日経新聞と協力)を実施、全289選挙区のうち接戦区を中心に114選挙区が対象
 ・日経新聞
 10月20日(金)付朝刊「与党、300議席迫る勢い保つ/2/3獲得は微妙/希望失速、立憲民主伸びる/衆院選 終盤情勢」
 ※17~19日、序盤で接戦だった114選挙区を調査し、独自取材を加味して465議席の情勢を改めて分析
 ・産経新聞
 10月17日(火)付朝刊「自公 3分の2超へ/立憲民主 野党第一党も/希望、公示前下回る可能性/衆院選終盤情勢」
 ※FNN(フジテレビ系列)と合同で12~15日に実施した電話世論調査(サンプル数3万9944)に全国総支局の取材を加味
 ・東京新聞
 10月18日(水)付朝刊「自公2/3維持の勢い/希望、立民 野党第1党争い/終盤情勢」
 ※独自取材に、本紙や共同通信社が行った電話世論調査を加味

 なお、全国の地方紙に記事が掲載されることが多い共同通信は、18日付朝刊用に終盤情勢の新聞掲載用記事を配信しています。
 ・共同通信
 10月18日(水)付朝刊用「自公堅調、3分の2前後/希望50程度、苦戦続く/立民3倍増も、40%未定/衆院選終盤情勢」
 ※15~17日、全国の有権者約12万人を対象にした電話世論調査を実施し、取材も加味

 ▼安倍内閣の支持率
 ・朝日新聞(17~18日) 「支持」38%(前回比2ポイント減) 「不支持」40%(同2ポイント増)※前回は3~4日実施
 ・日経新聞(17~19日、携帯電話のみ、回答1060件) 「支持」46% 「不支持」44%
 ・産経新聞・FNN(12~15日) 「支持」42・5%(前回比7・8ポイント減) 「不支持」46・3%(同6・3ポイント増)※前回は9月16~17日実施

 ▼安倍首相について
 ・朝日新聞(17~18日)
  「安倍さんに今後も首相を続けてほしいと思いますか」
   「続けてほしい」34% 「そうは思わない」51%
   ※18~29歳は「続けてほしい」が49%と多く、30代は拮抗、40代以上は「そうは思わない」が多く60代以上は「そうは思わない」60%
 ・毎日新聞(13~15日)
  「衆院選のあとも、安倍晋三さんが首相を続けた方が良いと思いますか」
   「よいと思う」37% 「よいとは思わない」47%

自民堅調だが安倍内閣の支持は盤石ではない~衆院選、序盤から中盤の情勢

 衆院選の序盤から中盤の情勢がいくつかのマスメディアで報じられています。
 毎日新聞は10月16日付の朝刊で、13~15日に実施した世論調査に取材情報を加味した分析の結果を報じました。自民党が小選挙区、比例代表とも堅調で、単独で300議席を超える可能性があるとしています。希望の党は最大で54議席にとどまる見通し。紙面では「希望さらに失速」の見出しがついています。立憲民主党は公示前の15議席を大きく上回る40議席台を確保しそうとのことです。
 時事通信は15日夜に情勢記事を送信。「自民党は280議席近くを視野に入れ、公明党を加えた与党で300議席超をうかがう勢い」とし、希望の党については「本拠地の東京でも伸び悩み、公示前勢力(57議席)を確保する程度にとどまる見通し」としています。立憲民主党は「公示前の15議席から40議席程度まで伸ばす可能性がある」と伝えました。
 朝日新聞は14日付の朝刊に序盤情勢の記事を掲載。全289の選挙区を2回に分けて10、11日に144選挙区、12、13日に残りの145選挙区を調査した結果として、「①自民党と公明党を合わせた与党で300議席をうかがう勢い②希望の党は、東京で候補者を立てた23すべての選挙区で先行を許す―などの情勢」と伝えています。
 NHKは16日夜に13~15日に実施した世論調査の結果を報道。予想獲得議席数には触れていませんが、政党別の支持率は自民党32・8%、希望の党5・4%、公明党4・3%、共産党3・4%、立憲民主党6・6%、日本維新の会1・7%、社民党0・6%、日本のこころ0・1%、「特に支持している政党はない」34%でした。立憲民主党が希望の党を上回っているのが目を引きます。
 各マスメディアが報じた情勢は、大まかに言えば「自民堅調」「希望失速、伸び悩み」「立憲民主に勢い」という点で共通しています。公示直後と傾向は変わっていません。

mainichi.jp

www.jiji.com

www.asahi.com

www3.nhk.or.jp 

 興味深いのは、自民党の堅調ぶりの要因です。自民党自体は堅調ですが、安倍晋三政権への支持はそうとは限らないようです。NHKの調査結果によると、安倍内閣の支持率は先週の調査よりも2ポイント上がって39%、「支持しない」と答えた人は、1ポイント下がって42%でした。支持率がわずかに上がったとはいえ、不支持が支持を上回っています。
 毎日新聞の世論調査では、「衆院選のあとも、安倍晋三さんが首相を続けた方がよいと思いますか」との問いに「よいと思う」と答えたのは37%なのに対して、「よいとは思わない」は47%でした。支持政党別に見れば、自民党支持者の間では76%が「よいと思う」で、立憲民主支持層や共産支持層では「よいとは思わない」が88~89%でした。

 現時点では、自民党の支持は堅調に推移していますが、安倍内閣の支持率は上昇基調にはなく、今後への期待度も決して高くありません。民進党が公示直前になって分裂したことを初めとする野党側の混乱が、相対的に自民党を浮上させている可能性が高いように思います。実際に、新聞各紙には、「マスコミで報じられているような強さは感じない。自民党に追い風はない」などとする自民党関係者の話などが載っています。選挙戦の終盤は、余談を持たずに成り行きを見ていこうと思います。

 

 ※追記 2017年10月17日8時30分

 各社の情勢記事へのリンクを加えました。

米軍基地を巡る「三重苦」~ヘリ炎上、沖縄2紙の社説

 

 10月11日に沖縄本島北部の東村で不時着したヘリが炎上した事故では、沖縄の地方紙の沖縄タイムス、琉球新報 とも、初報段階から社説で取り上げ、同型機の飛行停止と北部訓練場などのヘリパッドの使用禁止、海兵隊の撤退、日米地位協定の改定などを訴えています。中でも印象に残るのは、沖縄への米軍基地の集中を巡って「三重苦」を指摘し、これを衆院選の争点にせよ、と訴えた14日付の沖縄タイムスの社説です。「三重苦」とは以下の通りです。 

 第1に、小さな島に軍事基地が集中し、住民の生活の場と米軍の軍事訓練の場が隣り合わせになっていること。
 第2に、地上兵力の海兵隊が主力部隊として駐留していること。
 第3に、地位協定によって基地管理権を排他的に行使するなど、さまざまな特権が与えられていること、である。 

  各日の2紙の社説について、備忘を兼ねて、以下に一部を引用して書きとめておきます。

 

【10月12日付】
▼沖縄タイムス「[米軍ヘリ炎上大破]政府は飛行停止求めよ」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/155119

 沖縄はいつまで米軍ヘリ墜落の不安を抱えながら生活しなければならないのか。同型機の飛行停止を強く求める。
 米軍北部訓練場の約半分の返還に伴い、東村高江集落を取り囲むように六つのヘリパッド(着陸帯)が完成し、米軍に提供されている。
 炎上したのがオスプレイでなく、場所がヘリパッドでないからといって無関係というわけにはいかない。むしろどこでも墜落する危険性があることを示すものだ。
 政府は事あるごとに負担軽減を強調するが、実際に起きているのはその逆である。
 オスプレイが配備されてから5年。高江区では、米軍機による60デシベル以上の騒音回数が過去5年間で12倍超に激増。夜間の騒音も16倍超に跳ね上がっている。加えて今回の炎上大破事故である。どこが負担軽減なのか。
 飛行訓練が激化するばかりの高江集落周辺の六つのヘリパッド、宜野座村城原のキャンプ・ハンセン内のヘリパッドの使用禁止を強く求める。

▼琉球新報「高江米軍ヘリ炎上 海兵隊の撤退求める」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-592175.html 

 事故を起こしたヘリと同型機は、2004年に宜野湾市の沖縄国際大学に墜落している。昨年12月に名護市安部で発生した垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの墜落から1年もたたない。
 事故原因が究明されるまでの事故機と同型機の飛行中止を求める。同時に海兵隊機が使用する名護市辺野古の新基地建設断念と米軍北部訓練場に整備された六つのヘリパッドの使用禁止、県民の命と財産に脅威となり続ける在沖米海兵隊の撤退を強く求める。
 (中略)
 憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と明記している。同13条は環境権(幸福追求権)を定め、前文は生命や健康が危険にさらされない平和的生存権を認めている。
 しかし、これらの権利が、沖縄では施政権返還後も著しく侵害され続けている。
 児童を含む17人が死亡した1959年6月の沖縄本島中部の石川市(現うるま市)宮森小学校ジェット機墜落事故をはじめ、68年にはベトナムに出撃するB52戦略爆撃機が嘉手納基地で離陸に失敗して墜落した。
 沖縄県の統計によると、72年の沖縄返還以降も米軍機の墜落事故は48件(16年末)に上る。単純計算で年に1件のペースで米軍機が墜落する都道府県が全国のどこにあるだろうか。
 今回の衆院選は辺野古新基地過重負担が主要な争点になる。有権者はしっかり判断してほしい。 

 

【10月13日付】
▼沖縄タイムス「[米軍機炎上]捜査拒否 地位協定改定しかない」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/155588 

 米軍普天間飛行場所属のCH53大型ヘリが東村高江で炎上、大破した事故。県警は、航空危険行為処罰法違反容疑を視野に捜査の着手を検討しているが、実現のめどはたっておらず、事実上拒否が続いている。
 機体の一部に放射性物質が使われている可能性があることなどから、県は11日夜から環境調査をするため、現場への立ち入りを求めているが、米軍からの返答はない。
 現場は、日本の捜査や調査の権限が及ばない米軍基地内ではない。住民が生活する民間地である。日本の主権が全うされて当然の場所である。
 当然のことが当然になされない。その原因は、米軍のさまざまな特権を認める日米地位協定にある。
 (中略)
 日本側が原因究明に関われなければ、事故の真相は解明されず、米側に事故の具体的な再発防止策を求めることもできない。だから、日本は米軍が安全と言えば容認するという、主権国家にあるまじき対応に終始することになる。
 捜査権を含め、地位協定の現状変更に政府は及び腰の姿勢を示し続けてきた。環境補足協定をとってみても、立ち入り調査の受け入れを判断するのは米側であり、運用実態は後退しているのが現状だ。
 県は、これまでの経緯を踏まえ、米軍基地の外での事件・事故で、日本側が捜索、差し押さえ、検証する権利を地位協定に書き込むことなどを求める協定見直し案を提起している。ガイドラインの見直しや、補足協定などの弥縫(びほう)策では、厳しい現状は変わらない。やはり地位協定を改定するしかない。 

 

【10月14日付】
▼沖縄タイムス「[衆院選 基地問題]「三重苦」を争点にせよ」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/156077 

 問題の背景にあるのは、米軍基地を巡る「三重苦」の存在である。この現実に正面から向き合わない限り、安全対策はその場しのぎの対策にとどまらざるを得ないだろう。「三重苦」の問題を衆院選の争点にすべきだ。
 「三重苦」とは何か。
 第1に、小さな島に軍事基地が集中し、住民の生活の場と米軍の軍事訓練の場が隣り合わせになっていること。
 第2に、地上兵力の海兵隊が主力部隊として駐留していること。
 第3に、地位協定によって基地管理権を排他的に行使するなど、さまざまな特権が与えられていること、である。

 米カリフォルニア州にあるキャンプ・ペンドルトン海兵隊基地と比べても、日本本土の大規模な自衛隊演習場と比べても、沖縄の海兵隊基地は狭い。
 沖縄に駐留する海兵隊は、特殊作戦機能を備えた部隊である。実戦を想定した激しい訓練を、住宅地の近くで日常的に実施している。復帰後も事件事故が絶えないのは、今なお「三重苦」が沖縄を覆っているからだ。
 嘉手納基地も普天間飛行場も、住民の安全を確保し騒音被害を軽減するための、必要にして十分な緩衝地帯が確保されていない。
 この三つの現実が複雑に絡みあっているのが「三重苦」の正体である。 

▼琉球新報「米軍の日本軽視 対米追従が招いた結果だ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-593357.html 

 在日米軍は普天間飛行場に所属する同型機の運用を96時間(4日間)停止すると発表した。一方、沖縄防衛局は「小野寺五典防衛相とシュローティ副司令官が面談した際は『96時間』という話は出ていなかった」としていた。
 だが、小野寺氏はその翌日、「実は昨日の会談の中でも当初4日間を考えているという発言がシュローティ副司令官からあった」とし、期限を定めずに飛行停止するよう求め、同意を得られたと主張した。防衛局と小野寺氏の説明で齟齬(そご)が生じたのである。通常ではあり得ない。緊張感の欠如も甚だしい。
 いずれにせよ、米軍は日本政府から運用停止期間について同意を得る考えなどなかったのではないか。小野寺氏に方針を伝えただけで、小野寺氏の要請は無視した可能性さえ疑われる。
 自民党の岸田文雄政調会長は、ニコルソン在沖米四軍調整官とエレンライク総領事を呼んで抗議しようと米側と調整したが、拒否された。岸田氏は「米側の不誠実な態度は大変残念」と述べた。だが、県民は日米双方から不誠実な扱いを受け続けている。そのことを心に刻み、その状況を改善できるかが問われていることを知るべきだ。
 小野寺、岸田の両氏は、在日米軍が日本政府や政権与党さえ、軽く見ている要因を知るべきだ。日本側の醜いまでの対米追従姿勢が招いた結果である。
 その姿勢を大きく転換しない限り、日本は米国から属国のように軽視され続ける。その被害を最も受けるのは沖縄県民である。早急に是正することは政府の責務だ。 

 

【10月15日】
▼琉球新報「事故機に放射性物質 米軍は現地調査を認めよ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-593793.html 

 東村高江で炎上したCH53E大型輸送ヘリコプターについて、在沖米海兵隊がインジケーター(指示器)の一つに放射性物質が使われていることを認めた。さらに現地では放射性物質を既に取り除いたと説明し「健康を害すのに十分な量ではない」と回答している。つまり事故現場に放射性物質が存在していたことになり、放射能汚染の可能性が出てきた。由々しき事態だ。
 海兵隊によると、放射性物質は指示器の複数の部品で使用されていた。2004年に宜野湾市の沖縄国際大学で墜落したCH53Dヘリの機体でも、回転翼安全装置などで放射性物質のストロンチウム90が検出された。
 沖国大の墜落事故の際、宜野湾市消防本部の消防隊員が消火活動したが、米軍からヘリに放射性物質を搭載している事実を知らされていなかった。このため米軍の消防隊員は消火活動直後に放射能検査を受けていたが、宜野湾市消防の隊員は受けていない。生命の安全に関する情報を提供しない極めて不誠実な対応だった。
 そして今回の炎上事故でも、初期消火に当たった国頭消防本部の消防隊員に、放射性物質の有無の情報を提供していなかった。海兵隊が放射性物質の存在を認めたのは、琉球新報の質問に対する回答だ。自ら情報提供したものではない。不誠実な対応は13年たっても変わらない。
 県と沖縄防衛局は放射性物質が飛散した可能性があるとして、事故機に接する土壌採取を米軍に要望している。しかし事故機から半径約100メートルに敷かれた米軍による内周規制線内への立ち入りは認められていない。
 このため県と防衛局は内周規制線の外で土壌を採取している。放射能汚染の可能性を引き起こしたのは米軍だ。その当事者が現地調査を拒んでいる。こんなことが許されるのか。いくら米軍が「健康を害すのに十分な量ではない」と説明しても、額面通りに信用することなどできない。 

 

 事故発生の翌日、10月12日付の琉球新報が手元に届きました。写真は1面と社会面です。 

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ヘリ炎上事故を機に、沖縄になぜ米軍基地が集中しているのかを考える~本土紙の社説の記録

 衆院選公示翌日の10月11日午後、沖縄本島北部で飛行中の米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)所属のCH53E大型ヘリが出火。東村高江の米軍北部訓練場に近い民有の牧草地に不時着して炎上しました。住宅まで200~300メール。けが人はありませんでしたが「あわや」の事故でした。このブログの前回の記事で書いたように、米軍基地を巡っていつまで沖縄に過剰な負担と危険を強いるのか、衆院選では全国で争点として問われるべきだろうと考えています。

news-worker.hatenablog.com

 ここでは、日本本土の新聞各紙がこの事故を社説でどのように取り上げているかを、ネット上で分かる範囲で見てみました。

 14日現在で、全国紙で唯一取り上げた毎日新聞は、沖縄で米軍機の事故がやまないことに対して「こうした実情が変わらない限り、沖縄県民にある反基地感情を拭い去ることはできないだろう」と指摘し、日米安保条約に伴う地位協定の見直しや抜本改定の必要性に力点を置いています。

 地方紙・ブロック紙の社説も、やはり地位協定に触れた内容が目に付きます。現行の地位協定は、米軍施設の外であっても 、米軍機の事故は米軍の同意なしには日本側は現場検証も捜査もできず、米軍が再発防止策を取ったと主張しても、検証も何もできません。地位協定の抜本的な見直しは必要ですが、それが問題のすべてではありません。沖縄に基地が集中し続けていることの意味を、衆院選の折でもあり、沖縄の一地域の問題としてではなく、全国の問題としてとらえる視点が重要です。なぜ、沖縄だけが過剰な負担や危険を引き受けさせられているのか、引き受けるよう強いているのは誰なのか、の視点であり、問い掛けです。

 その意味で、例えば京都新聞の社説が「在沖縄米軍の大部分を占める海兵隊は、50年代まで岐阜県など本土にも駐在していた。沖縄に移ったのは、米軍への反発が強まったためだ」と、歴史的経緯に触れたのは重要な視点だと思いますし、西日本新聞の社説が呼び掛けているように「本土に住む私たちも、投票までに一度、想像してみたい。『もし自分が沖縄県民だったら』と」と、想像力を働かせることが必要なのだろうと思います。日本本土に住む日本国民の無関心が、沖縄の基地集中を固定化させているのだとしたら、日本本土に住む日本国民も沖縄の基地被害の当事者です。この衆院選は、そのことが広く論議される機会になるべきだと考えています。

 以下に、目にとまった本土紙の社説のリンク(いずれリンク切れになると思います)とその一部を引用して書きとめておきます。

 

【10月13日付】

▼毎日新聞「沖縄米軍ヘリ不時着事故 基地集中の理不尽さ再び」
 http://mainichi.jp//articles/20171013/ddm/005/070/048000c

 政府がいくら「強固な日米同盟」を強調しても、米軍基地をめぐる国内の鋭い対立を解消できないままでは、不安定さがつきまとう。
 現在の日米地位協定は、米軍基地の外で起きた事故であっても米軍に警察権があり、米軍の同意なしに日本側は現場検証もできない。
 米軍はこれまで事故機の機密情報の保護などを理由に共同捜査に応じず、日本は事故原因などを米軍の調査に委ねるしかないのが現状だ。
 今回の衆院選では、野党の多くが基地負担の軽減と合わせて地位協定の見直しや抜本改定を公約などで訴えている。
 政府には国民の生命を守る義務がある。もし地位協定がそれを担保できないなら、見直しを含めた検討が必要ではないか。 

 

▼北海道新聞「米軍ヘリ炎上 沖縄の現実を直視せよ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/138197?rct=c_editorial 

 危険と隣り合わせの沖縄の現実があらためて浮かび上がった。翁長雄志知事はきのう「日常の世界が一転して恐ろしい状況になる。悲しく、悔しい」と述べた。
 政府はその言葉を重く受け止めなければならない。衆院選を戦う各党も沖縄の現実を直視し、基地問題を全国に訴える必要がある。  

 

▼信濃毎日新聞「米軍ヘリ炎上 不安置き去りにするな」
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20171013/KT171012ETI090007000.php  

 米軍機の事故は、日米地位協定によって日本側の捜査が阻まれてきた。沖縄国際大への墜落事故では、米軍が現場一帯を封鎖し、警察の立ち入りを拒んだ。名護市沖の事故でも、共同捜査の要請に応じなかった。
  国民の命に直接関わる問題である。原因の解明や責任の追及を米軍任せにはできない。政府は捜査の受け入れを強く迫る必要がある。妨げとなる地位協定は、見直さなくてはならない。
  今回の事故は、沖縄の基地負担の重さをあらためて浮き彫りにした。在日米軍基地の7割余が沖縄に集中し、周辺の騒音被害も深刻だ。米兵らの犯罪も絶えない。
  名護市辺野古では、米軍普天間飛行場の移設先として政府が新たな基地建設を強行している。衆院選で、沖縄の基地問題はもっと議論されるべきだ。  

 

▼中日・東京新聞「米軍ヘリ炎上 危険が身近にある現実」
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2017101302000112.html

 今回の事故は、米軍施設に伴う危険性だけでなく、日米地位協定の問題も突き付ける。
 沖国大の事故では、日本の捜査権は及ばず、米軍が規制線を引いた。今回も米軍は事故現場を事実上の封鎖状態とし、県警は現場検証を実施できなかった。
 地位協定の関連文書では、米軍の同意がない場合、日本側に米軍の「財産」の捜索や差し押さえをする権利はない、とされるためだが、日本政府は主権が蔑(ないがし)ろにされる状態をいつまで放置するのか。政府は法的に不平等な地位協定の抜本的見直しや改定を米側に提起すべきだ。形ばかりの抗議でお茶を濁して済む段階ではない。 

 

▼京都新聞「米軍ヘリ炎上  沖縄だけの問題でない」
http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20171013_4.html 

 在沖縄米軍の大部分を占める海兵隊は、50年代まで岐阜県など本土にも駐在していた。沖縄に移ったのは、米軍への反発が強まったためだ。沖縄は当時、米施政下にあり、基地拡大に反対することは不可能だった。
  「本土は基地負担を沖縄に押しつけて日米安保体制の利益だけを享受している」。沖縄ではこう指摘されることが少なくない。
  歴史的経緯を直視し、日本全体で沖縄の声に向き合う必要がある。 

 

▼中国新聞「米軍ヘリ炎上 基地のリスク、どう軽減」
http://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=380273&comment_sub_id=0&category_id=142 

 地位協定はこのままでいいのか。沖縄に集中して押し付けている米軍基地のリスクをどうすれば軽減できるのか。衆院選の最中だけに、議論を深めるべきである。野党の多くは沖縄の負担軽減や地位協定見直しなどを公約に盛り込んでいる。しかし自民、公明の連立与党は地位協定見直しなどには及び腰だ。国民全体の問題として考えることが不可欠ではないか。 

 

 ▼西日本新聞「沖縄基地問題 本土も自分の争点として」
 http://www.nishinippon.co.jp//nnp/syasetu/article/365580 

 ただ、米軍基地を巡る論争は沖縄の「地域課題」の様相となり、全国的な論戦の主要テーマには位置付けられていないのが現状だ。
 朝鮮半島情勢の緊迫を受け、安全保障に対する有権者の関心は高まっている。日本の安全保障の基軸である日米同盟を下支えしているのが沖縄だ。むしろ今こそ、各党は沖縄の基地負担問題について正面から論じるべきではないか。地域限定課題などではないのだ。
 本土に住む私たちも、投票までに一度、想像してみたい。「もし自分が沖縄県民だったら」と。 

 

 ▼佐賀新聞(論説)「米軍ヘリ事故 負担軽減と言えぬ実態」※共同通信
 http://www.saga-s.co.jp/articles/-/135567 

 現場を視察した沖縄県の翁長雄志知事は「悲しく、悔しい」と語った。日本政府は、事故の原因究明と再発防止を米側に徹底して求めるとともに、まやかしではない負担軽減に向け、抜本的な取り組みを進めるべきだ。
 衆院選では各党が沖縄の負担軽減を公約に掲げ、在日米軍の法的地位などを定めた日米地位協定の見直しにも言及している。米軍機は日本中を飛んでおり、沖縄だけの問題ではない。全国的な課題として考えたい。 

 

▼南日本新聞「[米軍ヘリ事故] おざなりの調査許すな」
 http://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=87647 

 そもそも米軍による事故や事件が絶えないのは、沖縄の過重な基地負担があるからだ。
 北部訓練場は昨年末、総面積の半分超に当たる約4000ヘクタールが返還された。日本政府は本土復帰後、最大の返還だとし「基地負担軽減に大きく資する」と強調した。
 しかし、返還と引き換えに建設されたのが、集落を取り囲むような複数のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)だった。
 そこへ今回の事故である。米軍施設の島内たらい回しは到底、負担軽減になり得ない。
 普天間飛行場の辺野古移設も事故の懸念は同じだ。衆院選では各党が沖縄の負担軽減を公約に掲げている。その本気度を見極める必要がある。 

 

【10月14日】

▼陸奥新報「米軍ヘリ事故『再発防止に何が必要か』」
 http://www.mutusinpou.co.jp/index.php?cat=2 

 弾道ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮の脅威が高まっている。日米韓が歩調を合わせて圧力を強化している中、日米間に軋轢(あつれき)が生じるようなことがあってはならないだろう。しかし、必要に応じた抗議や指摘はあってしかるべきだ。
 日米地位協定により、米軍の事故を日本が捜査できることはほとんどない。このため、政府も米軍の報告をうのみにし、追認せざるを得ない状況にあるとも言えよう。そうであるなら今回の衆院選で各党は、地位協定の在り方も争点にし、大いに議論してもらいたいと思う。 

 

 ▼福井新聞「またも米軍ヘリ事故 不平等協定を見直すべき」
 http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/249016 

 だが、何を持って負担軽減というのか。返還と引き換えに東村高江の集落を囲むような複数のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)が建設された。実態は基地機能の強化である。米海兵隊が13年にまとめた報告書「2025戦略展望」は、北部訓練場について「51%の使えない土地を返還し、残りは海兵隊が最大限利用できるよう開発される」と明記している。
 軽減どころか過重負担の現実。翁長雄志知事は「沖縄にとって国難だ」と憤った。普天間飛行場の移設先である名護市辺野古の新基地は要塞化し、新たな事故が起きる可能性がある。基地撤去を求める県民の反発が高まるのは必至だ。
 さらなる問題は日米地位協定の不平等性である。協定関連文書では、米軍の同意がない場合は日本の当局に米軍の「財産」捜索や差し押さえをする権限はないとされ、自衛官らに捜査権はない。翁長知事は地位協定の抜本的な改定を求め、県独自の案を9月に日米両政府に提出した。

(中略)
 地位協定の見直しへ本腰を入れようとしない弱腰外交は衆院選の自民党公約でも分かる。「米国政府と連携して事件・事故防止を徹底し、地位協定はあるべき姿を目指します」とするだけだ。米軍機は日本中の空を飛んでいる。衆院選の課題として各党、真剣に取り組む必要がある。 

 

 以下の北國新聞の社説は他紙と異なった視点でした。

【10月13日付北國新聞】 

 「米軍ヘリ炎上 整備、技量に問題ないか」 

 これまでの米軍機事故で気になるのは、整備不良や訓練不足によるパイロットの操縦ミス、技量不足が原因の多くを占め、背景にオバマ前政権による国防費削減があるとみられることである。
 米政府監査院の高官は9月、横須賀を母港とする第7艦隊所属艦の相次ぐ衝突事故に関して、同艦隊乗組員の約4割が定期訓練を受けていなかったと米議会で証言している。トランプ政権はこうした状況を認識しており、米軍を再構築するため2018会計年度の国防費を前年度より10%増やす予算教書を議会に提示している。その中で、米軍がアフガニスタンなどでの戦争と予算削減で疲弊していることを認め、先送りされてきた装備のメンテナンスや必要な訓練の確保に取り組むとしている。その点でトランプ政権の国防予算増額方針は正しい判断といえ、着実な実行を求めたい。 

 

沖縄の米軍ヘリ炎上と衆院選

 衆院選について、10月12日付の新聞各紙朝刊は一斉に序盤の情勢調査の結果を報じました。各紙とも、自民党は堅調、希望の党は追い風なく伸び悩み、立憲民主党に勢いーなどで概ねそろっています。
 一方で内閣支持率が伸びたわけではなく、そういう意味では、必ずしも安倍晋三政権が高い信任を得ているわけではないようです。5年近くの「アベ政治」が問われる構図に変わりはありません。
 この選挙は「自民・公明」と「希望・維新」、「立憲民主・共産・社民」の3極構造で争われるとされますが、憲法改正や安保法制では希望の党の主張は自民党と近く、選挙後の大連立の可能性も指摘されている中では、自民党の補完勢力と言ってもいいかもしれません。視点をずらせば、「自民党と補完勢力」VS「立憲民主党など非自民勢力」の対決構図です。公約を比較して感じるのは、最大の対決軸は憲法、中でも9条の改悪を許すのかどうかだということです。
 各紙の調査では、投票先をまだ決めていないとの回答も少なくなく、22日の投開票日までは、何かあれば短期間のうちに情勢が一変する可能性もあります。公示直前の野党第1党分裂―新党結成はこれまでの選挙ではなかったことですし、著名な無所属候補も多くいます。そうしたことにも留意しながら、今後の推移を見ていこうと思います。
 以下は、東京発行の6紙の情勢調査の見出しです。毎日新聞、東京新聞は共同通信の配信記事、産経新聞は自社取材に共同配信の配信内容を加味。東京新聞を除いた5紙は1面トップでした。

朝日新聞「自民堅調 希望伸びず/立憲に勢い」
毎日新聞「自公300超うかがう/希望 伸び悩み/立憲に勢い」
読売新聞「自民 単独過半数の勢い/希望 伸び悩み/立憲民主は躍進公算」
日経新聞「与党、300議席に迫る勢い/自民、単独安定多数も/希望、選挙区で苦戦」
産経新聞「自公300議席うかがう/立憲民主 倍増も 希望、伸び悩み」
東京新聞「自公堅調、希望伸び悩み/投票先未定5割超」

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 この朝刊紙面には、もう一つ重要なニュースが載っていました。

 沖縄本島北部で11日夕方、飛行中の米軍普天間飛行場所属のCH53E大型ヘリが訓練中に出火。東村高江の米軍北部訓練場に近い民有の牧草地に不時着して炎上しました。住宅にも近く「あわや」の事故でした。

ryukyushimpo.jp

 沖縄配備の米軍機の事故は頻発しています。昨年12月には普天間飛行場所属の垂直離着陸輸送機オスプレイが浅瀬に不時着し大破(沖縄のメディアは「墜落」と報じています)。今年8月にはオーストラリア沖でオスプレイが墜落し死者も出ました。ほかに大分空港などで緊急着陸も繰り返しています。そのような米軍機が日常的に飛び交っている沖縄では、住民がむき出しの危険にさらされています。沖縄には今現在、人命が危険にさらされているリアルな危機があります。今回の事故は、あらためて沖縄県外にもそのことを告げるものです。

 安倍政権は、事故が起きれば遺憾の意を表明し、時には抗議をしてみせるものの、抜本的な安全確保策である基地機能の縮小・撤去には冷淡です。同じ沖縄県内の名護市辺野古では、沖縄県の翁長雄志知事の反対に耳を貸そうともせず、普天間代替の恒久的な新基地の建設を強行しています。沖縄の基地集中の問題は、沖縄という一地域だけの問題ではなく、日本の安全保障という国家政策の問題です。いつまで沖縄に過剰な負担と危険を強いるのか、衆院選では全国で争点として問われるべきだろうと思います。

 東京発行の一般紙各紙では、この事故の扱いは東京新聞が1面トップ、朝日、毎日も1面なのに対し、読売は社会面、産経は第2社会面と扱いは分かれました。以下に各紙の主な記事の見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
本記・1面「沖縄 米軍ヘリ炎上・大破/高江 小学校から2キロ」
第2社会面「米軍の事故『またか』/ヘリ炎上 住民、不安訴え」/「地位協定の壁 度々」/「再発防止の徹底 米軍に申し入れ 沖縄防衛局」表・国内で起きた米軍機の主な事故やトラブル

▼毎日新聞
本記・1面「沖縄米軍ヘリ不時着、炎上/けが人なし 機内火災、民有地に/北部訓練場付近」
社会面準トップ「『自宅に落ちていたら…』/04年大学墜落機と同型」表・沖縄での主な米軍機事故

▼読売新聞
本記・社会面準トップ「沖縄米軍ヘリ炎上、大破/けが人なし 訓練場外に不時着」/「首相『大変遺憾だ』」

▼日経新聞
本記・社会面準トップ「米軍ヘリが事故、炎上/沖縄の訓練場外 04年墜落と同系機」/「『生きた心地しない』周辺住民」/「事故は大変遺憾 首相」

▼産経新聞
本記・第2社会面「米軍ヘリ 訓練中に出荷/緊急着陸、大破 けが人なし」

▼東京新聞
本記・1面トップ「米軍ヘリ 沖縄で炎上/北部訓練場近く 民間地に着陸/飛行中出火、けが人なし」
2面「自民『辺野古移設進める』 希望・維新『地位協定見直す』 共産『基地ない沖縄』 立憲『移設再検証』/基地問題 衆院選でも争点」表・沖縄での主な米軍機事故
2面「翁長知事『強い憤り』/相次ぐ事故、米に抗議へ」/「真相究明阻む日米地位協定」/「高江ヘリパッド 住民再三抗議 国が建設強行」
社会面準トップ「『近く通過 危なかった』/民家から数百メートル 住民、不安訴え」/「『米軍 早期撤退を』/基地反対団体 憤り」

 

 沖縄の基地集中と衆院選については、以下の過去記事もご覧ください。

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

 

※追記 2017年10月13日7時25分

 10月13日未明にいったんアップした内容を一部加筆・修正しています。