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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

東京都迷惑防止条例改正に残る懸念~マスメディアにも当事者性

 東京都に「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」という条例があります。耳慣れない名前ですが「東京都迷惑防止条例」の方が通りがいいようです。新聞などマスメディアの報道でも、こちらが一般的なようです。その迷惑防止条例の改正案が東京都議会で審議されており、3月22日には警察・消防委員会で、共産を除く賛成多数で可決されました。報道によると、29日の本会議で可決、成立する見通しとのことです。わたしがこの改正案のことを知ったのは最近のことで、自由法曹団東京支部が公表した反対の意見書をたまたまネット上で目にしました。少し調べただけでも、路上でのマスメディアの取材や、労働組合や市民団体の活動が過剰に規制されかねない、表現の自由や自由な取材・報道が侵害されかねないのでは、との懸念がぬぐえないように感じます。その意味ではマスメディアも当事者です。
 この迷惑防止条例は、規制の対象にダフ屋行為や押し売り、不当な客引きなどが並んでいます。今回の改正で自由法曹団などが問題にしているのは「つきまとい行為」に関するものです。
 現行の規定は以下の通りです。

(つきまとい行為等の禁止)
第5条の2 何人も、正当な理由なく、専ら、特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、不安を覚えさせるような行為であつて、次の各号のいずれかに掲げるもの(ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号)第2条第1項に規定するつきまとい等及び同条第3項に規定するストーカー行為を除く。)を反復して行つてはならない。この場合において、第1号及び第2号に掲げる行為については、身体の安全、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下この項において「住居等」という。)の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限るものとする。
(1)つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居等の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。
(2)著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
(3)連続して電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること。
(4)汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。

  要は、「特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情」のために(1)~(4)の行為をしてはならないということです。同じような行為でも、それが恋愛感情に基づくのであればストーカー規制法の対象になります。
 今回の改正案では、(1)に「みだりにうろつくこと」が加わり、(3)には電話、ファクスのほかにSNSや電子メールが加わります。さらに(1)~(4)のほかに「監視していると告げること」「名誉を害する事項を告げること」「性的羞恥心を害する事項を告げること」の三つの形態が加わり、罰則も重くなります。
 マスメディアの取材や、労働組合や市民団体の活動が規制対象になりかねないととりわけ危惧されるのは「みだりにうろつくこと」です。事情を知っている人物に直接会って話を聞くのは取材の鉄則です。面識のない人物でも、自宅に訪ねていくのはごく普通にあることです。不在なら自宅周辺で帰りを待つこともあります。労働組合なら争議の相手と直接交渉するために自宅を訪ねるのも珍しくはありませんし、住民運動でも申し入れの行動では同じような状況はいくらでもあるでしょう。
 条例の「特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情」との規定は、もともと解釈の幅が広いようですが、さらに具体性が必ずしも明確ではない「みだりにうろつくこと」が加わると、現場の警察官の解釈によっては、自由な取材活動や労働三件に基づく労働組合の正当な活動、市民の表現の自由などが不当に制限されることが本当にないのか、疑問です。「監視していると告げること」「名誉を害する事項を告げること」も、必ずしも具体的にどのようなケースが条例違反に問われるのか、よく分かりません。東京新聞によると、22日の委員会審議では、賛成した会派も「条例の拡大解釈を心配する声がある」などとくぎを刺し、乱用防止規定の順守を求める声が相次いだとのことです。

 法曹家からみた問題点、疑問点は自由法曹団の見解に詳しく載っています。
 ※自由法曹団東京支部「東京都迷惑防止条例改正に反対する意見書」=2018年3月
  http://www.jlaf-tokyo.jp/shibu_katsudo/seimei/2018/180312.html

 警視庁のホームページには関連のページがあります。知りませんでしたが、昨年11月にはパブリックコメントを募集し、29人から45件の意見があったようです。パブコメの集約状況や改正案の概要をPDFファイルで見ることができます。
 ここでは警視庁は「つきまとい行為の禁止」を巡る改正について、以下のように説明しています。 

 本条例では現在、平成12年に施行されたストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号)による規制が及ばない「正当な理由なく、専ら、特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的」によるつきまとい等の行為(4類型)を規制している。
 しかしながら、スマートフォン等の普及やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用者増加に伴い、人々のコミュニケーション手段が多様化し、新たなつきまとい行為等を規制する必要性があることから、「正当な理由なく、専ら、特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的」によるつきまとい行為等の行為類型を追加するもの。 

※警視庁「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(略称『迷惑防止条例』)の一部を改正する条例案に関する意見募集結果について」
  http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/higai/meibou_comment.html

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 条例の改正自体もさることながら、軽視できないと思うのは、この改正案のことを報じていないマスメディアが少なくないことです。例えば、22日の都議会警察・消防委員会で改正案が可決されたことを23日付の朝刊で報じたのは、東京発行の新聞6紙のうち朝日新聞、毎日新聞、東京新聞の3紙でした。東京新聞は1面のほか社会面にも関連記事があり、朝日新聞も第3社会面とはいえ比較的長文の記事でしたが、毎日新聞は地域面にとどまりました。むしろ前日夕方のNHKニュースの方が、扱い方としては大きいように感じました。
 朝日新聞や東京新聞の報道によると、警視庁側は委員会の席上でも労働運動や市民運動、取材活動は正当な権利行使に基づくもので対象外と説明したようですが、それでも批判や疑念が上がっており、ましてや表現の自由や取材の自由に関する以上、マスメディアにも当事者性があるテーマであり、きちんと報じるべきだろうと思います。29日の本会議での可決、成立時の報道を注視したいと思います。

内閣支持率の急落と安倍首相の求心力、憲法改正の行方

 森友学園への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざんが大きなニュースとして伝えられる中で、3月17日(土)、18日(日)の週末にマスメディア4社が実施した世論調査の結果をあらためて整理して書きとめておきます。

 安倍晋三内閣の支持率はいずれも急落しました。朝日新聞、毎日新聞、NNNは前回2月調査から12ポイント以上の下落。共同通信は前回調査からは9・4ポイントの下落ですが、前回調査は2週間前の3月3、4日でした。1カ月前の2月調査との比較では12・1ポイントの下落になり、他の3件とほぼ同じ下落幅になります。朝日新聞とNNNは、第2次安倍政権発足以降で最低の支持率とのことです。4社とも不支持が支持を上回って逆転。NNNは不支持が53・0%と過半数です。
 一方で、政党支持率には目立った変化はなく、自民党の支持率も安定しています。その意味では、世論の批判は自民党政権と言うよりは安倍政権と安倍晋三首相に向いているようです。森友学園の問題を巡って、安倍首相が従来の姿勢を変えないままでは、支持率の回復も難しいように思います。
 森友学園の問題を巡る各社の質問と回答状況を見ると、麻生財務相は辞任すべきだとの回答はいずれも50%以上です。実際には麻生氏は3月12日に改ざんを正式に認めた際、改ざんは財務省理財局の一部が行ったことであり、責任者は国税庁長官を辞任した佐川宣寿・前理財局長だと強調。自らの進退は「考えていない」と明言しました。麻生氏は辞任すべきだと考える世論の多数意見との間に、かい離があります。
 もっと顕著なのは、安倍首相の妻昭恵氏に対しての厳しい見方です。国会招致が必要だとの回答はいずれも60%台半ばに達し、必要ないとの回答を大幅に上回っています。しかし、安倍首相はと言えば、国有地売却に自分や妻は関わっていないと従来の主張を繰り返すばかりです。「書き換え前の文書を見ても、私や私の妻が関わっていないということは明らかだろう」という国会答弁がありましたが、朝日新聞の調査では、この答弁に納得できないとの回答は72%にも上っています。安倍氏が妻をかばい続け、妻本人に説明させようとしない姿勢が、安倍氏自身への評価を厳しくしている側面があるように思います。
 安倍氏個人への厳しい見方は、自民党総裁選にも影響しかねない状況を招いているようです。安倍氏が自民党総裁を3期務めることに、朝日新聞、毎日新聞の調査では過半数の人が否定的です。次の自民党総裁はだれがふさわしいかを尋ねた問いでは、共同通信、NNNの調査とも石破茂氏、小泉進次郎氏の順で、安倍氏は3位でした。ただ、共同通信の報道によると、自民党支持層に限れば、現総裁の安倍晋三首相が大差でトップを維持してはいるようです。
 新聞の政治報道では、これらの世論調査の結果を受けて、安倍氏の自民党内での求心力の低下も伝えられています。内閣支持率の早期の回復がない、あるいはさらに支持率が下がるようなことになれば、「安倍1強」の終焉に向かうことになるのかもしれません。そうなれば、安倍氏が悲願とする憲法改正も遠のくでしょう。

 以下に、4件の調査結果の一部を備忘を兼ねて書きとめておきます。

【内閣支持率】 ※カッコ内は前回比、Pはポイント
・朝日新聞 3月17、18日実施
  支持31%(13P減) 不支持48%(11P増)
・毎日新聞 3月17、18日実施
  支持33%(12P減) 不支持47%(15P増) 関心ない19%(1P減)
・共同通信 3月17、18日実施
  支持38・7%(9・4P減) 不支持48・2%(9・2P増)※前回は3月3、4日
・NNN(日本テレビ系列) 3月16~18日実施
  支持30・3%(13・7P減) 不支持53・0%(15・7P増)

 

 森友学園の問題を巡る質問と回答状況は一覧表にもまとめてみました。

  朝日新聞 毎日新聞 共同通信 NNN
麻生財務相は辞任すべきか 辞任すべきだ50% 辞任すべきだ54% 辞任すべきだ52・0% 必要あると思う60・8%
必要ない36% 必要ない32% 必要ない40・4% 思わない28・8%
安倍昭恵氏の国会招致 説明する必要ある65% 招致すべきだ63% 必要だ65・3% 必要と思う65・2%
必要ない27% 必要ない26% 必要ない29・0% 思わない27・3%
文書改ざんの安倍首相の責任 ある82% ある68% ある66・1%  
ない14% ない20% ない25・8%
安倍首相は退陣すべきか     退陣すべきだ43・8%  
必要はない47・6%
「書き換え前の文書を見ても私や私の妻が関わっていないことは明らか」との首相発言 納得できる17%      
納得できない72%      

 

【森友学園問題】
・朝日新聞
「文書改ざん問題で麻生財務相は責任を取って辞任すべきだと思うか」
  辞任すべきだ 50%
  辞任する必要はない 36%
「『改ざんは理財局の一部の職員によって行われた。最終責任者は理財局長の佐川だ』との麻生氏の説明に納得できるか」
  納得できる 13%
  納得できない 75%
「国有地売却の問題を解明するため安倍首相夫人の昭恵さんが国会で説明する必要があると思うか」
  説明する必要がある 65%(前回比8P増)
  その必要はない 27%(同6P減)
「文書改ざん問題で安倍首相にはどの程度責任があると思うか」
  大いに責任がある 42%
  ある程度責任がある 40%
  あまり責任はない 10%
  まったく責任はない 4%
「国有地売却について安倍首相は『書き換え前の文書を見ても、私や私の妻が関わっていないということは明らかだろう』と国会で答弁。この発言に納得できるか」
  納得できる 17%
  納得できない 72%

・毎日新聞
「文書改ざんについて麻生財務相は、佐川前国税庁長官の国会答弁に合わせるためだったと説明。この説明に納得できるか」
  納得できる 13%
  納得できない 76%
「国税庁長官を辞任した佐川氏だけでなく麻生氏も辞任すべきだと思うか」
  辞任すべきだ 54%
  辞任する必要はない 32%
「安倍首相に文書問題の責任があると思うか」
  責任がある 68%
  責任はない 20%
「文書問題の真相を解明するために、森友学園の前理事長夫妻と付き合いがあった安倍首相の妻昭恵氏を国会に招致すべきだと思うか」
  招致すべきだ 63%
  招致する必要はない 26%

・共同通信
「麻生太郎財務相兼副総理が、改ざん問題の責任を取って辞任すべきだと思うか」
  麻生氏は辞任すべきだ 52・0%
  麻生氏が辞任する必要はない 40・4%
「文書改ざん問題で安倍首相に責任があると思うか、思わないか」
  安倍首相に責任があると思う 66・1%
  安倍首相に責任はないと思う 25・8%
「安倍首相は退陣すべきだと思うか、退陣する必要はないと思うか」
  退陣すべきだ     43・8%
  退陣する必要はない  47・6%
「安倍首相の昭恵夫人の国会招致が必要だと思うか、思わないか」
  昭恵夫人の国会招致が必要だ 65・3%
  昭恵夫人の国会招致は必要ない 29・0%
「国税庁長官を辞任した佐川氏の証人喚問が必要だと思うか、思わないか」
  佐川氏の証人喚問が必要だ 83・5%
  佐川氏の証人喚問は必要ない 11・6%

・NNN
「どうして決裁文書の改ざんが行われたと思うか」
  安倍総理ら政治家を忖度した 23・6%
  政治家から何らかの働きかけがあった 40・1%
  当時の佐川理財局長の国会答弁にあわせるため 14・1%
「麻生太郎財務大臣は、この改ざんの責任をとって、大臣を辞任する必要があると思うか、思わないか」
  思う  60・8%
  思わない 28・8%
「立憲民主党など野党は、安倍総理の昭恵夫人を、証人喚問することを求めている。これを必要だと思うか、思わないか」
  思う 65・2%
  思わない 27・3%

【次期自民党総裁】
・朝日新聞
「今年の秋以降も、安倍首相に自民党総裁を続けてほしいと思うか」
  続けてほしい 31%
  続けてほしくない 53%
「次の自民党総裁にふさわしいのは誰だと思うか」
  安倍晋三 24%
  石破茂 22%
  岸田文雄 7%
  野田聖子 5%

・毎日新聞
「安倍首相が3期目も引き続き自民党総裁を務めた方がよいと思うか」
  総裁を続けた方がよい 29%(前回比12P減)
  代わった方がよい 55%(同11P増)

・共同通信
「誰が次の総裁にふさわしいと思うか」(五十音順)
  安倍晋三 21・7%
  石破茂 25・4%
  岸田文雄 6・4%
  小泉進次郎 23・7%
  河野太郎 2・9%
  野田聖子 2・2%

・NNN
「次の自民党総裁にふさわしいのは、誰だと考えるか」
  安倍晋三 14・1%
  石破 茂 24・0%
  岸田文雄 7・0%
  小泉進次郎 21・2%
  河野太郎 3・5%
  野田聖子 4・2%
  
【憲法改正】
・朝日新聞
「安倍首相は憲法9条を改正し、自衛隊の存在を憲法に明記することを提案しています。安倍政権のもとで、こうした憲法の改正をすることに賛成ですか」
  賛成 33%
  反対 51%

・毎日新聞
「憲法9条1項は戦争の放棄、2項は戦力を持たないことを定めています。自衛隊の存在を明記する憲法改正について、あなたの考えはどれに近いですか」
  憲法9条の1項と2項はそのままにして自衛隊に関する条項を追加する 38%(前回比1P増)
  憲法9条の2項を削除して自衛隊を戦力と位置付ける 12%(同2P減)
  自衛隊を憲法に継起する必要はない 18%(同2P減)
「憲法を改正するには国会が改憲案を発議して国民投票にかける必要があります。国会が年内に改憲案を発議した方がよいと思いますか」
  年内に発議した方がよい 39%(同5P増)
  年内に発議する必要はない 42%(同8P減)

・共同通信
「安倍首相の下での憲法改正に賛成か、反対か」
  賛成 36・0%
  反対 51・4%
「憲法9条に自衛隊の存在を明記する安倍首相の憲法改正に賛成か、反対か」
  賛成 39・1%
  反対 47・0%

憲法9条改正が必要との主張を支持している人はどれぐらいいるのか

 3月の世論調査では、各社とも憲法9条改正について尋ねています。自民党の党内論議の大勢が、安倍晋三首相が主張している「9条2項はそのままに、自衛隊を明記」を志向していることからか、世論調査の質問もこの案への賛否を問うものに集約されてきています。しかし、実施時期が1週間異なるとはいえ質問文に「安倍晋三首相」の名が入ったかどうかで賛否が逆転したり、回答を3択にすると「9条を変える必要はない」が最多になったりする状況です。世論の支持が固まっているとはとても言えません。

 安倍首相は自衛隊違憲論をなくすために憲法に自衛隊を明記すると強調していますが、そんなに違憲論が強いのか、自衛隊の存在は社会に受け入れられていないのか。あるいは憲法に明記しても自衛隊の違憲論は残るとの指摘もありますし、仮に国民投票で改憲案が否決されれば、自衛隊は違憲であることがはっきりするのか。要するに、9条を改正する必要性自体、世論の理解と支持が進んでいるとは言い難いように思います。試みに、世論調査でも9条改正の必要性の有無のほか、自衛隊への支持の有無、安倍首相が主張する9条改正案への理解度、首相案への批判を知っているかどうかなども尋ねてみれば、民意の所在が分かるはずです。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 

【憲法改正】
 ▼読売新聞 3月9~11日実施
 ・自民党は、憲法に自衛隊の存在を明記することについて、戦力を持たないことを定めた9条2項を維持したうえで、自衛隊の根拠規定を追加する案を検討しています。この案に、賛成ですか、反対ですか。
賛成 44%
反対 41%

 ▼産経新聞・FNN 3月10、11日実施
・ 憲法9条への自衛隊の明記の仕方について、次に挙げるどの案がよいと思いますか。一つだけ選び、お知らせください。
戦力を保持しないことなどを定めた9条2項を維持して、自衛隊の存在を明記する案  25・2%
9条2項を削除して、自衛隊の役割や目的などを明記する案 30・0%
憲法9条を変える必要はない 39・9%

 ▼共同通信 3月3、4日実施
 ・安倍晋三首相は、憲法9条に自衛隊の存在を明記する憲法改正を行う考えです。あなたは、この憲法9条改正に賛成ですか、反対ですか。
  賛成 39・2%
  反対 48・5%

安倍内閣支持率は下落局面に~「佐川事件」では済まない森友文書改ざん ※追記・内閣支持率30・3%(NNN)、31%(朝日新聞)、33%(毎日新聞)

  3月に入って、安倍晋三内閣支持率の下落傾向がはっきりしています。要因は、森友学園への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざん問題です。16日に報じられた時事通信の調査(9~12日実施)結果では、支持率は前月と比べて9・4ポイント減の39・3%でした。時事通信は「支持が3割台だったのも、不支持が支持を上回ったのも、昨年10月以来5カ月ぶり」と報じています。
※「内閣支持急落39%=不支持5カ月ぶり逆転-森友文書改ざんが打撃・時事世論調査」=2018年3月16日
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2018031600837&g=pol

 時期が重なった読売新聞、産経新聞・FNNの調査でも支持率は6ポイントのマイナスでした。改ざん問題を最初に朝日新聞が報じた直後に共同通信が実施した調査では、2・7ポイントのマイナスでした。
 以下に、改ざん問題の経緯と並べて、まとめて書きとめておきます。

・時事通信 3月9~12日実施
  支持39・3%(9・4P減) 不支持40・4%(8・5P増)
 ※3月12日 麻生太郎財務相が決裁文書書き換えを正式に認める
・読売新聞 3月9~11日実施
  支持48%(6P減) 不支持42%(6P増)
・産経新聞・FNN 3月10、11日実施
  支持45・0%(6・0P減) 不支持43・8%(4・8P増)
 ※3月10日 財務省が決裁文書書き換えを認める方針と共同通信が報道、他メディアも追随
・共同通信 3月3、4日実施
  支持48・1%(2・7P減) 不支持39・0%(2・1P増)
 ※3月2日 森友学園への国有地売却を巡る財務省の決裁文書が書き換えられていたことが分かったと朝日新聞が報道

 ▼麻生財務相「辞任すべきだ」が7割
 世論調査の個別の設問で、森友学園の文書改ざんに触れたものを分かる範囲でピックアップしてみました。国会で「売却は適正だった」「公証記録は廃棄した」と答弁していた佐川宣寿・前財務省理財局長、前国税庁長官に対しては、圧倒多数が国会招致に賛成しています。また、政府や麻生財務相への厳しい見方からは、民意は今回の問題が財務省の官僚だけの問題ではないとみていることがうかがえるように思えます。

【読売新聞】
・学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、財務省内で決裁文書が書き換えられた疑いが指摘されている問題について、政府は、適切に対応していると思いますか、そうは思いませんか。
  適切に対応している 11%
  そうは思わない 80%
 ・森友学園を巡る問題で、国会は、財務省内に存在する文書を「廃棄した」と答弁していた佐川宣寿・前国税庁長官を呼んで、説明を求めるべきだと思いますか、その必要はないと思いますか。
  説明を求めるべきだ 71%
  その必要はない 20%
【産経新聞・FNN】
 ・ 財務省の担当局長として、「売却は適正」、「交渉記録は廃棄した」などの答弁を繰り返した、佐川国税庁長官が辞任しました。佐川氏は、辞任後も、国会に呼ばれれば、国会で説明すべきだと思いますか、思いませんか。
  思う 88・0%
  思わない 8・7%
 ・一連の財務省の対応に関し、麻生財務相の責任をどのようにお考えですか。
  麻生財務相は、即刻辞任すべきだ 17・9%
  決裁文書の書き換えが事実だった場合は、大臣を辞任すべきだ 53・1%
  大臣を辞任する必要はない 26・1%

 ▼「佐川事件」なのか
 麻生財務相は12日の報道陣への対応では、改ざんを主導したのは財務省理財局の一部であると繰り返し、最終的な責任は佐川前長官(前理財局長)と強調しました。自らの進退を問われると即座に「考えていない」と言い切りました。その後の国会審議でも、前長官を呼び捨てにして「この一連の佐川の件」と言っています。自民党も呼応するように、3月15日の参院財政金融委員会では、安倍首相に近い自民党の西田昌司参院議員は「『佐川事件』の真相解明が第一だ」と「佐川事件」と呼んだと報じられています。安倍晋三首相も副総理として政権の屋台骨の1人である麻生財務相は徹底的にかばうつもりなのでしょう。政権や自民党は、全ての責任を佐川・前国税庁長官に押し付けようとしているかのようです。
 世論調査結果からは、佐川前長官への民意の厳しい視線が明らかですが、一方で政府や麻生財務相の責任も同じように厳しくとらえているようです。「佐川事件」と呼んで、すべての責任を佐川前長官に帰結させようとする安倍政権や自民党と民意の間にはかい離があります。そもそも、森友学園への国有地売却を巡る本質的な問題は、安倍首相の妻の昭恵氏が森友学園に肩入れしたことで、国有地売却の手続きがゆがめられたのではないか、という点にあります。そのことを離れて、決裁文書の改ざんだけが問題になるということはあり得ないように思います。改ざんの経緯を解明するためには、あらためて土地売却の経緯を検証していく必要があります。
 仮に、麻生財務相が自らの責任を軽く考え「この佐川の一連の件」などと言い続けた場合に、民意はどのように受け止めるか。今後の世論調査結果を注視しようと思います。

 

※追記1 2018年3月17日19時45分
 3月9~11日実施のNHKの世論調査結果です。
 内閣支持率は43・8%(前月比2・6ポイント減)、不支持率は38・1%(3・8ポイント増)でした。

※追記2 2018年3月17日21時
 MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)とJCJ(日本ジャーナリスト会議)が合同で運営しているサイト「憲法メディアフォーラム」のコラム「今週のひと言」から。
「すべてを明らかにしよう、佐川さん」http://www.kenpou-media.jp/?p=2827

※追記3 2018年3月18日20時10分
 今週末にマスメディア各社が実施した世論調査の結果の速報が18日夕方からネット上で報じられています。
 内閣支持率は毎日新聞調査では33%で、前回2月調査から12ポイント減、共同通信調査は38・7%で2週間前の前回調査から9・4ポイント減、NNN(日本テレビ系列)調査では30・3%で前回2月比13・7ポイント減でした。
 不支持率は毎日47%、共同48・2%と支持を大きく上回り、逆転しました。NNNは53・0%と過半数です。
 毎日の調査は選択肢に「関心がない」があり、その分、他社の調査よりも支持、不支持ともに低く出る傾向があります。「強いて言えば支持(あるいは不支持)」という層が入らないので、支持の実態をより詳しく反映していると見ることができるかもしれません。

mainichi.jp

this.kiji.is

www.news24.jp

※追記4 2018年3月18日22時40分
 朝日新聞の調査結果もアップされました。安倍晋三内閣の支持率は前回2月の44%から31%に急落。第2次安倍内閣では昨年7月の33%を下回って最低とのことです。不支持率は48%。
 タイトルにも朝日新聞調査の数字を入れて改題しました。

www.asahi.com

だれが、だれの利益を守ろうとしたのか~天網恢恢疎にして漏らさず、森友学園公文書改ざん

 急な展開に「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉が頭に浮かびます。大阪の学校法人森友学園へ国有地が大幅に値引きして売却されていた問題のことです。安倍晋三首相の妻昭恵氏の介在の有無が昨年来、焦点になっていました。その中で財務省が3月12日、土地売却に関する決裁文書から「昭恵氏」の名が出てくるくだりを削除するなど、公文書を昨年書き換えていたことを認めました。ばれないと思っていたのでしょうか。この改ざんによって、だれが、だれの、どんな利益を守ろうとしていたのでしょうか。

 ※天網(てんもう)恢恢(かいかい)疎にして漏らさず=《「老子」73章から》天の張る網は、広くて一見目が粗いようであるが、悪人を網の目から漏らすことはない。悪事を行えば必ず捕らえられ、天罰をこうむるということ。(デジタル大辞泉)

 発端は3月2日付の朝日新聞が、決裁文書に書き換えがあったと報道したことでした。財務省は、書き換えがあったともなかったとも認めず、国会では野党はもちろんのこと、与党からも不信の声が上がりました。9日(金)になって、書き換えがあったとされる時期に財務省の理財局長を務め、国会答弁でも森友学園への特別な扱いを否定していた佐川宣寿氏が国税庁長官の職を辞任しました。理由は、国会を混乱させたことの責任を取ったとのことです。麻生太郎財務相は佐川氏の辞職を認める一方で、減給処分にしています。こちらの理由は、行政への信頼を損なった、ということのようです。この日は、近畿財務局でこの土地売却に関わっていた男性職員が、7日に神戸市内の自宅で死亡していたことも明らかになりました。自殺と報じられています。
 10日(土)夜、共同通信が「財務省が決裁文書の書き換えを認める方針」と報じ、各社が追随。週明けの12日(月)に、麻生財務相が記者団の取材に対して、決裁文書に書き換えがあったことを認めました。いまだ調査は終わっていないとしつつ、自らの進退は「考えていない」と言明しました。それで済むのでしょうか。
 この間、新聞各紙は朝日新聞の報道を引用しながら、財務省の対応や与野党の反応を報じ、佐川前理財局長の国税庁長官辞任以後は連日、推移を大きく報じています。
 以下に備忘を兼ねて、東京発行の新聞各紙の10日付朝刊(佐川前理財局長が国税庁長官を辞任)、11日付朝刊(財務省が書き換え認める方針)、12日付朝刊、13日付朝刊(財務省が正式に書き換え認める)の各本記(事実関係を報じる中心的な記事)や1面掲載記事の見出しを書きとめておきます。

【3月10日付朝刊】
・朝日新聞:1面トップ「佐川国税庁長官 辞任/森友問題巡り引責/前理財局長 文書調査結果12日公表」/「政権 かばい続け打撃」
・毎日新聞:1面トップ「佐川長官が辞任/書き換え関与か/『国会審議 混乱招いた』/森友文書/調査結果12日公表」/「佐川氏 特捜が聴取へ」
・読売新聞:1面準トップ「佐川国税長官 辞任/森友問題 国会混乱で引責」
・日経新聞:1面中「佐川国税庁長官 辞任/森友で混乱、政権打撃」
・産経新聞:1面トップ「佐川国税庁長官が辞任/森友答弁・文書疑惑で引責」/「売却関与の職員自殺」/「沈静化図るも政権に打撃」
・東京新聞:1面トップ「佐川国税庁長官 辞任/森友問題 国会混乱で引責/麻生氏『進退考えず』」/「政権、幕引き許されず」

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【3月11日付朝刊】
・朝日新聞:3面「首相『財務省が全力を』/森友文書 解明へ対応委ねる」
・毎日新聞:1面トップ「財務省 書き換え認める/佐川氏が指示/森友文書 答弁に合わせる/あす国会報告」
・読売新聞:1面トップ「森友文書 書き換え認める/財務省 あす調査結果」
・日経新聞:1面「決裁文書は複数存在/『森友』書き換えの疑い濃く/財務省、処分拡大へ」
・産経新聞:1面トップ「森友文書 書き換え認める/あす国会報告 麻生氏 辞任せず/財務省」
・東京新聞:1面トップ「森友文書 書き換え認める/財務省、あす報告/麻生氏 進退に波及も」/解説「行政が国民を欺く行為」

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【3月12日付朝刊】
・朝日新聞:1面準トップ「財務省、複数文書認める/書き換え疑惑 きょう国会報告」
・毎日新聞:1面準トップ「複数職員 書き換え関与/森友文書 財務省きょう報告」
・読売新聞:1面トップ「複数政治家の名 削除/森友14文書 書き換え/財務省主導/内閣支持率下落48% 本社世論調査」/「書き換え前文書 検察が写し提供」
・日経新聞:1面準トップ「書き換え『佐川氏関与』/財務省、森友文書きょう報告」
・産経新聞:1面トップ「森友14文書 書き換え/1つは開示請求後/財務省理財局職員が関与/きょう国会報告/政治家関連記述も削除」/「『内閣全体の責任』野党追及へ」
・東京新聞:1面準トップ「書き換え 財務省本省支持/きょう報告 複数の政治家名削除/森友文書」

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【3月13日付朝刊】
・朝日新聞:1面トップ「財務省 公文書改ざん/森友『特例』経緯 削除/14件 理財局指示 昭恵氏の名前も/『佐川氏答弁に合わせた』説明」/「首相謝罪『責任を痛感』/麻生財務相 与党にも辞任論」
・毎日新聞:1面トップ「森友14文書改ざん/答弁と整合性図る/麻生氏『佐川に責任』/財務省報告」/「麻生氏の辞任否定/首相『国民に深くおわび』」
・読売新聞:1面トップ「森友文書15ページ分削除/理財局指示 佐川答弁に合わせ/首相陳謝 麻生氏続投の考え」
・日経新聞:1面トップ「答弁に合わせ書き換え/森友14文書 首相『責任を痛感』/財務相辞任要求は応じず」
・産経新聞:1面トップ「森友書き換え 理財局指示/14文書200カ所以上/財務省 佐川答弁と整合性図る」/「首相陳謝『麻生氏は職責果たす』」/「虚偽公文書作成罪の可能性」/「『最強官庁』の呆れた隠蔽工作」石橋文登・編集局次長兼政治部長
・東京新聞:1面トップ「森友14文書改ざん/『首相』『昭恵氏』削除/財務省公表『佐川氏に最終責任』/麻生氏の名も」/「民主主義の根幹揺らぐ/『私や妻が関与なら首相も議員も辞める』」/「『昭恵夫人から いい土地だから進めて』」

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 13日付朝刊では各紙の違いが鮮明になったことがあります。財務省の公文書たる決裁文書に手を加えていたことに対して、朝日、毎日、東京の3紙はそろって「改ざん」を見出しに取りました。地方紙に配信記事が掲載されることが多い共同通信も「改ざん」を取っていますので、それにならった地方紙の紙面も多かったのではないかと思います。対して産経新聞、日経新聞は「書き換え」のまま。読売新聞は「削除」を使っています。
 現在のところ、「書き換え」は佐川氏の国会答弁の内容に合わせて行われたと財務省は説明しています。本来は、佐川氏は公文書に即して国会で答弁しなければいけなかったはずです。つじつま合わせのために、公文書の方に手を加えたことは改ざんにほかならないように思います。
 
 最大の焦点は、この改ざんによって、だれが、だれの、どんな利益を守ろうとしていたのかだろうと思います。今後を注視します。

【追記】2018年3月16日8時30分
 3月16日朝の時点で、産経は「改竄(ざん)」の表記に、読売は「書き換え」になっています。NHKも「書き換え」です。「改ざん」=朝日、毎日、産経、東京(共同通信、時事通信も)。「書き換え」=読売、日経、NHK。「改ざん」が多数派です。

3月10日「東京大空襲」の再現紙面~伏せられていた被害の実相

 3月10日は第2次世界大戦末期の1945年、東京の下町地域が未明に米軍のB29爆撃機の大空襲を受け、一夜で10万人以上が犠牲になったとされる東京大空襲から73年の日でした。戦争体験の風化の指摘も目にする中で、東京発行の新聞各紙がどのように報じるのか、毎年紙面を見ています。今年は東京新聞の10日付朝刊の特集記事が目を引きました。
 他紙ではラジオ・テレビ番組欄になっている最終面全面を使い「東京大空襲 10万人死亡」の大きな横見出し。「東京新聞」の題号の下に「1945年3月10日(土)」の日付け。その下に「現在の視点で編集しました」として「この紙面は東京大空襲当日の様子を、現在の視点で取材、編集したものです。当時、被害の実相は隠されていました」との説明が載っています。いわば今日の視点で作った再現紙面です。

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 もう13年も前のことになりますが、わたしも新聞労連の委員長当時、同じような発想の再現紙面を組合員の皆さんと一緒に作りました。当時は日本の敗戦から60年の年。何か新聞労連の記念事業を、と考えた末に「新聞労連なのだから新聞を作ろう」と思い付いたのが「しんけん平和新聞」でした。当時運営していたブログ「ニュース・ワーカー」にも簡単な紹介記事を書いています。

※ニュース・ワーカー「しんけん平和新聞」=2005年8月3日
 https://newsworker.exblog.jp/2422562/

 1面トップは日本のポツダム宣言受諾=無条件降伏でした。日本各地の住民被害の再現記事の一つに1945年3月10日の東京大空襲があり、わたしが担当しました。再現記事を書くためにいろいろ資料を調べ、当時の新聞の縮刷版も目にしました。それが「大本営発表報道」の記事を目にした初めての経験でした。被害の実相を伏せた記事がどんなものだったか、その内容は当時、ブログ記事の中で書きとめています。

※ニュース・ワーカー「東京大空襲と『大本営発表報道』」=2006年3月10日
 https://newsworker.exblog.jp/3637903/

 「しんけん平和新聞」の発想の元の一つは、広島市に本社を置く中国新聞社の労組、中国新聞労組が敗戦50年の1995年に制作した「ヒロシマ新聞」でした。1945年8月6日の広島市への原爆投下で中国新聞社本社も被災し、翌7日付の紙面を発行できませんでした。その空白を50年後、労組が再現新聞という形で埋めました。新聞労連の「しんけん平和新聞」制作にも中国新聞労組は参加し、「ヒロシマ新聞」の中の2ページをバージョンアップして提供しました。
 「しんけん平和新聞」が参考にしたもう一つの例は、当時、琉球新報が続けていた「沖縄戦新聞」の取り組みでした。60年前の1945年の沖縄地上戦を、同じ日付で再現して毎週、再現新聞として紙面化する試みでした。
 わたしの新聞労連委員長2年目の2006年には、「しんけん平和新聞」第2号を発行しました。日本国憲法の施行がテーマでした。以後も毎年1回、10号まで発行は続きました。この新聞を全国の新聞の労組が共同作業として制作し発行することが第1の運動であり、出来上がった新聞を広く読んでもらうことが第2の運動だと位置付けていました。少なくない意義があったのではないかと今も思っています。

 73年前の敗戦まで、日本は戦争をする国でした。その戦争の実相は、大本営発表報道によって国民に知らされていなかったことに十分に留意する必要があります。戦争の実相が社会に広まれば、戦意高揚は望めません。反戦的な言論が自由に社会に流れることも同じです。治安維持法などによって、表現の自由を始めとした市民的な権利が大きく抑圧された社会だったことは、まさに戦争をする社会だったがためのことでした。
 東京新聞が今日の視点で東京大空襲の再現紙面を制作したことは、当時、表現の自由や報道の自由が大きく抑圧されていた社会だったことを思い起こし、戦争をする社会とはどんな社会なのかを考える、そういった意味で意義は大きいと思います。

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※写真は1945年3月10日の東京大空襲を報じた12日付の朝日新聞紙面

「変革はついに1人から始まる」~追悼座談会「ジャーナリズムを生き抜いて~原寿雄さんが遺したもの~」(「放送レポート」271号)

 メディア総合研究所が編集している雑誌「放送レポート」271号(3月1日発行、大月書店刊)に、昨年11月30日に92歳で死去されたジャーナリスト原寿雄さんを追悼する座談会「ジャーナリズムを生き抜いて~原寿雄さんが遺したもの~」が掲載されています。上智大学名誉教授の石川旺さん、元朝日新聞編集委員で専修大学教授の藤森研さんに、わたしも加えていただきました。石川さんと藤森さんは、原さんが共同通信社を離れた後に、原さんの自宅にメディア研究者や記者らが集まって開いていた勉強会「原塾」のメンバー。わたしは、通信社勤務という点のほか、原さんがかつて副委員長を務められた新聞労連でも、後輩に当たります。藤森さんも元新聞労連委員長で、わたしに取っては直接的にアドバイスや激励をいただいていた大先輩です。座談会の司会は「放送レポート」編集長の岩崎貞明さんでした。 

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 原塾ではマスメディアの報道を巡る様々な課題を具体的に論じていたというだけあって、石川さん、藤森さんのお話はいずれも興味深いものでした。例えば、沖縄の琉球新報が、沖縄防衛局長の「犯す前にこれから犯すと言うか」という発言を、オフレコを返上して書いたことを巡って、この発言を書かなかった沖縄タイムスの編集幹部が悩み「原塾に聞くしかない」とわざわざ足を運び、塾の皆さんで議論したこともあったとのことです。原さんの意見は、基本的には書くべきだ、他社にも「うちは書くぞ」と言い、発言した当局側にも「これはあまりにも重要だから書きます」と通告した上で書くべきだ、ということだったと、藤森さんと石川さんが紹介しています。
 わたしが話したのは、昨年12月にこのブログにアップした追悼文に書いた内容が大半です。 

news-worker.hatenablog.com

 座談会では「ペンとパン=ジャーナリスト個人の強さ」の問題や、国籍を超えたャーナリズム、憲法9条を持つ国ならでの「9条ジャーナリズム」など、原さんが一貫して主張していたジャーナリズムとジャーナリストのありようについて、3人それぞれに語りました。その中で、ここでは原さんの二つの言葉を紹介します。
 一つは「変革は一人から始まる」。藤森さんが、原さんのもっとも印象に残る言葉として挙げました。「原さんは芯は温かい人だから、多くの人が寄ってくる。しかし『衆を頼まない』=自立ということをご自分にも課していた。それが、変革はついに一人から始まるという、一種の『覚悟』でもあったのだと思います。そして、自律し、自立したジャーナリストたちが、いい連帯をする。その考え方は、あるべき市民社会への形へもつながっていく考え方だったと思います」と藤森さんは話しています。
 もう一つは「ジャーナリズムはマンネリズムにどう対抗していくか」。課題として原さんが常々指摘していたと、石川さんが紹介しました。マンネリズムは政治の中にある手法で、例えば「安保法制反対」「共謀罪」反対と言っていても、時間がたつと問題点は忘れられていきます。「時間の経過による定着が、政治手法として用いられている。その間に『違うことに目を向けさせる』という機能をジャーナリズムが持ってしまっている。他の問題を取り上げて報道を過熱させることにより、まだ続いている問題への関心が薄れる、というような問題にどう向かい合うのか。原さんはそれを『マンネリズムへの対抗』とスパッと要約されたと、石川さんは紹介しました。
 わたしからは、組織論になりますが「全員がモノを言え」との原さんの言葉を紹介しました。「全員が自分の考えを発言していれば、ジャーナリズム組織はそうおかしなことにはならないはずだ」ということです。ブログの追悼文でも紹介しています。わたしがかつて身を置いた労働組合にも「意見の食い違いを恐れない。意見が出ないことを恐れる」との合い言葉がありました。原さんの薫陶は、そうした形でも残っているのだと思っています。
 これまでわたしたちの世代は、組織ジャーナリズムのありようについて、原さんから様々に教えを受けてきました。それらのことを、これからは時代に合わせて、ジャーナリズムを巡る環境に合わせて、わたしたちが実践し、後続の世代に受け継いでいかなければなりません。何よりも、ジャーナリズムとは国益に奉仕するものではない。市民、社会の人々の知る権利に奉仕し、戦争を防ぐためにあらねばなりません。絶望せず、悲観せず、しかし着実に。そのことをあらためて胸に刻んだ座談会でした。
 「放送レポート」は現在、部数は少ないようですがアマゾンでも扱っているようです。 

放送レポート 3月号(no.271)

放送レポート 3月号(no.271)

 

 

【お知らせ】

 3月10日に原さんをしのんで、公開シンポジウムが開かれます。

お知らせ:3月10日に東京で追悼の公開シンポジウム「原寿雄さんと現代のジャーナリズムを語る会」 - ニュース・ワーカー2

 

【追記】2018年2月25日20時10分

 改題しました。当初の「追悼座談会『ジャーナリズムを生き抜いて~原寿雄さんが遺したもの~』(『放送レポート』271号)」はそのまま副題としました。

お知らせ:3月10日に東京で追悼の公開シンポジウム「原寿雄さんと現代のジャーナリズムを語る会」

 お知らせです。
 昨年11月30日に死去されたジャーナリスト原寿雄さんの追悼の公開シンポジウム「原寿雄さんと現代のジャーナリズムを語る会」が3月10日午後1時30分から4時まで、東京都千代田区内幸町2丁目の日本プレスセンター10階ホールで開かれます。参加費は千円、学生は無料です。申し込み不要(先着200人まで)。
 パネリストは共同通信論説委員長の杉田弘毅さん、ジャーナリストの青木理さん、東京大学大学院情報学環教授の林香里さん、武蔵野大学法学部客員教授の小俣一平さん。コーディネーターは専修大学教授の藤森研さん。実行委員会の主催。問い合わせはメディア総合研究所、電話03(3226)0621

 

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【お知らせ】
 メディア総合研究所が編集している雑誌「放送レポート」271号(3月1日発行、大月書店刊)に、原さんの追悼座談会が掲載されています。わたしも参加させていただきました。

news-worker.hatenablog.com

9条2項維持・自衛隊明記の安倍首相案、賛否割れる(朝日調査)

 備忘です。朝日新聞が2月17、18日に実施した世論調査の結果が報じられています。憲法9条の改正論議に関連しては、他社の調査とは違って、安倍晋三首相が志向する、9条2項を維持した上で自衛隊を明記する案についてのみ、改正の必要の有無を尋ねています。結果は、改正の必要がある40%、必要ない44%と割れました。
 森友学園への国有地売却問題に絡んで、佐川宣寿・国税庁長官の国会招致が必要かどうかの問いには、必要との回答が67%、必要ないは19%と、大きな差が出ました。安倍晋三内閣の支持率は44%とほぼ横ばい、不支持率は37%でした。
 以下に、質問と回答の一部を書きとめておきます。

・大阪の学校法人「森友学園」への国有地売却の問題について、うかがいます。財務省は昨年、売却の交渉記録について「廃棄した」と国会で説明していましたが、関係する文書が見つかったとして、今月、公表しました。あなたは、こうした政府の一連の対応に納得できますか。納得できませんか。
 納得できる 10%
 納得できない 75%

・昨年の国会では、当時、財務省の局長で、今は国税庁長官を務める佐川宣寿さんが、交渉記録について「廃棄した」と説明しました。あなたは、佐川さんを国会に呼んで説明を求める必要があると思いますか。その必要はないと思いますか。
 国会に呼んで説明を求める必要がある 67%
 その必要はない 19%

・あなたは、森友学園への国有地売却の問題を解明するため、安倍首相夫人の昭恵さんが国会で説明する必要があると思いますか。その必要はないと思いますか。
 説明する必要がある 57%
 その必要はない 33%

・憲法についてうかがいます。憲法の改正は、国会が改正案を国民に提案する発議をした後、国民投票で決まります。この国会による発議を年内にしようとする動きがあります。あなたは年内の発議に賛成ですか。反対ですか。
 賛成 34%
 反対 43%

・安倍首相は、憲法9条について、戦争を放棄することや戦力を持たないことを定めた項目はそのままにして、自衛隊の存在を明記する項目を追加することを提案しています。あなたは、このような憲法9条の改正をする必要があると思いますか。その必要はないと思いますか。
 改正をする必要がある 40%
 その必要はない 44%

佐川宣寿氏の国会招致を求める民意

 世論調査結果で、前記事に続いてもう1件です。
 森友学園への国有地売却問題に関連して、佐川宣寿・前財務省理財局長(現国税庁長官)の昨年の国会での答弁に、虚偽だったのではないかとの指摘が強まっています。そのことに関連しては産経新聞・FNNとNHKが聞いています。
▼産経新聞・FNN
 学校法人「森友学園」への国有地の売却問題をめぐり、財務省の担当局長として、「売却は適正」、「交渉記録は廃棄した」などの答弁を繰り返した、佐川国税庁長官は、国会で説明すべきだと思いますか、思いませんか。
 思う 85・7%
 思わない 11・1%

▼NHK
 佐川長官の証人喚問が必要だと思うか(※質問の詳細は不明)
 「必要だ」 49%
 「必要ではない」 14%
 「どちらともいえない」 27%

 前回の読売新聞、共同通信の各調査でも、佐川氏の国会招致が必要とする回答が大きく上回っています。安倍晋三政権は佐川氏をかばうかのような答弁を続けていますが、世論はまったく納得していないことは明らかです。ただ、内閣支持率が下がらず安定していることから、安倍政権側には危機感はなく、国会で与党が佐川氏の国会招致に応じる可能性は今のところはないようです。

 渦中の佐川氏は、国税庁長官就任時の恒例になっていた記者会見も行わず、マスメディアの取材からは逃げ回っています。確定申告が始まった2月16日には、佐川氏の罷免を求めて、市民団体「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」が主催するデモが東京・国税庁周辺であり、東京新聞によると主催者発表で1100人が参加し、発起人の醍醐聡東大名誉教授(会計学)は「(佐川氏は)安倍さんにとっては『適材適所』かもしれないが、国民を裏切った長官。一日も早く辞めるべきだ」と声を上げました。関係者によるとデモは札幌、名古屋、福岡など十一都市の国税局や税務署前でもあったとのことです。

www.tokyo-np.co.jp

 選挙権がない定住外国人の方でも納税しています。ある意味、私たちの社会の中で納税は選挙権よりも重要と言える側面があるように思うのですが、その徴税の任に当たるトップがこんな体たらくでマスメディアの前にも姿を見せない、そんな人物でいいのか。批判は当然だろうと感じます。

 

※こんな記事も目に止まりました。
「雲隠れの佐川・国税庁長官を発見 まるで逃亡犯のような行動」

www.news-postseven.com