ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「公約貫く重い判断」(沖縄タイムス)、「遺志を実行に移したことを評価」(琉球新報)~辺野古埋め立て承認撤回の報道の記録

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設計画に対して沖縄県は8月31日、日米両政府が移設先として合意している沖縄県名護市辺野古の埋め立て承認を撤回しました。8月8日に死去した翁長雄志前知事が承認撤回の方針を明言していました。日本政府は辺野古地区への新基地建設の法的根拠を失い、建設工事はただちに中断することになりました。いずれ、日本政府は撤回の執行停止などを裁判所に申し立てる方針と報じられており、9月30日投開票の県知事選とともに、推移を注視していきたいと思います。
 この沖縄県の埋め立て承認撤回について、沖縄の地元紙である沖縄タイムス、琉球新報がどう受け止めているか、9月1日付の両紙の社説の一部を引用します。両紙とも撤回を評価し、日本政府に対して辺野古への新基地建設を断念するよう求めています。

※沖縄タイムス:社説「[『辺野古』承認撤回]工事強行の瑕疵明白だ」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/307645

 翁長氏が撤回表明してから1カ月余り。翁長氏の公約を貫く重い判断である。
 (中略)
 撤回によって工事は法的根拠を失い、即時中断した。
 ただ、国は対抗措置として撤回の取り消しを求める訴訟や撤回の効力の一時停止を求める申し立てなどを取る方針だ。再び法廷闘争に入るとみられる。
 県と国の対立がここまで深まったのはなぜか。
 ずさんな生活・自然環境の保全策。選挙で示された沖縄の民意無視。「辺野古が唯一の解決策」と言いながら、果たされぬ説明責任…。県外から機動隊を導入するなど強行姿勢一辺倒の安倍政権のやり方が招いた結果である。
 安倍政権は県が撤回せざるを得なかったことを謙虚に受け止めるべきだ。
 小野寺五典防衛相は「法的措置を取る」と明言しているが、裁判に訴えるのではなく、県の撤回を尊重し、工事を断念すべきである。

※琉球新報:社説「県が辺野古承認撤回 法的対抗措置やめ断念を」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-794750.html

 政府が工事中断に伴う損害賠償の可能性をちらつかせる中で、謝花喜一郎、富川盛武両副知事ら県首脳が故・翁長雄志知事の遺志を実行に移したことを評価したい。
 (中略)
 県民の間に強い反対がある中で新基地建設を強行するのは政府に対する不信感を増幅させるだけだ。沖縄に矛先を向けるのではなく、米国政府と真正面から向き合って、県内移設を伴わない普天間飛行場の返還を提起すべきだ。
 承認撤回を受け、政府は法的対抗措置を取ることを明らかにした。国、県の対立がまたしても法廷に持ち込まれる。
 強い者にへつらい、弱い者に強権を振りかざす。今の日本政府は時代劇でお目にかかる「悪代官」のように映る。
 政府首脳はこれまでの対応を省みて恥ずべき点がなかったのか、胸に手を当ててよく考えてほしい。対抗措置をやめ、新基地建設を断念することこそ取るべき選択だ。

 また、埋め立て承認撤回を東京発行の新聞各紙が9月1日付朝刊でどのように報じたか、扱いや主な見出しを書きとめておきます。
 1面トップで扱ったのは毎日新聞と東京新聞でした。両紙とも総合面のほか社会面にも記事を掲載しています。ともに以前からこの問題では日本政府・安倍晋三政権の方針に批判的な論調です。
 朝日、読売、産経の各紙も1面です。毎日、東京と同じく安倍政権に批判的な朝日は、写真や地図、図表もなく、見た目に地味だと感じました。安倍政権の方針支持が明確な読売、産経と比べても控え目な扱いが目立つように思います。日経新聞は1面の掲載はなく、総合面の扱いでした。

f:id:news-worker:20180902203710j:plain

▼朝日新聞
1面準トップ「辺野古埋め立て承認撤回/沖縄県 国、法的対抗措置の方針」
2面・時時刻刻「辺野古 知事選控え神経戦」「オール沖縄勢力 移設反対の機運に弾み/「政権 悪影響懸念 工事再開に慎重」「民意示す手段 市民模索/県民投票や条例 現状変える一歩」写真、図表
社説「辺野古工事 全ての自治体の問題だ」

▼毎日新聞
1面トップ「県 辺野古承認を撤回/埋め立て 翁長氏方針通り/政府 法的措置へ」写真、地図
3面・クローズアップ「知事選にらみ日程攻防/オール沖縄歓迎」「工事延期 政府、渡りに船」図表
社会面「県、翁長氏の遺志継ぐ/『国に勝てぬ』冷めた声も」写真

▼読売新聞
1面・中「辺野古承認 県が撤回/工事中断 国、法的措置で対抗へ」地図
2面「辺野古撤回 知事選を意識/政府、移設問題過熱を懸念」写真、図表

▼日経新聞
4面「辺野古埋め立て承認撤回/県『翁長氏 強い意志』/移設工事中断 政府は対抗措置へ」/「米軍普天間基地の辺野古移設」※用語説明

▼産経新聞
1面準トップ「沖縄県、辺野古承認を撤回/政府は法的措置で対抗」図表、地図
2面「辺野古撤回 隠せぬ政治性/沖縄知事選 県側、玉城氏に期待」
社説(「主張」)「辺野古埋め立て 知事選目当ての『撤回』だ」

▼東京新聞
1面トップ「沖縄県が承認撤回/辺野古埋め立て中断/知事選控え国と対決/防衛省は法的対抗措置へ」
3面「知事選争点 新基地際立つ/玉城氏『強く尊重』」
社会面トップ「沖縄だけの問題じゃない/沖縄 翁長氏の遺志継ぐ」(琉球新報)「首都圏・市民団体 『移設強行は自治破壊』」

 このブログで繰り返し触れているように、沖縄の基地集中は日本の安全保障政策の問題であって、沖縄一地域の問題ではありません。日本全体の問題です。そして、地域の民意は反対が明らかなのに、それが無視されて国家的政策が強行されていくようなことがほかの地域では起こっていないのだとしたら、辺野古の工事強行は沖縄に対する差別としか言いようがありません。
 沖縄の基地集中の問題は、沖縄県外、日本本土に住む日本国の主権者がどう考えるかによって変わりうるだろうと思います。そのためにはまず、沖縄で何が起こっているかが沖縄県外、日本本土でも広く知られなければなりません。その意味で、日本本土のマスメディアが何をどう伝えるかには大きな意味があります。9月30日の沖縄県知事選へ、さまざまな動きが続くと思われます。日本本土での報道も注視しています。

辺野古移設、否定意見が肯定上回る~世論調査3件に共通

 8月最終の週末に実施された4件の世論調査の結果が報じられています。
 目を引くのは沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設問題です。日米両政府が合意し、安倍晋三政権が進めている沖縄県内、名護市辺野古への移設についての賛否を共同通信、産経新聞・FNN、読売新聞の3件の調査が尋ねています。質問の文章は異なっているのですが、いずれも安倍政権の方針に否定的な回答が肯定的な回答を上回っています。辺野古移設に反対し、沖縄県知事として安倍政権と対峙した翁長雄志氏の訃報が沖縄県外でも大きく報じられたことが、世論調査にも関係しているのかもしれません。いずれにしても、このまま辺野古に新基地建設を強行しても、民意の多数の支持は得られないようです。
 沖縄では、9月に行われる知事選に、翁長氏の後継として出馬することを自由党の玉城デニー衆院議員が8月29日に表明しました。玉城氏は出馬表明の会見で、辺野古新基地建設について「絶対に避けて通れない争点だ。翁長雄志知事は『あらゆる手段を尽くして辺野古新基地建設を止める』と言っていた。しっかり私も受け継いでいく。その方向性は1ミリもぶれることはない」(琉球新報)と述べたと報じられています。
 自民党、公明党の国政与党側の候補として既に出馬を表明している前宜野湾市長の佐喜真淳氏は、宜野湾市長選では辺野古移設の是非には触れず、普天間飛行場の早期返還を訴えて市長になった経緯があります。共同通信の世論調査の記事によると、辺野古移設方針と支持政党との関係では、自民党支持層の62・2%が移設を支持するとしたのに対し、公明党は40・9%にとどまりました。公明党は沖縄の地元組織は移設に反対しています。知事選では佐喜真氏がどういう公約を掲げるのか。注視したいと思います。

 ※琉球新報「玉城氏が知事選出馬を正式表明 『翁長氏の遺志継ぐ』」2018年8月30日
 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-793407.html

 憲法改正を巡っては、安倍首相は自民党の改憲案提出に前のめりですが、世論調査では急ぐ必要はないとの考えが多数派であることがうかがえます。その一方で、自衛隊の存在を明記するかどうかが焦点の9条の改正問題では、改正自体必要ないとの回答も3割以上あります。質問の尋ね方が変われば回答状況も大きく変わる余地もありそうです。
 2020年の東京五輪の猛暑対策として政府が検討に着手したとされるサマータイムに対しては、4件の調査とも、反対が賛成を上回りました。
 以下に、主な調査の結果を引用して書きとめておきます。

▼内閣支持率 ※()は前回比、Pは「ポイント」
・共同通信 8月25、26日実施
 「支持」44・2%(0・8P増) 「不支持」42・4%(0・6P増)
・産経新聞・FNN 8月25、26日実施
 「支持」45・6%(3・5P増) 44・4%「不支持」(2・9P減)
・日経新聞・テレビ東京 8月24~26日実施
 「支持」48%(3P増) 「不支持」42%(5P減)
・読売新聞 8月24~26日実施
 「支持」50%(5P増) 「不支持」40%(5P減)

▼サマータイム導入
・共同通信 賛成30・8% 反対61・6%
・産経・FNN 賛成37・0% 反対57・5%
・日経・テレビ東京 賛成31% 反対55%
・読売新聞 賛成40% 反対50%

▼自民党の憲法改正案
・共同通信
 「自民党としての憲法改正案を次の国会に提出できるよう取りまとめを加速すべきだ」との安倍首相の意向について
 賛成 36・7% 反対 49・0%

・日経・テレビ東京
 秋の臨時国会に提出すべきだ 17%
 提出を急ぐべきではない 73%

・読売新聞
 自民党が憲法改正案を提出する時期は、いつがよいと思うか(一つ選ぶ)
  今年秋の臨時国会 18%
  来年前半 12%
  来年後半 11%
  再来年以降 14%
  改正案を提出する必要はない 31%

▼憲法9条改正
・共同通信
 憲法9条の改正について安倍首相は、戦力を持たないことを定めた9条の2項を維持したまま自衛隊を明記する考え。一方、自民党

内には9条の2項を削除して自衛隊を戦力と位置付ける考えも。
 9条2項を維持したまま、自衛隊を明記すべきだ 40・0%
 9条2項を削除した上で、自衛隊を戦力と位置付けるべきだ 17・8%
 自衛隊の存在を明記する憲法改正は必要ない 30・9%

・産経・FNN
 2項を維持したまま自衛隊を明記する安倍首相案を支持 21・9%
 2項の削除と国防軍の創設を持論とする石破氏案を支持 22・2%
 両案と異なる9条改正 12・1%
 9条改正は必要ない 38・1%
 
・読売新聞
 自民党は、憲法に自衛隊の存在を明記することについて、戦力を持たないことを定めた9条2項を維持したうえで、自衛隊の根拠規

定を追加する案を検討。この案に
 賛成 45% 反対 38%

▼辺野古
 沖縄県の米軍普天間飛行場を同県名護市辺野古へ移設する政府・安倍内閣の方針について
・共同通信
 支持する 40・3%
 支持しない 44・3%

・産経・FNN
 県外移設を目指すべきだ 48・4%
 政府が進める「危険性除去のため早期の辺野古移設」を支持 44・0%

・読売新聞
 評価する 35%
 評価しない 48%

「薩長で新しい時代を」と口にする安倍首相の歴史観~「明治維新150年」は「戊辰150年」でもある 【追記】福島民友新聞の社説「新時代は総力でつくらねば」

 安倍晋三首相が8月26日、視察先の鹿児島県垂水市で記者団に対し、9月の自民党総裁選に3選を目指して出馬することを表明しました。東京での記者会見ではなく視察先で、しかも桜島をバックに視覚的な演出もうかがわれるやり方での出馬表明は異例のこととして、マスメディアの報道でもさまざまに解説されています。
 わたしが気になったのは、鹿児島の地で山口県出身の安倍首相が「薩長」という言葉を使ったことです。江戸時代の末期、鹿児島の薩摩藩と山口の長州藩は政治的、軍事的同盟を結びます。大政奉還で徳川幕府体制が終焉した後は、明治の新政府では重要な役職に両藩出身者が多く就き、「藩閥政治」とも呼ばれました。報道によると、安倍首相は出馬表明の前に行った講演で、薩摩の西郷隆盛を主人公にしたNHKの大河ドラマにも触れながら、自らをかつての「長州」になぞらえてか「ちょうど今晩のNHK大河ドラマ『西郷どん』(のテーマ)は『薩長同盟』だ。しっかり薩長で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」(産経新聞)と述べたとのことです。
 自民党の総裁選は党所属の国会議員の票と地方組織の票の合計で争われ、安倍首相との一騎打ちになりそうな石破茂氏は地方組織票に強いとの評があります。安倍首相の東京を離れての出馬表明は、地方組織票を狙い、地方重視をアピールするためとの見方が報道では有力です。その通りだとすれば、かつての薩摩と長州の同盟になぞらえて「薩長で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」と述べたのは、鹿児島の自民党組織を意識したリップサービスなのでしょう。しかしわたしは、仮にも現職の首相である政治家が「薩長」をそのような文脈で口にすることに、どうにも政治家としての資質の底の浅さを感じずにはいられません。
 ことしは1868年の明治維新から150年です。明治維新を近代国家日本の歩みの始まりとして肯定的にとらえる見方もあるでしょう。ただ、全ての人がそうした見方で一致するとは限りません。明治維新は戊辰戦争という内戦と表裏一体でした。東北や越後では諸藩が薩長両藩や土佐藩、肥前藩などからなる新政府軍に対抗して奥羽越列藩同盟を結び、各地で激しい戦火を交えました。新政府軍は官軍、それに歯向かうのは賊軍です。激しい戦闘があった場所の一つ、福島県の会津若松市ではことし、「戊辰150年」として記念事業を行っています。そういう地域もあるのに「薩長で新たな時代を切り開く」という物言いは、日本全体に責任を負う首相の発言としては少なからず違和感を覚えます。もちろん、歴史をどう受け止めるかは個々人の自由です。しかし、日本国の全体に責任を負う国会議員、ましてや首相ともなれば、おのずとわきまえるべき一線があるはずです。
 先に「資質の底の浅さ」と書きましたが、言葉の選び方一つにも隅々に気を使うような細やかさを欠いている、と言ってもいいと思います。政治家の資質には歴史観や大局観が問われ ます。今日「薩長で新たな時代を」と口にするような歴史観で、例えば沖縄の基地集中の問題をどのように考えているのか。薩長主導の明治政府による「琉球処分」に始まる沖縄の現代史をどのように理解しているのか。沖縄県知事として沖縄の民意を背負って故翁長雄志氏が発した「魂の飢餓感」という言葉を、どういう風に解釈しているのか-。そうしたことも聞いてみたい気がします。
 政治家がどんな言葉を使って何を語るかは、社会で共有すべき情報です。選挙に際して、有権者が一票を行使する際の重要な判断材料になるからです。
 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の中で、安倍首相の「薩長」発言を27日付朝刊で紹介したのは朝日、毎日、読売、産経の4紙でした。いずれも出馬表明の背景などを深掘りした、総合面の読み物記事の中です。各紙の関係部分を引用して書きとめておきます。

▼朝日新聞2面「遅れた表明 論戦避ける狙い?/桜島背景に 地方・若者を意識」 

 26日午後、快晴の鹿児島県垂水市。錦江湾越しに見える雄大な桜島を背景に、首相は総裁選への立候補を正式に表明した。「あと3年、自民党総裁として、首相として日本のかじ取りを担う決意だ。来月の総裁選挙に出馬します」
 総裁選への立候補表明を、地方視察にあわせるのは異例だ。カメラ目線で語る出馬表明をNHKが生中継した。山口が地盤の首相は放映中の大河ドラマ「西郷どん」を意識。直前には鹿児島選出議員が開いた会合の演説で「今晩は西郷どん。薩長で力を合わせて、新たな時代を切り開いていきたい」と語った。若者向けにPRできる「インスタ映え」の意識もにじむ。

▼毎日新聞3面「首相 政策論争避け/石破氏 党員票に逆転託す/安倍氏 支持率受け手堅く」

 首相は26日、宮崎県から鹿児島県に移動し、垂水市の海潟漁港で「気力、体力、十二分であるとの確信に至った」と総裁選への立候補を表明した。この日を選んだのは2012年12月26日の第2次安倍内閣発足から5年8カ月の節目の意味があり、桜島を背景に地方重視の姿勢も演出。直前の鹿屋市での講演では「今晩はNHKの『西郷どん』。(首相の出身地の山口県と)薩長で力を合わせて新たな時代を切り開いていきたい」とサービスした。

▼読売新聞3面・スキャナー「首相、地方重視の姿勢/桜島背に表明 党員票固め」 

 ■薩長同盟
 「平成の時代に向けて、新たな国造りを進めていく先頭に立つ決意だ」
 26日午後、首相は鹿児島のシンボル・桜島を背景に自民党総裁の連続3選に挑む意欲をこう語った。
 2012年総裁選は党本部、15年は東京都内で立候補を表明した。地方での表明は異例だ。あえて地方の場を選んだのは、今回から国会議員票と同数になり、比重が大きくなった党員票を意識してのことだ。
 鹿児島の特産品「大島つむぎ」のネクタイを着用した首相は、「美しい伝統ある古里を(次世代に)引き渡す」と地方重視の姿勢を強調し、地方活性化を掲げる石破茂・元幹事長への対抗心をあらわにした。
 演出にもこだわった。鹿児島の旧薩摩藩と、首相の地元・山口の旧長州藩との「薩長同盟」が明治維新の原動力となったことと、自身の改革姿勢を重ねる狙いがあった。首相は出馬表明に先立つこの日の講演で、「薩長で力を合わせて新たな時代を切りひらきたい」と力を込めた。

▼産経新聞5面「『薩長同盟』を演出/石原派取りまとめ 森山氏に返礼」
http://www.sankei.com/politics/news/180826/plt1808260018-n1.html 

 9月の自民党総裁選で連続3選を目指す安倍晋三首相(党総裁)が、正式な出馬表明の舞台に選んだのは、森山裕国対委員長の地元の鹿児島県だった。森山氏は先の通常国会対応で尽力し、「反安倍」に傾きそうだった石原派(近未来政治研究会、12人)を首相支持でまとめた。山口県選出の首相は森山氏への返礼の意味も込めて「平成の薩長同盟」を演出したともいえる。(今仲信博)
 「ちょうど今晩のNHK大河ドラマ『西郷どん』(のテーマ)は『薩長同盟』だ。しっかり薩長で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」
 首相は26日、鹿児島県鹿屋市で開かれた森山氏の後援会合に出席し、新時代の「薩長」の絆を大切にする考えを強調した。
 首相は、7月に鹿児島入りする予定だったが、西日本豪雨の対応で延期していた。今回は訪問の約束を守るだけでなく、鹿児島のシンボル・桜島の雄大な景色をバックに出馬表明まで行った。
 (中略)
 もっとも、森山氏の厚遇は、党内でくすぶる「反安倍」勢力への見えざるメッセージという面もある。
 首相は25日に宮崎県に入り、地元首長や県議らと会食した。宮崎は石破茂元幹事長が率いる石破派(水月会、20人)の古川禎久事務総長の地元でもあり、宮崎入りは党員票を意識した石破陣営への牽制(けんせい)でもある。
 首相が言う「平成の薩長同盟」には、硬軟織り交ぜて「反安倍」の芽をつぶす狙いも込められている。 

 時事通信は出稿記事の中で「会津藩」にも触れました。見識だと思います。

※時事ドットコム「『薩摩・長州で新時代』=安倍首相」2018年8月26日
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2018082600374&g=pol

 安倍晋三首相は、自民党総裁選への出馬を表明する舞台に鹿児島県を選んだ。首相の地元の山口との「薩長同盟」が明治維新の契機となったことにちなんだとみられる。出馬表明に先立つ26日午後、鹿児島県鹿屋市の会合で講演した首相は「しっかり薩摩藩、長州藩で力を合わせて新たな時代を切り開いていきたい」と力を込めた。
 ただ、薩長が中心の新政府軍が戊辰戦争で会津藩などを攻め立てた歴史があり、旧幕府軍側だった地域で反発が出る可能性もある。

 時事通信は立憲民主党の枝野幸男代表の反応も出稿しています。

※時事ドットコム「枝野立憲代表、安倍首相の薩長発言批判=『国民分断は間違い』」2018年8月27日
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2018082700854&g=pol

 枝野氏は「わが党には鹿児島選出もいる一方で、(薩長と対抗した)福島の人間も、奥羽越列藩同盟の地域だった人間もいる。わが国を分断するような、国全体のリーダーとしては間違った言い方だ」と断じた。

 

【追記】2018年8月29日6時50分
 福島県の地方紙、福島民友新聞が28日付の社説で安倍首相の「薩長」発言を取り上げています。

※福島民友新聞「【8月28日付社説】首相『薩長発言』/新時代は総力でつくらねば」
 http://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20180828-301599.php 

 首相は山口県が地元。幕末の薩長同盟を念頭に、講演を盛り上げるために言及したとみられる。また、薩長同盟が明治維新の道を開いたことと、自らの改革姿勢を重ねたのではとの見方もある。
 150年の節目に「新たな国造り」を強調しようという考えは分からないわけではない。しかし、戊辰戦争で薩長を中心とする新政府軍が会津藩など旧幕府軍を打ち負かした歴史に思いをはせれば、節目の年だからこそ発言に配慮があってしかるべきだっただろう。
 首相は1月の施政方針演説で、会津出身で明治時代の教育者・山川健次郎の「国の力は、人に在り」を引用して、「あらゆる日本人にチャンスを作ることで、少子高齢化も克服できる」と述べた。
 しかし、首相が掲げる地方創生は人口減少の抑制がかなわず、東京一極集中は一段と進んでいる。圧勝ともいわれる総裁選であればこそなおそれぞれの地方の良さを引き出し、国を挙げて国造りに取り組むことができる戦略や政策を示し、石破氏と「骨太の議論」を戦わせてほしい。

 

【追記】2018年8月29日21時30分
 立憲民主党の枝野幸男代表は、自身のツイッターでも考えをまとめて述べています。

twitter.com

twitter.com

「唐突感は否めない」(佐賀新聞)、オスプレイ受け入れ佐賀県知事が表明

 陸上自衛隊が導入する米国製の輸送機V22オスプレイの佐賀空港配備計画について、佐賀県の山口祥義知事が8月24日会見し、受け入れを表明しました。会見に先立ち同日、小野寺五典防衛相と会談し、国が20年間で100億円の使用料を支払い、県がこれを元に漁業振興基金などを創設するなどの使用条件で合意しました。佐賀空港は有明海に接しており、オスプレイ配備に際しては空港隣接地を国が取得してオスプレイ部隊の駐屯地を建設する計画で、県は予定地を所有する漁協と協議に入ると報じられています。
 佐賀県の地元紙の佐賀新聞は25日付の論説で「唐突感は否めない」との見出しを掲げ「駐屯地予定地の地権者である漁業者の理解が得られていない中での判断は、スケジュールありきの印象も拭えない」と指摘。このニュースの大きなポイントである100億円の空港使用料と漁業振興基金を中心に、以下のように疑問を示しています。

※佐賀新聞LIVE:論説「オスプレイ配備受諾 唐突感は否めない」2018年8月25日
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/264598

 合意した事項は、防衛省、佐賀県、県有明海漁協などの関係機関が参加して環境保全と補償を検討する協議会の設置や、自衛隊機の空港着陸料で5億円を20年間支払って計100億円の漁業振興基金(仮称)を創設すること、事故など重大事案に対応する両者のホットライン設置を盛り込んだ。
 驚いたのは100億円の基金である。突然出てきた。漁業者が要望した金額ではなく、県は防衛省と交渉で折り合った額として明確な算定根拠を示さなかった。財源となる県営空港の着陸料は県民の財産であり、本来は空港の維持管理に充てるはずだ。漁業者だけに使う「特定財源」化は、防衛省の管轄外の漁業振興策に使うための「秘策」かもしれないが、これまで表立った議論はなく、妥当性には疑問がある。
 県と防衛省は水面下で交渉を続けてきた。当の漁業者には1年前に県が聞き取りをしたものの、具体的な交渉は漁業者抜きで進められた。防衛省のコノシロ漁の追加調査もこれからで、仮に影響があれば飛行ルートや飛行時間帯の変更で対応するとした防衛相の発言に、知事が早々と理解を示したことに「筋書きがあったのでは」と不信感を募らせる漁業者もいる。

 佐賀新聞によると、100億円の着陸料の徴収は佐賀県が防衛省に申し入れたようです。

※佐賀新聞LIVE「100億円は佐賀県からの申し入れ 防衛省『応分の負担』」2018年8月25日
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/264701

 防衛計画課は、県側から「漁業振興基金の原資に充てるため、着陸料100億円を徴収したい」との申し入れがあったと説明した。オスプレイ配備には民航機の利用だけを想定して建設された佐賀空港の関連施設を使用する必要があり、空港建設時に国補助事業で県が支出した約200億円を折半することは「応分の負担であり、不合理はない」と判断した。
 20年の根拠は、想定されるオスプレイの運用期間を前提とした。担当者は「まず100億円という額ありきで、防衛省として支払う理屈として着陸料が適切だった」と述べた。

 オスプレイは機体の構造的な欠陥の疑いが根強く指摘されており、沖縄県の米軍普天間飛行場に配備されている米海兵隊のMV22の機体も、死者を出した墜落事故のほか、緊急着陸などのトラブルも続いています。日本政府は機体の安全性に問題はないとの米軍の見解をそのまま受け入れているようですが、それでも配備予定地の地元で慎重ないし反対意見はあって当然のことで、その意味で佐賀県知事の受け入れ表明への唐突感には、受け入れ同意の民意もそろっていないのになぜこの時期に?との疑問も混じっています。
 東京発行の新聞各紙も25日付朝刊では、日経新聞を除いて各紙1面の大きな扱いで報じました。唐突感のゆえだと思います。朝日新聞と東京新聞は1面トップです。以下に主な見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
1面トップ「オスプレイ佐賀配備合意/防衛省・県 着陸料 年5億円/漁業者は反発」
2面・時時刻刻「オスプレイ いきなり合意/地元反発する中 佐賀知事表明」「防衛省幹部『こんなに早いとは』」「計51機配備計画 陸自・米軍」
▼毎日新聞
1面準トップ「佐賀県 オスプレイ容認/陸自配備 地元漁協と協議へ/着陸料100億円」/用語説明「オスプレイ差が配備計画」
2面「県民不安消えず 時期尚早の声も」※見出し1段
▼読売新聞
1面準トップ「オスプレイ佐賀受け入れ/知事表明 国、着陸料100億円」
2面「佐賀配備 離島防衛の要/政府、漁業者説得急ぐ」
▼日経新聞
社会面「オスプレイ受け入れ表明/佐賀空港配備で知事」※見出し2段
▼産経新聞
1面準トップ「オスプレイ佐賀配備合意/防衛省と県 着陸料 20年で100億円」
▼東京新聞
1面トップ「オスプレイ佐賀配備合意/漁協も協議受け入れ/知事が正式表明/着陸料20年間100億円」
1面「用地交渉、安全性 残る課題」
第2社会面「地元『なぜ急ぐ』『仕方ない』」

f:id:news-worker:20180826201337j:plain

 この中で興味深く読んだのは、読売新聞の2面のサイド記事「佐賀配備 離島防衛の要」です。陸自のオスプレイは離島の上陸・奪還作戦を担当する「水陸機動団」の輸送を担当し、機動団の本拠地の長崎県・相浦駐屯地に近い佐賀空港への配備が急務となっていることを説明した上で、以下のように書いています。

 オスプレイは今秋5機、来年以降は年4機ずつ配備される見通しだ。当面は木更津駐屯地(千葉県木更津市)に暫定配備する方向だが、「佐賀配備が決まらない中では、木更津が受け入れるはずがない」(自民党国防族議員)との見方もあり、防衛省は佐賀県との交渉を急いでいた。

 なぜこの時期に受け入れ表明なのかということに関連して言えば、防衛省側には切迫した事情があるということでしょうか。そうならなおのこと、水面下で続いていたという防衛省と佐賀県の交渉で何が話されていたのか、情報公開が必要でしょうし、マスメディアも深層を探り報じていくべきだと思います。
 オスプレイを巡っては、米空軍の特殊作戦用の機体CV22が5機、東京・横田基地に10月1日に正式配備されることが8月22日に発表されたばかりです。沖縄の普天間飛行場への配備は、沖縄を挙げての反対にもかかわらず、日本政府は米軍の運用のことであるとして、当事者性を放棄したに等しい対応でした。横田配備でも同じ姿勢なのでしょうが、このブログで以前触れたように、日本政府は米国の通知から18日間も秘匿していました。結果として日本国民、地域住民は不意打ちのように配備を知ることになりました。

news-worker.hatenablog.com

 オスプレイ配備を巡っては、沖縄も横田も民意不在、住民無視と言うほかない状況が続いています。日本政府―防衛省が主体になる佐賀のケースはどう進むのでしょうか。なぜ機体の安全面で相対的に定評がある既存のヘリではだめなのか、なぜオスプレイでなければだめなのか。さらには、離島奪還作戦が必要になる現実味はどの程度あるのか、といった「そもそも論」も含めて、マスメディアは報道を展開していっていいと思います。そうなればその先に、佐賀のオスプレイ配備の問題から横田、沖縄のオスプレイ配備の問題へ、さらには沖縄の基地集中の問題へと、当事者意識を備えた社会的議論の高まりも期待できると思います。

日本農業新聞の気骨

 第100回の節目の大会だった今夏の全国高校野球選手権は、金足農業高校が秋田代表としては第1回大会以来103年ぶりの決勝に進み、話題を集めました。県立高校でチーム全員が地元秋田出身。優勝は、史上初の2度目の春夏連覇を遂げた大阪桐蔭高でしたが、後世まで記憶に残るのは「雑草軍団」を自負した金足農高だろうと思わせるほど、強く印象に残るチームでした。
 その金足農高の活躍とともにマスメディアの分野で注目されたのは、専門紙である日本農業新聞が甲子園球場での大会のもようを自社取材で報じたことです。8月21日の決勝の結果は号外紙面を作成し、PDFファイルにして自社サイトにアップ。22日付の紙面でも金足農高の準優勝を1面トップで報じました。専門紙のこうした異例の報道もそれ自体が話題になり、スポーツ紙や一般紙も紹介しました。
 ※日本農業新聞 https://www.agrinews.co.jp/

 ふだんはなじみの薄い専門紙ですが、わたしは日本農業新聞については昨年、印象に残ることがありました。このブログでも書きましたが、昨年9月8日発行の岩波書店「世界」10月号に、わたしが参加した座談会の記事が掲載されました。タイトルは「報道の『沈黙』が社会を壊す―プロフェッショナリズムの不在について」。上智大教授(当時)の田島泰彦さん、立教大名誉教授の服部孝章さんとの3人で、新聞のジャーナリズムについてあれこれ語りました。

news-worker.hatenablog.com

 この座談会の中で、服部さんが日本農業新聞に言及していました。「世界」掲載の記事から関係部分を引用します。公権力と対峙する地方紙についてのわたしの発言に続く服部さんの発言です。

 服部 ただ、共謀罪や安保法制、特定秘密保護法については地方紙は富山県の一部の新聞をのぞいてこぞって反対の論陣をはりましたが、そうした反対姿勢が読者にいきわたっているとはとても思えません。社説では批判を書いていても、実際の選挙ではそのような結果は出ていない。発行部数三十数万部の日本農業新聞だけは、連日アベ農政批判をやっていて、農村票が反アベに出たのに……という気持ちです。
 地方紙はどこも部数を伸ばしているところはなくて、むしろものすごい勢いで減っています。金融庁がつい最近、地方の銀行は合併すべきだというような方針を明らかにしましたが、地方新聞社だってそんな話が出てきても不思議ではない。
 さらに言えば首都圏でも、二〇五〇年には人口が数十パーセント減少する。そうなると、大手新聞社でさえやっていけない可能性もある。確かに社説としてデータが残ってはいても、それが農業新聞くらい読者に伝わっているところは少なくなってくるんじゃないかと思います。

 直接は地方紙の現状への言及ですが、日本農業新聞はその主張が読者に伝わり受け入れられていることの紹介でした。
 今回、農業高校の甲子園での活躍を紙面で取り上げたことも、ふだんからの読者との結び付きの強さがあればこそだろうと推察します。
 服部さんが紹介した「連日アベ農政批判をやっていて、農村票が反アベに出た」という、日本農業新聞のいわば気骨と言ってもいいのではないかと思うのですが、それがよく分かると感じる同紙の論説を引用して書きとめておきます。今年の8月15日付です。

※「不戦の誓い 危険な予兆に声上げよ」
 https://www.agrinews.co.jp/p44885.html

「戦争の始まりは表現の自由への抑圧から」。今年98歳で亡くなった俳人の金子兜太さんの言葉は重い。今日は73回目の終戦の日。「戦争の予兆」をまとう危うい政策に一人一人が声を上げ続けることで、同じ過ちへの道を阻みたい。
 戦争は突然始まるのではない。目に見えない言論・思想統制から始まり、気が付いたら、後戻りできない状況に陥ってしまう。戦争を知る世代の多くは「今の時代は戦前と似ている」と危機感を語る。政府・与党が十分な議論もせず、さまざまな法案を強行的に採決してきた一連の流れがあるからだ。
 安倍政権となって以来、2013年には、知る権利と報道の自由を脅かす特定秘密保護法が成立。14年は、海外での武力行使を禁じた憲法9条の解釈を変え、限定的に集団的自衛権を行使できるよう閣議決定した。15年、自衛隊の海外での武力行使に道を開く安全保障関連法が成立。共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法は、17年に成立した。平和主義を定めた憲法9条改正の動きも、依然としてある。
 この状況に「危ない」と声を上げるのが俳人や作家、映画監督ら表現者だ。日本農業新聞は15日まで「戦争“表現”で語り継ぐ」を連載した。40、50代の戦後の世代と70、80代の戦争を体験した世代の計5人に活動と平和への思いを聞いた。
 (中略)
 危険な種は、育つ前に刈り取らなければならない。日常でパワハラやセクハラ発言、差別などを黙って見過ごしていないだろうか。まずはわが身を振りかえり「おかしい」と思うことに異を唱えるところから始めよう。多くの「自己規制」の積み重ねが、戦争の種を育てる。
 過去の百姓一揆から、近年の環太平洋連携協定(TPP)反対運動へと、農に携わる人たちには反骨精神が息づいている。命を生み出す農業界から「不戦」を貫こう。おかしいことを「おかしい」と自由に言える雰囲気こそが、「戦後」をつくり続ける。

 

「琵琶湖」「えぼし岩」と沖縄の基地集中~京都新聞と琉球新報のコラムから

 先日の記事の続きです。沖縄の基地集中の問題に関連して、地方紙の1面コラム2本を紹介します。
 一つは京都新聞の8月14日付「凡語」です。
 https://www.kyoto-np.co.jp/info/bongo/20180814_2.html
 まず、米軍統治下の那覇市長や立法院議員、返還後も衆院議員を務めた「カメジロー」こと瀬長亀次郎氏(1907~2001年)を紹介しています。 

▼瀬長氏は米軍による土地の強制接収などを批判し、日本復帰を熱心に説いた。度々弾圧され、市長職も追われた。だが『カメジロー』はものともしない。演説会にはいつも多くの人が集まった 

 次いで、沖縄では8月8日に死去した知事の翁長雄志氏に瀬長氏を重ねる人が少なくないことを指摘しながら、翁長氏が日本本土の講演で発した言葉を紹介して次のように結んでいます。 

▼15年の外国特派員協会での講演では一層踏み込んだ。「安保のためなら琵琶湖を埋めるのですか」。本土では、こうまで言わないとだめなのか。そんな思いが伝わる。私たちは、いよいよ正面を向いて議論する時ではないか。 

 辺野古の海が埋め立てられようとしています。沖縄県は翁長氏が生前示した方針を守って、埋め立て許可を撤回する構えです。翁長氏の前任の知事が許可を出したものの、翁長氏は辺野古への新基地建設反対を公約に掲げて前任者を選挙で破り知事に就任しました。翁長氏が沖縄の民意を代弁しているのは明らかですが、その翁長氏の反対を意に介することなく、安倍晋三政権は新基地建設を強行しました。同じようなことが沖縄県外、日本本土で起きているのか、どうすれば本土の日本国民たちは事の重大性に気付くのか―。その思いが「安保のためなら琵琶湖を埋めるのですか」という言葉になって口をついて出たのでしょう。

 もう一つのコラムは琉球新報の8月16日付「金口木舌」です。
 https://ryukyushimpo.jp/column/entry-783065.html
 サザンオールスターズとゆかりが深い神奈川県・湘南地域の茅ヶ崎市のシンボル「えぼし岩」の話題です。 

▼「チャコの海岸物語」に限らず湘南を歌った歌には茅ケ崎のシンボル「えぼし岩」がよく登場する。平安時代以来の男性用のかぶり物「烏帽子(えぼし)」の形状からとった通称だが、実は昔は岩の先端部分がもっと長く伸びていた
▼そのとがった先端部分を吹っ飛ばしたのは米軍だ。日本海軍の演習場だったこの海岸は敗戦後、米軍が接収し「チガサキビーチ」と呼んだ。えぼし岩を標的にした射撃訓練のほか、年6回以上の上陸演習や砲撃演習が実施された 

 パラシュート降下、航空機爆撃なども行われました。その後地元の反対を受け米軍は去りました。 

 ▼湘南サウンドを聞くときに思い起こしたい。沖縄では、民意に「背を向けて」「勝手に」訓練を続ける米軍が、かつてチガサキビーチで繰り広げたような傍若無人な演習を今も続けている。 

 米軍のこの訓練の話は茅ヶ崎市のサイトでも紹介されています。

 ※茅ヶ崎市「えぼし岩あれこれ」
 http://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/kankou_list/koen/1006948.html 

 昔のえぼし岩は現在のものより先端部分がより烏帽子らしく西へ長く尾を引いていましたが、戦後、米軍の射撃訓練の標的にされ、その先端部分は消失し、わが町のシンボルを守るための市民運動が起き、訓練は中止されました。 

  湘南には大勢の人たちが訪れますが、えぼし岩にかつて起きたことはどこまで知られているでしょうか。沖縄で今、起きていることは、例えて言えば琵琶湖を埋めようとするに等しいことであり、あるいはかつて、湘南の海岸で行われていたことです。基地や米軍を巡るそうしたことが広く知られれば、日本本土に住む日本人も沖縄の基地集中の問題に無関心ではいられなくなるのではないか。そう期待したいと、2本のコラムを読んで思います。

8月15日に元陸軍飛行場で、戦争の教訓と沖縄の基地集中を考えた

 日本の敗戦から73年の8月15日、思い立って東京都調布市の調布飛行場に隣接する「武蔵野の森公園」を訪ねました。調布飛行場は今では伊豆諸島の離島路線の定期便もある軽飛行機の専用空港ですが、元は日本陸軍の飛行場でした。当時の飛行場は今よりも広く、武蔵野の森公園の中には第2次大戦末期、米軍の空襲から戦闘機を守るために作られた掩体壕が保存されています。そのことを最近知り、この日に戦争遺跡に身を置いてみようと思い付きました。
 公園は調布飛行場を挟んで北地区と南地区に分かれています。掩体壕があるのは北地区。西武鉄道多摩川線の多磨駅で下車して徒歩5分ほどで公園に着きます。掩体壕へはさらに園内を5分ほど歩きます。
 ※武蔵野の森公園 http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index058.html
 ※「掩体壕と飛燕」 http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/view058.html

f:id:news-worker:20180816081025j:plain

 【写真】1945年春当時の調布飛行場の施設配置図=現地の掲示板
 掲示されている説明によると、調布飛行場は1941(昭和16)年4月に南北1000メートル、東西700メートルの2本の滑走路や格納庫などが完成しました。首都防衛のため戦闘機「飛燕」を中心とする陸軍の飛行部隊が配属されました。戦況が悪化した1945(昭和20)年ごろには、米軍のB29爆撃機や艦載機の空襲を受け、飛行場や近くの高射砲陣地で死傷者が出ました。このころには特攻隊の訓練と、出撃基地である鹿児島県の知覧基地への中継地にもなっていたとのことです。
 掩体壕は1944(昭和19)年ごろから、コンクリート製の約30基、土塁をコの字型にした約30基の計約60基が短期間で作られました。掩体壕に収容されていた戦闘機は、出撃の際は機体にロープをかけ、人力で誘導路を通って滑走路まで運んだとのことです。

f:id:news-worker:20180816081108j:plain

【写真】掩体壕・大沢2号
 保存されている2基の掩体壕はこの地の地名を元に南から「大沢1号」「大沢2号」の名前が付いています。公園の正面入り口から歩いてくると、まず大沢2号を見て、次に大沢1号に向かうことになります。ともに古びたコンクリートの建造物です。
 大沢2号は、中が空洞になっているのが暗いながらもよく分かります。

f:id:news-worker:20180816081145j:plain

【写真】掩体壕・大沢1号
 大沢1号は壕内に補修が施されているようでふさがれています。その前面には、整備を受けている戦闘機「飛燕」の大きなイラストが描かれています。目を引くのは傍らにあるブロンズ像。掩体壕とその中で待機する飛燕の様子が、よく分かります。

f:id:news-worker:20180816081223j:plain

【写真】飛燕のブロンズ像
 掲示の説明によると「飛燕」は1943(昭和18)年に陸軍に正式採用され、調布飛行場では首都防衛のため飛行第244戦隊に配備されました。1945年になると米軍のB29爆撃機による本土空襲が激しくなり、飛燕も迎撃に飛び立ちますが戦果は上がらず、最後は体当たりで対抗したとのことです。
 その辺のことは以前に戦記もので読んだことがあります。物量の差に加えて、高度1万メートルを飛んでくるB29に日本の戦闘機は性能面で歯が立ちませんでした。体当たりは文字通り最後の手段、いわば「空対空の特攻」でしたが、脱出して生還したパイロットもいて、1人で2度、3度と体当たりを成功させた例もあったと記憶しています。
 しかし、しょせんは焼け石に水の迎撃戦でした。爆弾を抱えて飛行機ごと艦艇に突っ込む特攻にしても、生還を前提としない作戦は軍部の中でも「統帥の外道」との批判があったといいます。そこまで追い込まれたのなら、一刻も早く戦争を終わらせることを考えるべきでした。しかし、勝てる見通しのないまま深みにはまり、沖縄の地上戦、広島、長崎への原爆投下、東京、大阪をはじめとする全国の都市への空襲で、おびただしい非戦闘員の住民が犠牲になったあげくに、ようやく敗北を受け入れて戦争は終結しました。軍事力では国民の生命、財産を守ることができなかった―。これは、あの戦争の教訓の一つです。アジア諸国にもおびただしい犠牲を生んだことも忘れずにいたいと思います。

 この日、掩体壕を訪ねた時には正午を過ぎていましたが、目を閉じて73年前のことを想像してみました。73年前も同じようにじりじりとした暑さの中で、ラジオから昭和天皇の声が聞こえてきたのか。太平洋戦争だけでも3年8カ月余りも続いていました。「大本営発表」報道で戦果は過大に、損害は過小に報じられていました。勝利を信じていて敗戦を受け入れられない人もいれば、何はともあれ、もう出撃する必要はないと安堵する人もいたのでしょうか。実際のところはどうだったのか。戦争を、身をもって体験した人たちの証言を受け継いでいくことの大切さをあらためて思いました。

f:id:news-worker:20180816081309j:plain

【写真】調布飛行場に並ぶ民間機
 もう一つ感じたことがあります。公園の高台からは調布飛行場の全景を望むことができます。今は民間機が飛び交う平和な光景が広がっています。しかし、沖縄では戦後73年の今でも、米軍機の危険に市民生活がさらされています。決して自分たちで望んだわけではないのに、基地の受け入れを強制され続けているのが沖縄です。調布飛行場には民間機がずらりと並んでいました。同じような光景ながら、沖縄の米軍普天間飛行場に並ぶのは、沖縄配備後にも墜落事故や不時着、緊急着陸のトラブルが相次いでいる輸送機オスプレイです。名護市辺野古では、その普天間飛行場の代替とされながら、実質は機能が強化された新基地の建設が、県知事だった故翁長雄志氏の反対を押し切って始まりました。地域の将来のことは自分たちで決める「自己決定権」が認められないまま、国家的事業が強行される、そうしたことが行われているのは日本で沖縄だけです。その差別にわたしたち日本本土に住むこの国の主権者はあまりに無知で鈍感ではないのか―。沖縄から近年、そうした問い掛けが続いていること自体にも、わたしたち日本本土の社会はどれだけ問題意識を共有できているだろうか、ということも感じます。眼下の調布飛行場を見ながら、ここにオスプレイがずらりと並ぶさまを想像することが、沖縄の基地集中の問題をわがこととしてとらえることができる一歩になるのかもしれないと、そんなことも考えた8月15日でした。

「本土に突き付けた問い」(信濃毎日新聞)、「『沖縄への甘え』重い告発」(西日本新聞)~故翁長氏の訴え、わがことと受け止める地方紙・ブロック紙も

 8月8日に死去した沖縄県知事、翁長雄志氏を沖縄県外、日本本土の新聞も社説や論説で取り上げています。
 全国紙では朝日新聞、毎日新聞、読売新聞がそろって8月10日付で、産経新聞(「主張」)が11日付で掲載しました。普天間飛行場の辺野古移設を巡って、翁長氏が安倍晋三政権との対決姿勢を深めていったことについて朝日は「『政治の堕落』と評した不誠実な政権と、その政権を容認する本土側の無関心・無責任が、翁長氏の失望を深め、対決姿勢をいよいよ強めていったのは間違いない」と指摘し、毎日も「沖縄は基地依存経済といわれる状況から抜け出そうとしているのに、それを後押しすべき国が辺野古移設と沖縄振興策をセットで押しつけてくる。これを受け入れることはアイデンティティーの確立と矛盾する」と説きました。ただ、朝日の言う「本土側の無関心・無責任」については、結びで「(知事選の)その結果がどうあれ、翁長氏が訴えてきたことは、この国に生きる一人ひとりに、重い課題としてのしかかる」と書いてはいるものの、それ以上の踏み込みはありません。
 翁長氏の評価について読売は「強い指導力を印象付ける政治家だっただけに、政府との対立ばかりが前面に出たことが残念である」と、産経も「国との対立関係をいっそう深めたのは残念だった」と、ともに厳しい表現でした。両紙とも「米軍の抑止力を維持し、普天間の危険性を早期に除去する唯一の道が、辺野古移設である」(読売)、「住宅地に近接する普天間飛行場の移設が、危険性除去のための現実的な選択肢である点は変わらない」(産経)と、安倍政権の政策への支持をあらためて明らかにしている点も共通しています。

 地方紙・ブロック紙では、ネットで確認できた社説、論説が14日までに20紙あります。注目していいと思うのは、その中でいくつかの社説が、翁長氏が問い続けた相手は日本政府、安倍政権に限らず、沖縄の基地集中に無関心な日本本土の日本国民であることを、わがこととして明確に指摘していることです。例えば信濃毎日新聞は「無関心であることが、政府の強硬な姿勢を支え、排外的な言動をはびこらせることにもつながっていないか。沖縄の人々の憤りは、政府だけでなく、本土の私たちに向けられている」「翁長氏の言葉を胸に刻み、沖縄に向き合う姿勢を問い直したい」と書き、福井新聞も翁長氏の訃報が本土で決して十分に報じられていないとして「本土では『沖縄の話』にしかすぎず、沖縄の苦しみは共有されない。その無関心さが沖縄県民をいらだたせていることを、われわれは自覚したい」としています。西日本新聞は「異議は政権のみならず、沖縄の基地問題に無関心な本土の住民にも向けられた。『どちらが甘えているのか』発言は、『沖縄は基地の見返りの振興策で潤っている』などの論理で基地押し付けを正当化する本土住民に対する告発でもあった」と指摘しています。

 「普天間飛行場の県内移設反対」「オール沖縄」「イデオロギーではなくアイデンティティー」を掲げた翁長氏が身命を賭して求めたのは、地域の将来を自分たちで決めることができる自己決定権でした。その翁長氏の訴えを、政府・政権だけでなくわが身にも向けられたものと受け止める姿勢が一部とはいえ見られるようになったことは、本土のマスメディアのジャーナリズムに生じた変化と言っていいと思います。ささやかで、まだまだ取るに足らないものかもしれませんが、沖縄を報道する、沖縄で何が生じているかを日本本土に伝える上での進歩ないしは深化と呼んでもいいのではないかと考えています。

 手元に、翁長氏の死去を伝える琉球新報の9日付の紙面や、辺野古の埋め立て阻止を訴える11日の県民大会の模様を伝える12日付の紙面が届きました。主催者発表で7万人が参加した県民大会の紙面には「知事の意志 必ず」の大きな見出しが付いています。

f:id:news-worker:20180814213507j:plain

 以下に各紙の社説、論説のタイトルと、内容を確認できるものはリンク先を記しています。一部は内容を引用して紹介しています。まず全国紙です。

▼朝日新聞「翁長知事死去 『沖縄とは』問い続けて」(8月10日)
 https://www.asahi.com/articles/DA3S13629884.html?ref=editorial_backnumber 

  「銃剣とブルドーザー」で土地を取りあげられ、当然の権利も自由も奪われた米軍統治下で生まれ、育った。本土復帰した後も基地は存続し、いまも国土面積の0・6%の島に米軍専用施設の70%以上が集中する。
 だが、「なぜ沖縄だけがこれほどの重荷を押しつけられねばならないのか」という翁長氏の叫びに、安倍政権は冷淡だった。知事就任直後、面会の希望を官房長官は4カ月にわたって退け、国と地方との争いを処理するために置かれている第三者委員会から、辺野古問題について「真摯(しんし)な協議」を求められても、ついに応じなかった。
 翁長氏が「政治の堕落」と評した不誠実な政権と、その政権を容認する本土側の無関心・無責任が、翁長氏の失望を深め、対決姿勢をいよいよ強めていったのは間違いない。
 沖縄を愛し、演説でしばしばシマクトゥバ(島言葉)を使った翁長氏だが、その視野は東アジア全体に及んでいた。
 今年6月の沖縄慰霊の日の平和宣言では、周辺の国々と共存共栄の関係を築いてきた琉球の歴史に触れ、沖縄には「日本とアジアの架け橋としての役割を担うことが期待されています」と述べた。基地の島ではなく、「平和の緩衝地帯」として沖縄を発展させたい。そんな思いが伝わってくる内容だった。
 死去に伴う知事選は9月に行われる。その結果がどうあれ、翁長氏が訴えてきたことは、この国に生きる一人ひとりに、重い課題としてのしかかる。 

▼毎日新聞「翁長・沖縄知事が死去 基地の矛盾に挑んだ保守」(8月10日)
 https://mainichi.jp/articles/20180810/ddm/005/070/024000c 

  安倍晋三首相のキャッチフレーズには「戦後レジームからの脱却」「日本を取り戻す」などがあるが、沖縄にとっての戦後レジームは米軍占領下から続く過重な基地負担だ。
 首相の言う日本の中に沖縄は入っているのか。本土の政府・自民党に対するそんな不信感が翁長氏を辺野古移設反対へ転じさせた。
 イデオロギーで対立する保守と革新をオール沖縄へ導いたのは「沖縄のアイデンティティー」だ。翁長氏はそう強調してきた。
 県の「沖縄21世紀ビジョン」にあるように、沖縄はアジア太平洋地域の国際的な交流拠点を目指すことで経済的な自立を図っている。
 沖縄は基地依存経済といわれる状況から抜け出そうとしているのに、それを後押しすべき国が辺野古移設と沖縄振興策をセットで押しつけてくる。これを受け入れることはアイデンティティーの確立と矛盾する。
 知事就任後に菅義偉官房長官と会談した際、翁長氏は政権側の姿勢を「政治の堕落」と非難した。
 ただし、県側がとれる対抗手段は限られていた。辺野古埋め立て承認の「撤回」手続きを進める中での翁長氏の急死は、移設反対派に衝撃を与えている。9月にも行われる知事選の構図は流動的だ。
 戦後の米占領下で生まれ育った保守政治家が病魔と闘いながら挑んだ沖縄の矛盾は残ったままだ。 

▼読売新聞「翁長知事死去 沖縄の基地負担軽減を着実に」(8月10日)
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180809-OYT1T50130.html 

 沖縄県の翁長雄志知事が死去した。強い指導力を印象付ける政治家だっただけに、政府との対立ばかりが前面に出たことが残念である。
 (中略)
 司法判断とは一線を画し、知事として権限を駆使する姿勢を貫いた。政府との対決をあおるかのような政治手法が混乱を招いた側面はあったにせよ、基地負担に苦しむ沖縄県民の一つの意識を体現したことは記憶に残るだろう。
 辺野古移設への対応については、政府、県ともに今後、見直しを余儀なくされそうだ。
 (中略)
 住宅地に囲まれた普天間飛行場は常に、周辺住民を巻き込む事故の危険をはらむ。最近も、米軍ヘリの部品落下などのトラブルが起きた。政府は引き続き、沖縄の基地負担を軽減させる責務を果たさなければならない。
 米軍の抑止力を維持し、普天間の危険性を早期に除去する唯一の道が、辺野古移設である。 

▼産経新聞「翁長氏の死去 改めて協調への道を探れ」(8月11日)
 http://www.sankei.com/column/news/180811/clm1808110002-n1.html 

 米軍施設が集中する沖縄で、基地反対論は根強い。翁長氏はその期待を一身に背負った。埋め立て承認の取り消しで政府に抵抗を続けるなど、国との対立関係をいっそう深めたのは残念だった。
 米軍基地の抑止力の重要性を考えれば、基地政策を円滑に実現するうえで国と地元が理解しあい、協力することは欠かせない。
 知事選が迫っているとはいえ、翁長氏の死去を機に、関係の再構築を模索する視点を双方が持つことも重要ではないか。
 (中略)
 移設問題は、旧民主党への政権交代のときに沖縄側の不信感を高めた経緯がある。
 それでも、住宅地に近接する普天間飛行場の移設が、危険性除去のための現実的な選択肢である点は変わらない。
 これについて、公明党の山口那津男代表は死去を悼むコメントの中で「翁長知事も異は唱えられないと思っています」と語ったが、それには協調関係の構築を避けて通れまい。政府、沖縄双方の責務といえよう。 

 以下は地方紙、ブロック紙です。

【8月10日】
▼北海道新聞「翁長知事死去 『オール沖縄』を貫いた」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/217202?rct=c_editorial 

 これ以上の対立激化を避けるためにも、国は基地建設のプロセスをいったん止め、改めて解決の道を探るべきだろう。
 次回知事選に向けては、自民党沖縄県連などが普天間飛行場のある宜野湾市の佐喜真淳(さきまあつし)市長の擁立を決め、自民系候補の一本化を進める。移設反対派は翁長氏死去を受け、候補者調整を急いでいる。
 自民、公明両党は沖縄の首長選で、基地問題を争点化することを避けてきた。佐喜真氏も辺野古移設への言及を避ける姿勢が目立つ。それでは沖縄の人々の思いに寄り添う解決策は見いだせない。
 翁長氏は「沖縄県が自ら基地を提供したことはない」「日本には地方自治や民主主義があるのか」と訴えていた。
 力ずくの手法はかえって反発を招く。それが翁長氏が残した教訓ではないだろうか。 

▼茨城新聞「翁長沖縄県知事の死去 提起した課題考えたい」
▼神奈川新聞「翁長沖縄知事 命削った『心』に思いを」
▼山梨日日新聞「[翁長沖縄知事 急逝]差別除去 身を賭して訴えた」

▼信濃毎日新聞「翁長知事死去 本土に突きつけた問い」
 https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20180810/KT180809ETI090008000.php 

 保守、革新の対立を超えた「オール沖縄」の訴えは、那覇市長時代の13年に原点がある。米軍基地への輸送機オスプレイの配備撤回を求め、県内全市町村長と議員らが東京でデモ行進した。先頭に立ったのが翁長氏だった。
 14年の知事選で当選した夜。妻の樹子さんと「万策尽きたら、一緒に辺野古で座り込もう」と約束したという。基地建設を何としても阻止する決意が、政府の権力にひるまない姿勢を支えた。
 戦後四半世紀余に及ぶ米軍の統治を経て1972年に日本に復帰した後も、沖縄は「基地の島」であり続けてきた。在日米軍基地の7割がなお沖縄に集中する。そして辺野古に計画されているのは、大型船が接岸できる護岸などを備えた巨大な新基地である。
 抗議する人たちを実力で排除して工事は進められている。逆らえば力ずくで押さえつけ、既成事実を積み重ねてあきらめを強いる。政府が沖縄でやっていることは民主主義と懸け離れている。
 東京でデモ行進をしたとき、「琉球人は日本から出ていけ」「中国のスパイ」と罵声を浴びせられたという。そのこと以上に、見ないふりをして通り過ぎる人の姿に衝撃を受けたと述べていた。
 無関心であることが、政府の強硬な姿勢を支え、排外的な言動をはびこらせることにもつながっていないか。沖縄の人々の憤りは、政府だけでなく、本土の私たちに向けられている。
 過重な負担の押しつけは差別である。うちなーんちゅ、うしぇーてー、ないびらんどー(沖縄人をないがしろにしてはいけない)。翁長氏の言葉を胸に刻み、沖縄に向き合う姿勢を問い直したい。 

▼中日新聞・東京新聞「翁長知事死去 沖縄の訴えに思いを」
 http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2018081002000126.html 

 翁長氏の政治信条は「オール沖縄」「イデオロギーよりアイデンティティー」の言葉に象徴されていた。
 国土の0・6%の広さしかない沖縄県に、国内の米軍専用施設の70%が集中する。にもかかわらず政府は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の代替施設として、同じ県内の名護市辺野古に新基地建設を強行している。日本国憲法よりも日米地位協定が優先され、県民の人権が軽視される。
 そうした差別的構造の打破には保守も革新もなく、民意を結集して当たるしかない、オール沖縄とはそんな思いだったのだろう。
 言い換えれば、沖縄のことは沖縄が決めるという「自己決定権」の行使だ。翁長氏は二〇一五年に国連人権理事会で演説し、辺野古の現状について「沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている」と、世界に向け訴えた。
 (中略)
 翁長県政の四年弱、安倍政権はどう沖縄と向き合ったか。県内を選挙区とする国政選挙のほとんどで移設反対派が勝利したが、その民意に耳を傾けようとせず、辺野古の基地建設を進めた。菅義偉官房長官は九日の記者会見でも、辺野古移設を「唯一の解決策」と繰り返すのみだ。
 内閣府が三月に発表した自衛隊・防衛問題に関する世論調査で、「日米安保が日本の平和と安全に役立っている」との回答が約78%を占めた。安保を支持するのなら、その負担は全国で分かち合うべきではないか。翁長氏の訴えをあらためて胸に刻みたい。

 ▼福井新聞「翁長沖縄県知事 死去 遺志に思いを致すべきは」
 http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/675013 

 皮肉にも、テレビの情報番組は台風やボクシング連盟関連の情報ばかりが目立ち、翁長氏の訃報を十分に伝えていない。本土では「沖縄の話」にしかすぎず、沖縄の苦しみは共有されない。その無関心さが沖縄県民をいらだたせていることを、われわれは自覚したい。
 「国対沖縄」の構図は他の地方自治体でも起こりうる。国の方針に異を唱えれば政府は強硬姿勢で応じる。長期政権となった「安倍1強」の下、そうした傾向をますます強めているかに映る。
 沖縄には在日米軍基地の約7割が集中する。住宅密集地に隣接する普天間飛行場が「世界一危険」だからといって辺野古に移設すれば、その周辺住民が危険にさらされる。「日本の安全保障は国民全体で負担するものだ」と翁長氏が主張したのは、知事として当然である。
 米朝首脳会談に関連して翁長氏は「平和を求める大きな流れから取り残されている」と日本政府の姿勢を批判した。政府は北朝鮮の脅威や中国の軍拡への備えを強調するが、翁長氏が沖縄全戦没者追悼式で訴えたようにまず「アジア地域の発展と平和の実現」に力を注ぐべきだろう。安全保障や地方自治、地域の歴史など多岐にわたった翁長氏の思いを、政府や本土のわれわれこそ熟考すべきだ。  

 ▼京都新聞「翁長知事死去  沖縄の思いを代弁した」
 https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20180810_2.html 

 政府の移設方針に反対していたが、もともとは保守系の政治家であった。県議、自民党県連幹事長、那覇市長などを務めた。
 2013年、輸送機オスプレイの配備取りやめと、普天間飛行場の県内移設断念を、安倍晋三首相に訴えたのを契機に、政府と対立した。
 翌年の県知事選では移設反対を掲げ、埋め立てを承認した現職に大差をつけて初当選した。
 「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている」などの発言で、保革の立場を超えた政治勢力「オール沖縄」を束ねた功績は大きいと評価される。
 埋め立ての承認などに関する国との法廷闘争では、最高裁に県の取り消し処分を違法とされた。工事が再開され、手詰まり感も出ていた。
 だが、すでに病魔に冒されていた今年6月の沖縄戦犠牲者を悼む「慰霊の日」には、「私の決意は県民とともにあり、みじんも揺らがない」と声を振り絞った。沖縄に息づく「不屈の精神」を、代弁する存在でもあった。 

▼神戸新聞「翁長知事死去/喪に服し辺野古『休戦』を」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201808/0011529011.shtml 

 政府は辺野古移設が基地負担軽減の「唯一の解決策」とする立場から、一歩も踏みだそうとしない。17日の土砂投入を県に通知しているが、ここで強行すれば、県民の反発がいっそう強まるのは確実だ。
 知事の死去で、県が承認撤回の手続きを進められるかどうかも不透明になった。
 翁長氏の喪に服する意味でも両者はいったん立ち止まり、次の知事選の結果を見極め、民意を尊重するべきではないか。
 企業役員だった翁長氏は、那覇市会議員に転じ自民党の県連幹事長も務めた。保守派の政治家でありながら、辺野古問題では自公政権に徹底抗戦した。
 日本復帰から半世紀近くを経ても自己決定権を尊重されず、基地負担を強いられ続けた。沖縄の怒りや疑問が、翁長氏の政治理念の根底にあった。多くの県民が代弁者を失った無念さを感じていることだろう。
 「沖縄が自ら基地を提供したことはない」「安全保障は国民全体で考えてほしい」などの翁長氏の発言は日本社会全体への問題提起でもあった。
 その声に、政府はどれだけ真剣に向きあったのか。 

▼山陰中央新報「翁長沖縄県知事の死去/提起した課題を考えたい」
 http://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1533865447639/index.html
▼愛媛新聞「翁長沖縄県知事死去 平和問う『遺言』に向き合いたい」

▼徳島新聞「翁長知事死去 移設阻止の信念貫き通す」
 http://www.topics.or.jp/articles/-/84806 

 辺野古移設阻止に軸足を置くようになったきっかけは、政府にある。「誠心誠意、県民の理解を得る」と言いながら多くの県民の意に反し、移設作業を強行する手法に失望したからだ。
 保革の枠を越えた知事として3年8カ月、移設阻止のスタンスは揺るがず、政府と対立し続けた。先月27日には、前知事が行った辺野古沿岸の埋め立て承認を、撤回する方針を表明したばかりだった。
 県民を守るためには政府にも屈しない。翁長氏の毅然とした姿勢は、地方自治の在り方を示したとも言えよう。
 (中略)
 知事選と県民投票は、沖縄の民意を知るという重要な意味を持つ。政府は土砂投入を急がず、まずはこれらの結果を見極めるべきではないか。
 誠心誠意、県民の理解を得る姿勢を見せてもらいたい。 

▼高知新聞「【翁長知事死去】民意と自己決定権問うた」
 https://www.kochinews.co.jp/article/206248/ 

 翁長氏は、知事就任後の埋め立て承認取り消しを巡る訴訟で、「沖縄県にのみ負担を強いる今の日米安保体制は正常と言えるのでしょうか。国民の皆さま全てに問い掛けたい」と述べている。
 沖縄戦で本土防衛の「捨て石」にされ、戦後は米軍に統治された。なお在日米軍専用施設の約7割が集中する沖縄に、新たな基地負担を強いるのは、本土の無関心のせいではないか―という問い掛けだろう。
 翁長氏の知事就任以後の辺野古を巡る動きは、国策の強行と県民の意思との闘いといってよい。
 (中略)
 翁長知事の下では、基地問題を巡って、民意の尊重や地方の自己決定権とは何かも問われてきた。
 移設反対を訴えた翁長氏が推進の仲井真氏を大差で破っても、安倍政権のかたくなな動きは止まらなかった。16年には県議選で知事派が過半数を獲得。参院選で知事派が自民党の沖縄北方担当相に圧勝しても、翌年春に護岸工事が開始された。
 一方、今年2月の名護市長選では安倍政権の支援を受けた新人が当選した。しかし移設の是非は明確にせず、教育や福祉、地域振興を前面に出す戦術だったことは否めない。
 翁長氏の死去に伴い、11月に予定されていた知事選が9月中に前倒しされる見込みになった。
 政権与党は宜野湾市長の擁立を決め、翁長氏を支援してきた「オール沖縄会議」は後継探しを急いでいる。知事選こそは正面から基地問題が語られ、これまでの経緯を踏まえた民意が尊重されるべきだろう。
 沖縄が問い掛ける「本土」も関心を持って見つめるべきである。 

▼西日本新聞「翁長知事死去 『沖縄への甘え』重い告発」
 https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/440176/ 

 「沖縄が日本に甘えているのでしょうか。日本が沖縄に甘えているのでしょうか」
 沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事が8日亡くなった。その翁長氏が残した重い問い掛けである。
 (中略)
 まさに命を削って、辺野古移設に抵抗する日々だったのだろう。「国策」に対する「地方からの異議申し立て」を体現した知事だったといえる。
 その異議は政権のみならず、沖縄の基地問題に無関心な本土の住民にも向けられた。「どちらが甘えているのか」発言は、「沖縄は基地の見返りの振興策で潤っている」などの論理で基地押し付けを正当化する本土住民に対する告発でもあった。
 行政処分での抵抗が数々の法廷闘争を招いたことには批判もある。ただ「移設阻止」を公約に掲げて当選した政治家が、公約実現のため自治体の首長として限られた手段を尽くすのはやむを得ない側面があった。その意味では、国と自治体とのあり方に一石を投じたともいえる。
 翁長氏は辺野古埋め立てを巡る国との訴訟の意見陳述で、沖縄に米軍基地が集中した経緯に触れ、こう述べた。
 「歴史的にも現在も沖縄県民は自由、平等、人権、自己決定権をないがしろにされてきた。私はこのことを『魂の飢餓感』と表現する」
 沖縄では翁長氏の死去を受けて、前倒しとなる知事選が9月にも実施される。自民党はすでに擁立する候補を決めており、移設反対派は「オール沖縄」候補の選考を急ぐことになる。
 ただ、知事選の結果がどうなろうと、政府や本土の住民が、「沖縄への甘え」に対する翁長氏の告発を真摯(しんし)に受け止め、沖縄県民の「魂の飢餓感」を理解しない限り、沖縄からの異議申し立ては続くだろう。  

▼佐賀新聞「提起した課題考えたい」
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/257384

▼熊本日日新聞「翁長知事死去 問題提起に向き合いたい」
 https://kumanichi.com/column/syasetsu/589087/ 

 いずれにしても、翁長氏の死去が移設問題に影響することは避けられまい。当面は、死去に伴い9月中に前倒しされる知事選が焦点となるが、少なくとも、知事選によって沖縄の民意が明らかになるまでは、土砂投入はやめるべきだろう。
 翁長氏は、知事選への態度を表明しないまま死去。移設反対派は候補者調整を急ぐ方針だ。一方、移設を進める政権与党は、宜野湾市の佐喜真淳市長の擁立を決めている。今回の知事選は、移設反対運動を主導してきた翁長氏の後継を決める、いわゆる「弔い合戦」の色合いを強め、県を二分した激しい選挙戦となるのは必至だ。
 だが、これ以上地域が分断され中央との溝が深まってはなるまい。安倍政権は政治対立を持ち込むのを避け、沖縄との対話を誠意を持って進めてもらいたい。
 翁長氏が訴えてきたのは、米軍基地の県内移設の是非ばかりではない。日本の安全保障政策の抜本的な見直しや近隣外交の重要性、地方自治のあり方などの課題もある。その問題提起に向き合い、課題を真剣に考えたい。

 ▼南日本新聞「[翁長知事死去] 沖縄の民意貫き通した」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=94617

 多くの県民が呼応したのは翁長氏が保革を超え、沖縄人の「イデオロギーよりアイデンティティー」の理想に訴えたからだ。だが、こうした沖縄の思いに国は真摯(しんし)に寄り添ってきたとは言えない。
 翁長氏は15年10月、法的な瑕疵(かし)があるとして埋め立て承認を取り消した。ここから県と国が互いに提訴し、「辺野古移設が唯一の解決策」として譲らない国との対立が鮮明化したのは間違いない。
 沖縄県側は敗訴したものの、翁長氏は「最後のカード」とされる承認撤回方針を先月下旬に表明。きのうは県が沖縄防衛局から弁明を聞く聴聞が行われた。
 国土面積のわずか0.6%しかない県土には、在日米軍専用施設の約70%が集中している。米兵や軍属らによる凶悪事件や米軍機の墜落事故などは繰り返し起きており、県民の不安は消えない。
 翁長知事は6月23日の「沖縄全戦没者追悼式」で移設について、「沖縄の基地負担軽減に逆行しているばかりでなく、アジアの緊張緩和の流れにも逆行している」と政府を厳しく批判した。
 基地を不当に押しつけられている現状は「差別だ」との沖縄の声にどう応えるのか。
 沖縄に集中する米軍基地の負担軽減は、国民一人一人に突きつけられた重い問いである。 

【8月11日】
▼岩手日報「翁長氏の死去 首相に心残りはないか」
 https://www.iwate-np.co.jp/article/2018/8/11/20334 

 基地問題を地方の自治権の問題として、本土はじめ国内外に議論を訴えたのが翁長氏だ。防衛や原発政策などに関わり、地方が国策と向き合う場面は少なくない。「基地問題は『沖縄問題』ではない」ということだ。
 (中略)
 1995年の沖縄米兵少女暴行事件を契機に、日米が普天間返還と辺野古移設に合意して約20年。時代とともに米軍の配置や運用方針が変化する中で、今もそれが「唯一の解決策」と言えるのか。翁長氏の疑問に、現政権が、その見識と責任で説得に尽くさないのは誠意を欠く。
 沖縄戦が終結した「慰霊の日」の6月23日、翁長氏と安倍晋三首相が言葉を交わすことはなかったという。
 翁長氏は、式典のあいさつで米朝首脳会談に触れ、20年以上前に日米が合意した辺野古移設の意義を疑問視。しかし首相はそれには触れず、発言はかみ合わなかった。
 翁長氏は、既に病状が報じられていた。首相の沖縄滞在は、わずか3時間程度。この間、近況を語り、あるいはいたわることもなかったとすれば、国と地方の、こんな関係が望ましいはずはない。首相もさぞや心残りなのではないか、と思いたい。 

▼中国新聞「翁長沖縄知事死去 県民の声、一貫して訴え」
http://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=456245&comment_sub_id=0&category_id=142 

 翁長氏は、本土に住む私たちの無理解も問題視していた。例えば、沖縄の経済は基地に依存しているとの誤った認識だ。基地関連の収入は今、4兆円余りの県民総所得の5%程度にすぎない。逆に観光収入は、その3倍にまで膨らんでいる。
  過重な基地負担を強いる代わりに、国が巨額の地域振興策を投じれば、沖縄の人も納得するだろう―。そんな浅はかな考えも放っておけない。基地は経済発展の最大の阻害要因なのだ。那覇市の米軍住宅が返還されて商業地域となり、税収や雇用が大幅に伸びた例があるという。
  国と地方の関係や民主主義の在り方など、翁長氏の問い掛けは基地問題に限らず、私たちにも深く関わっている。真剣に考えて答えを出す必要がある。  

【8月14日】
▼デーリー東北「翁長沖縄知事死去 切実な訴えにどう応える」
 http://www.daily-tohoku.co.jp/jihyo/jihyo.html

「命を削り公約守り抜く」(沖縄タイムス)、「命懸けで職務を全うした」(琉球新報)~翁長雄志氏死去の報道の記録

 以前の記事の続きになります。
 8月8日に死去した沖縄県知事、翁長雄志氏に対して、沖縄タイムス、琉球新報はともに社説で弔意を表明しています。一部を引用して紹介します。

※沖縄タイムス「[翁長雄志知事急逝]命を削り公約守り抜く」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/296082 

 糸満市摩文仁で開かれた慰霊の日の沖縄全戦没者追悼式で、知事は直前までかぶっていた帽子を脱ぎ、安倍晋三首相を前にして、声を振り絞って平和宣言を読み上げた。
 「新基地を造らせないという私の決意は県民とともにあり、これからもみじんも揺らぐことはありません」
 翁長知事は在任中の4年間、安倍政権にいじめ抜かれたが、この姿勢が揺らぐことはなかった。安易な妥協を拒否し、理不尽な基地政策にあらがい続ける姿勢は、国際的にも大きな反響をよんだ。
 知事は文字通り命を削るように、辺野古反対を貫き、沖縄の自治と民主主義を守るために政府と対峙し続けたのである。
 その功績は末永く後世まで語り継がれるに違いない。心から哀悼の意を表したい。 

※琉球新報「翁長知事が死去 命懸けで職務を全うした」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-778581.html 

 就任直後から基地建設を強行する政府と全面的に対立してきた。さまざまな心労、疲労が積み重なったのだろう。
 前知事による辺野古埋め立て承認の撤回を、7月27日に表明したばかりだった。がんの苦痛を押して記者会見に臨んだと思われる。文字通り、命懸けで政治家の職務を全うした。
 もとより、沖縄県の知事は他県とは比較にならないほど厳しい重圧にさらされる。国土の0・6%にすぎない県土に全国の米軍専用施設面積の70%が集中し、凶悪事件や米軍機の墜落といった重大事故が繰り返されてきたからだ。
 歴代の沖縄県知事はことごとく、過重な基地負担という深刻な課題に向き合い、苦悩してきた。その重みは健康をむしばむほど過酷だ。 

 安倍晋三政権との対決は、安倍政権の存続を民主主義の手続きにのっとって容認し続けている日本社会の民意とどう向き合うか、という問題を伴います。翁長氏は時に直接的な言葉で、沖縄県外、日本本土に住む日本国民に対して、沖縄への過剰な基地の集中の解消へ理解や支援を訴えていました。闘病中の身を押して出席したことし6月23日の慰霊の日の式典では、平和宣言の中で「沖縄の米軍基地問題は、日本全体の安全保障の問題であり、国民全体で負担すべきものであります。国民の皆様には、沖縄の基地の現状や日米安全保障体制のあり方について、真摯に考えていただきたいと願っています」と述べていました。翁長氏が沖縄の総意として求め続けたのは、沖縄の地域社会の将来に対する自己決定権でした。
 民意は明らかなのに、政府はまともに取り合おうとせず、実力で国策を強行する、司法の場でも歩み寄ろうとはしない―。そのようなことは沖縄以外に日本では起きていません。そのことの重大さが、いったいどれだけ沖縄県外で認識されていたか。翁長氏の命を掛けた訴えは、日本本土のどれだけの人の心に届いていたか。本土の日本人には、安倍政権を存続たらしめているという意味で、沖縄で起きていることに対して否応なく当事者性があることを、どれだけの本土の日本人が自覚しているか。翁長氏の訃報に接して、そうしたことをあらためて考えています。沖縄で何が起きているかを県外に伝えるべき本土マスメディアの役割と責任は、小さくありません。

f:id:news-worker:20180809225947j:plain

 翁長雄志氏の訃報を、東京発行の新聞6社が8月9日付朝刊でどのように扱ったか、以下に書きとめておきます。

▼朝日新聞
1面トップ「翁長・沖縄知事が急逝/67歳 辺野古移設反対 主導/知事選 9月にも」
2面・時時刻刻「辺野古阻止 候補不在に/翁長知事急逝 『承認撤回』表明の矢先」「『代わりいない』結集に課題」「官邸幹部『流れ読めない』」
社会面トップ「『オール沖縄』柱失う/翁長知事死去 悲しみ・落胆広がる」表・翁長雄志氏の主な発言
社会面・視点「本土へ失望 突きつけた」上遠野郷・前那覇総局長
社会面・識者たちの見方「孤独な闘いだった」「現代日本外交史」などの著書がある宮城大蔵・上智大教授(国際関係論)/「県民議論の場作った」「首里城への坂道」の著書があるノンフィクション作家の与那原恵さん/「法廷闘争 手法に限界」外務省から沖縄県に出向経験がある山田文比古・東京外国語大学教授

▼毎日新聞
1面トップ「翁長沖縄知事が死去/辺野古移設 反対貫く/膵がん 闘病続け執務 67歳/知事選は来月」
3面・クローズアップ2018「移設反対派 絶句/自民 選挙戦を警戒/翁長知事 死去」「県 撤回手続き粛々と」
5面「『沖縄守ろうと命削り』/翁長氏死去 与野党悼む声」
社会面・評伝「沖縄の不条理訴え続け/翁長知事死去 希代の闘う政治家」/「稲嶺氏『全力尽くした』」

▼読売新聞
1面トップ「翁長・沖縄知事 死去/67歳 知事選前倒しへ 膵臓がん/辺野古移設に反対」
3面・スキャナー「知事選戦略 練り直し/翁長派『代わりいない』/自民も想定外」「『保守』から『辺野古阻止』翁長氏」
4面「翁長氏死去 与野党悼む声」

▼日経新聞
1面「沖縄県知事 翁長氏死去/67歳、辺野古移設反対」
4面「辺野古移設に影響も/翁長氏死去 沖縄知事選前倒しへ」
社会面「移転の賛否超え悼む声/沖縄県民 翁長氏突然の訃報 驚き」

▼産経新聞
1面トップ「翁長氏死去 知事選前倒し/9月投開票 辺野古撤回に影響/沖縄知事 がん闘病 67歳」
2面「自民、弔い合戦警戒/オール沖縄 再び結束も」/「埋め立て承認撤回へ/きょう予定通り聴聞」
5面「二階氏『通じるもの感じていた』/翁長氏死去 悼む声」

▼東京新聞
1面トップ「翁長沖縄知事 死去/67歳 辺野古阻止 政権と対立/埋め立て撤回聴聞前日」
1面「来月知事選へ 再び争点」
2面「焦る新基地反対派/政権 弔い合戦警戒/翁長氏死去 来月、沖縄知事選へ」「埋め立て承認撤回 県の判断焦点」
2面「与野党幹部から悼む声」/「副知事の会見要旨」
3面・評伝「『オール沖縄』声上げ続け/怒りの翁長氏 県民率い」
社会面トップ「『沖縄のために命削った』/11日の県民大会 出席かなわず/新基地反対派『遺志継ぐ』/翁長知事死去」/「側近ら対面『無念だろう』」
社会面「『沖縄の現状は国難』/上京し本紙フォーラムで訴え」
社会面「沖縄差別に異議」翁長知事と交流のあった元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏/「保守と革新束ねた」沖縄の基地問題を扱ったドキュメンタリー映画「標的の村」の監督三上智恵さん

 

【追記】 2018年8月10日8時50分
 朝日、毎日、読売の3紙が10日付でそろって社説を掲載しました。東京新聞(中日新聞)も掲載しています。
・朝日新聞「翁長知事死去 『沖縄とは』問い続けて」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S13629884.html?ref=editorial_backnumber
・毎日新聞「翁長・沖縄知事が死去 基地の矛盾に挑んだ保守」
 https://mainichi.jp/articles/20180810/ddm/005/070/024000c
・読売新聞「翁長知事死去 沖縄の基地負担軽減を着実に」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180809-OYT1T50130.html
・東京新聞(中日新聞)「翁長知事死去 沖縄の訴えに思いを」
  http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018081002000150.html 

 

サマータイムのデメリット

 2020年の東京五輪の暑さ対策として、夏の間、時計の針を進めるサマータイム(夏時間)の導入論が急浮上しています。安倍晋三首相が8月7日、自民党に検討を指示しました。マスメディアの報道によると、この日、安倍首相と東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗委員長らが会談。森氏は7月27日にも首相にサマータイム導入を要請しており、森氏の強い希望を安倍首相も無視できなくなったということでしょうか。一方で、菅義偉官房長官は6日の記者会見では、導入に否定的な見解を示していました。
 素人の頭で考えてみても、五輪まであと2年しかなく、来年には天皇の代替わりと改元がある中で、まず懸念されるのは官民を問わず、各種システムの変更が間に合うのかどうかです。ほかにも社会に大きな影響が出ることが懸念されます。
 そんな中で、サマータイム導入の問題点を分かりやすくまとめた論考をネット上で目にしましたので紹介します。猛暑の影響が懸念される代表格のマラソンに限ってみれば、確かに暑さの影響は軽減されそうですが、夜の種目はかえって気温が高い中で行わなければならないなど、問題の解決にはなりそうもないことがよく分かります。特に、睡眠の問題は深刻な社会問題になると感じました。平均的な起床時間は現在6時32分なので、2時間ずれると午前4時32分起床ということになります。これは、「1日24時間のうち最も涼しく質の高い睡眠が得られる時間帯に起床する」ことを意味します。社会全体に好影響があるようにはとても思えません。

ameblo.jp

 新聞各紙はどのような論調を打ち出しているのかをみようと、手元の紙面のほかネットでチェックできる社説をみてみました。目に留まったのは8日付の北國新聞の社説でした。「サマータイム導入 時間変更で混乱しないか」の見出しで、内容は、暑さ対策に一定の効果があることは認めつつ、結論としては「実施するには相当のリスクを覚悟しなければならない。何より官公庁や企業の負担が重く、プラス面よりマイナス面の方がはるかに大きいのではないか」と懐疑的です。常識的な内容だと感じました。同紙を発行する北國新聞社は本社石川県金沢市。森喜朗氏のお膝元です。
 9日付で産経新聞も「混乱回避が導入の条件だ」との社説(「主張」)を掲載しました。混乱が回避できないなら導入すべきではない、と読める内容で、導入には極めて慎重な姿勢だと感じました。