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丁寧な政治 安倍政権に求める~沖縄2紙は新基地反対を強調 参院選 地方紙の社説・論説

 参院選の結果について、地方紙・ブロック紙の7月22日付の社説・論説をネット上の各紙サイトでチェックしてみました。やはり、与党の改選過半数獲得と、改憲勢力が参院の議席の3分の2を割り込んだことに言及した内容が目立ちます。改選過半数を獲得したとしても、有権者が安倍晋三政権に全面的に信任を与えたわけではないとの指摘もあり、丁寧な政治を求めている点がおおむね共通しています。
 沖縄選挙区では、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古での新基地建設への反対を前面に打ち出した無所属候補が、自民党公認候補を破りました。「安倍政権が民意を無視して強行する新基地建設に『ノー』の意思を繰り返し繰り返し示しているのである」(沖縄タイムス「新基地反対の民意再び」)、「今回の参院選は駄目押しとも言える結果だ。これ以上、民意を無視した埋め立てを続けることは許されない」(琉球新報「新基地反対は揺るぎない」)との主張は、日本本土でも広く知られていいと思います。日本本土にある安倍政権の「安定」評価とは、まったく異なった情景です。
 以下に、ネット上でチェックできた各紙の社説・論説の見出しを記録しておきます。一部は、重要と感じた部分を引用して書きとめました。23日夜現在、サイト上で読めるものはリンクも張っています。

【7月22日付】
▼北海道新聞「参院選改憲勢力後退 暮らしの不安解消が第一」/年金の将来像議論を/問題多い首相の狭量/野党は一体感足りぬ/
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/327456?rct=c_editorial

 安倍政権での改憲を国民が信任したとは言えまい。何よりも、幅広い国民合意が必要な改憲を一方的に押し通してはならない。
 首相が取り組むべきは老後資金2千万円問題に象徴される国民の将来不安に正面から向き合うことであり、山積する外交の難題に解決の道筋を付けることだ。
 (中略)
 狭量とも言うべき首相の政治姿勢にも苦言を呈しておきたい。
 首相は街頭で「あの民主党政権の時代に逆戻りするわけにはいかない」と野党批判を繰り返し、立憲民主党の枝野幸男代表について「民主党の枝野さん」と呼んだ。
 民主党政権の負の印象をすり込むのが有効な戦術とみたのだろう。公党をおとしめるような攻撃は宰相としての品格が問われる。
 自民党は政権に批判的な人たちのやじを警戒し、首相の遊説日程を事前に公表しなかった。
 指導者に必要なのは異なる意見に耳を傾けつつ、自身の考えに理解を求める対話の姿勢だ。にもかかわらず、街頭で語りかけるのは支持者だけで反対者は遠ざける。
 こうした態度の先に待ち受けるのは社会の分断と亀裂ではないか。そう憂慮せざるを得ない。

▼河北新報「参院選自公勝利/おごらず底流の声を聞こう」
 https://www.kahoku.co.jp/editorial/20190721_02.html

 選挙の焦点は全国に32ある1人区の行方だった。全体で自民が制したとはいえ、東北では6選挙区のうち岩手、宮城、秋田、山形で野党統一候補が勝利した。
 輸出産業がひしめき、円安の恩恵を受ける関東以西の工業地帯に比べ、東北の有権者は「地方にまで及んでいない」と中央偏重の政策に疑いの目を向けている。株高など与党が言うほどの実感はない。
 農業政策への不信も影を落とす。8月には米国との貿易交渉が再開され、農産物輸入を押し付けてくるとの見方は根強い。前回選挙で示された環太平洋連携協定(TPP)に対する反発が、今も底流で渦巻いているのは確かだ。
 出口調査によると、宮城では「支持なし層」の3分の2が野党候補に投票している。秋田では、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」問題が影響した。出直しを求めた意味は重い。
 3年に1度の参院選は「権力をチェックし、戒める機会」とされる。一連の問題発言など緊張感のなさへの怒り、東北からの厳しいシグナルを軽視してはならない。

▼秋田魁新報「参院選与党過半数 白紙委任とは言えない」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20190722AK0011/

▼山形新聞「参院選、与党過半数 政権はおごることなく」
 http://yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20190722.inc

▼岩手日報「<’19参院選>与党が改選過半数 『安定』を誇るのならば」
 https://www.iwate-np.co.jp/article/2019/7/22/60418

 岩手選挙区は激戦の末、野党統一候補の新人・横沢高徳氏が自民現職の平野達男氏を破った。知名度不足を解消して27年ぶりの自民勝利を阻み、野党地盤の強さを改めて見せつけたと言える。
 野党は秋田、山形などでも自民候補を下し、東北では共闘により与党と渡り合えることを示した。だが、全国では現政権による政治の「安定」が選択されている。
 街頭で安倍晋三首相が唱えたのは、まさに「安定」だった。民主党政権時の「混乱」を批判し、政治の安定が経済の強さをもたらす-と叫ぶのを定番としていた。
 だが「安定」か「混乱」かに訴えを単純化し、対立軸がぼやけたことは否めない。選挙戦が盛り上がりを欠いた原因は、政策の争点化を政権が避けたことにある。

▼福島民報「【改憲3分の2割れ】丁寧な政権運営を望む」
 https://www.minpo.jp/news/moredetail/2019072265488

▼福島民友「参院選・与党改選過半数/信任におごらず政権運営を」
 http://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20190722-398728.php

▼茨城新聞「参院選 ゆがむ三権分立の修復を」
▼神奈川新聞「与党大勝 参院の検証機能発揮を」
▼山梨日日新聞「[参院選 与党が勝利]政権運営 謙虚な姿勢で臨め」

▼信濃毎日新聞「7.21参院選 与党が勝利 『安倍改憲』に民意ない」/政策すり替えるな/議論を避ける姿勢/国民代表の自覚を
 https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190722/KP190721ETI090002000.php

 安倍首相は街頭演説で9条に自衛隊を明記する必要性を何度も主張。改憲案を紹介する冊子も各地で配布した。
 首相は「憲法を議論する政党か、議論を拒否する政党か」と繰り返した。これに対し、野党は「結論ありきで、強引に議論を進めようとする自民党の姿勢に問題がある」などと反論した。選挙戦が抽象的な主張の応酬に終始する中で、改憲の必要性など本質的な論議は深まらなかった。
 有権者は改憲を支持したとはいえない。共同通信社が12、13日に実施した世論調査では、安倍政権下での改憲には半数超が反対し、賛成は3割強だった。6月下旬の調査より、むしろ反対の割合は増えている。
 本社が16日にまとめた参院選に関する世論調査でも、投票で重視する政策や課題(三つ以内)で、「憲法改正への姿勢」は6位で16%だった。一方で「景気・雇用などの経済対策」「医療・福祉・介護」がほぼ半数を占めている。有権者が求める政策をすり替えてはならない。
 改憲は国会が発議する。主権者である国民が求めていないのに、首相の信条に基づく改憲論議を進めることに無理がある。

▼新潟日報「与党改選過半数 全面的な信任とはいえぬ」/忖度発言に強い不信/批判に耳を傾けねば/改憲最優先ではない
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20190722484183.html

 新潟選挙区は全国屈指の激戦区となり、野党統一候補で無所属新人の打越さく良(ら)氏が、自民党現職の塚田一郎氏を小差で下した。
 県外で生まれ育ち、知名度でも劣る打越氏に現職の塚田氏が敗れた要因に、国土交通副大臣時代の道路整備を巡る「忖度(そんたく)」発言があったことは明らかだろう。
 失言は政治家としての資質を疑わせるとともに、安倍政権のおごり、緩みの象徴と受け止められたのではないか。
 首相や菅義偉官房長官がそれぞれ2回も本県入りするなど自民党はテコ入れを図ったが、有権者は厳しい判断を下した。不信が強かったことの表れだろう。
 選挙終盤には、週刊誌報道で新潟1区を地盤とする自民党の石崎徹衆院議員(比例北陸信越)の暴行疑惑も発覚した。「政治家の質」がより問われることになったに違いない。
 残念だったのは、「落下傘」「忖度」などの批判合戦が目に付き、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題など重要課題を巡る論戦が深まらなかったことだ。

▼北日本新聞「【19参院選】与党大勝/積極支持によるものか」

▼北國新聞「参院選で与党勝利 改憲の推進力にできるか」

 安倍首相はこれから自民党総裁任期の後半に向かう。参院選で得た政治基盤を生かして難局を乗り越え、日本の針路を定めていけるのか。とりわけ手腕が問われるのは自民党の公約に掲げた憲法改正であろう。参院選の結果を改憲の推進力にできるのかどうかは、選挙後の焦点となる。
 今回は「改憲勢力」の議席数が国会発議に必要な3分の2以上を維持するのかが注目された。憲法改正に前向き、もしくは反対しない勢力は3分の2を下回ったが、選挙後の国会は議論を避けて通ることはできない。
 安倍首相は公示前の党首討論会で、「国民民主党の中にも改憲に前向きな人がいる」と述べて、合意の形成に意欲を示した。改憲を目指す首相の決意が変わらなければ、選挙結果を受けた合意形成の働き掛けを通じて、与野党の改憲論議を促す可能性がある。
 ただし、憲法改正の議論を進めていくためには、与党が選挙戦で強調したように安定した政治基盤を保つ必要がある。そのためには、何より経済が好調であることが欠かせない。景気が失速し、目の前に暗雲が広がるような状態に陥れば、国会で腰を据えた議論を進めることも、国民の理解を深めていくことも難しくなる。

▼福井新聞「改憲勢力3分の2届かず 首相は前のめりを改めよ」/滝波氏、公約に注力を/国民投票議論が前提/長期政権の度量示せ
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/899525

 改憲勢力が3分の2に届かなかったことで、首相の軌道修正は必至だ。野党に秋波を送り多数派の形成を目指すことも想定される。一方で、改憲勢力の間でも具体的な改憲案で一致していない。自民党は9条と緊急事態対応、参院選の合区解消、教育充実の4項目を掲げている。
 特に首相は9条への自衛隊明記というレガシー(政治的遺産)づくりに前のめりだが、公明党は公約で「多くの国民は自衛隊を違憲の存在とは考えていない」と指摘、「慎重に議論されるべきだ」としている。各種世論調査でも国民が重視する項目の中で「改憲」の順位は低いのが実情だ。
 首相は「改憲を議論する政党を選ぶのか、審議を全くしない政党を選ぶかを決める選挙だ」と主張してきた。13年の選挙で大勝したため、議席維持のハードルは高かったこともあるが、そうした首相の居丈高な姿勢に国民が危うさを感じたのも一因だろう。
 立憲や国民など野党も議論自体は否定していない。とりわけ野党が指摘する国民投票法の問題点、CM規制の議論を進めるべきであり、改憲論議の前提として建設的な議論を求めたい。

▼京都新聞「参院選与党勝利  安倍政治は信任されたのか」/選挙の勝利が目的化/改憲への関心度低く/負担先送りは避けよ
 https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190722.html

 長期政権の継続は、行政を監視すべき国会との関係をいびつにしている。選挙での勝利による政権の維持が目的化し、国会での説明や議論より優先されていることが、今回の参院選で露骨に表れた。
 直前の通常国会で、政府・与党は3月に本年度予算が成立すると、国政チェックの主舞台である衆参の予算委員会開催を拒み続けた。老後に2千万円の蓄えが必要とする金融庁金融審議会の報告書も政府は受け取らず、なかったことにして与党も議論を封じた。
 とりわけ年金問題では、政府が給付水準を点検して過去6月に公表していた「財政検証」を選挙前に出さなかった。データの裏付けを欠いたことで、与党が訴える年金制度の持続性と野党の批判がかみあわず、有権者の抱く将来への不安に応える議論が深められなかったことは否めない。
 都合の悪い事実を隠し、説明責任を果たそうとしない政府を、与党の数の力で国会が下請けのように追認し、法案を通過させていく。立法府の存在意義が問われる事態の進行は民主主義を危うくしかねない。
 そこまで政権維持にこだわる安倍氏が見据えるのが、宿願の憲法改正であることは疑いない。
 安倍氏は、事前情勢で「与党堅調」とみるや訴えの柱の一つに改憲を押し出し、衆参両院の憲法審査会がほとんど開かれないことに「憲法を議論しない政党を選ぶのか」と野党に批判を浴びせた。
 改憲勢力の維持を目指しつつ、国民民主党にも協力の秋波を送っており、3分の2割れを受けて野党側の対応も注目されよう。

▼神戸新聞「自公改選過半数/本当に強い政権がなすべきこと」/混迷を抜け出したか/議論重ね合意形成を
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201907/0012537663.shtml

 この6年半、政府、与党が多弱野党の足元を見て丁寧な議論をしようとせず、数の力で法案成立を強行する国会運営が定着してしまった感がある。
 安倍首相は選挙戦で「議論する政党を選ぶのか、まったくしない政党を選ぶのか」と野党への挑発を繰り返した。憲法論議が進まないことを批判した発言だが、まず改めるべきは政権側の国会軽視の姿勢である。
 森友・加計(かけ)学園を巡る疑惑、統計不正問題などでは、野党が求める臨時国会召集や予算委員会開催をはねつけてきた。都合の悪い議論を避けてきたのはむしろ与党側である。
 世論調査では、安倍政権下での改憲への反対が賛成を上回る状況が続いている。首相は改憲論議に支持を得られたとの考えを示したが、数の力で強引に押し切る手法を国民が懸念していることを忘れてはならない。
 安倍政権が直面するのは、簡単に答えが出ない難問ばかりだ。さまざまな意見の対立が予想されるが、異なる意見を調整し、議論を尽くして合意を見いだすのが政治の役割である。
 本当の強さは、異論を敵視して排除するのでなく、批判勢力を含めた国民全体を包み込むものだ。自分の思いを遂げるためでなく、持続可能な未来へのビジョンを描き困難を打開するために生かしてもらいたい。

▼山陽新聞「改憲3分の2割れ 拙速な議論避けるべきだ」
 https://www.sanyonews.jp/article/921274?rct=shasetsu

▼中国新聞「与党改選過半数 『1強』信任とは言えぬ」
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=554941&comment_sub_id=0&category_id=142

▼山陰中央新報「参院選でかすんだ地方創生/実効性ある具体的施策を」
 http://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1563758827214/index.html

▼愛媛新聞「与党勝利 強引な政権運営改め課題対処を」

 だが、主な争点となった改憲や老後資金2千万円問題、消費税増税についての論戦では、有権者の疑問や不満に十分答えておらず、消化不良だった感は否めない。6年半にわたる安倍政権のおごりや緩みも顕著となっており、「白紙委任」でないことは明らかだ。政権与党は数の力を頼りに異論を封じ、強引に物事を進める従来の姿勢では国民の支持は遠のくと肝に銘じ、山積する課題に対応してもらいたい。
 安倍晋三首相は「憲法について議論をする政党を選ぶのか、責任を放棄して議論しない政党を選ぶか」などと野党への批判をむき出しにして主張を展開した。しかし、これまでさまざまな議論に背を向けてきたのは政権与党にほかならない。加計・森友学園問題の疑惑には正面から答えず、国論を二分するような法案で採決を強行してきた。先の通常国会では重要な論戦の場である予算委員会の開催要求を拒むなど、不誠実な国会運営を繰り返してきた。
 改憲に関しては、共同通信社の世論調査で安倍政権下での憲法改正に半数以上が「反対」だった。自民党は憲法9条への自衛隊明記を掲げるが、集団的自衛権の行使容認など、安倍政権が推し進めた安全保障政策への懸念は依然として根強い。選挙戦で公明党は改憲について争点化自体に疑問を呈すなど、与党でも認識が食い違っていた。選挙結果を受け、首相は改憲議論を加速させたい考えだが拙速は許されない。

▼徳島新聞「19参院選 合区で自民勝利 野党共闘は機能したか」
 https://www.topics.or.jp/articles/-/233166

 残念だったのは、徳島の投票率がまた低下したことだ。過去最低の38・59%に沈み、都道府県別では全国最下位となった。これほどの棄権は民主主義の危機と言える。
 高野、松本両氏とも地元が高知のため、県内の有権者になじみが薄かったのは確かだ。合区の弊害にほかならない。ただ、選挙が盛り上がらなかったのは、県内野党の低迷が大きく影響したのではないか。
 平成以降の県内の参院選を見ると、自民政権時に野党が勝利した際の投票率は、1989年が65・59%、98年は56・91%、2007年は58・47%と高い。
 これは無党派層が動いた結果だ。支持層の厚い自民候補を相手に、野党候補が勝機を見いだすには、浮動票を取り込む必要があることを示している。

▼高知新聞「【参院選徳島・高知】合区解消の責任より重く」
 https://www.kochinews.co.jp/article/294850/

 今回とは逆に前回は高知が「地元候補不在」となり、投票率は全国最下位だった。合区で広がった選挙区を候補者はくまなく回ることができず、訴えを浸透させるのは難しい。今後も合区が続けば、選挙離れに拍車が掛かる恐れは強まろう。
 高野氏は「合区解消をうたうのは自民だけ」と胸を張る。しかし自民は前回参院選でも合区解消を前面に打ち出していた。それが2度続いた以上、「公約違反」と言われても仕方ない。
 確かに自民の憲法改正案には、参院選の選挙区で、改選ごとに各都道府県から1人以上選出できる規定がある。ただし、「投票価値の平等」を求める憲法14条を損なう懸念などが指摘されている。
 衆参両院で多数派が異なる「ねじれ国会」では、参院が国政を止めるほど強い権限を発揮したこともあった。たとえ投票価値の平等が損なわれても議員の選び方を変えるというのなら、参院の権限は今のままでいいのか。
 参院の選挙制度改革は、衆院と参院の役割分担にまで立ち返った抜本的な論議が要る。6年間の長い任期を持ち、解散の心配もない参院議員自身が本来、それを担わなければならない。にもかかわらず出てきたのは、合区や特定枠といった緊急避難的な弥縫(びほう)策ばかりだ。

▼西日本新聞「岐路の選択 『改憲』より『暮らし』こそ」/何のための「安定」か/国民的合意の道筋を
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/529016/

 自民党は「公明党を含む与党で改選議席の過半数」「非改選も含めて与党で過半数」など、あらかじめ勝敗ラインを低く設定していた。自公が圧勝した6年前の反動減を意識せざるを得なかったからだ。与党は「政治の安定を訴え、国民に信任された」と言うが、手放しで喜べる結果ではあるまい。
 そもそも「政治の安定」は何のために必要か。与野党で意見が鋭く対立し、世論も二分する憲法改正を短兵急に進めるためではない。「国民生活の安定」のためにこそ必要なのではないか。私たちが首相に問いたいのはここだ。
 「老後2千万円」の問題は、その象徴だろう。公的年金以外に2千万円の蓄えが必要-とした金融庁の審議会報告書である。国民の「老後資金」の将来に警鐘を鳴らす一方、報告書の受け取りを拒んだ政府や与党の姿勢がかえって年金不信を増幅してしまった。
 年金の問題は同時に少子高齢化と人口減少を考えることであり、社会保障と税の在り方を不断に検証することだ。それは大局的な観点と中長期の時間軸で、この国のかたちを論じることに通じる。
 厳しい現実や困難な予測を踏まえ、たとえ国民に痛みや負担が生じるとしても、逃げずに率直に訴えるのが政治本来の役割である。

▼大分合同新聞「参院選開票 もろ手挙げた信任ではない」

▼宮崎日日新聞「参院選 政治への信頼回復急ぎたい」/不祥事頻発し失望感/将来の安心が最優先
 http://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_39977.html

 近年、公文書の改ざんや公的データの不正などが頻発し、民主主義の土台を崩しかねない事態が続いた。忖度(そんたく)風土や組織的隠蔽(いんぺい)のまん延も、安倍晋三首相の1強体制によってあぶり出された問題点だ。
 その体質や政治手法に対する審判を下す選挙だったが、宮崎選挙区の投票率は41・79%で、過去最低となった。
 前回2016年の選挙区での自民、公明の与党の得票数は全有権者の25・3%。「1強」とは言うものの、低投票率が続く国政選挙で、全有権者の4分の1程度にとどまる得票で圧倒的多数の議席を占めているのが実態だ。今参院選でも同様で、これでは健全な民主主義の姿とは言えない。
 有権者の側も、意思を表明する貴重な機会を生かし切れなかった。不祥事の解明や信頼回復に積極的に動かず、逃げの姿勢ばかりが目立つ政治。その貧困さに有権者は「またか」と失望感を膨らませ、諦めの境地に至った人が多いのではないか。
 地方組織が弱体化し、候補者擁立に手間取った野党は受け皿になれなかった。負託を受けた新議員は現状を認識し、向き合っていかなければならない。

▼佐賀新聞「参院選 ゆがむ三権分立の修復を」(共同通信)
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/403594

▼熊本日日新聞
「2019参院選・県内 多様な声聞く『受け皿』に」
 https://kumanichi.com/column/syasetsu/1124617/

 しかし、3年前の参院選と比べ、野党の足並みの乱れは明白だった。前回の選挙戦を主導した民進党は立憲民主党と国民民主党に分裂。その立民県連は阿部氏擁立を巡り内部対立し、国民県連も支援にとどめた。さらに、いったんは阿部氏推薦を出した連合熊本が後に取り消す事態も生じた。県内の非自民系の地方議員らが地域政党「くまもと民主連合」を設立して支援したが、野党共闘への疑問符は消えず、無党派層の取り込みも不発に終わった。
 その結果、投票率は47・23%にとどまり、過去最低だった前回の51・46%をさらに4・23ポイント下回った。有権者を投票に動かす選択肢を提供できない政党や政治家の責任は重い。

「2019参院選・全国 慢心戒め広く合意形成を」
 https://kumanichi.com/column/syasetsu/1124613/

 選挙戦で、与野党は年金制度や消費税増税、憲法改正、安保政策などを争点に論戦を繰り広げた。いずれも日本の針路を左右する重要な課題だが、論議は深まらなかった。
 象徴的だったのが年金問題だ。政府与党は、年金財政の健全性をチェックする「財政検証」の公表を参院選後に先送りした。有権者は判断材料を奪われた形で、与野党の政策の違いを見極めることができなかったのではないか。
 そうした選挙戦への影響を回避する選挙戦術が功を奏し、結果として消去法での与党の支持に結び付いた印象も否めない。前回2016年参院選の54・70%を下回る低い投票率はその表れとも言える。有権者がもろ手を挙げて政権を信任したと判断するのは早計だろう。

▼南日本新聞「[2019参院選・与党過半数] 批判票の重み自覚せよ」/年金不安の解消を/緊張感を欠く政治
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=108181

 2012年12月の第2次安倍政権発足以来、6年半が過ぎた。この間、都市部を中心に雇用環境が改善し、株価も上昇するなど経済は上向いた。
 だが、地方は景気回復を実感できない。東京への一極集中が拡大、人口減少や人手不足は深刻で、明るい展望が開けないままである。
 比例代表や鹿児島など改選1人区で少なくない政権批判票が投じられた。その背景には、こうした地方の不満や、たびたび露呈した「安倍1強」体制といわれる長期政権のおごりがあるのではないか。
 論戦から逃げて、数の力で押し切る政治を国民は望んでいない。反対意見にも真正面から向き合い、議論を尽くすのが政権与党に課せられた使命である。

▼沖縄タイムス「[高良鉄美氏が初当選]新基地反対の民意再び」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/448319

 今回の参院選は第2次政権発足から6年半におよぶ「安倍政治」を総括する選挙である。2014年11月に翁長雄志前知事が新基地反対を掲げ、初当選した以降とほぼ重なる。
 全国では自民、公明両党が早々と改選過半数の議席を獲得し、安倍晋三首相は引き続き「1強体制」の政権基盤を手に入れた。ところが沖縄では全く逆である。
 沖縄ではこの間、知事選2回、衆院選2回、衆院3区補選、参院選2回が実施されている。自民党が獲得した選挙区の議席はわずか衆院4区だけである。
 新基地に反対する「オール沖縄」勢力が12勝1敗と圧勝。安倍政権が民意を無視して強行する新基地建設に「ノー」の意思を繰り返し繰り返し示しているのである。
 民主主義の根幹である選挙結果の意味は重い。

▼琉球新報「参院選高良氏当選 新基地反対は揺るぎない」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-957908.html 

昨年9月の県知事選で玉城デニー氏、今年4月の衆院3区補欠選挙で屋良朝博氏、そして参院選で高良氏と、新基地建設反対を掲げた候補者が立て続けに当選した。2月の県民投票では投票者の7割超が埋め立てに反対している。
 今回の参院選は駄目押しとも言える結果だ。これ以上、民意を無視した埋め立てを続けることは許されない。
 政府に求められるのは辺野古に固執する頑迷な姿勢を改めることだ。今度こそ、沖縄の声に真剣に耳を傾け、新基地建設断念へと大きくかじを切ってほしい。県内移設を伴わない普天間飛行場の返還を追求すべきだ。

 

「自公過半数」「改憲勢力2/3割れ」参院選結果、在京紙報道の記録~付記 軽視できない街頭演説からの市民強制排除

 第25回参院選は7月21日投開票が行われました。自公の与党が改選過半数を占めたほか、自民、公明に日本維新の会など改憲に前向きな「改憲勢力」は、改憲の発議に必要な参院全体の議席の3分の2を割り込みました。東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の22日付朝刊も、1面はいずれもこの二つの要素で大きな見出しを取っていますが、パターンが分かれています。
 朝日、毎日、日経の3紙はもっとも重要な横向きの主見出しに与党の過半数獲得、2番目に重要な縦見出しに改憲勢力の3分の2割れを据えました。これに対して産経、東京両紙は、主見出しに改憲勢力の動向を取り、与党の過半数は2番目でした。読売新聞は朝日、毎日、日経に近いのですが、「与党勝利」の見出しの大きさに比べると、改憲勢力の議席動向は、紙面を二つ折りにすると下半分になってしまう位置に「与党・改憲勢力2/3割れ」と控えめに置かれています(写真ではこの見出しは見えません)。
 選挙結果を大きく捉えるなら、確かにポイントは自公の改選過半数獲得と、改憲勢力の議席動向になるのだと思います。

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 ※紙面は最終議席が確定する前のものであり、同じ新聞、同じ東京都内でも、降版・印刷の時間帯によって見出しが異なっている可能性があります

 各紙ともそろって1面に政治部長の署名評論を載せたほか、社説でも選挙結果を取り上げています。以下に見出しを書きとめておきます。それぞれの主張の差が読み取れるのではないかと思います。特に憲法改正を巡っては、主張の差は大きいと感じます。

▼1面署名評論
・朝日新聞「多様な価値観 丁寧に論戦を」栗原健太郎・政治部長
・毎日新聞「分断から統合の政治を」高塚保・政治部長
・読売新聞「『6連勝』に待ち受ける道」伊藤俊行・政治部長
・日経新聞「自民・非自民争いの限界」丸谷浩史・政治部長
・産経新聞「改憲へ成否の1年 首相覚悟示せ」佐々木美恵・政治部長
・東京新聞「異論に耳傾ける政治を」清水孝幸・政治部長

▼社説
・朝日新聞「自公勝利という審判 『安定』の内実が問われる」/「緊張」求める民意も/改憲支持と言えるか/先送りのツケ一気に
・毎日新聞「19年参院選 自公が多数維持 課題解決への道筋見えず」/強引な憲法論議避けよ/半数棄権の危機的状況
・読売新聞「参院選19 与党改選過半数 安定基盤を政策遂行に生かせ 超党派で社会保障を論じたい」/長期政権の実績を信任/野党は流動化の可能性/憲法論議の活性化を
・日経新聞「大きな変化を望まなかった参院選」/安全運転だった与党/野党はあまりに無策
・産経新聞(「主張」)「参院選で与党勝利 『大きな政治』の前進図れ 有志連合への参加を試金石に」/憲法改正を説くときだ/社会保障の改革着手を
・東京新聞・中日新聞「改憲派3分の2割れ 政権運営は謙虚、丁寧に」/白紙委任状は与えない/改憲以外に課題が山積/三権分立を機能させよ

 社会面の中心的な見出しも書きとめておきます。各紙、横向きに第2社会面と合わせて見開きで大きな見出しを取り、この選挙の意義のようなものを大づかみに表現しようとしています。その中で、見開き見出しを取らない読売新聞の社会面づくりがやはり目を引きました。
▼社会面ヨコ見出し
・朝日新聞「6年半を評価 求めた安定」「未来変えたい 託した希望」(見開き)
・毎日新聞「なんとなく自民」「野党任せきれぬ」(見開き)
・読売新聞「自民祝勝ムード」
・日経新聞「『安定の自民』選択」「風なき野党 息切れ」(見開き)
・産経新聞「与党 新時代も勢い」「野党 明暗くっきり」(見開き)
・東京新聞「令和の風 女性躍進」「9条守る 決意の1票」(見開き)

 

 以下はわたしの雑多な感想です。今回の選挙では、いくつか気になる点があります。そのうちの一つは、「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」がそれぞれ2議席、1議席を獲得したことです。選挙前には政党要件を満たしていなかったために、新聞や放送のマスメディアの取り上げ方は、決して大きなものではありませんでした。それでも、れいわ新選組は、擁立した候補がそれぞれ社会の課題を体現していたとの感がわたしにもあり、SNSなどを通じて支持が広がったことは理解しやすいと思います。しかし、NHKから国民を守る党は、その主張が真に社会的課題なのかどうか、わたしには違和感があります。議席獲得が、今の日本社会の何をどう示しているととらえればいいのか。その点を解きほぐすことは、マスメディアの課題でもあると思います。

 実は今回の選挙を通じてもっとも気になったのは、安倍晋三首相の街頭演説中に、「安倍やめろ、帰れ」などと叫んだ市民が警察官に取り押さえられ、演説の現場から排除された、という出来事でした。わたしが報道で見ていた限りですが、最初に報じたのは朝日新聞でした。7月15日、札幌市でのことでした。次いで共同通信や毎日新聞なども報じました。
 北海道新聞は演説現場から排除された当事者にも取材して、詳細な記事にしています。一部を引用して書きとめておきます。

※北海道新聞「突然包囲、2時間見張られ… 首相へのヤジ排除『恐怖感じた』『異様』」=2019年7月20日
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/326197

 「なぜ自由を奪われたのか。日本でこんなことが起こるなんて」。大学4年の女性(24)は声を震わせた。JR札幌駅前での首相の演説中、聴衆の後方から「増税反対」と叫んだ。政権に不満や不安を伝えたくて、意を決して初めて上げた声だった。だが、すぐに警察官に囲まれ、両脇を抱えられるように隅に追われた。数えると8人いた。
 首相は次の会場の札幌三越前に移動したが、女性は警察官から「(あなたは)危害を加えるかもしれない」と言われ、行く手を遮られた。逃れたくて200メートル先のレンタルビデオ店に向かったが、店に着くまで女性警察官に腕を組まれたまま。中に入っても外に立っていた。
 警察官がそばから離れたのは約2時間後という。首相は既に演説を終え、札幌市中心部を後にしていた。「罪を犯したわけでもないのに…」。今もそのショックは消えない。

 この強制排除に対しては、法的な根拠を欠いているのではないか、との専門家の指摘も報じられています。仮に、最高権力者におもねるように、あるいは忖度して、警察が法的根拠を欠いて恣意的に動いたのだとしたら、まさに民主主義の危機であり、軽視できません。警察内部で組織的な指示があったのかどうかなど、マスメディアが継続して追うべき課題だろうと思います。
 この出来事については、東京新聞の清水孝幸政治部長が先に紹介した1面の署名評論記事「異論に耳傾ける政治を」の冒頭で触れています。一部を引用して、書きとめておきます。 

 今回の選挙で衝撃的な出来事があった。安倍晋三首相が札幌市で街頭演説していたとき、やじを飛ばした男性と女性が相次いで景観に取り囲まれ、体を押さえつけられて無理やり移動させられた。民主主義国家では考えられない光景だ。
 安倍政権の六年半を振り返ると、国会議事堂を市民が取り囲む中、法案の採決を強行したシーンがいくつも浮かぶ。特定秘密保護法、安保法、「共謀罪」法…。反対意見に耳を傾けず、時間をかけて議論する「熟議」を嫌い、「数の力」で押し通してきた。
 それどころか、首相は批判勢力や反対意見を強い口調で攻撃する。旧民主党政権を「悪夢」とこきおろす。異論を敵視し、唱える人間を排除する意識がにじむ。役人は排除を恐れて首相の意向の忖度に走り、森友・加計問題が起こった。ネット上でも政権批判をする人を攻撃する風潮が広がる。札幌市の出来事は延長線上にあるように映る。

 

「不偏不党」と「ペンか、パンか」~故原寿雄さんが問うた組織ジャーナリズムの命題

 一つ前の記事「『不偏不党』の由来と歴史を考える~読書:『戦後日本ジャーナリズムの思想』(根津朝彦 東京大学出版会)」を読み返しながら考えたことを書きとめておきます。組織ジャーナリズムと「ペンか、パンか」の命題のことです。
 「ペンは剣よりも強し」とのたとえがあります。しかし、組織ジャーナリズムの強さが本当に問われるのは、そこでの対応いかんによっては組織が存続できないかもしれない、というような事態のときではないのか。個々の記者やデスクをはじめとした従業員や家族の生活、すなわち「パン」の問題が掛かった時に、新聞社などのジャーナリズム組織はどう振る舞うのか、「パン」のためには「ペン」を曲げるのもやむを得ないのか、という問題です。
 日本の新聞が戦前、白虹事件を契機として、根津朝彦さんが指摘したように「新聞界では政府に刃を向けない姿勢を意味する『不偏不党』が浸透する」「新聞の戦争協力ということで、『満洲事変』以後を新聞の曲がり角と思う読者もいるかもしれないが、すでに白虹事件で『不偏不党』の名のもとに自主規制を積極的に内面化する、決定的な曲がり角を迎えていたのである」という状況にあったことは、この「ペンか、パンか」の問題としても意識しておく必要があるように思います。
 「ペンか、パンか」は元共同通信編集主幹の故原寿雄さん(2017年11月に92歳で死去)が繰り返し、問うていた命題でした。わたしも直接、原さんから聞いたこともあります。この問題についてここでは、2017年12月に書いたこのブログの記事を一部引用しておきます。なお、原寿雄さんについては、根津さんも「戦後日本ジャーナリズムの思想」で1章を割いて紹介しています(「第5章 企業内記者を内破する原寿雄のジャーナリスト観」)。

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▽「我が国ジャーナリズム」に陥るな~「ペンか、パンか」の問題
 二つ目は、ジャーナリズムは「我が国」とか「国益」などの意識から離れよ、ということです。偏狭なナショナリズムに陥るな、と言ってもいいと思います。そうした意識は排他的なものの考え方と結びつき、社会を戦争に駆り立てるものだからです。このことは原さんから何度もお聞きしましたし、著書やお書きになった文章でも必ずと言ってもいいほど触れていたのではないかと思います。原さんの考えの根底にあるのは、1931年の満州事変を境に、戦争に反対しなくなった戦前の新聞だと思います。「我が国ジャーナリズム」では戦争に反対できない、ということもおっしゃっていました。
 記事では「我が国」と書かずとも「日本」と書けば十分です。政治家の発言の直接引用などは別として、この点は私も実務の上で、先輩たちからそう教育を受け、また後輩たちにもそう指導してきました。「我が国ジャーナリズム」では戦争に反対できない、という意味づけはとてもクリアです。
 これに関連すると思うのですが、原さんは新聞が反戦ジャーナリズムを維持できるかどうかに関して「ペンか、パンか」の命題を重視していました。「パン」とは新聞社の従業員と家族の生活です。戦前の新聞が戦争に反対しなくなった歴史は、一面ではペンがパンに屈した歴史でした。しかも、必ずしも反戦の言論に対する直接的な弾圧はなくとも、新聞の側が忖度するように軍部批判を辞めていった歴史です。翻って今日、原さんは「結局は個人の覚悟から出発するほか、ペンの力がパンの圧力に勝つ反戦ジャーナリズムの道はないように思う」と、2009年刊行の岩波新書「ジャーナリズムの可能性」に書いています。そして「日本ではジャーナリストも企業内労組に属し、一般職を含む労組はパンを優先しがちである」として、労組が反戦を貫けるかどうか「正直言って覚束ない」とも。原さんはかつて、新聞労連の副委員長でした。はるかに下って、新聞労連の委員長を務めた私は、この指摘に忸怩たる思いですが、一方では原さんの危惧を共有してもいます。
 ジャーナリズムの究極の目的は戦争をなくすこと、始まってしまった戦争を終わらせることです。労働組合の目的の一つが、働く者の地位と生活の向上だとして、それは何のためかと言えば、貧困や社会不安の根を除き、戦争の芽を摘み取ることです。ジャーナリズムの労働組合運動にとっては、戦争反対は二重の意味で譲ってはならない目標のはずで、「ペンとパン」の問題はここにもあるのだと、今、この文章を書きながらあらためて思います。戦争については、原さんが「『良心的』ではだめだ。良心的な人が戦争に加担していた。良心を発動しなければならない」と常々おっしゃっていたことも強く印象に残ります。 

 ※参考過去記事

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「不偏不党」の由来と歴史を考える~読書:「戦後日本ジャーナリズムの思想」(根津朝彦 東京大学出版会)

 著者の根津朝彦さんは立命館大産業社会学部メディア社会専攻の准教授。戦後ジャーナリズム史の研究者であり、本書は学術専門書です。しかし、というか、であるからこそ、と言うべきか、新聞や放送のマスメディア企業の中に身を置く記者、デスク、編集幹部から経営幹部に至るまで、およそ組織ジャーナリズムに仕事としてかかわる人たちにこそ、一読すべき価値があると思います。それがわたしの読後感です。

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 新聞や放送のマスメディアの報道のあり方に対しては、アカデミズムからの研究者の論評・批評は少なくなく、マスメディア自身もしばしばそれ自体を報道として取り上げます。事件事故を巡る当事者を実名とするか、匿名とするかなどは、その典型的な事例だと言っていいと思います。そうした問題はマスメディアの内部でも、議論が交わされています。公権力とマスメディアとの関係や間合いについても、最近では、東京新聞記者に対する官房長官記者会見での質問妨害を、複数のマスメディアが報じている事例などがあります。
 ただ、その時々のマスメディアの報道にとどまらず、「戦後日本」という時間軸で、新聞や放送に加え総合雑誌など出版まで含めて、通史的にジャーナリズムをとらえるアプローチは、今まであまりなかったことのようです。少なくとも、新聞や放送のマスメディアの内側では、わたし自身の新聞労連などマスメディアの労働組合での経験を振り返っても、そうした議論が恒常的にあったとは言い難い状況です。
 その要因の一つには、ジャーナリズムとはその言葉が示す通り、日々の出来事を記録して伝えることであって、現場の記者やデスク、編集者にとっては、きょうの出来事、あす起きそうなこと、さらにはその先をどこまで見通すかが優先すべき事項である、という事情があるように思います。50年前、100年前のジャーナリズムを自らが振り返る機会は、特別な企画記事を連載する事例などのほかには、なかなかないのが実情です。
 だからこそ、アカデミズムによる研究者の「ジャーナリズム史」のアプローチは、とりわけ組織ジャーナリズムで働く者にとって、自らの仕事の過去を知り、そこから得られる教訓を踏まえて将来を考える上で意義があると感じます。

 本書から一つだけ具体例を挙げれば、第1章で著者の根津さんが指摘している「不偏不党」の由来の問題があります。辞書的な意味としては「偏らず、いずれの党派や主義にも与しないこと」といったことになるかと思います。「公正中立」とともに、マスメディアの報道にとっては、あまりにも基本的な、自明の原則のように思えます。
 例えば朝日新聞社は「朝日新聞綱領」の中の最初の一項で「不偏不党の地に立って言論の自由を貫き、民主国家の完成と世界平和の確立に寄与す」と掲げています。
 ※会社概要 | 朝日新聞社インフォメーション

 ほかの新聞社、通信社も編集綱領などで表現は違っていても、同様の理念を掲げている例があります。
 放送となると、放送局が遵守しなければならない放送法は第1条で「この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする」とし、その一つに「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること」と明記しています。
 そのような「不偏不党」について、著者の根津さんは「第1章 『不偏不党』の形成史」で、「不偏不党」が1918年の大阪朝日新聞白虹事件を契機に日本のジャーナリズムの規範として浸透し、「その規律が、独立したジャーナリズムの生成を歴史的に妨げてきた」と指摘します。
 ※大阪朝日新聞白虹事件は、ウイキペディア「白虹(はっこう)事件」に概要が記されています。

白虹事件 - Wikipedia

 それによると、大正デモクラシー当時、シベリア出兵や米騒動に関連して寺内正毅内閣を激しく批判していた大阪朝日新聞が、記事の中に内乱の兆候を示すとされる「白虹日を貫けり」の故事成語を引用していたことを理由に発行禁止の動きにさらされ、社長や編集幹部が退陣。「本社の本領宣明」を発表して「不偏不党」の方針を掲げたという出来事です。「大阪朝日新聞の国家権力への屈服を象徴しており、これ以降、大阪朝日新聞の論調の急進性は影をひそめていく」と記されています。

 根津さんは、白虹事件以後について「新聞界では政府に刃を向けない姿勢を意味する『不偏不党』が浸透する」と指摘し、「新聞の戦争協力ということで、『満洲事変』以後を新聞の曲がり角と思う読者もいるかもしれないが、すでに白虹事件で『不偏不党』の名のもとに自主規制を積極的に内面化する、決定的な曲がり角を迎えていたのである」と書いています。
 さらに根津さんは、1945年の敗戦後、今日にまで連なる問題の一つとして「言論の不自由と自主規制に結びつきやすい皇室報道」を挙げています。以下、いくつかの指摘を引用します。
 「今日のマスメディアでも、天皇制廃止や、天皇制批判の言説が大々的に取り上げられることは少ない。この天皇制に対する自由な議論を妨げている一つの要因が、皇室報道、とりわけ敬語報道である」
 「中奥宏が指摘するように『天皇』という表現自体すでに尊称なのである。天皇と表記しても『呼び捨て』ではなく、『天皇陛下』自体が過剰な表現であるのだ。象徴天皇制という呼称が盤石となった状況をどう見るかはさておき、天皇制は日本の加害責任・戦争責任の象徴としても私たち主権者に刻まれる必要があるのではないか。終章でも触れるように、天皇・皇族個々人への敬意と、制度・報道の議論は次元の違う問題である」
 「現実的には、明仁天皇から新天皇への代替わり以降に、敬称報道(※引用者注:『陛下』『殿下』『さま』の敬称を付ける報道)を見直すことも必要である。ジャーナリズムが物事の核心に迫る営為とするならば、自主規制を発動させやすい天皇制の問題を放置していいとは思わない。それが言論の自由を拘束してきた『不偏不党』の歴史に関わりがあることを鑑みれば、なおさらである」

 知識として白虹事件のことは知っていても、現在もマスメディアが掲げる「不偏不党」との絡みでは、恥ずかしながらわたし自身、ここまで深く考えてみたことはありませんでした。皇室報道と令和への改元についても、明仁天皇の生前退位で、1989年の平成への改元の時とは違って、自由に元号を論じることができたという声がありながら、実際には祝賀ムードに終始した印象の報道だったことは、全国紙を例にこのブログでも記録した通りですが、そのことを「不偏不党」と結びつけて考察していく視点の意味を、本書を読んであらためて考えています。

 「不偏不党」は本書が論じている問題の一例ですが、これ一つとっても、マスメディアの内部でその由来について、確固とした共通の認識があるとは言い難いように思います。もちろん、1945年の敗戦を挟んで、日本の新聞は再出発を期し、「不偏不党」についても現在は字義通りに「偏らず、いずれの党派や主義にも与しないこと」と受け止めていることと思います。それでもこの言葉の由来やたどった歴史を知っておくことは、組織ジャーナリズムが公権力との関係を厳しく問われるような事態に立ち至った時に、自らの立ち居振る舞いを考える際に意味を持ってくるだろうと思います。
 
 以下に、本書の主要目次を紹介しておきます。

序 章 戦後日本ジャーナリズム史の革新

第I部 日本近現代のジャーナリズム史の特質
第1章 「不偏不党」の形成史
第2章 1960年代という報道空間

第II部 ジャーナリズム論の到達点
第3章 ジャーナリズム論の先駆者・戸坂潤
第4章 荒瀬豊が果たした戦後のジャーナリズム論

第III部 ジャーナリストの戦後史
第5章 企業内記者を内破する原寿雄のジャーナリスト観
第6章 「戦中派」以降のジャーナリスト群像

第IV部 戦後ジャーナリズムの言論と責任
第7章 『世界』編集部と戦後知識人
第8章 清水幾太郎を通した竹内洋のメディア知識人論
第9章 8月15日付社説に見る加害責任の認識変容

終 章 日本社会のジャーナリズム文化の創出に向けて

付録 近現代を結ぶメディアのキーワード 

戦後日本ジャーナリズムの思想

戦後日本ジャーナリズムの思想

 

 

【追記】2019年7月9日0時

 筆者の根津朝彦さんの肩書の「立命館大産業社会学部社会専攻」に誤りがありました。正しくは「社会専攻」ではなく「メディア社会専攻」でした。本文を訂正しました。

 

【追記2】2019年7月15日8時30分

 組織ジャーナリズム(ペン)が従業員や家族の生活(パン)が掛かった事態に立ち至ったときにどう振る舞うのか。「ペンか、パンか」の問題について別記事を書きました。

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改憲、年金、消費税~参院選公示、在京紙の報道の記録

 参院選が7月4日、公示されました。21日の投開票日まで、各党、各候補者の訴えが続き、マスメディアにとっても大きな報道テーマになります。
 東京発行新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の5日付朝刊もそろって1面トップの扱いでした。各紙の1面の見出しを追っていくと、憲法(改憲)、年金(社会保障)、消費税(増税)といったところが共通しています。主見出しで朝日新聞「安倍政権6年半 問う」と毎日新聞「安倍政権7年審判」が同じテイストなのが目を引きました。一方で産経新聞は1面の主要な記事、見出しをほぼ憲法、改憲に絞っています。
 個人的には、この長期に及ぶ安倍晋三政権のもとで「あったこと」が「なかったこと」になってしまうことが起きていること、官房長官記者会見での東京新聞記者に対する質問妨害のように、マスメディアにも直接的に攻撃が加えられていると言っていい事態になっていることなどに対して、マスメディア自体が当事者性を自覚して、選挙の争点掘り下げをどう報道で展開していくかに注目していこうと思います。
 備忘を兼ねて、5日付の東京発行各紙朝刊の1面、総合面、社会面と社説の主な見出しを書きとめておきます。

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【朝日新聞】
・1面
「安倍政権6年半 問う/年金・増税・憲法 焦点に/参院選公示 21日投開票」
「不安にふたせず 論戦を」佐古浩敏・ゼネラルエディター
・2面「政治の安定 内実は」「与党 数の力誇示、不都合隠し」「共闘野党 長期政権 是非訴え」
・3面「各党の政策 争点は」※「消費税」「憲法」「老後不安」「外交・安保」「人手不足」
・社会面
「これからの6年 託す 選ぶ」※「東京五輪・パラ」「復興期間終了」「普天間返還」「65歳以上が3割」「やまゆり園事件」「森友・公文書改ざん」
・第2社会面
「議員に嘆き『品位・信念を』■就活『東京と格差』」「『#わたしの争点』SNSで」#ニュース4U(for you)
▽社説「参院選 社会保障への不安 負担と給付の全体像を示せ」/「痛み」を語らず/新たな政策課題も/政治の責任は重い

【毎日新聞】
・1面「安倍政権7年審判/改憲3分の2焦点/年金・消費増税論戦/参院選公示 21日投票」
・2面「野党 焦点の1人区」「共闘『立』『国』足並み乱れ」「複数区は候補者乱立」
・3面・クローズアップ「首相 改憲を前面に」「『宿願』に公明は慎重」「勝敗ライン下げ躍起」「長期政権 外交力強調」
・社会面トップ「暮らしの課題 答えは」※「年金」「消費増税」「陸上イージス」「被災地」「外国人」「地方創世」「女性活躍」
・第2社会面「世間話に『行った?』」粟島浦村・新潟県/「多忙『行かんでも…』」浪速区・大阪市(高低 投票率のまちから)
▽社説「19年参院選 安倍外交 米国との距離が問われる」

【読売新聞】
・1面
「年金・憲法で攻防/参院選370人立候補/21日投票」
「令和の針路 託すのは」東武雄・政治部次長
・2面「第一声『安定』『安心』」「首相6年の実績強調/枝野氏『老後2000万円』批判」
・3面・スキャナー「1人区 全面対決」「自民 幹部集中投入/野党共闘 温度差も」「党内競争激しく*比例選」
・社会面トップ「舌戦 雨中の号砲/『令和初』与野党が激突」/「女性対決■『忖度』巡って」
・社会面準トップ「若者の一票 誰に」「旗、漫画で投票呼びかけ」/「『年金政策見比べる』『弱者に寄り添って』/有権者の声」
▽社説「参院選19 参院選公示 政策と実行力を吟味したい」

【日経新聞】
・1面
「社会保障・憲法で論戦/改憲勢力2/3焦点に/参院選公示370人立候補」
「中長期の日本 議論を」原田亮介・論説委員長
・3面「改憲論議の行方左右/勝敗ライン」「信認確保へ最低目標 自公53」「『3分の2』発議可能に 改憲勢力86」「改選過半数『安定多数』に 自公63」
・社会面トップ「暮らし託す一票見定め」※「社会保障」「消費増資」「子育て」「沖縄」
▽社説「19参院選 女性が立候補しやすい社会に」

【産経新聞】
・1面
「改憲勢力の維持 焦点/参院選公示370人立候補/21日」
「3分の2 高い壁/首相『全体の過半数守る』」
「令和の国家像を語れ」佐々木美恵・政治部長
・2面「32の1人区 攻防激化」「与党 『激戦』東北テコ入れ」「野党 前回の11勝超えるか」
・3面「有権者に響く声は/党首ら第一声」
・社会面トップ「令和 安心求めて/東京 年金・五輪・子育て 未来占う」/「有権者 何望む?/自動運転技術■若者の支援を■待機児童解消■忖度に歯止め」
・第2社会面「大雨かすむ争点」「宮城 復興は道半ば『声を届けて』」

【東京新聞】
・1面「憲法 暮らし 未来選ぶ 論戦火ぶた/参院選公示 21日投開票」
・2面・核心「戦略二分」「『政治の安定』与党強調」「年金・消費税 4野党焦点」「参院選訴え 維新は独自路線」
・3面「改憲左右」「3分の2維持 反体制紙手順加速」「大きく割れば 20年施行は困難に」
・特報面(28、29面)
「弱者軽視『上から目線』「品格失い忖度が横行」民、侮るなかれ 参院選2019
・社会面トップ「年金 老後の要 議論を」「赤字生活『一票で変えたい』/『若者も当事者意識持とう』」
・第2社会面「憲法 安保どうあれば」「自衛隊の活動制限なくなる■軍備増強せず平和を/国を守るため軍に位置付けて■法の拡大解釈怖い」
▽社説「19参院選 党首第一声 有権者の胸に響いたか」

「2000万円貯蓄」問題 安倍政権への視線は厳しいが~6月の世論調査から(備忘)

 6月に新聞・放送などのマスメディアが実施した世論調査結果のうち、目に止まったものについて備忘を兼ねて書きとめておきます。安倍晋三内閣の支持率は、6月上旬実施のNHK調査と6月下旬の朝日新聞調査は前月と変化がありませんでしたが、6月半ばに実施した毎日新聞、産経新聞・FNN、共同通信の3件の調査では、そろって支持率が3ポイント前後減少したのが目を引きました。ただ、支持率自体は40%台後半と高い水準の調査結果が目立ちます。

【内閣支持率】※カッコ内は前回(前月)比、Pはポイント
▼朝日新聞 6月22、23日
 「支持」45%(±0)
 「不支持」33%(1P増)

▼毎日新聞 6月15、16日
 「支持」40%(3P減)
 「不支持」37%(6P増)
 「関心がない」21%(2P減)

▼産経新聞・FNN 6月15、16日
 「支持」47・3%(3・4P減)
 「不支持」36・5%(1・6P増)

▼共同通信 6月15、16日
 「支持」47・6%(2・9P減)
 「不支持」38・1%(1・9P増)

▼NHK 6月7~9日
 「支持」48%(±0)
 「不支持」32%(±0)

 個別の設問では、95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要とした金融庁金融審議会の報告書を、麻生太郎金融担当相が受け取り拒否した問題を巡って、朝日、毎日、産経・FNN、共同の各調査が尋ねています。総じて、この問題を巡っては世論が安倍政権に対して厳しい目を向けていることがうかがえます。しかし、朝日新聞の調査では参院選の投票に当たって年金の問題を重視すると回答したのは51%であり、内閣支持率の水準の高さをも考え合わせると、7月21日投票の参院選への影響は、現状では限定的なようにも思えます。
 以下に各社の調査の主な質問と回答状況を書きとめておきます。なお、読売新聞は6月28~30日に世論調査を実施し、結果は7月1日付の朝刊に掲載しているようです。同紙のサイトによると、内閣支持率は前回比2ポイント減の53%、不支持率は4ポイント増の36%でした。


▼朝日新聞
・金融庁の審議会が、公的年金だけでは老後の生活費が2千万円不足するとの報告書をまとめました。この報告書が出たことで、年金について不安が強まりましたか。
 不安が強まった 49%
 それほどでもない 45%
・老後の生活費についてのこの報告書が、世間に不安や誤解を与えたとして、金融担当の麻生大臣は受け取りを拒否しました。この問題をめぐる安倍政権の対応に納得できますか。
 納得できる 14%
 納得できない 68%
・安倍政権は、年金制度の改革に、十分に取り組んできたと思いますか。
 十分に取り組んできた 14%
 十分ではなかった 72%
・今度の参議院選挙で投票する政党や候補者を決めるとき、年金の問題を重視しますか。
 重視する 51%
 重視しない 41%

▼毎日新聞
・夫婦の老後資金として、公的年金だけでは「約2000万円不足する」と試算した金融庁の審議会の報告書がまとまりました。しかし、担当相でもある麻生太郎副総理は「政府の立場と異なる」として受け取りを拒否しました。麻生氏の対応に納得できますか。
 納得できる 15%
 納得できない 68%

▼産経新聞・FNN
・金融庁審議会の「老後2000万円貯蓄」に関する試算について
 試算を受け、年金制度への信頼度はどうなったか
  不信感が増した 51.0%
  変わらない 44.6%
  信頼感が増した 2.2%
 報告書を受け取らないと表明した麻生太郎金融担当相の対応は適切と思うか
  思う 16.9%
  思わない72.4%
 これまで老後は年金だけで暮らしていけると思っていたか
  思っていた 13.9%
  思っていなかった 84.2%

▼共同通信
・金融庁の金融審議会は、老後に夫婦で95歳まで生活するためには、公的年金だけでは賄えず、2000万円の蓄えが必要になるとの報告書をまとめました。あなたは、自分の老後の生活について経済的に不安がありますか、ありませんか。
 不安がある 74.3%
 不安はない 22.7%
・麻生太郎金融担当相は金融審議会のこの報告書を正式には受け取らない意向を表明しました。担当大臣として諮問したにもかかわらず、受け取りを拒否するのは極めて異例です。野党は参院選への悪影響を避けるためだと批判しています。麻生氏の受け取り拒否をどう思いますか。
 問題だ 71.3%
 問題ではない 19.1%
・あなたは公的年金制度を信頼できますか、できませんか。
 信頼できる 28.2%
 信頼できない 63.8%

「差別」の被害と加害~ハンセン病患者家族訴訟・熊本地裁判決の社説・論説から

 ハンセン病患者に対する誤った隔離政策が続いたために、患者だけでなく、その家族も差別を受けたり、家族離散を強いられたりしたとして、国に賠償を命じる判決が6月28日、熊本地裁で言い渡されました。差別を生んだ国の責任を明確に認める画期的な司法判断として、新聞各紙やマスメディアでも大きく報じられています。
 差別は、差別を受ける被害だけではなく、差別をする加害も一体になった問題です。国の責任は明らかだとしても、「では差別するのはだれか」も同時に考えていかなければなりません。今回の熊本地裁判決を取り上げた新聞各紙の社説・論説をネットで読みながら、あらためてそんなことを感じました。そうした観点から目に止まった社説をいくつか、一部を引用して書きとめておきます。いずれも29日付です。

▼沖縄タイムス「[ハンセン病家族訴訟]国策が招いた差別断罪」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/438971

 恐怖心をあおり、社会の偏見や差別を助長し、孤立させた責任はマスコミを含めた私たちの社会にある。今も偏見と差別がなくなったとはいえない。多くの原告が実名ではなく原告番号の匿名で訴えていることからもうかがえる。
 旧優生保護法下の強制不妊手術を巡る国家賠償請求訴訟とも重なる問題だ。偏見と差別のない社会を実現するため一人一人が「わが事」として向き合わなければならない。

▼信濃毎日新聞「ハンセン病判決 家族の被害回復に道開く」
 https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190629/KP190628ETI090009000.php

 同時に見落とせないのは、患者や家族を排除した社会の責任だ。療養所に患者を送る「無らい県運動」は官民一体で行われた。隔離が続いた背景には、大多数の人の無関心や暗黙の了解があった。
 法が廃止されて20年以上が過ぎる今も、差別の根は断てていない。それぞれが自らの問題として向き合うことが欠かせない。

▼京都新聞「ハンセン病判決  偏見・差別許さぬ社会へ」
 https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190629_2.html

 訴訟は隔離政策によってハンセン病を「恐ろしい伝染病」と誤認させた国の責任と併せ、偏見や差別を許してきた日本社会の責任をも問うたといえる。医師らは隔離の必要がない患者を見捨て、学校も偏見に苦しむ患者の子どもを助けなかった。司法もマスメディアも人権侵害を看過してしまった事実は重い。猛省せねばなるまい。
 ハンセン病問題は解決済みと考えがちだが、決して過去のものではない。差別を根絶するには何が必要か、判決から読み取りたい。

▼神戸新聞「ハンセン病訴訟/家族被害も国に重い責任」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201906/0012468968.shtml

 判決は国会が96年まで予防法を廃止しなかったことを立法不作為と指摘した。基本的人権が侵害される状況を放置してきた責任については、政治や行政、医学界、法曹界だけでなく、報道に携わる私たちも重く受け止めねばならない。
 家族がハンセン病だったことを隠す必要のない社会にするために、苦難の歴史を踏まえて正しい知識を広げていきたい。

 沖縄タイムスが指摘している、障害者に対する強制不妊手術の問題にも通じる視点は、岩手日報の論説も指摘しています。

▼岩手日報「ハンセン病家族訴訟 真の差別解消への一歩」
 https://www.iwate-np.co.jp/article/2019/6/29/58537

 原告勝訴の判決は、旧優生保護法下で不妊手術を強いられた障害者らにとっても、希望の光になるのではないか。
 被害者が国に損害賠償を求めて提訴したのを機に救済の機運が高まり、今年4月、被害者に一時金を支給する救済法が議員立法で成立した。ハンセン病の救済策などを参考にしたが、一時金支給の対象は被害者本人のみで、配偶者らは除外されている。
 国は配偶者の苦しみにも向き合い、一時金の支給対象を拡大すべきだ。
 今回の訴訟と優生手術訴訟の共通点は、原告の多くが匿名であること。偏見や差別が根強い表れと言えよう。
 安倍晋三首相は優生手術被害の救済法成立に際し、「全ての国民が疾病や障害の有無で分け隔てられることのない共生社会の実現に向けて、最大限の努力を尽くす」との談話を発表した。
 疾病や障害で苦しむのは本人だけではない。家族も苦しんでいる。本人も家族も支える仕組みづくりへ最大限努力することが、差別を解消し、共生への道を開く。

 

障がい者と沖縄戦~「埋もれた声に思い寄せ」慰霊の日・沖縄タイムスの社説

 第2次大戦末期の1945年6月23日に、沖縄では日本軍の組織的戦闘が終結したとされます。この日は沖縄では「慰霊の日」です。沖縄タイムス、琉球新報の2紙も23日付の社説は慰霊の日がテーマです。
 74年前の沖縄戦は、日本本土に米軍を迎え撃つ「本土決戦」に備えた時間稼ぎであり、沖縄は「捨て石」でした。戦後の米統治を経て1972年に沖縄は日本に復帰しましたが、今も在日米軍の専用施設の約70%が集中し、沖縄県の反対にもかかわらず、名護市辺野古では米軍普天間飛行場の代替施設となる基地の建設が進んでいます。琉球新報の社説「沖縄戦の教訓継承したい」は、辺野古には直接触れていないものの「在沖米軍基地の機能は強化され続けている」と指摘し、「『軍隊は住民を守らない』という沖縄戦の教訓を、無念の死を遂げた沖縄戦の犠牲者への誓いとして、私たちはしっかり継承していかねばならない」と結んでいます。
 一方の沖縄タイムスの社説「埋もれた声に思い寄せ」は、沖縄戦と障がい者に焦点を当てています。優生思想や障がい者差別の問題は今日的な課題でもあるのですが、差別を戦争という側面から検証していくことは、その両者の本質を考える上でも重要な切り口なのだと、あらためて考えさせられました。
 以下に、両紙の社説の一部を引用して書きとめておきます。リンク先で全文が読めます。

▼琉球新報「慰霊の日 沖縄戦の教訓継承したい」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-941509.html

 沖縄の防衛に当たる第32軍と大本営は沖縄戦を本土決戦準備のための時間稼ぎに使った。県出身の軍人・軍属には、兵力を補うために防衛隊などとして集められた17―45歳の男性住民が含まれる。沖縄戦ではこうして住民を根こそぎ動員した。
 さらにスパイ容疑や壕追い立てなど、日本軍によって多数の県民が殺害されたのも沖縄戦の特徴だ。
 住民は日本軍による組織的な戦闘が終わった後も、戦場となった島を逃げ回り、戦火の犠牲になった。久米島の人々に投降を呼び掛け、日本兵にスパイと見なされて惨殺された仲村渠明勇さんの事件は敗戦後の8月18日に起きた。
 戦後、沖縄は27年も米施政権下に置かれ、日本国憲法も適用されず、基本的人権すら保障されなかった。沖縄が日本に復帰した後も米軍基地は残り、東西冷戦終結という歴史的変革の後も、また米朝会談などにみられる東アジアの平和構築の動きの中でも在沖米軍基地の機能は強化され続けている。
 74年前、沖縄に上陸した米軍は以来、居座ったままだ。米軍による事件事故は住民の安全を脅かし、広大な基地は県民の経済活動の阻害要因となっている。沖縄の戦後はまだ終わっていない。
 「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を、無念の死を遂げた沖縄戦の犠牲者への誓いとして、私たちはしっかり継承していかねばならない。

▼沖縄タイムス「[きょう慰霊の日]埋もれた声に思い寄せ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/436323

 「十・十空襲」の後、北部への避難を決めた家族に向かって、視覚障がいの女性が「自分を置いて早く逃げて」と言った、その言葉が心に刺さったという。周りに迷惑をかけたくないとの思いが痛いくらい分かったからだ。
 「僕だったらどうしただろう」
 南風原町に住む上間祥之介さん(23)は、障がいのある当事者として障がい者の沖縄戦について調査を続けている。
 発刊されたばかりの『沖縄戦を知る事典』(吉川弘文館)では「障がい者」の項を担当。母親が障がいのある子を「毒殺する光景を目の当たりにした」という証言や、自身と同じ肢体不自由者が「戦場に放置されて亡くなった」ことなどを伝える。
 国家への献身奉公が強調され、障がい者が「ごくつぶし」とさげすまれた時代。これまでの聞き取りで浮き上がってきたのは、家族や周囲の手助けが生死を大きく分けたという事実である。
 「戦争では皆、自分が逃げるのに精いっぱい。真っ先に犠牲になるのは障がい者や子どもやお年寄り」
 沖縄戦における障がい者の犠牲は、はっきりしていない。当時の資料も証言も少ない。話すこと、書くことが難しかったという事情はあっただろうが、沈黙を強いているのはその体験の過酷さである。
 優生思想は決して過去のものではない。もし今、自分の住む町が戦場になったら…。上間さんは戦争と差別という二重の暴力の中で「語られなかった体験」の意味を考え続けている。


 そのほか、ネット上で目にした本土紙の社説・論説のタイトルを書きとめておきます。一部は内容も引用しました。地方紙に、沖縄の基地問題の現状を他人事ではないととらえる視点があることは重要だと感じます。全国紙で関連の社説・論説を23日付で掲載しているのは産経新聞だけでした。「追悼の場に政治的な問題を持ち込み、意見を異にする立場の非を鳴らす行為は厳に慎みたい」との主張です。
 一定期間、サイト上で読める新聞の社説・論説はURLも紹介します。

▼北海道新聞「沖縄慰霊の日 苦難を顧みぬ国の横暴」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/318069?rct=c_editorial

▼茨城新聞「沖縄慰霊の日 『捨て石』の構図いつまで」
▼山梨日日新聞「[あす『沖縄慰霊の日』]広がる『住民不在』 終止符を」=22日付

▼神戸新聞「沖縄慰霊の日/問われる平和と民主主義」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201906/0012452247.shtml

 県民の4分の1が犠牲になった沖縄では、世代を超えて戦禍の記憶が語り継がれている。「戦争が起これば標的となり、再び捨て石にされる」との不安や疑念の声が漏れる。
 秋田では地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を巡る調査ミスが発覚した。批判を受けて防衛省は再調査する考えを示したが、「結論ありき」で国策を押し通すような政府の姿勢は、辺野古や宮古島とも通じる。
 沖縄の問題は、日本の平和と民主主義が直面する危うさを示している。地方の意思を考慮しない政権の姿勢にも厳しい視線を向け続ける必要がある。

▼山陰中央新報「沖縄慰霊の日/『捨て石』の構図が今も」

▼西日本新聞「沖縄慰霊の日 戦争の悲惨風化させるな」

 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/520982/

▼大分合同新聞「沖縄慰霊の日 『捨て石』の構図いつまで」

▼佐賀新聞「沖縄慰霊の日 2019 『捨て石』の構図いつまで」(共同通信)=22日付
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/390783

▼熊本日日新聞「沖縄慰霊の日 『戦後』は終わっていない」
 https://kumanichi.com/column/syasetsu/1089184/

▼南日本新聞「[沖縄慰霊の日] 『痛み』忘れてはならぬ」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=107030

 昨年の慰霊の日、病を押して式典に出席した故翁長雄志前知事が、やせ細った風貌とは裏腹に毅然(きぜん)と「辺野古に新基地を造らせないという決意は揺るがない」と述べた姿が忘れられない。
 翁長氏の死去に伴う県知事選や県民投票で「反対」の民意が何度も示されているのに、政府は辺野古の工事を強行している。翁長氏の遺志を継ぐ玉城デニー知事は「沖縄では為政者による抑圧が今も続いている。その最たるものが辺野古の現状だ」と訴える。
 楽観は許されないものの、北朝鮮が朝鮮半島の非核化を表明し、日中関係も改善の動きが見えるなど、日本の安全保障環境は変化している。いつまでも沖縄に基地負担を押しつけるのではなく、本土を含めた新たな安保戦略を検討する必要があるだろう。
 奄美大島に初めて陸上自衛隊が部隊配備され、南西諸島の防衛力強化が進んでいる。米軍空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)の移転候補地に挙がる西之表市馬毛島を巡る動きなど、鹿児島もよそ事ではない。
 安全保障政策は国の専管事項とは言っても、地元の意向を抑えつけて推し進めていいはずはない。沖縄戦から今に続く課題をわが事として考えたい。

▼産経新聞「【主張】沖縄戦終結74年 静かな環境で追悼したい」
 https://www.sankei.com/column/news/190623/clm1906230002-n1.html

 心静かに戦没者を悼む日にしたい。追悼の場に政治的な問題を持ち込み、意見を異にする立場の非を鳴らす行為は厳に慎みたい。
 ところが、昨年まで知事だった翁長雄志氏は、毎年追悼式で読み上げる「平和宣言」の中で、米軍普天間基地の辺野古移設を批判してきた。
 戦没者への追悼の言葉を述べる安倍首相に対し、辺野古移設反対派と思われる参列者から、「帰れ」などの心ないやじが毎年のように飛んでいる。
 極めて悲しい出来事だ。追悼式を知事が政治的発信の場としたり、参列者のやじにより厳粛さを損なわせたりしていいわけがない。翁長氏の後継として当選した玉城知事だが、平和宣言の政治利用は踏襲しないでもらいたい。

 【追記】

 朝日新聞は22日付で関連の社説を掲載しています。
 ▼朝日新聞「沖縄慰霊の日 日本のあり方考える鏡」=22日付
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14065503.html?iref=editorial_backnumber

 

二・二六事件の現場、東京・赤坂「高橋是清翁記念公園」~昭和の惨劇を次代に語り継ぐ

 6月に入って間もなく、東京都港区赤坂にある「高橋是清翁記念公園」を訪ねる機会がありました。大正から昭和初期にかけて首相、蔵相を務め、1936(昭和11)年に一部の陸軍将校らが起こしたクーデター未遂事件、二・二六事件で暗殺された高橋是清(1854~1936)の邸宅があった場所です。
 ※港区公式サイト 「高橋是清翁記念公園」
  https://www.city.minato.tokyo.jp/shisetsu/koen/akasaka/04.html

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 赤坂見附から青山通り(国道246号)を渋谷方向へ徒歩で15~20分ほどでしょうか。ビルの並びが途切れたところに、緑豊かな空間があります。入口近くには子ども用の遊具もあって、知らなければどこにでもある公設の公園だと思って、通り過ぎてしまうかもしれません。
 ウイキペディア「二・二六事件」の記述によると、1936年2月26日早朝5時すぎ、この地にあった高橋是清邸を反乱軍約100人が襲撃。是清は寝室で、拳銃で撃たれた上、軍刀でとどめを刺され即死しました。
 ※ウイキペディア「二・二六事件」

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 港区によると、現在の公園でも5300平方メートル余の広さがあり、当時の高橋邸の敷地はもっと広かったようです。青山通りを隔てた向かいは赤坂御所の塀と木々が連なっており、おそらくは反乱軍の銃声があたりの静寂を破ったのではないかと思います。しかし、周囲をビルに囲まれ、青山通りをひっきりなしに車が行き交う現在の様子を見ていると、なかなか往時を想像するのは難しいと感じました。

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 当時、是清が住んでいた自宅の母屋は現在、東京都小金井市にある江戸東京たてもの園に移築され保存されています。是清が眠る多磨霊園へ移築されていたため、空襲の難を逃れたと、港区の説明のプレートに書いてありました。
 実は母屋は5年前の夏に訪ねています。ちょうど雨の日だったこともあり、静寂の中にひっそりとたたずんでいました。内部に入ることもでき、是清が絶命したという2階の寝室も見学しました。歴史上の出来事としての事件を多少なりとも感じ取れた気がしました。

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【江戸東京たてもの園に保存されている母屋=2014年8月】

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【母屋の2階内部=2014年8月】

 港区の記念公園を奥に進むと、ちょっとした高台があって、高橋是清の銅像があります。「ダルマ」の愛称で庶民的な人気があったという、その風貌をよく表した、柔和な表情だと感じました。

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 和服姿の座像ですが、興味深かったのは右手にメガネを持っているのはいいとして、左ひざの上に何か書類を持っていることです。その折りたたみ方や大きさからは、新聞であるように思えました。ただ日本語の新聞なら、四つ折りにして1面トップの記事が上になるようにすると、折り目は持ち手から向かって左側になります。銅像はその折り目が右側になっていますので、英字紙などの外国語の新聞なのかもしれません。うがった見方かもしれませんが、若いころ渡米して苦労したというエピソードがある高橋是清が、常に世界に目を向けていたことを、銅像ではこのように表現したのかもしれない、と感じました。そして言論ではなく暴力に訴えることとを暗に比較して見せることで、暴力の愚かしさを表そうとしているのかもしれない、などとも考えました。

 後日、公園を再訪してみました。梅雨入り後の雨の日でした。

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【左のガラス張りのビルが草月ホール。その隣りが記念公園】

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 公園の片隅にはアジサイが植えられており、色づいた花が雨に濡れて鮮やかでした。あいにくの天気でこの日は遊具に子どもたちの姿はありませんでしたが、そうと知らなければ、80年以上も前に惨劇があった場所とは思えない、都心の緑豊かな一角です。その現場に立ってみて、暴力で世の中を変えようとすることの愚かしさは、何年たとうとも語り継いでいかなければならないと、あらためて思いました。

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 二・二六事件を巡っては、やはり事件で殺害された内大臣で、元首相、海軍大将の斎藤実の出身地である岩手県・水沢(奥州市水沢区)にある「斎藤実記念館」に、銃弾を受けてひび割れた鏡台など、豊富な資料が保存されています。
 いずれも、事件が本当に「あった」ことを、時間を超えて実感できる貴重な資料だと思います。
 これまでに資料館を2度訪ねました。そのときの感想などをこのブログに書いた過去記事を紹介します。2度目はひび割れた鏡台の絵葉書も買い求めました。news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

 

5月の世論調査から(備忘)

 5月にマスメディア各社が実施した世論調査の結果について、備忘を兼ねて書きとめておきます。
 安倍晋三内閣の支持率は以下の通りです。前回調査の実施時期の違いなどもあり、支持率の増減傾向については一概に読み取れないように思いますが、大まかな傾向としては5月中旬の時点で、支持が不支持を相当に上回っている、とは言っていいように思います。天皇の代替わりと改元が、祝賀ムードの中でとどこおりなく進んだと報じられたことがその要因の一つのように思えます。

【内閣支持率】 ※カッコ内は前回(前月)比、Pはポイント
・朝日新聞 5月18、19日
 「支持」45%(1P増)
 「不支持」32%(±0)

・毎日新聞 5月18、19日
 「支持」43%(2P増)
 「不支持」31%(6P減)
 「関心がない」23%(2P増)

・共同通信 5月18、19日
 「支持」50・5%(1・4P減)
 「不支持」36・2%(4・9P増)
  ※前回は5月1、2日実施

・読売新聞 5月17~19日
 「支持」55%(1P増)
 「不支持」32%(1P増)

・日経新聞・テレビ東京 5月10~12日
 「支持」55%(7P増)
 「不支持」35%(7P減)
  ※前回は3月下旬実施

 個別の質問と回答の状況で、興味深く感じたのは、夏に予定されている参院選についてです。
 朝日新聞の調査によると、与野党のいずれが議席を増やした方がいいと思うかを尋ねたところ「与党が議席を増やした方がよい」との回答が15%、「野党」との回答は34%だった一方で、「今とあまり変わらないままがよい」も38%でした。また、「今度の参議院選挙をきっかけに、日本の政治が大きく変わってほしいですか」との問いには、「大きく変わってほしい」47%、「それほどでもない」43%と大きな差はなく、「今後の安倍首相に期待しますか」との問いでは「期待する」46%、「期待しない」45%と、真二つに割れました。
 読売新聞の調査では、参院選の結果、自民党と公明党の与党が参議院で過半数の議席を維持する方が良いと思うかどうかを尋ねています。回答は「維持する方がよい」48%、「そうは思わない」38%と差が付きました。
 参院選と同時に衆院選を行うことに対しては、読売新聞の調査では「行ってもよい」44%、「行わない方がよい」38%でした。日経新聞・テレビ東京の調査では、同日選に賛成47%、反対32%で、賛成は内閣支持層では54%、不支持層では40%とのことです。
 朝日新聞の調査結果に注目すれば、「日本の政治が大きく変わってほしい」「今後の安倍首相に期待しない」は4割を超えており、内閣支持率の安定ぶりほどには、安倍政権が信任を受けるかは分からないという気もします。しかし一方で、朝日新聞の調査でも読売新聞の調査でも、野党が議席を伸ばすことを求める回答は30%台にとどまっています。一般には与党が有利になるとされる衆参同日選に対し、容認する回答が否定の回答を上回っていることも考えれば、現時点の民意は読みづらい、と言うほかないように感じます。