ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

読書

焦土を視察する天皇に土下座でわびた民衆~堀田善衛「優情」と伊丹万作「だまされる罪」

第2次世界大戦末期の1945年(昭和20年)3月10日未明、東京の下町地区は米軍B29爆撃機の大編隊の空襲を受け、焦土と化しました。一夜で10万人以上が犠牲になったとされる東京大空襲から、ことしは79年になります。昨年、このブログで、昭和…

「最期は本名で」の真意は何だったのか~「狼煙を見よ 東アジア反日武装戦線“狼”部隊」(松下竜一)が描く検事の説得に思うこと

先週1月26日、驚きのニュースに接しました。神奈川県内の病院に入院している男性が、1974年8月の三菱重工爆破事件など、74年から75年にかけて起きたいわゆる「連続企業爆破事件」の一部に関与したとして指名手配されている「桐島聡」を名乗って…

ガーシー元議員を巡る情報の公益性とボツ原稿の扱い~新聞記者の働き方と著作権 その3

動画投稿サイトで芸能人らを脅迫したとして、警視庁が、暴力行為法違反(常習的脅迫)などの疑いで逮捕状を取り、国際手配していたガーシー(本名・東谷義和)元参院議員が6月4日、成田空港着の航空機で帰国し、警視庁に逮捕状を執行されました。 アラブ首…

「週刊朝日」休刊の口惜しさ、やるせなさ 追記・吉永小百合さんの怒り

「週刊朝日」が5月30日発売号で休刊になりました。朝、新聞の広告に「週刊朝日は今号をもって休刊します」と書いてあるのを見て、「ああ、そうだったな」と思い出しました。 その広告ですが、「休刊します」の後に「またね!」と入っています。これで終わ…

追悼 大江健三郎さん~平和、護憲、反核、脱原発の視点、視線を共有する

ノーベル文学賞を受賞した作家の大江健三郎さんが3月3日、死去されていたことが報じられました。享年88歳。わたしにとって大江さんは、作品になじんだ作家と言うよりは、平和、護憲、反核、脱原発など、同じ方向を見ていた同時代の羅針盤のような存在で…

戦争に「絶対的な勝者」はいないことを問い続けた作品群~追悼 松本零士さん

漫画家の松本零士さんの訃報が2月20日、伝えられました。2月13日に急性心不全で死去されたとのことです。享年85歳。謹んで哀悼の意を表します。 「銀河鉄道999」に「宇宙戦艦ヤマト」、さらに挙げるなら「宇宙海賊キャプテンハーロック」。21日…

戦争の教訓の継承は、今こそ大きな意味がある~破局を“予言”していた桐生悠々、井上成美

今年春から大学で「文章作法」の非常勤講師を務めていることは、以前の記事に書きました。授業では日々の新聞報道の比較、解説も行っています。先日の授業では、12月8日の太平洋戦争開戦81年の報道を取り上げました。 日本の新聞は戦前の統制で、いくつ…

沖縄の苛烈な戦後史を知る~「ドキュメント〈アメリカ世〉の沖縄」(宮城修、岩波新書)

ことし、2022年は、1972年5月に沖縄の施政権が米国から日本に返還されて50年の節目の年です。現在、日本にある米軍専用施設の70%が沖縄に集中し、米軍普天間飛行場の移設問題では、名護市辺野古沿岸部の埋め立てと新基地建設を巡って、沖縄県…

弱い立場の者が団結する、その象徴のような生き方~火野葦平「花と龍」の玉井金五郎(故中村哲さんの祖父)

このブログの以前の記事で、アフガニスタンで2019年12月に銃撃を受け亡くなったペシャワール会の中村哲さんが幼少時、福岡県の若松(現・北九州市若松区)で過ごしたこと、母方の祖父が若松で港湾荷役請負を営んでいた玉井金五郎であることを紹介しま…

中村哲さんと「花と龍」と「川筋気質」

福岡県の南部、筑後地方の地域文化誌「あげな・どげな」という雑誌を、同郷の知人にいただきました。2012年創刊で年2回発行。第18号(2020年夏)と第19号(2021年冬)に、アフガニスタンで2019年12月に銃撃を受け亡くなったペシャワ…

新聞記者は「血の粛清」後、プロとして残れるのか(再掲)

一つ前の記事(新聞記者は「消える仕事」か~週刊東洋経済の特集「1億人の『職業地図』」)の続きです。 週刊東洋経済と週刊ダイヤモンドはひところ、競うように新聞やテレビの産業としての先行きの暗さを特集してきました。わたしが手元に控えている限りの…

新聞記者は「消える仕事」か~週刊東洋経済の特集「1億人の『職業地図』」

週刊東洋経済の1月30日号が「消える仕事、残る仕事 1億人の『職業地図』」という特集を掲載しています。「消える仕事」18業種の一つに「新聞記者」が挙げられているので、購入して読んでみました。 記事は業種ごとに平均年収や業界規模などを紹介。業…

水木しげるさん「総員玉砕せよ!」の“事実を超える真実”~戦争による死を美化しない

8月15日は、日本の敗戦で第2次世界大戦が終結して75年の日でした。わたしが今、危惧するのは、社会で戦争体験の継承が難しくなっていることです。特に戦没者を「尊い犠牲」と美化し「その上に今日の日本の繁栄がある」と位置付けることは、戦争の実相…

首相官邸の質問妨害に新聞労連が抗議声明~安倍首相インタビューではメディアを選別

安倍晋三首相が8月6日に訪問先の広島市で行った記者会見の際、質問を続けていた朝日新聞記者に対し、首相官邸報道室の男性職員が「だめだよもう。終わり、終わり」と制止しながら腕をつかんだとして、朝日新聞社が首相官邸に「質問機会を奪う行為になりか…

「拗ね者」本田靖春さんの評伝と遺作

元読売新聞社会部記者で、退社後はノンフィクション作家として活躍した本田靖春さんが2004年12月に71歳で死去して15年がたちました。わたしは昭和58(1983)年4月に記者の仕事に就きました。わたしと同世代の、昭和50年代後半から60年…

1970年当時より今の方が近い「光る風」(山上たつひこ)が描く絶望的な近未来

光る風 作者:山上 たつひこ 出版社/メーカー: フリースタイル 発売日: 2015/03/30 メディア: 単行本(ソフトカバー) 山上たつひこさんと言えば、少年警察官こまわり君と同級生らのギャグ漫画「がきデカ」で知られます。週刊漫画誌「少年チャンピオン」での…

「不偏不党」と「ペンか、パンか」~故原寿雄さんが問うた組織ジャーナリズムの命題

一つ前の記事「『不偏不党』の由来と歴史を考える~読書:『戦後日本ジャーナリズムの思想』(根津朝彦 東京大学出版会)」を読み返しながら考えたことを書きとめておきます。組織ジャーナリズムと「ペンか、パンか」の命題のことです。 「ペンは剣よりも強…

「不偏不党」の由来と歴史を考える~読書:「戦後日本ジャーナリズムの思想」(根津朝彦 東京大学出版会)

著者の根津朝彦さんは立命館大産業社会学部メディア社会専攻の准教授。戦後ジャーナリズム史の研究者であり、本書は学術専門書です。しかし、というか、であるからこそ、と言うべきか、新聞や放送のマスメディア企業の中に身を置く記者、デスク、編集幹部か…

週刊ダイヤモンド・特集「4つの格差が決める メディアの新序列」

週刊ダイヤモンドの10月27日号が「4つの格差が決める メディアの新序列」という特集を組んでいたので購入しました。 この十数年来、週刊ダイヤモンドや週刊東洋経済がメディアを巡る特集を組んでいるのを見かけると、ほぼ買っていました。久しぶりの特…

伊丹万作が遺した警句「だまされる罪」

伊丹万作という戦前に活躍した映画監督、脚本家がいます。同じく映画人として活躍した故伊丹十三さんの父親です。グーグルで「伊丹万作」を検索すると、1ページ目にこのブログの5年前の記事が表示されることに気付きました(2018年8月1日現在)。こ…

西城秀樹さんと「がきデカ」~同時代に残した存在感の大きさ

5月16日に63歳で死去した西城秀樹さんの葬儀・告別式が26日に執り行われました。新聞各紙の記事を読みながら、同時代を過ごした世代の1人として、西城さんが同時代に残した足跡の大きさを改めて思いました。告別式では西城さんを含めて「新御三家」…

3月10日「東京大空襲」の再現紙面~伏せられていた被害の実相

3月10日は第2次世界大戦末期の1945年、東京の下町地域が未明に米軍のB29爆撃機の大空襲を受け、一夜で10万人以上が犠牲になったとされる東京大空襲から73年の日でした。戦争体験の風化の指摘も目にする中で、東京発行の新聞各紙がどのように…

「変革はついに1人から始まる」~追悼座談会「ジャーナリズムを生き抜いて~原寿雄さんが遺したもの~」(「放送レポート」271号)

メディア総合研究所が編集している雑誌「放送レポート」271号(3月1日発行、大月書店刊)に、昨年11月30日に92歳で死去されたジャーナリスト原寿雄さんを追悼する座談会「ジャーナリズムを生き抜いて~原寿雄さんが遺したもの~」が掲載されてい…

進む「軍拡」、「敵」は北朝鮮、政府批判は「反日」~ジャーナリズムの使命は戦争させないこと

2018年になりました。うっすらと不安を感じながら迎えた年明けです。 昨年、「米国第一」を掲げて登場したトランプ米政権は、やはり何をしでかすか予測が付きません。北東アジア情勢では、核・ミサイル開発をやめようとしない北朝鮮に対して、軍事攻撃に…

追悼 原寿雄さん~市民と足並みをそろえるジャーナリズムへ

悲しい知らせに接しました。元共同通信編集主幹のジャーナリスト、原寿雄さんが11月30日、死去されました。92歳でした。以下は共同通信の新聞用の配信記事です。 「デスク日記」や「ジャーナリズムの思想」の著者で、報道の在り方を問い続けた元共同通…

中日新聞・東京新聞社説(9月10日)「桐生悠々と防空演習」

中日新聞・東京新聞の9月10日付の社説が、桐生悠々が1933(昭和8)年に信濃毎日新聞に発表した論説「関東防空大演習を嗤う」を取り上げました。10日は悠々の命日とのことです。 www.tokyo-np.co.jp 一部を引用して紹介します。 その筆鋒(ひっぽう…

「世界」10月号の座談会「報道の『沈黙』が社会を壊すープロフェッショナリズムの不在について」

お知らせです。 9月8日発行の岩波書店「世界」10月号に、わたしが参加した座談会の記事が掲載されています。タイトルは「報道の『沈黙』が社会を壊すープロフェッショナリズムの不在について」。上智大教授の田島泰彦さん、立教大名誉教授の服部孝章さん…

黙らない、語り続けることができる社会のために~「共謀罪」施行の朝に

犯罪の実行ではなく計画段階で処罰の対象とする「共謀罪」の趣旨を含んだ改正組織犯罪処罰法が7月11日午前零時、施行されました。とうとう「共謀罪」がわたしたちの社会に導入されました。 振り返ってみると、「共謀罪」に対しては、マスメディア、中でも…

再録:ヘルマン・ゲーリングの言葉と伊丹万作の警句「だまされることの罪」

昨年の1月1日にこのブログにアップした記事「ヘルマン・ゲーリングの言葉と伊丹万作の警句『だまされることの罪』〜今年1年、希望を見失わないために」が、ニュースサイト「スマートニュース」の「オピニオン」のチャンネルで紹介されています。せいぜい…

「平和主義者は愛国心が欠けている」ナチス・ゲーリングの警句と「だまされる罪」

日本の敗戦で第2次世界大戦が終結してから71年のことし8月15日。東京発行の新聞各紙夕刊のうち、朝日新聞と毎日新聞、東京新聞は1面トップに政府主催の全国戦没者追悼式を置きましたが、読売新聞はリオデジャネイロ五輪のテニス男子シングルスで、錦…