ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

名古屋高裁判決についての航空幕僚長発言に感じる危うさ

※エキサイト版「ニュース・ワーカー2」から転記です。http://newswork2.exblog.jp/7734604/
 イラクでの航空自衛隊の武装兵員空輸活動を違憲、違法とした17日の名古屋高裁判決に対し、航空自衛隊トップの航空幕僚長が18日の記者会見で、現地で活動する隊員に与える影響を問われ、心境を代弁するとして「『そんなの関係ねえ』という状況だ」と答えたと報道されています。

東京新聞サイトから引用)

 防衛省田母神俊雄航空幕僚長は18日の定例会見で、航空自衛隊イラク空輸活動を違憲とした名古屋高裁判決が現地で活動する隊員に与える影響を問われ、「純真な隊員には心を傷つけられた人もいるかもしれないが、私が心境を代弁すれば大多数は『そんなの関係ねえ』という状況だ」と発言した。

 お笑い芸人のフレーズを借りた言いようの是非はともかくとして、わたしは今年1月、海上自衛隊のインド洋給油活動再開に際して、護衛艦横須賀基地を出航した際の指揮官の言葉を思い出しました。

(サイト「憲法メディアフォーラム」のコラム「今週のひとこと」から引用)

自衛隊は何を守るのか
 「憲法違反と言われた私どもにも意地と誇りがある。わが国の信頼回復のため全力を尽くす」。1月24日、インド洋で米軍艦艇などへの洋上給油を再開する海上自衛隊部隊の護衛艦が、横須賀基地を出航。指揮官の一等海佐は、式典のあいさつでこんなことを口にした。「自衛隊憲法違反」との指摘が今もあることへの不満か、給油打ち切りと再開をめぐる昨年来の政治のごたごたと世論が割れたことへの不満か。しかし、制服姿の自衛官の公式発言としては、「政治」に抵触していることにとどまらず、いくつもの危うさを感じる。
 専守防衛を越えて自衛隊が外国軍隊とともに作戦行動に参加することは、間接的に人命を奪う行為に加担することだ。そのことに苦慮する自衛官がいても、指揮官が「私ども」と言い切ってしまえば、彼、彼女らの良心は行き場所がなくなる。また仮に世論が割れていたとしても、自衛隊が守るべき対象は、割れた世論を抱えたそのままの姿の日本国全体であるはずだ。
 自身が口にした「わが国」のイメージを、この指揮官はどんな風に頭に描いているのかは分からない。しかし発言には、自衛隊イラク派遣に反対した人々を「反自衛隊的」とひとくくりに敵視して監視していた陸自情報保全隊と同根の危うさがあるように思えてならない。

 当時、わたしがチェックした限りでは、在京の新聞で「憲法違反と言われた私どもにも意地と誇りがある」との発言部分を報じたのは毎日新聞だけで、ほかには共同通信が報じました。
 前回のエントリーでも触れましたが、今回の名古屋高裁判決は平和的生存権にも踏み込んだ判断を示しています。自衛官であっても日本国民である限りは憲法上の基本的な人権は守られるはずですし、内心の自由もあるはずです。航空幕僚長が「大多数は」としながらも「そんなの関係ねえ」と言いきって「心境を代弁」してしまっては、自衛官個々の良心は組織の中で担保されないことになりかねません。内心の自由表現の自由、知る権利にも密接につながっています。この発言にも、やはりわたしは危うさを感じずにはいられません。
 内心の自由が担保されなければならないのは、どんな職業でも同じであることは言うまでもありません。