ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「少数意見の尊重」の再確認〜光事件・橋下知事敗訴が問い掛けるもの

※エキサイト版「ニュース・ワーカー2」から転記です。http://newswork2.exblog.jp/8706035/
 弁護士でもある橋下徹大阪府知事が知事就任前、山口県光市の母子殺害事件の差し戻し審被告弁護団について、テレビ番組で「主張内容は荒唐無稽で許されない」などとして、弁護団への懲戒請求を呼び掛けていました。弁護団が橋下氏に賠償を求めていた訴訟の判決が2日、広島地裁であり、橋下氏の発言は名誉棄損に当たるとして800万円の賠償を命じました。
 *判決要旨、記者団に対する橋下氏の一問一答=いずれも共同通信
 請求額は1200万円でしたが、実質的に橋下氏の完敗です。判決は、橋下氏が弁護士として法的根拠がないことを知っていながら、あえて請求を呼び掛けたと認定しました。 判決は刑事弁護の一般論にも通じる数々の判断を示しています。「弁護士の使命は少数派の基本的人権の保護にあり、弁護士の活動が多数派の意向に沿わない場合もあり得る」「刑事弁護人の役割は刑事被告人の基本的人権の擁護であり、多数の人から批判されたことをもって懲戒されることはあり得ない」「(主張が)荒唐無稽だったとしても刑事被告人の意向に沿った主張をする以上、弁護士の品位を損なう非行とは到底言えない」などです。報道で判決要旨を読んだ限りの感想ですが、わたしは裁判官が「橋下氏が法律の専門家でありながら」という点を重視し、だからこそ悪質性が一層高いと判断した、との印象を持っています。
 訴訟では、橋下氏を出演させたテレビ局は係争の当事者になっておらず、従って判決もテレビ局については言及がないようですが、刑事裁判の原理原則、少数意見の尊重に自覚があれば、法律の専門家であってもゲストとして招く以上は人選や発言内容、発言の取り上げ方に留意すべきだったのではないかと思います。
 判決が示した刑事裁判についての数々の指摘は、裁判をどう報じるかという点で、あるいは裁判報道に限らず少数意見の尊重という観点からも、マスメディアの在り方にも深くかかわることだと思います。特に「弁護士の使命は少数派の基本的人権の保護にあり、弁護士の活動が多数派の意向に沿わない場合もあり得る」との指摘は、マスメディアにもそのままではないにせよ、相当程度当てはまるのではないかと思います。社会には多様な意見があること、少数意見は少数であるが故になおさら尊重されなければならないことをマスメディアは忘れてはならないと思いますし、わたし自身もマスメディアで働く一人として、あらためて肝に銘じています。

 光市の事件の差し戻し控訴審とテレビについては、BPO放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会が今年4月、各局の番組の検証結果を公表しています。

委員会決定第04号 光市母子殺害事件の差戻控訴審に関する放送についての意見