ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

続・労働組合は奮起のとき〜個人加盟の産別組合が持つ可能性

 12月17日は休暇を取り、船員の労働組合である全日本海員組合の依頼で、新任専従職員の研修会に講師として参加しました。「報道の現場から見る労働運動」のタイトルで、労働組合について思うところを話しました。海員組合では今年9月にも講師をさせてもらう機会がありました。そのときの報告のエントリー「個人加盟の〝産別組合〟が持つ可能性〜全日本海員組合のセミナーで講師」でも書きましたが、海員組合には、労働組合として際立った特徴があります。日本の既存の労働組合が企業の社員ごとに組織される「企業内組合」であるのに対して、船員一人ひとりの個人加盟を原則としていることです。所属している船会社が異なっていても、「船員」「船乗り」という共通の職能で一つの組合にまとまっています。
 ここのところ、派遣社員の契約期間満了前の解雇をはじめとして、「雇用の危機」が毎日のように報道されています。世界的な金融・経済不安は一過性のものではなく、いずれは企業の正社員の雇用も大きく揺れることになるだろうと思います。雇用を守る、という観点から見たとき、わたしは日本の労働組合の伝統的な形態である「正社員による企業内組合」ではもはや対応は限界にきているのではないか、ということを感じています。労使は一蓮托生、運命共同体、と情感に訴えられ「会社が生き残るにはこれしかない」と経営側から迫られたときに、労組はどこまで抵抗できるか。組合員ではない非正規雇用の労働者が切り捨てられていくのに、その企業にある企業内労組が何もできないのは、企業が「派遣切り」をやるのと同じくらいに当たり前のことなのかもしれません。
 以前のエントリー「労働組合は奮起のとき〜連合・高木会長インタビュー記事」で連合の高木剛会長が朝日新聞のインタビューに答え、非正規雇用の人たちの不当な解雇を防ぐのは企業内労組の責任であると指摘していることを紹介しました。それはそれで正論ですが、高木会長がインタビューで指摘せざるを得なかったのは、実態がそうなっていない、つまり非正規雇用の人たちの権利の保護に正社員の企業内組合が十分には取り組めていないことの反映でもあると思います。
 海員組合の研修会では、今日の厳しい雇用状況を踏まえた上で、この状況を変えていくには労働組合が主役になり、自らの力で働く者の権利を守っていくしかないこと(政府は企業を指導はするかもしれませんが雇用は守りません)、その際に海員組合の職能一元の個人加盟形式の産別組合というありかたが新しいモデルになってほしいことなど、わたし個人の考えを色々と話しました。実際のところ、船の世界にも船員派遣会社があり、派遣船員として船に乗り組む人たちがいますが、海員組合に組織化されているそうです。派遣という働き方は、通常の1対1の労使関係ではなく、派遣会社が絡んだ三角形の雇用関係です。派遣労働者本人は派遣先企業と直接の交渉はできず、仮にその派遣先企業の企業内組合が支援に乗り出すとしても、派遣会社とは交渉できません。正社員、非正規を問わない一元の労組なら、そういった問題も解消できます。「個人加盟」の職能一元の産別組合が持つ可能性について、労働運動の中で議論が高まることを期待しています。