春闘要求の正当性と「労労対立」

 今春闘は18日、大手自動車メーカーの労働組合が一斉に要求を提出し、本格的な交渉段階に入りました。しかしトヨタの会社側は賃金改善(ベア)4000円の要求に対しゼロ回答をする方針と早くも伝えられています(47news=共同通信記事)。自動車産業内、さらには他産業にも追随の動きが出るのは必至でしょう。労働組合側には厳しい情勢だと思います。
 折りしも昨秋以来の世界的な不況の深刻化、それに伴う日本企業の業績悪化と人員削減が続いています。期間従業員派遣社員など非正規労働者の大量の契約解除や雇い止めに始まった人員削減は、現在は正社員にも及んでいます。そうした状況下でも連合は「賃上げも雇用も」と強気の構えを崩していません。この経済状況で雇用維持はともかく賃上げ要求には無理がある、との見方もあるかもしれませんが、わたしは「賃上げも雇用も」の要求が正当性を欠くとは必ずしも考えていません。ただし、前提として既存の正社員を中心とした企業内労働組合非正規労働者の雇用維持と待遇改善に取り組むことが必要です。
 非正規雇用の中でも派遣社員は1990年代以降、雇用分野の規制緩和とともに対象職種・分野が広がり続け今日に至りました。企業にすれば、自分の都合に合わせて好きなように切ることができる安価で使い勝手のいい労働力です。そして実際に今、都合よく「派遣切り」や「雇い止め」が続いています。企業にしてみれば、このような経済情勢のときには当たり前の話でしかありません。雇用は企業に責任があるのは確かですが、企業を批判するだけでは職場を追われた非正規労働者を救うことはできません。
 非正規労働者が職場に増えていく中で、その職場にある正社員の企業内労働組合は何をしてきたのか。結果としてにせよ、非正規労働者が人員計画の調整弁の役割を負わされることで、あるいは本来は正社員が担当すべき業務を非正規労働者が担当することで、正社員の雇用と賃金が守られてきた経緯があります。正社員労働組合非正規労働者を職場に受け入れることは、一面では正社員の非正規労働者への置き換えを当の労働組合が容認することを意味していました。例えば正社員の人員削減に労働組合が反対した場合、企業が「正社員を配置しようとすれば、皆さんの賃金水準を維持できない。派遣社員なら検討の余地がある」と言えば、労働組合はそれを受け入れてきました。今日の状況を招いた責任の一端はそうした労働組合にもある、と批判されても労働組合は抗することができないと思います。この状況を放置したまま、正社員を中心にした企業内労働組合が正社員のベアを要求するのだとしたら、そこに正当性は見出しがたいと思います。
 労働組合はそれ自体、働く者が団結する権利ですが、非正規労働者の場合、多くは身近に加入できる労働組合がないことにも正社員労働組合は留意する必要があります。同じ職場で働きながら、正社員ではないという理由だけで職場にある労働組合に加入できません。非正規労働者は団結の権利すらもなかなか手にすることができないのが実状です。労働組合は組合員のためにあるのは確かですが、組合員「だけ」のためにあるのではないことを、既存の企業内労働組合は自覚しなければならないと思います。そうでなければ、正社員と非正規労働者の関係は労働者同士の対立でしかなくなるでしょう。
 「賃上げも雇用も」の要求が非正規労働者の人たちから見ても正当性を持つためには、同じ労働者として正社員と非正規労働者とがどんな団結と連帯をつくっていくのか、勝ち取った成果をどう配分しようとするのかが問われると思います。
 わたし自身は現在どの労働組合にも加入していませんが、労働組合運動にかかわってきた中で今も抱き続けている悔悟と反省と向き合いながら、今春闘の行方を見守っていきたいと思います。