政治と軍事の間の危うさを象徴〜文民統制違反の前空幕長が自民党で講演

 少なからず驚きました。昨年秋、「日本は侵略国家であったのか」との論文を発表し政府見解と異なる内容の歴史認識を示して更迭された田母神俊雄・前航空幕僚長が19日、自民党本部に招かれ講演しました。

「田母神前空幕長が石破氏批判 『偏っているのはあなただ』」(47news=共同通信記事)
http://www.47news.jp/CN/200902/CN2009021901000329.html

 政府見解と異なる歴史認識の論文を発表して更迭された田母神俊雄航空幕僚長は19日、自民党本部で講演し、自らの正当性を重ねて主張した上で「石破茂元防衛相は『空幕長ともあろう人があんな偏った歴史観では困る』と言ったが、偏っているのはあなただと言いたい」と批判した。
 講演は自民党有志でつくる「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(会長・中山成彬文部科学相)が主催。

 田母神氏の自著が売れ行きを伸ばしているとか、各地に講演に招かれているとかの話は耳にしていましたが、政権与党の本部で文民統制違反に問われて更迭された当の本人が講演とは。政治家の間に歴史教育をめぐって様々な見解、主張があることそれ自体は容認できるとしても、自衛隊を統制する文民である首相、防衛相を送り出している与党の議員が、文民統制違反を今も認めようとしない元幹部自衛官を招くことが妥当かどうかは別の問題です。政治と軍事の間に横たわる危うさの象徴という気がしてなりません。
 田母神氏の発言も、解任更迭以降エスカレートの度合いを強めているようです。批判された石破元防衛相は田母神氏の論文問題に対して自らの見解をブログに残しています。
田母神・前空幕長の論文から思うこと」(2008年11月5日)
文民統制」(2008年11月10日)
 石破氏の田母神氏への考え方がよく分かります。特に田母神氏をめぐる問題の本質は文民統制であり「『現職自衛官は政治的・思想的な活動を行なってはならない』ということに尽きる」「私は、装備、権限につき、専門家である自衛官の意見を文民統制の主体たる大臣に述べることを求めたのであり、歴史観憲法観についての発言を公の場で為すことを促したのではありません」との指摘は冷静です。手短な記事からは田母神氏がどんな風に石破氏を批判したのか、必ずしも定かではありませんが、田母神氏が「偏っているのはあなただ」と批判したのは的を得ておらず、ただの感情論だと感じます。
 田母神氏はネット投票などで自分の見解、発言に過半数の支持があることで、自分の主張に自信を深めているようですが、わたしはそれも考え違いだと思います。ことは歴史である以上、「事実」がどうであったかの問題であり、どうであってほしかったかという「願望」をめぐる問題ではないからです。仮に「歴史的にこうであった、と考えたい」という特定の歴史認識願望が社会の多数を占めたとしても、それでも歴史的事実は別の問題です。田母神氏の歴史認識は歴史家の批評に耐えうるものでは到底ないことは、今さら繰り返すまでもないことです。
 今は退官し自衛官の身分を離れた田母神氏が一個人として何を言うかは自由です。その言動をマスメディアが取り上げることについて「誤った歴史認識を社会に広めるようなものだ」として消極的にとらえる考え方があります。理解できなくはないのですが、しかし今回の講演の意味を考えると、田母神氏がどんな場で、だれに対して何を発言しているのか、聞いた人たちはどんな受け止めをしているのかもまた社会に伝わるべき情報だと思います。わたしたちの社会がどんな状況にあるのかを知る一助になるからです。
 それにしても、「成田空港反対派ごね得」発言や的外れな日教組攻撃で国土交通相を辞任した中山成彬氏の名前が講演主催者の代表として登場するのは悪い冗談としか思えません。

※関連する過去エントリーです
【田母神氏論文】
田母神空幕長の更迭で決着ではないはず〜自衛隊で何が起きているのか」2008年11月3日
五・一五事件裁判長が遺した述懐〜『前空幕長処分せず』で危惧されること」2008年11月5日
続・高須大将の述懐」2008年11月8日
【中山氏問題発言】
中山国交相の日教組攻撃発言は憲法問題」2008年9月28日
ノーベル賞の益川さんは元組合役員〜中山成彬前大臣『日教組攻撃』の違和感」2008年10月10日