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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

新聞発行への公的支援「日本でも一考に値」

 先日、フランスのサルコジ大統領が政府によるマスメディア支援の一環として、選挙権を得る18歳の若者全員に1年間、好きな日刊紙1紙を無料で配る政策を打ち出し、話題になりました。きのう(23日)の毎日新聞朝刊が特集記事を掲載しています。

フランス:「18歳新聞タダ」各紙を救えるか 一石二鳥狙うサルコジ大統領
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090223ddm012030003000c.html(毎日JP)

 「日本でも一考に値する」との見出しで、大石泰彦・青山学院大教授の長めの談話も掲載されています。印象に残った部分を引用します。

 重要なことが二つある。一つは、ジャーナリズムの内容に絶対に干渉しないことだ。新聞論調は経営者や所有者ではなく記者の意見の反映でなければならず、社内での発言など記者の自由を保障する仕組みも欠かせない。もう一つは、外部からの批判が紙面に掲載されやすいようにすることだ。フランスは反論権を認めている。外部に開かれていることが新聞の公共性と質を担保することにつながる。

 新聞の規模や発行状況の違いがあって、ただちに日本に置き換えて考えることはできないと思います。それでも、複数の新聞があればその分だけ、社会に多様な言論、意見が存在することを担保できることを考えれば、社会制度・政策としての新聞発行への公的支援を考えることにまったく意味がないわけではないと思います。ただその場合、いくつもの前提条件が必要でしょう。大石教授の指摘も参考にしながら考えてみると、発行元が営利至上主義に走る事業体ではないこと、今なお指摘されている「押し紙」など不透明な販売方法がないこと、取材・編集が公権力はもとより経営資本からも自由であり独立していること、特定の党派性を持たないこと等々が必要だと思います。
 そもそも日本では一口に「新聞」と言っても、いわゆる一般紙でも全国紙、ブロック紙、県紙、地域紙と様々あり、発行部数や経営状況もそれぞれです。そのすべてをひとくくりにして公的支援策を考えるのはさすがに困難だと思いますが、小規模の地域に密着した新聞、媒体それ自体がコミュニティの役割を果たしうるような新聞ならどうだろうか、というようなことも考えます。例えば、以前のエントリーで紹介した畑仲哲雄さんの「新聞再生 コミュニティからの挑戦」で紹介されている鹿児島新報OBたちのNPO法人による復刊の構想です。
 鹿児島県の県紙「南日本新聞」に対抗して1959年に創刊された鹿児島新報は経営に行き詰まり2004年5月、廃刊しました。自主的に集まったOBたちが「NPO鹿児島新報」というグループをつくり、将来のNPO法人化と復刊を目指してインターネット上にサイト「みんなでネット鹿児島」を立ち上げ、OBや市民記者による独自の情報発信に乗り出していった経緯を、畑仲さんは著書で報告しています。構想はいまだ実現していないようですが、仮に何らかの公的支援が制度としてあったなら実現の現実味もその分増すのではないかと思います。
 公的支援の方法論はサルコジ政権のようなやり方もあれば、別のやり方もあるでしょう。独禁法の適用除外措置を続けるのか、廃止するのか、公正取引委員会と新聞界、出版界との間で10年以上にわたり綱引きが続いている著作物再販(再販売価格維持制度)も、公的支援の性格があります(わたしは、理念としての再販制度それ自体の適否と、それを今の新聞に適用することの適否とは別の問題ではないかと考えています)。一方で「権力の監視」を掲げつつ、一方で公的支援を求めることは、ただちには整合性がつかないかもしれませんが、それで多様な価値観、多様な言論が社会に担保されることに寄与するのなら、議論を深めるのに値するテーマだと思います。

 折りしも電通が23日、「2008年(平成20年)日本の広告費」を発表しました。総広告費は6兆6926億円、前年比95・3%に対し、新聞広告費は8276億円、前年比87・5%。繰り返し指摘されていたことですが、落ち込みが顕著です。新聞社の経営は一層の経費削減、合理化努力が続きます。

※追記 2009年2月25日午前9時20分
 今だけ委員長さんがご自身のブログに、不況下で年度末を待たずに新聞の購読打ち切りの連絡が相次いでいることへの考察を書かれています。
 「値下げはご法度? 新聞は誰のために発行し続けるのか…」

※追記 2009年3月29日午前11時10分
 別エントリーにも、公的支援に関連する記述を載せました。こちらもご覧ください。
「読書:ジャーナリズムの可能性(原寿雄 岩波新書)」
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20090309/1236549872