Journalism4月号特集「ジャーナリスト教育を考える」

Journalism 4月号

Journalism 4月号

 発売から日がたってしまいましたが、朝日新聞社ジャーナリスト学校が発行している「Journalism」4月号が「ジャーナリスト教育を考える」と題した特集を掲載しています。日本の新聞界では、専攻を問わず学生を記者職として採用し、取材現場に放り込んで実務の中で記者としてのスキルを身につけさせるオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)が伝統的な記者教育です。わたしもそうした教育を受けてきました。しかし近年、大手新聞社の協力を得て大学がジャーナリスト養成の講座を開設する例を耳にするようになってきました。もはやOJTだけでは間に合わないとの新聞界の事情を反映した現象かもしれません。そうした中でのタイムリーで中味の濃い特集だと感じました。
 掲載されているいずれの記事も興味深く読み応えがあるのですが、中でもわたしはメディア倫理教育の日本と海外との比較の観点からフランスのジャーナリスト養成機関を紹介している大石泰彦・青山学院大教授の論考が強く印象に残っています。
 一般に欧米では、ジャーナリストは専門職としての職能が社会に認知されており、メディア企業とは別に専門養成機関があることが日本との大きな違いです。大石教授の論考では、フランスではジャーナリスト養成校が労働協約の認定の対象となっていることが紹介されています。背景には労働組合の成り立ちの違いがあると思います。日本では他産業と同じく、新聞記者も新聞社の企業内組合に所属するのが一般的です。対して海外では、職能ごとに企業籍を問わず個人で加盟する産業別の職能労働組合が一般的です。新聞記者なら個人でジャーナリスト・ユニオンに加盟しており、ユニオンが新聞社と(あるいは新聞業界の経営者団体と)結ぶ労働協約によって労働諸条件が守られています。フランスでジャーナリスト養成校が労働協約の認定を受けるということは、養成校の卒業生は一定の職能を身に着けたジャーナリストとして認知され、ユニオンへの加入資格も得る、ということなのでしょう(ここはもう少し詳しく知りたいところです)。フランスとは別の欧州の国でしたが、新聞労連の専従役員だった当時、ジャーナリストと認知される要件はジャーナリスト・ユニオンの組合員であることであり、ユニオンが記者証も発行する、という国の実例も直接耳にしたことがあります。
 大石教授の論考では、フランスの事情の以下のような紹介もあります。

 (中略)フランスの労働法典には、ジャーナリストの内部的自由(マス・メディア企業内部におけるジャーナリストの思想・良心の自由)の根拠規定である「良心条項」(L761-7条)が置かれているだけでなく、ジャーナリストに各種の取材特権(L761-15条)、記事転載権(L761-9条)、特別の有給休暇取得権(L761-14条)の各権利を与える規定が置かれている。また、労働協約においてはさらに、ジャーナリスト資格を有するものの優先採用権(6条)、社外活動の権利(7条)、広告記事執筆を拒否する権利(5条)、危険な取材を行う際の権利(39条)なども認められている。
 もちろん、フランスにおいても、企業内ジャーナリストは組織の一員であり、マス・メディア経営者は所属ジャーナリストに対して、単に有能であるだけでなく“自社のカラー”を身に付けることを期待し、要求する。
 しかし、そのことがジャーナリストの職業的良心を圧迫し、かつ、それによってジャーナリズムの公共性が危機に瀕する場合には、ジャーナリストはさまざまな法律上・協約上の規定によりつつ、そうした圧力に対抗することができ、かつそれは法的・社会的に“正しいこと”と認識されているのである。ジャーナリズムの公共性は、このようなメカニズムによって担保される。そして、その前提となっているのが、職業活動に必要な知識・倫理・技能を養い、組織人になる前にジャーナリストとしての自己認識を形成する入社前の養成教育というわけである。

 記者の内部的自由にまで踏み込んだ労働法は日本にはありません(憲法19条には「思想および良心の自由」がありますが)し、新聞社でも会社と労働組合労働協約を結びますが、優先採用権は別としてももとより、社外活動の権利、広告記事執筆を拒否する権利などにまで踏み込んだ協約の例は耳にしたことがありません。恐らく皆無だと思います。ちなみに日本新聞協会には、編集権は経営に帰属するとした上で「内部においても故意に報道、評論の真実公正および公表方法の適正を害しあるいは定められた編集方針に従わぬものは何人といえども編集権を侵害したものとしてこれを排除する」と明記した1948年の「編集権声明」が今なおあります。
 「記者としての働き方」の背景事情の違いを抜きに、日本で「メディア企業のOJTか、大学など専門機関の養成教育か」を論じても、実はジャーナリスト教育の形式面を論じるだけなのではないか、という気もします。OJTは一面では企業による社員教育です。せっかく専門機関で学んだジャーナリストとしての社会的職能や倫理観が、企業の社員教育によって生かされなくなるのであれば、専門機関の教育の意義は損なわれてしまうでしょう。そもそも「どうやってジャーナリストになるのか」は「ジャーナリストとしてどう働くのか」と切り離せない問題です。これらの点はなおわたし自身の考察を続けたいと思います。
 特集記事には、朝日、読売、日経の新聞各紙とNHKの採用担当者の座談会(司会は音好宏・上智大教授)も収録されています。記者教育と社員教育をめぐる各社のスタンスがうかがえ、こちらも興味深く読みました。