組織の問題として考えるべき海自・集団格闘死事件

 以前のエントリーでも取り上げましたが、海上自衛隊の特殊部隊「特別警備隊」の養成過程で15人対1人の格闘訓練をしていた3等海曹が死亡した事件で動きがありました。海自警務隊が10日、教官ら4人を業務上過失地容疑で広島地検書類送検しました。
 「3曹格闘死で教官らを書類送検 業過致死容疑で海自警務隊」(47news=共同通信
 http://www.47news.jp/CN/200906/CN2009061001000287.html
 今後は広島地検の判断が焦点になりますが、刑事手続きとしては故意の傷害事件ではなく過失事件として決着していく見通しのようです。隊員の死亡が仮に教官らの過失によるのだとしても、では教官らの個人的な資質の問題かと言えば、やはりそうではなくて自衛隊の組織の問題として捉えるべきだろうとわたしは考えています。
 事件に対する海自の中間報告によれば、格闘技は水泳や陸上競技、球技などとともに「鍛錬」として教育課程に盛り込まれています。1年3カ月の応用課程の教育期間中に格闘訓練に充てていた時間は、2002年の教育課程開始当時から06年までは多くても10時間程度でした。それが07年からは約60時間に増えています。今回書類送検された教官の2等海曹が専任の格闘・体育教官として着任したことが要因です。しかし、この2曹やその上司には十分な格闘技の技能があったどうかは疑問で、訓練を受ける隊員の格闘技経験・技能も同様です。つまり、教官も隊員ともに「15人対1人」のような危険を伴う訓練を行うだけの経験・技能に乏しかった可能性が大きかったわけです。
 海自の中間報告はこの点についてさらに調査が必要としており、現段階ではこれ以上の推測は避けますが、一方で中間報告は「15人対1人」の訓練は必要性がなかったことは明確に認定しています。
 必要のない危険な訓練を、経験も技能も不足している疑いが強い教官、隊員の間でなぜ行ったのか。そもそも格闘技訓練は「鍛錬」の一環と位置付けられているように、実戦でどこまで必要なのかは疑問です。自衛隊の組織の問題としてみれば、特別警備隊に何をやらせるのか、そのためにどんな訓練が必要なのか、その基本的な方針にあいまいさがあったのではないかとの疑問をわたしは持っています。そして特別警備隊にとどまらず「自衛隊に何をやらせるのか」「どこまでやらせるのか」は今日、北朝鮮のミサイル問題に絡んで「敵基地攻撃論」が政権党で取りざたされるまでになっている中で、憲法9条を揺るがす大きな問題になっていると考えています。
 今回の事件にはそれだけの背景があり、決して現場に立ち会っていた教官らの個人の問題に矮小化されてはならないでしょう。今後の広島地検の捜査や防衛省の内部調査を注視したいと思います。
 ※参考
 「海上自衛隊特別警備隊関係の課程学生の死亡事案について(中間報告)」
 (平成20年10月22日 防衛省
 http://www.mod.go.jp/j/sankou/report/2008/pdf/20081022_houkoku.pdf