「署名」と「取材経過の開示」はマスメディアにも可能性をもたらす〜「スイッチオン」学生の記事から学んだこと

 新聞や放送、出版などのマスメディア、ネットやフリーランスで働くプロやメディア研究者らがデスク役となり、大学生の取材・記事執筆を指導する実験的ジャーナリズムの試み「スイッチオン」プロジェクト。7月1日からポータルサイトgooで始まった参加学生の記事の発表は、終盤に入っています。24日午後までで19人分。すべての記事にリンクを張っている学生運営委員会のブログからアクセスするのが便利です。ぜひ、お読みください。

 ※学生運営委員会のブログ「『スイッチオン』プロジェクト」
 http://blog.goo.ne.jp/321switchon

 わたしの担当した学生の記事も既に2本アップされ、デスク役の仕事も終わりが近付いています。わたしの最終的な総括や感想は後日、あらためて整理して書きたいと思いますが、学生たちの記事作成を指導しながら興味深く感じたのは、署名記事として一人称で書いていくと、自然と記事中で取材経過も開示することになることでした。結果として書き手の力量を反映した出来栄えとなり、時として限界も露呈しますが、背伸びしたところがないという点ではかえって記事の説得力を増すことにつながります。これは、新聞という既存マスメディアを主な舞台に仕事をしている中では気付かなかったことで、わたし自身にとって発見でした。
 例として、学生の記事のひとつを紹介します。
 「ネットは匿名ではない」、なぜ大学准教授は実名ブログを運営するのか
 http://news.goo.ne.jp/article/gooeditor/life/gooeditor-20090721-01.html
 ブログ「H-Yamaguchi.net」を運営する駒沢大の山口浩准教授に取材した記事です。プログラムディレクターの藤代裕之さんが最終的に決めた見出し「ネットは匿名ではない」が良かったのでしょうか。ネット上でけっこう読まれているようで、アップ翌日の7月22日にgooニュースのランキングで総合3位でした。はてなブックマークも多く付いています。
 http://b.hatena.ne.jp/entry/news.goo.ne.jp/article/gooeditor/life/gooeditor-20090721-01.html
 山口さんへのインタビュー後、この学生は記事をどうまとめていけばいいのか相当に悩みました。わたしからのアドバイスは「身の丈にあったことを書けばいい」でした。分からないことを分かったように書くことはしない、ということです。この記事を好意的に読んでくれている読者層は、この学生と同じように「ネットで実名を使うなんてとんでもない」と考えていた若い世代ではないかと推察しています。
 「署名と一人称」「取材経過の開示」というキーワードは、新聞をはじめとして既存のマスメディアが今後、どういう方向を目指すべきかを考える際に、非常に大きなポイントになるのではないかと考えています。新聞でも記者の署名記事は増えており、流れとして定着した観もあります。しかし調査報道や評論は別としても、官公庁や警察の発表ものの場合、発表内容の枠内でそのまま記事にするだけなら、署名にする意味はないでしょう。だれが書いても同じような記事になるでしょうし、取材経過の開示も何もありません。記者クラブで発表を聞いただけです。その程度の記事なら、少しだけ情報検索のスキルを持っていれば、発表元の官公庁のホームページで生データを調べることなどで事足りる場合も多く、つまるところは対価を払うに値しない、ということになります。
 署名化と一人称の上に立って、だれに何を聞いていったのか、取材経過も開示することで、ほかに二つとない独自の価値を備えた記事が生まれるのではないかと思います。マスメディアのジャーナリズムが今後も社会にとって必要とされるかどうかは、この点にかかってくるのではないかと思いますし、個々の記者にとってはプロのジャーナリストとしての力量が問われることでもあるでしょう。

※既にお知らせしていますが、8月1日に東京・講談社でプロジェクトの盛夏成果発表会が開かれます。どなたでも参加できます。詳細と申し込みフォームはこちらへ