ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

各紙政治部長の署名評論の雑感

 民主党が308議席を獲得した8月30日の衆院選について、マスメディアは開票状況の速報とともに選挙結果がどんな意味を持つのか、論評にも力を入れました。東京都内発行の新聞各紙(最終版)は31日付朝刊の第一面に、政治部長らの署名評論記事を掲載しています。おそらく各紙ともネットでは公開していない記事です。

 朝日新聞 「新たな『憲政常道』を」 根本清樹・政治エディター
 毎日新聞 「新しい時代が始まる」 小菅洋人・政治部長
 読売新聞 「政権党の責任は重い」 村岡彰敏・政治部長
 日経新聞 「未知なる与党に託すもの」 宮本明彦・政治部長
 東京新聞 「未来につなげる政治を」 山田哲夫・論説主幹
 産経新聞 「あえて言う『消えるな!自民』」 乾正人政治部長

 各記事を読み比べてみて感じたことを書き留めておきます。

 ▽高揚感がない
 記録の上では308議席は一つの政党が獲得した議席数としては過去最多ですし、4年前の自民党の大勝から一転したという意味でも、有権者が自らの意思で政権交代を選び取ったという意味でも、歴史的な出来事であるのは間違いありません。しかし、個人的には高揚感はありません。その気分にしっくりときたのは「劇的な政権交代にもかかわらず、世間はどこか冷めている」とし、郵政選挙の後も自民党政治は何も変わっていなかったことが一因であることを指摘した日経の記事です。一部を引用します。

 小泉氏の独り舞台でもあった疑似政権交代に世論は熱狂したが、熱から冷めてみれば、普段と変わらない自民党政治が待っていた。小泉氏を継いだ3代の御曹司内閣は、特定の指弾されるべき失政があったというわけではない。
 ただ、景気は悪く、雇用が目に見えて悪化し、日々の生活への不安も募るのに、どこか浮世離れしていて、一向に国の行く先を示さない。このままではこの国もろとも『売り家と唐様で書く三代目』の巻き添えにされるのではないか、と思われたのである。

 今回の選挙結果についてのマスメディアの論調は、有権者民主党を積極評価したわけではなく自民党に愛想を尽かした、との分析でおおむね一致しています。記録的な大勝でありながら高揚感が感じられないのは、一つには衆院解散から投開票まで40日と長い時間がありながら、自民党は言うに及ばず、民主党も含めて各党が掲げる政権公約からは、この社会の将来像がいっこうに見えてこなかったからだと個人的には感じています。衆院選に先立つ東京都議選などの地方選で民主党が連勝し、既に衆院選勝利は既定の事実のように受け止めていたこともあるでしょう。
 政権交代民主党が強調する官僚依存政治からの脱却は、どんな社会を目指すのかの方法論であるはずで、政権交代それ自体は目的ではないはずです。「どんな社会を目指すのか」が実はこれまでと同様に一向に見えていない、それが高揚感を欠いている最大の要因だと思います。
 選挙結果について「『09年8月30日』は後世、歴史年表に太い活字で特筆されるだろう」(朝日)とのいささか過剰な表現で肯定的に評価する記事もありますが、「世間は冷めている」とずばりと言い切る日経記事のこの部分に対しては、納得感を持った読者も少なくないのでは、と思います。

 ▽「世代」の影響は
 自民党VS民主党の構図で報道が続いてきた衆院選ですが、民主党圧勝の象徴となったのは、小選挙区自民党公明党の大物を無名の民主党若手が次々に倒す、あるいは追い詰めていく光景ではなかったかと思います。わたしの推論、ないしは仮説ですが、民主党圧勝の要因のキーワードには「世代」もあるかもしれません。
 しかし、政治部長らの署名記事に限らず、新聞各紙の社説などを見ても、世代を切り口にした分析、解説はほとんど見当たらないようです。わずかに、東京・山田論説主幹が新政権の当面の重要課題を挙げている中で、次のように触れているのが目に留まった程度でした。

 結婚したくてもできない、子供を産みたくても産めない若い世代の増加はもう見過ごせない。若者に希望がもてない国に未来があるとは思えないからだ。マニフェストの五・三兆円の子ども手当バラマキでなく未来世代のための重要投資と考えたい。

 新聞の場合はとりわけ、定期購読者の高年齢化、言い換えれば若い世代の新聞離れが以前から指摘されています。「世代」に敏感なように感じられないのは、そうした事情と関係があるのかもしれませんし、「世代」に敏感でないから若い世代の新聞離れを招いたのかもしれません。
 いずれにせよ、今回の選挙結果に「世代」がどう影響したのか、しなかったのか。候補者の側の「世代」と有権者の側の「世代」と二つの側面がありますが、引き続き考えてみたいと思います。
【追記】2009年9月1日午前9時
 高揚感がない、と感じている人は少なくないようです。元TBSの田畑光永さんは以下のように書いています。
 「なぜか昂揚感が感じられない――民主党圧勝にも」
 http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-887.html