報道する側の主体性が問われる〜記者クラブ問題にも記者会見開放にも欠かせない視点

 気付くのが遅れましたが、鳩山政権になって出てきた閣僚記者会見の開放の動きをめぐって、産経新聞が10月30日付朝刊(同紙の東京本社エリアでは夕刊はありませんが)の紙面で新聞記者出身の識者2人の大型インタビュー記事を掲載しました。記者クラブのメンバーシップの問題と記者会見の開放とを分けず、記者クラブ問題というテーマ設定ですが、2人それぞれに「なるほど」と思う指摘に富んでいます。11月7日付の東京新聞朝刊も特報面で「民主党政権で進むオープン化」の見出しで見開き2ページの記事を掲載。現状のリポートに加え、ジャーナリスト2人の意見も紹介しています。2つの記事では総じて、報道する側の主体性を重視している点が共通しており、これは記者クラブに限らず、表現規制の法制化などを含めて「権力とメディア」を考える上で欠いてはいけない重要な視点だと思います。
 依然として記者会見の開放問題に対するマスメディア自身の報道、言及は決して多くはないのですが、その中でこの問題をどう考えればいいのか、産経新聞東京新聞の記事のようにマスメディアの外にいる人たちの声が紹介され始めたことは、一歩前進ととらえていいのではないかと考えています。以前のエントリー(記者会見の開放は進めるべきだ〜やっぱりマスメディアも記者も「見られて」いる)で書きましたが、わたし自身は記者クラブのメンバーシップの問題はさておき、記者会見の開放はどんどん進めればいいと考えていますし、そうした動きをマスメディア自身が伝えていくことも必要だと考えています。

 【金曜討論】記者クラブの開放 竹内謙氏、福井惇氏=msn産経ニュース
 http://sankei.jp.msn.com/entertainments/media/091030/med0910300727000-n1.htm
 民主党政権で進むオープン化=東京新聞サイト
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2009110702000056.html
  ※東京新聞記事はネットでは有料で、サイトでは前文のみ読めます。

 産経のインタビューのうち1人は元朝日新聞記者で、神奈川県鎌倉市長に就任後、記者室を市政記者クラブ加盟の記者以外にも開放して「メディアセンター」としたことで知られる竹内謙氏(68歳)。インターネット新聞「JANJAN」を運営する日本インターネット新聞社代表取締役でもあり、今日の記者会見問題の当事者の1人でもあります。インタビューのもう1人は、元産経新聞記者で帝京大名誉教授の福井惇氏。
 竹内氏は鎌倉市長当時のことを振り返って「本来、記者クラブ改革は記者自身が行うべきで市長が考えるべきではない。だから、私がやったのは、あくまで行改の一環のクラブ改革」と話し「報道という公的意味合いから記者室の設置自体はかまわない。けれども、一部の人だけでなく、だれでも使えなければ公平でない。報道関係者すべてに開かれた記者室にしようと、メディアセンターを開設した」と述べています。また「開放」の範囲については「鎌倉は報道機関に限った。もちろん個人のフリーランスやネットメディア記者ら報道機関に原稿を書く人は構わない。枠を設けた理由は、企業や宗教団体、政党の広報紙誌記者が入ってくるのを防ぐため。報道とは別の目的を持っている」と述べています。
 現状の記者クラブの弊害については「記者本人はなかなか気付かないが、やはり官のコントロールの上に乗せられてしまっている」「官側からみると、記者クラブは世論形成にこの上ない便利な組織だ」と指摘し、「新聞記者も、自分たちがすべき改革をきちんとやった上でジャーナリズム活動をすべきだと思う」と、改革を行うべきは記者自身であることを強調しています。
 福井氏のインタビューの中で印象に残るのは、社会部記者として1965年ごろ、警視庁担当から国会担当になった当時のエピソードです。「各社が社会部記者を国会へ送り始めたころ。ところが夜の番記者懇談で、有力政治家は記者を見渡して『知らん顔がある。やめだ』という具合。よく見知った政治部記者だから安心して本音を言う。一方、社会部記者は国会記者会を作って、会見に応じるよう求めたんだよ。次々に汚職が発覚した黒い霧事件だ。黒い霧解散につながった。記者クラブという単位だからこそできたのであり、そこから裏を探るのが本当の新聞記者だ」。
 補足の説明が必要かもしれません。新聞社や放送局で政界を主に取材するのは政治部で、首相官邸や各省庁のほか、国会や政党を取材する担当者の記者クラブもあります。しかし自民党政権下の時代、政治部記者の取材は派閥のボスクラスにどれだけ食い込むかが勝負でした。政治家にとって社会部記者はどんな存在だったかは福井氏のエピソードの通りで、国会を担当する社会部記者たちが結束したのが福井氏が言う国会記者会です。記者クラブの本来的なありようを示している例の一つだと思います。

 東京新聞特報面の記事では、岡田克也外務相の強い意向で大臣会見の開放に踏み切った外務省と、記者クラブ側の拒否で、亀井静香金融担当相が記者クラブ主催の会見とは別に自らが主催するクラブ非加盟記者向けの会見との1日2回の大臣会見を開いている金融庁との、2つの例をリポート。首相官邸や省庁など13の政府中央機関の記者会見開放をめぐる動き(記者クラブ側の開放拒否も含めて)を一覧表にまとめています。
 この中で焦点を当てているのが、会見の主催者は記者クラブなのか、大臣・省庁側なのかの問題です。記事で意見を紹介しているジャーナリスト2人のうち、フリーランス青木理氏(元共同通信記者)は「国民の知る権利にこたえるため、当局に情報を開示させる重要な場なのだから、絶対に記者クラブ側主催にしなければならない」とし、記者クラブ側が会見の主導権を握った上で、クラブ加盟社以外もオープンとすべきだとしています。
 もう1人のビデオニュース・ドットコム代表のジャーナリストで、この問題に対しては会見を全面開放すべきとの立場から、ネット上などで積極的に発言している神保哲生氏も、会見の主催の問題に対しては「会見が宣伝の場に利用されないためにも主催を報道側が握ることは重要」と指摘しています。

 金融庁の場合は、亀井大臣が「記者会見は記者クラブの主催」とのクラブ側(「親」クラブに当たる財務省記者クラブの意向とされています)の主張を受け入れたために、独自に主催する2つの記者会見を設定したとわたしは受け止めています。大臣が1日に2種類の記者会見をしている異例の事態を解消するには、会見を主催している記者クラブ側が開放を決めればいいだけです。この点について、東京新聞の記事は「財務省クラブでは全面開放を是認した社も少なくなかった。ただ一部の社に反対論が根強かったという」と内部事情を紹介しています。反対論が読者や視聴者の理解を得られる内容なのかどうか、気になるところです。
 記者会見の主催者という観点から金融庁と対照的なのは外務省です。岡田大臣が「会見は大臣の主催」と言い切り、「クラブの主催」としていたクラブ側の慎重姿勢を押し切った経緯があります。岡田大臣に対してはネット上などで手放しの賛辞を散見しますが、権力の側が記者会見の主催権を握ることには原理上、懸念があることに留意が必要だと思います。逆に、記者クラブ加盟のマスメディアとしては、主体性をもった改革(=記者会見の開放)が出来なかったために、政治主導による記者会見の開放となったことを軽く考えてはならないと思いますし、このことは外務省に限ったことでもありません。