労働者の権利より企業の負担を重視した最高裁〜偽装請負訴訟判決に違和感

 「偽装請負」という違法な雇用形態があります。業務を請け負った体裁をとりながら、実際には発注元の指揮監督下に労働者が置かれる形態です。請負なら請け負った事業者なり個人なりの働き方は自律的であってしかるべきですが、発注元が指揮監督するとなると、本来は発注元が直接雇用すべきということになります。そうでなくても、少なくとも派遣会社から派遣される形態の派遣労働でしょう。「偽装」と呼ばれるゆえんです。2006年に朝日新聞が始めたキャンペーン以降、労働行政当局が是正に力を入れたこともあって現在は耳にすることも少なくなりましたが、企業にとっては直接雇用に比べて人件費が縮減できるメリットがありました(企業が最初から意図していたかどうかはともかく、結果的にメリットを享受していたことは否定できません)。
 では、偽装請負の発覚後、そこで働いていた労働者の立場はどうなるのか。そういう観点から注目されていた訴訟の判決が18日、最高裁で言い渡されました。

 偽装請負最高裁「雇用関係ない」 パナソニック子会社(asahi。com)
 http://www.asahi.com/national/update/1218/TKY200912180294.html

 「パナ子会社の雇い止めは適法 最高裁偽装請負訴訟で逆転敗訴」(47news=共同通信
 http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009121801001001.html

 「偽装請負訴訟 直接雇用認めず」(東京新聞
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2009121902000052.html

 東京新聞の記事の冒頭部を引用します。

 パナソニックの子会社の工場で働いていた吉岡力さん(35)が、偽装請負内部告発した後に雇い止めされたのは不当だとして、同社に雇用関係の確認などを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷(中川了滋裁判長)は十八日、吉岡さんと子会社側の雇用関係を認めた二審大阪高裁判決を破棄し、吉岡さんの訴えを退けた。吉岡さんの実質敗訴が確定した。
 一方で、小法廷は、吉岡さんの労働形態を労働者派遣法に違反する偽装請負だったと認定。吉岡さんが内部告発後に不当な異動の末、雇い止めされたことを「内部告発に対する報復」とした二審の認定を維持、子会社に対し計九十万円の慰謝料の支払いを命じた。
 子会社との雇用関係については、原告と派遣元の会社との雇用契約が正当に成立しており、「子会社側は吉岡さんの給与額の決定などに関与しておらず、暗黙の雇用関係にあったとは認められない」として、吉岡さんの主張を退けた。

 判決文を読んでいないので、以下は各マスメディアの報道が前提になります。吉岡さんは請負会社の社員として、パナソニックの子会社「パナソニックプラズマディスプレイ」(旧松下プラズマディスプレイ大阪府茨木市)の工場で働いていましたが、偽装請負の是正後はパナソニックプラズマディスプレイ(長いので以下、「プラズマ社」と表記します)に期間従業員として直接雇用された後、雇い止めされました。問題は、偽装請負は違法なのだから、さかのぼってその当時からプラズマ社との間に雇用契約があったとみなすかどうかということで、大阪高裁はそう認めたのに対し、最高裁はそうは判断しなかった、ということになります。この点は朝日新聞の記事が分かりやすいので、一部を引用します。

 吉岡さんは「形の上は請負会社に雇われていたが、実際にはプラズマ社と使用従属関係にあった」と主張し、雇用関係があることの確認を求めた。二審・大阪高裁判決は請負会社が吉岡さんと結んだような契約は公序良俗に違反して無効としたうえで、プラズマ社と吉岡さんの間には「黙示の雇用契約」があり、有効な雇用関係が続いていると判断した。
 これに対し、第二小法廷は、プラズマ社が労働者派遣法に違反した状態で吉岡さんを働かせていたと認めたうえで、「仮に違法な労働者派遣でも、そのことだけで労働者と派遣元の間の雇用契約が無効になることはない」と判断。プラズマ社側が吉岡さんの採用に関与したり、給与の額を事実上決定したりしていた事情がなく、黙示の雇用契約も成立していないと結論づけ、二審判決を破棄した。

 大阪高裁と最高裁の判断の違いは、「違法な労働者派遣」である「偽装派遣」の元で働かされていた労働者と、直接の雇用主であった請負会社との間の雇用契約を無効とするか有効とするかに行き着きます。有効とした最高裁は、採用や賃金の決定にプラズマ社側の直接関与がなかったことからプラズマ社に雇用責任を負わすのは酷だと考えたのだとわたしは受け止めていますが、労働者側に立って考えるなら「たとえ違法な働き方をさせられても、雇用契約自体は有効」ということです。大阪高裁が労働者の権利擁護を重くみたのに対し、最高裁は雇用主の負担という観点を重視したというほかなく、わたしは最高裁の判断に強い違和感を覚えるとともに、非常に残念なことだと思っています。
 プラズマ社が採用や賃金決定に関与していなかったとしても、労働者の側もプラズマ社の工場でどのような働き方をするのか自ら選択、決定する余地はありませんでした。しかし、労働者の労務の提供によってプラズマ社が事業を遂行できた事実は厳然と残っています。ならば、雇用責任も最終的にプラズマ社が負うべきだと考えた大阪高裁判決の方が、紛争の具体的な解決策として社会的に大きな意義があるとわたしには思えます。なぜなら、この訴訟が雇用をめぐる係争だからです。
 雇用主と労働者の関係は決して対等ではありません。圧倒的に雇用主のほうが強い関係にあります。だからこそ、1日8時間労働をはじめとして雇用主に規制をかけ労働者を保護する様々な法制が整備されています。団結権、交渉権、行動権の労働3権がわざわざ憲法28条に独立の明文規定を設けているのも、そうした労働者の権利擁護の基本に位置づけられているからだとわたしは理解しています。今回のケースで言えば、重視すべきはプラズマ社の負担の観点なのか、労働者の権利擁護の観点なのか。対等の立場である当事者間の紛争ならともかく、ただでさえ立場の弱い労働者の保護につながらない判断を最高裁が選択したことが本当に残念でなりません。

 形態は異なりますが、やはり雇用をめぐって労働者の権利擁護ではなく雇用主の負担を重視した司法判断をまざまざと見せ付けられた経験がわたし自身にもあります。以前のエントリーで紹介した「一橋出版=マイスタッフ争議」です。わたしは2004年から06年にかけて、支援共闘会議の議長でした。
 ※「『一人ではない』と実感できたから頑張れた」〜「派遣」の先駆的な争議だった一橋出版争議(追記あり)=2009年10月4日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20091004/1254611222
 一審の東京地裁が05年7月に出した判決を読んで「やっぱり裁判官は『それでもこの働き方を選んだのはあなた自身でしょ』と考えているんだな」と思いました。どんなに疑問点が多くても、雇用契約がいったん成立していれば裁判官は「当事者が納得していた」と考えてしまうのだな、と。それでもあれから時間が経ち、社会に非正規雇用が抱える問題点が広く知られるようになるにつれて、大阪高裁のような判決が出るまでになって、裁判官の中にも社会をよく見ている人が出てきたんだなと、個人的には嬉しく思っていました。
 一橋出版争議のエントリーにも引用していますが、弁護団の弁護士が「裁判官が普通に考えて普通に勝訴判決を出せる社会的な環境が必要」と言われたことをあらためて思い出します。最高裁の裁判官たちの判断は、個人的には非常に残念ですがそれはそれで今の社会のありようの一側面です。幸いなことに、今回の判決は各マスメディアとも比較的大きく報道しています。今回の最高裁判決が広く社会に知られ、広範な社会的議論につながることを期待しています。