下地島案と「屋良覚書」〜普天間移設報道に足りない視点

 沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題をめぐって、同じ沖縄県内の下地島宮古島市)を移設先とする案が与党内で浮上していると30日以降、さかんに報道されています。新聞各紙の報道で共通しているのは、29日夜の与党3党の幹事長・国会対策委員長の会合で話が出た、という点です。話を切り出したのは民主党小沢一郎幹事長だったり、国民新党下地幹郎政調会長だったりとメディアによって相違点がありますが、総じて小沢幹事長の意向というニュアンスが共通しています。報道によっては。下地島のほかに同じ沖縄県内の伊江島の名前も挙がっているようです。
 下地島案に対してはマスメディアも、過去に普天間飛行場の移設先として検討されたことを簡単に伝えてはいるようですが、情報としては不十分だと思います。下地島空港建設の当初からの経緯をみればすぐに分かることですが、軍事利用を否定していた空港です。

※参考 ウイキペディア「下地島空港
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E5%9C%B0%E5%B3%B6%E7%A9%BA%E6%B8%AF

 ウイキペディアからの引用には慎重さが必要ですが、一般的な知識として「屋良覚書」を紹介します。

屋良覚書
 しかし、下地島空港の利用方法については、飛行場設置に当たって1971年(昭和46年)に日本政府と当時の屋良朝苗琉球政府行政主席との間に交わされた「屋良覚書」が存在しており、これによって下地島空港の軍民共用空港化は為されないものとされている。
 その内容は

  1. 下地島飛行場は、琉球政府が所有及び管理を行い、使用方法は管理者である琉球政府(復帰後は沖縄県)が決定する。
  2. 日本国運輸省(現・国土交通省)は航空訓練と民間航空以外に使用する目的はなく、これ以外の目的に使用することを琉球政府に命令するいかなる法令上の根拠も持たない。
  3. ただし、緊急時や万が一の事態のときはその限りではない。

 というものである。
 この「屋良覚書」に関連する質問趣意書への回答で、平成16年に日本政府は「下地島空港は、公共の用に供する飛行場として適切に使用する必要があり」、そのため「パイロット訓練及び民間航空以外の利用が当然に許されないということではない」としている。

 また、旧伊良部町時代の2005年3月に、町議会で下地島空港への自衛隊誘致の話が持ち上がったものの、住民の異論が強く間もなく撤回されたことも紹介されています。

 ウイキペディアだけでもこれだけの記載があるのに、マスメディアでは(わたしが検索した限りですが)「屋良覚書」に触れた記事は見当たりません。わずかに政党機関紙である「しんぶん赤旗」に関連の記事があるだけです。
下地島移設案を批判 テレビ番組 普天間問題で穀田氏
 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-12-31/2009123101_05_1.html

 こうした経緯を仮に小沢氏が知らなかったのだとしたら、政権党の幹事長としては軽率な姿勢だと思います。承知の上でとしたら、あまりに地元軽視ではないでしょうか。県外移設、国外移設を掲げる社民党にしても、下地島空港の固有の経緯にかんがみるなら、即座に小沢氏をたしなめるぐらいの対応をみせてもよかったのではないかと思います。いずれにせよ、急浮上した下地島案をどう考えたらいいのか、その材料の提供という観点からみると、現在の報道は不十分だと思います。

 個人的な経験ですが、下地島空港は2006年5月に一度、見に行ったことがあります。周りの海の美しさが印象的でした。
 下地島伊良部島とほぼ一体化しており、観光客でにぎわう宮古島からはフェリーで10分余りでした。宮古島との間は橋で結ばれる予定で、手狭な宮古島の空港から下地島空港に島の表玄関を移せば、東京などからの観光の利便性も増すでしょう。下地島空港は軍事面よりも地域の振興に役立つ使い道があるのではないかと思います。
※写真は海に伸びる下地島空港の誘導灯=2006年5月撮影

 下地島空港案が浮上する直前には、普天間飛行場の移転先を名護市辺野古地区とする現行案に小沢氏が難色を示したことも報じられていました。つまりは小沢氏としては現行の辺野古案はだめだけれども別に沖縄県外、日本国外にはこだわらない、ということでしょうか。この問題では鳩山由紀夫首相と岡田克也外相、北沢俊美防衛相の間の不協和音が繰り返し伝えられており、県外・国外移設を探る社民党との連立問題も絡んで、混迷ぶりばかりが強調されたままの越年となりました。
 ざっくりとした印象論になりますが、普天間飛行場移転問題をめぐる年内のマスメディアの報道では、とくに本土メディアの報道にいくつも気になることがありました。最たるものは、米国が不信感を募らせているとして、鳩山首相指導力不足を批判する論調です。日米の軍事同盟が疑いようのない所与の前提となっているかのような、そうした論調には強い違和感があります。政権交代と言いながら、マスメディアの側に変われていない、変えようとしない部分があることが図らずも明らかになったのかもしれません。
 もう一つ残念だったのは、大阪府橋下徹知事が表明した「関西受け入れ論」が全国的な広がりに至らなかったことです。これもマスメディアの報道のありようの問題だとわたしは考えています。そもそも在日米軍基地は日本が国家意思として日本に受け入れています。米軍専用施設の7割以上が沖縄に集中していることには何ら合理的な理由はつきません。ならば、米軍基地が日本に必要だと考えている他の地域の人たちが、自分の地元に誘致するという議論は当然あってしかるべきです。そうなると「基地は必要ない」と考えている人たちとの間で激しく賛否が分かれるでしょう。その議論こそが民主主義だと思うのです。その議論の果てに、日米関係のありよう、日本の憲法9条と軍事同盟の関係などにも、社会的に広範な議論が起こるのではないでしょうか。
 マスメディアに「米国が不信感を募らせているから問題だ」との発想が根強くあることと、国内の非沖縄を移転先と想定することに鈍感なこととは無関係ではないと思います。この問題は今後もまた書いていきたいと思います。