原口大臣の津波ツイートと「マスメディア報道の可視化」

 2月27日に発生したチリ大地震の影響で28日、津波が日本の太平洋岸各地に押し寄せました。大きな人的被害はなかったものの、海水が市街地に流れ込んだ宮城県気仙沼市、海水が川をさかのぼった千葉県鴨川市など各地の映像や写真をテレビや新聞で見るにつけ、自然のエネルギーのすさまじさに息をのみました。当日、わたしはツイッターで「津波」検索をかけてこまめにツイートをチェックしていましたが、ほどなく原口一博総務大臣がさかんにツイートしているのに気が付きました。総務相は災害の被害把握や救助活動などのまとめを担当する消防庁を所掌する立場です。また原口大臣はふだんからツイートしていることで知られています。この日の津波をめぐるツイートをいくつか引用します。
 ※http://twitter.com/kharaguchi
 まず、大津波警報津波警報が発令されたことを受けて。

チリ中部沿岸で発生した地震に係る大津波警報等について(第3報:9時33分) 、気象庁が本日9時33分に、三陸沿岸(青森県岩手県宮城県)に大津波警報、その他の太平洋沿岸に津波警報日本海側の一部に津波注意報を発表しました。
10:10 AM Feb 28th via Keitai Web

発令された地域の皆さんは、直ちに高台に避難していただくとともに、絶対に海岸に近づかないこと、また、津波到達予測時刻以降も何度にもわたって津波が到達する可能性があることを盛り込み、繰り返し呼びかけを行うようお願いします。
10:39 AM Feb 28th via Keitai Web

 消防庁総務省の態勢。

消防庁は職員全員出て警戒に当たっています。私は危機管理センターです。
1:10 PM Feb 28th via Keitai Web

政務官には、岩手県に留まり引き続き警戒を続けるよう指示。
1:16 PM Feb 28th via Keitai Web

原子力発電の津波に対する備えについても再度確認指示 津波の最高高さと敷地地盤との関係も確認 津波による最大水位T.P.東京湾ポイント+6.5m  敷地の高さ T.P.+13.0m
2:17 PM Feb 28th via web

 津波の到達が始まりました。

北海道浜中町 午後2時1分 20cm 津波は波というよりも洪水と考える。ものすごいスピードで押し寄せてきます。水位が低くても流されれば、とても危険です。海岸に近づかないようにお願いします。
2:23 PM Feb 28th via web

一番高い津波が襲う可能性が高い時間になってきました。何回も申し上げますが海岸に近づかないでください。
2:30 PM Feb 28th via web

仙台市消防ヘリの画像が鮮明になってきました。満潮で海面と地面との差がなくなってきている 地域も。
2:37 PM Feb 28th via web

 自治体との情報交換。

岩手の階政務官と連絡 達増知事とも。避難勧告に従って避難されている方の数についても情報交換。地域によって数が伸び悩んでいる地域があってはなりません。油断はできません。地域の行政の指示に従って避難をしてください。
2:41 PM Feb 28th via web

宮城の村井知事とも電話で連絡 避難はスムーズに行っているとのこと。 1時間くらい津波の到着が遅れているので、さらに警戒を続けます。  
2:53 PM Feb 28th via web

青森県からも今のところ被害なしの報告 ヘリフライトの状況 秋田県警ヘリ 八戸方面広報活動  青森県防災ヘリ偵察
2:58 PM Feb 28th via web

 頻繁に警戒を呼びかけています。

各地域自治体の責任者も避難勧告に基づく住民の協力に課題を感じている様子がうかがえます。これは訓練ではありません。どれくらいの災害になるかは、正確なところを誰も予想できません。自治体等の要請にそった行動をお願いします。くれぐれも海岸や河口などに近づかないでください。
3:10 PM Feb 28th via web

第一波は気象庁の予想よりも低い波も。しかし、第二波はさらに大きいとの予想も。18時くらいには日本全国で第二波がくると予測されています。何回もお願いしますが、自治体等の指示に従って避難をしてください。訓練ではありません。
3:22 PM Feb 28th via web

満潮とぶつかった北海道花咲港の映像が入ってきました。海水が岸壁の上まで達しています。津波の危険さを示す映像です。
3:49 PM Feb 28th via web

 ツイートは午後5時ごろまで10分と間を置かずに続き、午後6時過ぎにようやく一区切り、という感じになりました。

気象庁会見内容 現在、警報解除できる状態ではない。北海道東岸その他の状況見極めて判断していきたい。1960年チリ地震を踏まえると、あと数時間程度判断にかかるだろう。本日中に早い地域では警報解除することもありうる。
6:02 PM Feb 28th via web

尾鷲 最大波0.6m 17時05分 田原市赤羽根 最大波0.7m 16時37分 17時50分に気象庁火山部から津波観測に関する情報 消防超対策本部 被害情報第8報 宮城県気仙沼市床下浸水2箇所 
6:07 PM Feb 28th via web

 原口大臣のツイートは繰り返しリツイート(RT)されて広まっていきました。また公式アカウントを開設している代表的な自治体として知られる青森県も、八戸市など人口密集地を含む太平洋岸が大津波警報の対象地域に含まれていることもあって、ツイッターでさかんに情報を提供したり、避難を呼びかけたりしていました。ツイッターをめぐっては災害時の有用性が言われてきましたが、「なるほど、こういう使い方ができるのか」と思いながら見ていました。
 その原口大臣の一連のツイートが3月2日の定例記者会見で取り上げられたようです。そして、読売新聞が2日午前、自社サイトに「原口総務相釈明…ツイッター津波情報流してた」との見出しの記事をアップ。「『(投稿者が総務相の名をかたる)なりすましの危険はあるかも分からないが、正確な情報を国民に伝えることを優先した』と述べ、理解を求めた」と報じたことが、ツイッターを含めてネットで話題になりました。
 前述したように、原口大臣は@kharaguchiのアカウントでふだんから熱心にツイッターを使用しており、それを見慣れている目には、当日の一連のツイートがなりすましかどうかは一目瞭然で判別できました。なので最初に読売の記事をネットで読んだとき、原口大臣が「なりすましの危険はあるかも分からないが」と発言したことが、どういう文脈だったのか、詳しく知りたいと思いました。
 その後、読売の記事は差し替わり、見出しは「原口総務相弁明…ツイッター津波情報流してた」になり、本文中から「なりすまし」のくだりはなくなりました。代わって、原口大臣が災害時の放送メディアのありようについて、「公共放送も含めて横並びでない細かな情報が流れるように、双方向のシステムがあればいい」と指摘したことを紹介し「放送行政と総務省消防庁を所管する総務相が、災害放送が義務づけられる放送機関より、ツイッターの利用を優先させる考えを示したことは、今後、論議を呼ぶ可能性がある」と書きました。
 新聞記事が時間を追って差し替わること自体は珍しくなく、むしろ締め切りまで、よりニュースを深く、かつ分かりやすくコンパクトに書くために差し替えの連続になるのは日常的なことです。しかし、読売の差し替え後の記事を目にして、原口大臣の発言がツイッターを優先させる趣旨だったと受け取っていいのかどうか、違和感を持ちました。
 その辺の問題点をどう整理すればいいか考えていたら、ジャーナリストの江川紹子さんがブログに読売の記事についてエントリーをアップしているのを知りました。
江川紹子ジャーナル「新聞とツイッター
 http://www.egawashoko.com/c006/000320.html
 書き出しを引用します。

 チリの地震に伴う津波についての情報を原口総務相ツイッターで公開していたことに、読売新聞が疑問を呈した。
 ところが、同新聞社のサイトに掲載された記事は、途中で内容がかなり変更されていて、同社がいったい何を問題視しているのか、まことに分かりにくい。

 相当に長いエントリーなのですが、いちばんのポイントは以下の部分でしょう。

 けれど、妙な小細工をしたことで、読売の記者やデスクたちの本音が、災害時の情報の混乱などではなく、もっと違うところにあることが、多くの人に透けて見えてしまった。政府が収集した情報は、テレビ・新聞・ラジオ・通信社などの既存マスメディアを通して流す、という慣習を、原口氏が破ったことが気に入らなかったのだ、きっと。記者会見もフリーランスやネットメディアの記者に公開している原口氏のやり方を、苦々しく感じ、ここは原口氏に軽く釘を刺しておこう、といったところではないか。
 最近は、ブログやツイッターが普及する一方、政府の情報をマスメディアが独占しにくくなっている。そんな中、自分たちの存在感が低下していくのではないかというマスメディア関係者不安や苛立ちが、今回の記事からは漂ってくる。
 こうした焦燥感は、読売だけでなく、他の新聞も同じように抱いているはず。たぶん読売は、考えていることが他社より正直に顔……ならぬ紙面に出てしまったのだろう。

 読売の記者やデスクの真意はわたしには分かりませんので、読売の記事それ自体に対するこれ以上のコメントは避けたいと思います。ただ、わたしが思うのは、読売の記事とその差し替えへのネット上の反響、江川さんのブログなど、津波当日から2日後のこれら諸々の出来事は、マスメディアの取材・報道が可視化されていることをトータルに示しているのではないか、ということです。
 原口大臣はと言えば、2日の記者会見後に以下のようなツイートを発信しています。

 記者会見で私のツイッターによる災害対策情報提供について記者の1人よりなりすましの危険もあり不適切ではないかと質問がありました。 全くそのような認識を持っていないと回答しました。国会議事堂内会見だったためインターネットで流れていませんが会見内容を開示します。
http://twitter.com/kharaguchi/status/9857211358

 このブログで繰り返し書いてきていることですが、やはり、マスメディアは取材して報じれば終わり、では済まなくなっていることを感じます。取材も報道も記者の振る舞いもまた、社会の側から見られているのだという自覚が、マスメディアとそこで働く記者には必要だと思います。

▽追記(2010年3月3日午前10時20分)
 原口大臣の津波ツイートをめぐっては、2日の衆院総務委員会でも取り上げられました。質問したみんなの党柿沢未途議員が、やはりツイッターで原口大臣の詳しい答弁を紹介しています。
http://twitter.com/310kakizawa

総務委、質問。原口大臣には昨日の予算委集中審議で時間の関係で答弁頂けなかったお詫びを申し上げ、Twitterの話を。チリ地震津波について時々刻々つぶやいた事が今日の閣議後記者会見で問題とされたようだが、日頃からTwitterで情報発信している事の意義をどう感じているか。
http://twitter.com/310kakizawa/status/9873893251

原口大臣のTwitterに関する答弁。「私達はリアルタイムで全ての媒体を使って説明責任を果たす事が大事だと思っている。閣議後記者会見では不適切じゃないか、なりすましがあるんじゃないかと聞かれたので、50000人もフォローがいる状態でなりすましはできない、」

原口大臣「むしろ逆に情報が伝わらない事でパニックになる。私が少し危機感を持ったのは、『原発は大丈夫か』といったものが増えてきたので、それは『大丈夫です』と言わないと、流言飛語が生まれる。私は消防庁の危機管理室に入って陣頭指揮していたからリアルタイムで全ての情報が分かりますから、」

原口大臣「それを国民の皆さんにお示しをする事が何十年に一回という危機では一番大事と思ってやらせて頂いたところでございまして、新たな可能性に挑戦する中で、皆さんと常時つながる、こういう温かいメディアをこれからも活用していきたいと思います」。これからも活用していくそうです。

この原口大臣への質問&答弁が、衆院Twitterについて正面からその意義を問うた初めてのものとなった。
http://twitter.com/310kakizawa/status/9875606717

 ここまで詳しいやり取りはマスメディアでは伝え切れません。政治家がツイッターを使うことで、マスメディアが伝えきれない、伝えないことでも社会に伝わっている、この状態もまた「マスメディアの取材・報道の可視化」につながる一端だと思います。
 原口大臣の答弁のうち「皆さんと常時つながる、こういう温かいメディア」という語句が印象的です。政治家から見たときのソーシャル・メディアの特性の一つでしょう。もちろん「温かい」だけとは限らないと思います。

※追記(2010年3月4日午前)
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 原口大臣の2日の記者会見詳報が総務省サイトにアップされています。いただいたコメントを読んで思うところを含めて、続編的なエントリーにまとめました。こちらもご覧いただければ嬉しいです。

 「原口大臣『津波ツイート』会見詳報から読み取れること〜記者もツイッターやってみたらいい」
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100304/1267660723