ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

原口大臣「津波ツイート」会見詳報から読み取れること〜記者もツイッターやってみたらいい

 一つ前のエントリー「原口大臣の津波ツイートと『マスメディア報道の可視化』」は多くの方に読んでもらえました。ご訪問いただいた皆さま、コメントを投稿いただいた皆さま、ありがとうございました。
 エントリーには、ツイッターのなりすましの恐れについての原口一博総務大臣の発言の文脈が知りたいと書きました。総務省のホームページに3月2日の記者会見でのやり取りがアップされていますので、ツイッターに関連する部分を引用します。
※原口総務大臣閣議後記者会見の概要 平成22年3月2日
 http://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/25810.html

問:
 津波に関して2点です。J−ALERTの誤報についてですね、どう受け止めておられるかということと、今後の対策をお聞かせください。それと、2点目ですね、今回の津波に関してですね、大臣、ツイッターでも防災に関する情報を発信されていたと思うのですけれども、ツイッターというフィールドではですね、御存じのとおり、なりすましの投稿とか、アカウントといったものも存在するわけで、あまりこう、総務大臣が防災の情報を書き込む分野としては、まだちょっと早計というか、まだそぐわないのではないのかなというふうに思うのですが、その点についての御見解も併せてお聞かせください。
答:
 J−ALERTについてはですね、今調査中でございます。おっしゃった点についてもですね、注意報、警報ということで、一部解除時の対応について、システム開発業者に対して、その原因の調査を指示しておりまして、その結果、システムに不具合があると判断すれば適切な改良が必要だと考えております。総務省としてはですね、現在、J−ALERTの高度化、全国一斉整備を進めておりまして、引き続き住民の皆さんの安全確保にとって、役立つシステムになるように努力をしてまいりたいと思います。
 ツイッターについては、私は、同じ認識を持っていません。むしろ、適宜適切に、こういう大変に、何十年に一度のものについてですね、私、日ごろから、多くの皆さんとリンクを張っていまして、なりすましの危険、それはおっしゃるようなことがあるかも分かりません。ただ、そのことよりも、正確な情報を国民に伝え、流言やあるいはパニックというものが起こるという方をですね、優先したわけでございます。欲を言えば、もっと適宜適切に公共放送も含めてですね、情報がみんな横並びではなくて、細かな情報が流れていく、あるいは様々な疑問に答えられるような、双方向のシステムがあればいいと思います。これで万全だなんていう胸を張る気はありません。今おっしゃったような懸念はあるということを私も考えました。しかし、そのことよりも、例えば原発は大丈夫かとか、大変、危機に対する質問がツイッターの中でも飛んでいました。不安が不安を呼んでですね、それで危機が危機を呼ぶという、パニック心理学の立場からすると、私が採った方法は間違いではなかったと思っています。

 話し言葉を忠実に文章にしているため、やや意味を読み取りづらいのですが、なりすましの恐れを指摘する記者の質問に「なりすましの危険、それはおっしゃるようなことがあるかも分かりません」と肯定しているようにもみえます。しかし、その直前には「私、日ごろから、多くの皆さんとリンクを張っていまして」ともあり、全体としては自分に関する限りなりすましが深刻な影響を及ぼす恐れはないとの判断を説明したと受け取っていいと思います。「リンク」とはフォローの関係を指しているのだと思いますが、原口大臣のアカウントは2月28日の時点でも相当な数があったと思われます(3月4日未明の時点ではフォロー3700余、フォロワー5万9000余)。仮に津波警報発令のさなかに、ぽっと出の偽者が現れたとしてもフォロワーによってたちまち見破られ、原口大臣自身もすぐに気づいたのではないでしょうか。
 ツイッターで「フォローする」というのは、フォローした相手のツイート(ツイッターへの投稿)が自分の画面上に表示されること、「フォローされる」というのは、相手の画面上に自分のツイートが表示されることです。原口大臣のフォロワーが仮に5万人だとすると、原理的には原口大臣のツイッターへの投稿は5万人が見ている、ということです。さらにその人たちが「これはほかの人にも知らせたい」と思った場合、自分のフォロワーに転送するのがリツイートです。仮にフォロワー5万人がそれぞれ100人のフォロワーを持ち、全員がリツイートすれば、原理的には5万人×100人=500万人にツイートが広がることになります。
 仮になりすましが現れたとしても、そのツイッター世界では既に本物が活発に活動しているわけです。程なく5万人のフォロワーのパワーが偽者出現を見破り、「偽者が現れた」という情報自体がRT機能で一気に広まるだろうとわたしは考えています。詐欺事件など現実世界の「なりすまし」でも、本物がちょくちょく顔を出しているところに、どうやって偽者が出て行けるでしょうか。ツイッターでしばらく前に鳩山由紀夫首相のなりすましが出現して話題になりましたが、それは本物の鳩山首相ツイッターを開始する前でした。「まもなく首相も始めるらしい」と言われていたころで、だからこそなりすましが出現しやすかったのだとも言えそうです。
※原口大臣のツイッターホーム
 http://twitter.com/kharaguchi
 記者会見での質問者がだれかはホームページからは分かりませんが、会見は国会内で行われたため記者クラブ加盟記者が中心だったようです。質問の「ツイッターにはなりすましの危険がある」という一面は真実ですが、原口大臣に関する限りそれはほぼ瞬時に見破られるだろうという発想は念頭になかったことがうかがえます。これもよく指摘されることですが、ツイッターの特性はやってみなければよく分かりません。推察であることを前提であえて言えば、新聞か放送の記者であろう質問者が、ツイッターに触れたことがないことを問わず語りに語っている質問なのだと思います。ここでも、マスメディアの取材・報道が可視化されているのかもしれません。
 原口大臣の発言のうち「欲を言えば、もっと適宜適切に公共放送も含めてですね、情報がみんな横並びではなくて…」のくだりも、マスメディアにソーシャルメディアの性格が加われば災害時には非常に有効ではないのか、との原口大臣なりの考えを述べたものだとわたしは受け止めています。
 ツイッターは新聞社の公式アカウントも増えてきていますが、ネット部門か、編集局であっても整理部門で運用しているケースが多く、第一線の取材部門による運用は、北海道新聞帯広支社報道部(@DoshinOBO)など例が限られているように見受けられます。個人的にでもいいので、マスメディアの取材現場にいる記者もツイッターに触れてみれば得るものは小さくないはずです。
北海道新聞帯広支社報道部のツイッターホーム
 http://twitter.com/DoshinOBO
 原口大臣の“津波ツイート”でもう一点、わたしもあまり意識していなかった論点がありました。一つ前のエントリーにコメントをいただいた「K」さんの指摘にありますが、公職者である大臣が公務に関して個人的、つまり私的とも見なされるツイッターで情報を発信することの是非です。「K」さんのコメントに他の方からもコメントが続き、それぞれに「なるほど」と読みました。
 うろ覚えなのですが、かつて経済産業省の課長クラスぐらいの方が省務によかれと思って運営していた個人ブログの更新が、勤務時間中の職務専念義務に違反するとして問題視されたことがありました。今回の原口大臣のケースでは、総務省が災害対策専用の公式アカウントを開設すれば「公私」の問題は解消するのでしょうが、なかなか根が深い問題だと思います。民間企業などでも、勤務時間中のツイッター利用が職務専念義務違反に問われるケースが出ているかもしれません。
 最後にもう一点、災害時のツイッター運用方式に関してです。ツイッターリツイート(RT)機能によって一つの情報が瞬時に広がっていきます。ツイッターの長所の一つですが、その情報が誤りと判明した場合に訂正をツイートしても同じように広がるとは限らないリスクがあります。刻一刻と情勢が変化する災害時には、このリスクは無視できないでしょう。そこでどうすればいいかということを、ニュースサイト「ガジェット通信」発行人の深水英一郎さん(@getnewsjp)が以下のブログに書いています。
※「原口総務相ツイッター津波情報配信:2つの改善点」(OPC〜オープンプレスクラブ)
 http://blog.opress.jp/2010/03/blog-post.html

 ツイッターメールマガジン等、基本流しっぱなし系の媒体を使って将来変更される可能性がある情報を流す場合に気をつけなくてはいけない点があります。それは「最新情報はすべて1ヶ所のウェブサイトに集約してそこへ誘導する」といったやり方を常にとる、ということ。これをやらないと修正前後の情報が錯綜してしまう可能性があります。

 “飛道具媒体”を使う場合はワンクッションかませる、ということです。なるほど、と思いました。

【追記】2010年3月5日午前2時15分
 経済産業省での個人ブログ問題は2006年2月の出来事でした。わたしが新聞労連専従役員当時に運営していた旧ブログ「ニュース・ワーカー」の記述を引用します。

 書こうと思いながら随分と時間が経ってしまったテーマがある。経済産業省消費経済部長の谷みどりさんが、2月1日に個人で開設したブログが、3週間後に閉鎖した問題だ。電気用品安全法(PSE法)を取り上げたエントリーによって「炎上」したことが理由だと指摘されている。省内でも、勤務時間中のブログ更新が国家公務員法の職務専念義務違反に当たるとして、注意を受けたという。この件については朝日新聞記事が詳しく紹介している。
 遅まきながらも、この件について書こうと思ったのは、このブログ「ニュース・ワーカー」が昨年の4月4日に運営を開始してちょうど1年を迎えたからだ。谷さんのブログのことは、閉鎖が話題になるまでわたしは全く知らなかったが、組織人が実名で、個人の立場と言いながら組織のことにも言及するという点では、共通点がある。

 ※ニュース・ワーカー「ブログ開始1年〜実名で運営するルールなど」2006年4月4日
 http://newsworker.exblog.jp/3744278
 ※「谷みどり」「ブログ」でgoogle検索すると2120件が該当しました。

 旧ブログの上記のエントリーを読み返してみて、組織人が個人の活動として個人の意見を言うことの難しさみたいなものは、今も基本的に変わっていないな、と感じます。