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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

総務省消防庁がツイート開始〜災害時の情報伝達は多様かつ強靭がいい

 消防・防災の国の元締めである総務省消防庁が18日、ツイッターの公式アカウントの運用を始めました。米twitter社の認証を取得済みのほかホームページにもリンクがあり、成り済まし対策を取っています。18日だけで1万人以上がフォロー(19日午前零時現在で1万750人)するなど関心を集めています。わたしも午前中のうちにフォローしました。

総務省消防庁のアカウント
http://twitter.com/FDMA_JAPAN
※プレスリリースhttp://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/2205/220518_1houdou/01_houdoushiryou.pdf

 最初のツイートは以下の通りです。

 総務省消防庁です。今日からはじめます。大規模災害時(日本国内での震度5強以上の地震の場合などを想定)、消防庁がとりまとめている被害情報を発信します。大規模な災害がおきていない時は、消防庁からの報道資料等の内容を書いていきます。
 http://twitter.com/FDMA_JAPAN/status/14189023972

 続いて運用の基本方針をいくつかつぶやいています。

 この災害情報タイムラインは119番通報の代わりになるものではありません。
 http://twitter.com/FDMA_JAPAN/status/14189068690

 スマートフォンの普及などで「119番の代わりに」と考えてしまうユーザーが出てこないとも限らない、ということでしょうか。

 大規模災害時には、利用者(フォロワー)から寄せられた災害情報のうち、地元消防等からの報告にはない重要なものがあれば、事実関係を確認します。
 http://twitter.com/FDMA_JAPAN/status/14189125873

 災害時にソーシャルメディアが果たす役割が広がる可能性を感じさせます。

 大規模災害時、災害に関し誤った情報が広まるなど、特に必要があると思われる場合には、正確な情報を消防庁が発信します。
 http://twitter.com/FDMA_JAPAN/status/14189164786

 災害とデマは古くて新しいテーマです。

 原則として、利用者(フォロワー)からのつぶやきに対して個々の対応はしません。
 http://twitter.com/FDMA_JAPAN/status/14189223534

 ここまでつぶやかなくても、という気もしますが、丁寧な対応だと思います。
 ほかにこんなツイートも。

 【相模原市消防局】消防職員が住宅用火災警報器の普及のため、「まんが命の住警器劇場」を書きました。ヨボウ先輩とホープ君の住警器劇場!感動のクライマクッス、はたして・・・http://bit.ly/90G3wQ
 http://twitter.com/FDMA_JAPAN/status/14199051520

 この公式アカウントは「twitter大臣」として知られる原口一博総務相が事務方に検討を指示していました。発端は2月28日、チリ大地震に伴う津波が日本に到達した際、原口大臣がツイッターの個人アカウントで関連情報を頻繁にツイートしていたことにさかのぼります。
 ツイートは午前中に始まり、津波が到達し始めた午後2時過ぎからは10分と間を置かずに続きました。原口大臣のツイートは繰り返しリツイート(RT)され広まりました。RTとは、あるツイートを読んだユーザーが、自分をフォローしている人たちにも紹介して読んでもらうために、そのツイートを言わば“転送”するツイッターの機能のことです。当時、わたしは原口大臣の頻繁なツイートと、そのツイートがリツイートされてどんどん広まっていく様子をツイッターのタイムライン上で追いながら「なるほど、災害時にはツイッターのこういう使い方があるのか」と感心していました。
 この原口大臣の頻繁なツイートは3月2日になって記者会見で取り上げられ、成り済ましの危険についての認識を問う質問も出ました(総務省のサイトには記者会見の詳しいやり取りがアップされています)。読売新聞は同日午前、自社サイトに記事をアップ。当初は「原口総務相釈明…ツイッター津波情報流してた」との見出しで「(原口大臣が)『(投稿者が総務相の名をかたる)なりすましの危険はあるかも分からないが、正確な情報を国民に伝えることを優先した』と述べ、理解を求めた」と報じました。その後、記事は差し替わり、原口大臣が災害時の放送メディアのありようについて、「公共放送も含めて横並びでない細かな情報が流れるように、双方向のシステムがあればいい」と指摘したことを紹介し「放送行政と総務省消防庁を所管する総務相が、災害放送が義務づけられる放送機関より、ツイッターの利用を優先させる考えを示したことは、今後、論議を呼ぶ可能性がある」と書きました。この読売の記事に対して、ジャーナリストの江川紹子さんは自身のブログで「政府が収集した情報は、テレビ・新聞・ラジオ・通信社などの既存マスメディアを通して流す、という慣習を、原口氏が破ったことが気に入らなかったのだ、きっと」と指摘しました。
 これらの経緯をわたしは原口大臣の「津波ツイート」問題と呼んでいます。こうした経緯があって、消防庁が成り済まし対策も取った上で自ら公式アカウントを運用するに至ったということです。関連の過去エントリーもお読みください。

※参考過去エントリー
「原口大臣の津波ツイートと『マスメディア報道の可視化』」(2010年3月3日)
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100303/1267573940

「原口大臣『津波ツイート』会見詳報から読み取れること〜記者もツイッターやってみたらいい」(2010年3月4日)
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100304/1267660723
=「原口総務大臣閣議後記者会見の概要 平成22年3月2日」のリンクあり


 今まで災害時の情報伝達は、マスメディアを介して社会に伝わるのが当たり前でした。家庭での災害の備えとして、電源や大型の受信機が不要なラジオが強調されてきたのは端的な例です。しかし、原口総務相津波ツイートが発端になり、今回始まった消防庁の公式アカウントによって、公的機関の情報がマスメディアを介さずに社会にダイレクトに届く新しい情報伝達ルートが生まれました。ソーシャルメディアの有用性が災害対策の面でも実証される段階に入ったのだと思います。
 そのことで、マスメディアの存在意義が脅かされる面はあるのでしょう。しかし、だからと言って後に戻れるわけもありません。また災害時に限って言えば、社会への情報伝達ルートは多様かつ強靭であるほうがいいに決まっています。ソーシャルメディアのネガティブな面をことさらに強調してみたところで、何も建設的なものは生まれません。マスメディアとしては、そういう社会になったのだということを受け入れ、多様な情報伝達手段の一つとしてどう特性を生かしていくかを考えた方がいいでしょう。