新聞記者とジャーナリストの間

 4月から毎週土曜日午前中の日課になっている明治学院社会学部の非常勤講師の講義では、6月26日の前回まで3回にわたって「新聞記者とジャーナリストの間」をテーマに話しました。早いもので残りは7月3日と10日の2回。この2回で、授業全体を通じた大テーマである「新しいジャーナリズム」について、わたしの考えをまとめていこうと思います。
 「新聞記者とジャーナリストの間」を小テーマに設定したのは、今や「新聞記者=ジャーナリスト」といちがいには言えないのではないか、との考えからです。インターネットが登場する以前の社会では、情報流通は新聞や放送、出版のマスメディアがほぼすべてで、それ以外には小規模なコミュニティ内のクチコミぐらいでした。そうした時代は、新聞はジャーナリズムの主要な担い手であり、新聞記者であることはほぼ同時にジャーナリストであるとみなされ、新聞記者の側もそう自負していたのだと思います。
 しかし、インターネットの普及とソーシャルメディアの台頭によって、情報流通は多様かつ複雑になり、既存のマスメディアの地位は相対的に低下してきています(依然として大きな影響力を持っているにしても)。マスメディアにとって課題は、ネットをいたずらに敵視するのではなく、ネットで現出している新しい情報伝達の仕組みとどううまく付き合い、これまで培ってきたジャーナリズムを生かしていくのか、ということでもあると思います。そうした観点から、わたし自身がその一員である「新聞記者」という働き方を顧みて思うのは、今のままではネット社会に適した新しいジャーナリズムの担い手たりえない、ということです。
 要因として、記者としての育ち方、働き方があると思います。日本の新聞社は通信社を含めてどこも採用の際に、それまで何を学んできたかは不問にしています。記者はオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)を中心にした実践的な社内教育によって育ちます。見る角度を変えれば、新聞記者は新聞社の徹底した社員教育によって生まれる、ということです。新聞社は新聞発行を事業として営んでいますから、他社との競争に打ち勝ち、効率よく新聞を発行するのに最適の業務遂行を自社の記者に求めます。企業活動としては当然のことです。新聞が社会でジャーナリズムの主要な担い手だった時代は、新聞記者のありようもそれで良かったのだと思います。
 しかし、メディア環境は大きく変わりました。ネットによって情報の受け取り方、伝わり方が多様化しました。ソーシャルメディアは、かつてならクチコミで限られたコミュニティ内にしか流れなかった情報を、ネット上でマスメディアの発信情報と同列・同格のフラットな存在に押し上げました。そこではマスメディアの取材・報道を可視化する情報も流通しています。そうした中で「新聞記者」という働き方が変化に適応できているか、言い換えれば、新聞社の記者教育が外部環境の変化に応じて変わってきているかが問題ですし、新聞社がこれからの社会で自らの存在意義をどう位置づけるかの問題でもあると思います。
 速報や特ダネ、あるいは調査報道などマスメディアの組織力を生かした情報発信はもちろん大事ですが、それ以前に、ネット社会の中でジャーナリストとして必要なスキルをどう考えるのか、そのスキルをマスメディアの内部にいる記者はどうやって身に着け、実践していけばいいのか。さらに言えば、欧米のようにジャーナリスト教育を受けた人材を新聞社が記者職として採用する、つまり「新聞社の社員がジャーナリストとして働く」のではなく「ジャーナリストが新聞社に所属して働く」というありようも論議されていいのではないかと思います。
 これらの点も含めて、残り2回の授業で集大成としての「新しいジャーナリズム」の着地点をまとめていきたいと考えています。

 さて、学生たちには試験に換えてレポートを課すことにしています。先日、出題しました。「わたしの『マイメディア』」です。「マイメディア」の用語は以前にこのブログでも紹介した坪田知己さんの著作からお借りしました。
※参考過去エントリー
 「読書:『2030年 メディアのかたち』(坪田知己 講談社現代プレミアブック)」=2009年11月4日
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20091104/1257266310
 まず、強い関心がありチェックしたい情報(ジャンル)と、必ずしも関心が強いわけではないが知っておくべきだと考えている情報を、それぞれ理由とともに挙げてもらいます。次に、それぞれについて効率がよく最適だと考える情報入手の方法、あるいはそう考えて実践している方法を、どんなメディアをどんな風に使うか、時間帯やシチュエーションも含めてできるだけ具体的に説明してもらいます。新聞や放送、雑誌・書籍などの既存マスメディア、メルマガやブログ、mixitwitterなどのソーシャルメディア、さらには町で見かける広告、友人とリアルで交わすクチコミ情報など何でもありです。対象もいわゆるニュースに限りません。専攻分野の研究や論文執筆に必要な情報収集でも可です。
 評価のポイントは「オリジナリティ」と「実践」に置きます。だれかの情報収集術の受け売りだとしても、それをコピペして終わりではなく、自分で真似して実践してみて、その感想なりにオリジナリティがあれば構いません。実は、こういう風に書けば高得点という模範モデルは想定していません。オリジナリティあふれる「マイメディア」の実践が出題の狙いです。わたしには想像もつかないような「マイメディア」に出会えることを期待しています。