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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「個」が尊重されない自衛隊〜札幌地裁が性的暴行と退職強要を認定

 7月29日は一つ前のエントリー(「『飛行差し止め』を実現させるもの」)で触れた普天間爆音訴訟のほかにも、個人的に注目していた司法判断がありました。北海道の航空自衛隊レーダー基地で階級が上の自衛官の男から強姦未遂の暴行を受けた上、相談した上司からは退職を強要されたとして、元自衛官の24歳の女性が国に1100万円の損害賠償を求めた訴訟で、札幌地裁(橋詰均裁判長)は性的暴行、退職強要のいずれも認定し、580万円の支払いを国に命じました。
 ※「国に580万円賠償命令 女性自衛官の退職強要訴訟」(47news=共同通信
  http://www.47news.jp/CN/201007/CN2010072901000440.html
 国は強姦未遂については「双方の合意があった」と、退職強要は「女性の訴えを不当に扱ったことはない」などと、いずれも否定して争っていました。女性の全面勝訴です。
 この訴訟のことはフリーランス・ジャーナリストの三宅勝久さんの著書「自衛隊員が死んでいく」(花伝社、2008年)に詳しく紹介されています。強姦未遂事件の当夜、加害者の3曹は当直勤務中に飲酒し、階級による上下関係を背景に士長だった被害者の女性を宿舎から呼び出していました。強姦未遂の被害を女性が訴えることは必然的に、厳然たる規律違反である飲酒も調査の対象になることを意味し、それが部隊内で上司らの不興を買ったようです。「お前のせいで上官が処分を受ける」「お前は加害者だ」と、被害女性は上司から面罵されたといい、性的暴行にも、その後の退職強要にも、背景に共通していたのは階級だったと、三宅さんは指摘しています。
 部隊内で若い女性自衛官が性的暴行の被害に遭うそのこと自体の深刻さもさることながら、その被害の訴えをまともに受け止めることができない組織上の問題はさらに深刻だと思います。このブログで「働き方としての自衛隊自衛官」の観点から、海上自衛隊の特殊部隊養成課程での集団格闘死事件など自衛隊の不祥事をたびたび取り上げてきましたが、今回の判決も「『個人』が尊重されない自衛隊」であることを如実に示しています。
 「軍事組織とはそういうものだ」と言ってしまえばそうなのかもしれません。しかし、今回の女性も含めて、被害者や犠牲者はみな自衛官であることに誇りを持っていたと伝えられています。現に働いている多くの自衛官がいる限り、組織の中に「個」の尊重が貫かれているか、広く論議されていいと思います。

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