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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

戦争と平和と歴史〜8月15日に考えたこと

 ことしも8月15日を迎えました。日本とアジア各地におびただしい犠牲者を生んだ戦争が、日本の敗戦で終わってから65年がたちました。8月は6日の広島、9日の長崎への原爆投下、そして15日の敗戦の日と、新聞各紙にも連日、戦争体験の継承や平和についての記事が載ります。わたしにとっても、8月はふだんにもまして戦争と平和を考える季節です。
 ことしの8月6日、米国の駐日大使が初めて広島の平和記念式典に出席しました。米大使館は「第2次世界大戦の全犠牲者に敬意を表すため」とコメントしました。原爆投下への謝罪はありませんでしたが、それでも投下国の政府代表が被爆者とともに式典に同席したことは、核廃絶に向けた新たな出発点と考えたいと思います。
 国連事務総長としてやはり広島の式典に初めて出席した潘基文氏は、少年期を朝鮮戦争の中で過ごしたことに触れ「より平和な世界の実現は可能だ」と訴えました。5日に訪問した長崎では「非常な苦しみに耐え続けねばならないヒバクシャの方々への尊敬の念を示すために来ました」と語り「この歴史的な場所は爆心地というだけではありません。このような惨劇は、どんな人々にも、どんな場所にも、私たちはもう決して許しはしない。そういう決意の記念碑なのです」と述べて、核廃絶を願う市民との連帯を強調しました。
 潘基文氏は韓国出身です。8月15日は日本では戦没者の霊を慰める祈りの日ですが、朝鮮半島では日本の植民地支配が終わり、主権を回復した記念日です。ことしは、その植民地支配が1910年に始まって100年の年にも当たります。今日なお続く韓国と北朝鮮の民族分断は、日本の植民地支配と敗戦の結果としてもたらされたものです。ことし8月10日、菅直人首相は日韓併合100年に際しての首相談話を発表しましたが、「歴史に対して誠実に向き合いたいと思います」としながら、南北の民族分断には一言も触れませんでした。そんなこともあり、長崎と広島で、核廃絶と平和のために市民との連帯を訴えた潘基文氏に、朝鮮半島出身者の一人として日本と日朝間の100年の現代史をどう考えているか胸の内を尋ねてみたい、との思いにもかられました。
 広島市秋葉忠利市長は平和宣言の中で日本政府に対し、米国の「核の傘」から離脱するよう求めました。この視点は重要だと思います。戦争大国・米国との軍事同盟は、沖縄をはじめとした在日米軍基地問題にもつながっているからです。
 鳩山由紀夫首相が退陣し菅政権が発足したとたんに、あれだけ大きなニュースとして全国に報じられた米軍普天間飛行場の移設問題は急速に関心を失ったかのように報道が減り、7月の参院選では争点にもなりませんでした。しかし、沖縄の人たちの怒りが向けられた先は直接は鳩山前首相だったとしても、その先にある怒りの対象は本土(ヤマト)に住む日本国の主権者である日本人であったことに気付いた人も少なくないと思います。移設問題は5月の日米共同声明でいったんは区切りがついた形になっていますが、沖縄では11月に知事選があり、再び全国的な関心が高まるでしょう。全国紙などの大手マス・メディアはあまり伝えていないことですが、米国議会では沖縄に海兵隊を駐留させること自体に対して見直しを求める動きも出ていることを、琉球新報のワシントン駐在記者は伝えています。普天間飛行場移設問題はこれからの問題ですし、そもそもなぜ米軍専用施設が沖縄に集中しているのか、その背景にある沖縄戦と戦後の米統治、さらには明治維新を挟んだヤマトと琉球近現代史の視点を常に忘れないようにしていたいと思います。
 終戦(敗戦)の日に向けた日本のマスメディアの戦争と平和をめぐる報道を、一過性の年中行事にすぎないものとして「8月ジャーナリズム」と揶揄する言葉をしばしば耳にします。マスメディアに身を置く一人として、問われているのは日常だということ、非戦と戦力不保持を掲げた憲法9条を持つ国のマスメディアが、世界をリードするジャーナリズムを打ち出せるかもまた問われているのだということにあらためて思いを致し、明日からに臨みたいと思います。
※参考
▽ 潘国連事務総長のスピーチ要旨(8月5日、長崎)=47news・共同通信
 http://www.47news.jp/CN/201008/CN2010080501000371.html
日韓併合100年の首相談話全文(8月10日)=47news・共同通信
 http://www.47news.jp/CN/201008/CN2010081001000325.html
広島市長の平和宣言(8月6日)=広島市
 http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/0000000000000/1110537278566/index.html