「大阪維新の会」君が代起立条例の報道に差

 大阪府橋下徹知事が率いる地域政党大阪維新の会」の府議団が25日、府内の公立小中高校の教職員に対し、入学式などの君が代斉唱時に起立・斉唱することを義務付ける条例案を府議会に提出しました。「国歌斉唱をめぐる教職員と学校・教育委員会側とのトラブルは各地で続いており、全国の教育関係者に波紋を広げるのは必至」(共同通信)と報じられているように、全国的に見ても大きなニュースだと思います。
※「維新の会、君が代条例案を提出 教職員に起立義務付け」」(47news=共同通信
http://www.47news.jp/CN/201105/CN2011052501000638.html

 ところが、翌26日付けの大阪市内発行の朝刊各紙の扱いは分かれました。朝日新聞が1面、2面、社説、第2社会面に大きく展開したのに対し、毎日、読売は第2社会面だけに本記と関連記事が1本。特に毎日は見出しこそ4段ですが本記が全文25行、橋下知事から何かと批判される大阪市平松邦夫市長の反応が11行と、朝日はもちろんのこと、読売と比べても扱いの差が目を引きました。
 在阪5紙の扱いと主な見出しを以下に書き留めておきます。

【朝日】
本記:1面3段「君が代起立条例案 提出」「教員規律強化狙う」
2面:サイド(面のほぼ半分のスペース)「違反で免職 ルール化も」「知事 組織管理を強調」「都教委基準も参考に」「教員ら『今さら…』」
社説:「あの一票は何だった」
第2社会面:サイド「君が代条例『維新』投票30人に聞く」▽むのたけじさんインタビュー「戦争への反省 歴史も知って」▽橋下知事発言録
【毎日】
本記:第2社会4段「君が代起立条例案提出」「大阪維新府議団 可決見通し」▽「平松・大阪市長『条例必要ない』」(1段)
【読売】
本記:第2社会3段「君が代斉唱時 起立義務」「維新の会条例案 政令市も対象」▽サイド2段「『なぜ強制』教員ら戸惑い」
【産経】
本記:1面3段「国家起立条例案を提出」「大阪維新服務規律の厳格化』」
【日経】
本記:社会面4段「君が代起立条例案 提出」「維新府議政令市教職員含む」

 関西の有力地方紙である京都新聞神戸新聞もそれぞれ共同通信の配信記事を使い、本記を1面に、関連記事のサイドや識者談話、橋下知事の発言録を総合面や社会面に展開しています。両紙が大阪府内を直接の発行エリアにはしていないことをも考慮すれば、重要ニュースと判断した大きな扱いと言っていいと思います。
 大阪府議会では先の統一地方選で「維新の会」が単独過半数議席を獲得しました。今回の条例に他会派の賛成はない見通しですが、可決成立は確実視されています。報道として、そのときに問題点を指摘すればよいという考え方に立てば、条例案の提出時は「提出した」というファクトだけを報じる、という選択もありうるかもしれません。しかし、そもそも「維新の会」をめぐっては、首長に対する議会のチェック機能が失われるとの懸念が指摘されており、また起立強制に対して社会に異論があるのを承知しながら、数をたのんで強行を図るような姿勢にも批判があります。そうしたことを踏まえるなら、これから起こるであろうことを社会の人たちがどう考えていけばいいのか、始まりの段階のうちから論点を整理して指摘し、併せて多様な意見、見方を紹介していく報道であっていいのではないかとわたしは考えています。
 あるいは別に悩ましい問題があるとすれば、橋下氏と「維新の会」をめぐる報道が結果として「橋下劇場」化を招きかねないとの懸念があることです。
 12月に平松・大阪市長が任期満了を迎えるため、11月ごろに大阪市長選が行われる見通しです。これに合わせて橋下氏が知事を辞職し、知事、大阪市長のダブル選挙に持ち込む可能性があることを橋下氏は公言しており、そうした点からも当面、橋下氏の言動は注目されます。仮に批判的にであるにせよ、橋下氏や「維新の会」ばかりに大きな報道が集中することで、結果的に他政党や会派の主張がかすむようなことがあれば、それはそれで問題なしとするわけにはいかないでしょう。およそ全てのものごとをクロかシロかの二項対立で割り切る政治家としての橋下氏の手法は、劇場型報道と親和性が高いようにわたしには思えます。何よりまず、報道する側の意識と自制・抑制が必要だと思います。
 話を君が代起立条例に戻せば、わたし個人は起立斉唱を条例によって強制することには疑問があります。橋下氏の過去の発言などをみると、橋下氏は「君が代問題ではなく公務員の規律の問題」ということを強調しているようですが、それはあまりに貧弱な憲法観ではないかと思います。公務員が制限を受けるのは政治活動であって、憲法19条の思想および良心の自由は公務員であれ、日本国民のすべてに保障されています(靖国参拝をめぐって「わたしにもある」と明言した元首相もいたと記憶しています)。君が代の起立斉唱の義務化をめぐっては、「起立」と「斉唱」という身体的、物理的な強制力の発動が憲法19条違反にあたるかどうかが焦点であり、各地で訴訟も起こっています。そうした憲法上の見解の相違が社会的な論点になっているデリケートな問題について、なぜ今、数をたのんで条例の成立を図らなければならないのか。ツイッターもさかんに活用する橋下氏ですが、発言には、その部分の答えが見当たらないように思います。