ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「『脱原発』に6万人」関西各紙の報道

 東京・明治公園で19日、作家の大江健三郎さんらが脱原発を目指して呼び掛けた「さようなら原発5万人集会」が開かれました。わたしは関西にいて、ネット上のソーシャルメディアやマスメディアを通じてそのもようを知るだけでしたが、例えばツイッターのわたしのタイムライン上では、マスメディアの報道をめぐって、この集会とデモを報じたか否か、報じた場合は参加人員を主催者発表の「約6万人」と報じたのか、警察調べの別の数字だったのかなど、いくつかの点が話題になっていました。関西ではこの出来事をマスメディアはどのように報じたのか、全国紙の大阪本社発行の20日付朝刊の紙面の扱いや見出しを書き留めておきます。

【朝日】第2社会面囲み・全2段「脱原発デモ 東京に6万人」17字×24行、写真なし ※参加人員は「主催者によると」
【毎日】1面1段「聴け5万人の声『サヨナラ原発』」10字×28行、ヘリ写真3段 ※参加人員は「主催者発表で約6万人」
    第1社会面3段「避難者ら 叫び」「日本全体で考えて/『安全』うそだった」(参加者の声)10字×70行
【読売】第3社会面1段「東京で反原発集会」13字×17行、写真なし ※人数記載なし
【産経】第3社会面・横組み1段「脱原発で6万人集会」17字×11行、写真なし ※参加人員は主催者発表
【日経】第2社会面1段「脱原発の集会6万人が参加」11字×19行、写真なし ※参加人員は主催者発表

 関西地方の代表的な地方紙ととして、京都新聞神戸新聞の紙面上の扱いも記録しておきます。ともに、共同通信の配信記事を掲載しています。

【京都】1面囲み2段「6万人原発ノー」「東京で最大規模集会」16字×21行、ヘリ写真3段 ※参加人員は主催者発表
    第2社会面・横1段全4段「福島の怒り 旗に託し」「『放射能はごめんだ』『不便でも止めて』」10字×51行、写真3段
    第2社会面1段「『立ち上がろう』山本太郎さん訴え」10字×31行、写真2段
【神戸】1面囲み2段「脱原発へ6万人結集」「大江健三郎さんら訴え」16字×22行、ヘリ写真3段 ※参加人員は主催者発表
    第2社会面1段「俳優山本さん『脱原発』訴え」11字×27行

 1面で報じたのは毎日と京都、神戸。朝日は第2社会面でそれなりに目立つ見出しの立て方。読売、産経、日経はいわゆるベタ記事で、中でも読売と産経は社会面をさらにめくったページの短信記事の扱いでした。参加人員は、読売の記事に記載自体がないのが目を引きましたが、ほかは各紙とも主催者発表を引用。警察調べの人数は、京都新聞の1面の記事の末尾に「警視庁は、デモの参加者を約3万人としている。」との記述がありました。
 東日本大震災福島第一原子力発電所事故の後、「脱原発」を求めたデモやパレードの例は、大震災から3カ月の6月11日にもありました。このときの、在阪各紙の扱いは以下の通りでした。
 ※参考過去エントリー「脱原発デモの各紙報道に差」2011年6月15日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20110615/1308091774

※6月12日付の大阪市内発行朝刊各紙
【朝日】1面準トップ「脱原発デモ 広島で福島で」全5段(写真3・5段=福島県郡山市のデモ)▽社会面トップ「動く」「『とにかくアクションを』『子ども守りたい』」「脱原発 御堂筋4000人」「被爆地『見過ごせぬ』」写真4枚=広島、大阪、大津、東京・東電前※記事で紹介しているのは大阪、東京・新宿、福島・郡山、福井、広島、大津の5カ所
【毎日】第3社会面1段(全3段)「全国で脱原発 初の一斉行動」「130カ所で集会やデモ」(写真2段=大阪市中央区
【日経】第2社会面1段(全3段)「『脱原発』」訴え各地で集会」(共同通信
【京都】第2社会面3段「『脱原発』各地で訴え」「京で600人パレード」(写真=京都市中央区のデモ)「『ノーモア・ヒバクシャ』広島、270人行進」(広島、大阪=共同通信
【神戸】第2社会面3段「『もう原発はいらない』」「全国各地で集会やデモ」「神戸では500人参加 学習会の関心も高く」

 6月のエントリーでも書きましたが、マスメディアによって報道の扱いが分かれる社会事象はままあります。原発のように、新聞社によっては「社論」がはっきりしているようなテーマの場合、その傾向は一段と強まります。扱いの大小、さらには「報道しない」との選択も、それが正しいか否かではなく、マスメディアとしての編集上の判断の一つということです。だからこそ、社会に複数のマスメディアが存在していること自体、多様な価値観が社会に担保されていることの一助につながります。
 今回も新聞によって扱いが分かれたことは、事前に予想した通りでした。その中で、6月は記事の掲載がなかった読売、産経が、大きな扱いではないとはいえ今回は記事を掲載しました。一般的にみても、6月の時点と比べて「脱原発」が社会のキーワードとして存在感と重みを増していると感じます。一方で、朝日が6月の紙面との比較で言えば、今回は極めて小さい扱いだったことには、少なからず驚きました。
 ちなみに産経新聞の20日付朝刊の1面トップは、福島第一原発の中で事故収束のために働く作業員を紹介したルポ風の長文の記事。見出しは「『原発は爆発させねえ』」「放射線と対峙 2000人の決意」「福島第1作業員 闘い続く」でした。東京都内発行の産経紙面も同じ記事が一面トップだったようです。細かい表現が異なっているところがあるようですが、ネットにアップされています。取材が丁寧だと感じました。
 http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110920/dst11092008420002-n1.htm

 大阪発行の各紙20日付朝刊では、大阪市平松邦夫市長が19日、再選を目指して11月27日投開票の市長選に出馬することを正式表明したニュースも、一面や社会面で大きく報じられています。大阪市長選には、大阪府橋下徹知事が鞍替え出馬に意欲を示しており、知事選とのダブル選挙が現実味を増しています。かねてから橋下氏は平松市政を批判。平松氏も19日の記者会見では橋下氏を「強い扇動家」「知事として実際に何をやったのか」などと酷評したと報じられています。11月の選挙本番へ、両者の舌戦も加熱していくのでしょう。この選挙を大阪のマスメディアがどう報じるのかについても、今後、書き留めていくつもりです。