「廃棄すれば終わり」ではないはず〜沖縄密約文書・東京高裁判決への懸念

 1972年の沖縄返還の費用の肩代わりをめぐって日米両政府が結んでいた密約に対し、元毎日新聞記者の西山太吉さんらが関連文書の開示や損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が9月29日、東京高裁であり、青柳馨裁判長は原告勝訴の一審判決を取り消し、請求を棄却しました。国が密約の存在を認めつつ徹底した調査によっても密約文書は見当たらなかったとしていることを拠り所に、保有していない文書は開示しようにもできない、との判断を示したものです。以前のエントリーに書いた通り、わたしは昨年4月の東京地裁判決(杉原則彦裁判長)は「民の権利」を重視した画期的な判決と受け止めていました。高裁判決は、秘密裏に保管されていた密約文書がやはり秘密裏に廃棄された可能性に言及したものの、一審結審後の状況の変化を踏まえ、結論としては原告の逆転敗訴になりました。
 この高裁判決について、わたしの住む関西地区でも新聞各紙はいずれも大きく報じました。密約が存在したこと自体は政府も認めており、文書が現存しているか否かは二次的な問題にすぎないとの見方も可能です。しかし解説や識者談話を掲載した各紙は、もう一歩踏み込んで、情報公開のありようとしてそれでいいのかどうかの観点から、専門家の意見などを紹介しています。個人的には、朝日、毎日、読売、産経の4紙がそろって一橋大名誉教授の堀部政男氏の見解を紹介している点に目をひかれました(産経はサイド記事の中で。ほかの3紙は「識者談話」)。各紙ごとに文言や微妙なニュアンスの違いはあるのですが、堀部氏の指摘は、公権力が隠し続けていた情報があったとしても、「民」の目に触れさせないままに廃棄してしまえば開示を命じられることも、さらには廃棄の責任を問われることもない、と公権力が今回の判決を都合よく身勝手に解釈しないか懸念が残る、との内容だと読み取りました。同感です。
 ※参考過去エントリー
 「沖縄返還密約で画期的判決〜今なお『マスメディアは当事者』の自覚必要」=2010年4月12日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100412/1271002141

 全国紙各紙の大阪市内発行の紙面の扱いと主な見出しを書き留めておきます。毎日新聞は本記を1面トップに据えたことに加えて、Q&Aの「なるほどり」で西山元記者の逮捕や有罪判決をあらためて紹介するなど、非常に大きな扱いで報じたことが目を引きます。以前のエントリーにも書きましたが、西山さんの逮捕と起訴は、密約の存在よりも取材手法の是非に社会的な注目、関心が集まる結果を招きました。どうしてそうなったのかは、今もマスメディア自身の問題であり続けていると思います。毎日新聞の大きな扱いを見るにつけ、マスメディアの一角に身を置く一人として、そのことをあらためて思い起こしています。

【朝日】
1面・トップ本記4段「沖縄密約文書 廃棄に言及」「東京高裁『国、隠す意図』」「開示は取り消し」/とはもの/識者談話・堀部政男・一橋大名誉教授▼第2社会面・サイド3段「『文書ない』許されぬ」「『情報公開を蹂躙』」(原告反応)/解説全3段「公文書、国民共有の資源」/外務副大臣会見2段「『ないものはない』山口外務副大臣
【毎日】
1面・トップ本記5段「密約文書 廃棄の可能性」「東京高裁判決 開示請求退ける」/判決骨子/西山太吉さん談話▼3面・クローズアップ5段「許した国の『逃げ得』」「情報公開の枠外容認」「野田政権 再調査に消極的」=表2枚(経過、一審判決と控訴審判決の対比)/なるほどり「『密約』はなぜ明らかになったの?」▼6面・判決要旨▼社会面・原告会見雑観6段「大勝利で大敗北」「廃棄言及は『前進』」「原告 情報公開『お粗末』」/識者談話2本・堀部政男一橋大名誉教授「誤った解釈懸念」波多野澄雄筑波大教授「両省の責任残る」
【読売】
1面・準トップ本記3段「『密約』開示命令取り消し」「高裁判決原告敗訴『文書なし、廃棄可能性』」「『国に強い秘匿の意図』」▼第2社会面・原告記者会見3段「廃棄『仕方ないでは済まぬ』」「西山さんら怒り、落胆」/解説2段「文書管理体制 猛省迫る」/識者談話・堀部政男一橋大名誉教授
【産経】
第2社会面・本記3段「沖縄密約文書 開示認めず」「1審取り消し『廃棄の可能性』」/サイド2段「外交文書管理に一石」/とはもの/外務省北米1課の話
【日経】
社会面・トップ本記5段「沖縄密約文書『現存せず』」「国への開示請求退ける」「『秘密裏、廃棄の可能性』」/解説全4段「『知る権利』保障に課題」「国の調査結果 追認」/原告会見3段「『話にならない判決』」「『司法の独善』怒りあらわ」/官房長官会見1段「主張認められた」

 関西地区の有力地方紙である京都新聞神戸新聞も、1面で報じました。

【京都】
本記1面準トップ4段「沖縄密約『文書なし』」「開示請求認めず 原告逆転敗訴」「廃棄の可能性」=表・判決骨子/原告記者会見第2社会面5段「『違法な文書廃棄 追認』」「原告ら憤りの声」/財務副大臣会見「『文書廃棄は把握に至らず』」
【神戸】
本記1面中4段「『沖縄密約』逆転敗訴」「東京高裁判決『文書存在せず』」=表・判決骨子/原告記者会見第3社会面4段「文書廃棄の指摘評価」「原告の西山氏 請求却下には批判」/判決要旨3社面全6段

 沖縄の琉球新報は30日付け朝刊の1面トップで報じました。社説のほか総合面に大型の識者評論(山田健太専修大准教授ら)や県内各政党のコメント、社会面も見開きで解説やサイド記事、密約の存在を実名でマスメディアに証言した吉野文六・元外務省アメリカ局長のコメントなど、ずしりと読み応えのある紙面です。自宅購読で一日遅れで届いた紙面を読みながら、今日も何一つ決着していない沖縄の基地問題の源流にこの密約があるということを、あらためて脳裏に刻みました。

※追記=2011年10月13日
 訴訟の原告団は12日、東京高裁判決を不服として上告しました。琉球新報によると、原告団25人のうち、健康上の理由などで2人が辞退し23人が上告しました。会見で原告団は「大事な文書を捨てて隠せば、密約が隠し通せるという判決は国民の感覚からずれている」と上告理由を説明しました。