既視感があるミサイル防衛〜沖縄メディアと視点の共有を

 北朝鮮が3月16日、故金日成主席の誕生日の4月15日に合わせて12日から16日の間に地球観測衛星をロケットで打ち上げると、事実上の長距離弾道ミサイルの発射実験を予告したことに対して、日本政府は日本の領域に落下する場合は撃ち落とす方針を決め、田中直紀防衛相は3月30日、自衛隊に破壊措置命令を出しました。北朝鮮が予告している打ち上げ針路は沖縄の上空にかかります。自衛隊ミサイル防衛(MD)による迎撃態勢を取り、海上には海上自衛隊イージス艦3隻を展開。陸上では航空自衛隊が地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を沖縄本島宮古島石垣島のほか、首都防衛に万全を期すとして、首都圏3カ所にも配備。ほかに宮古、石垣、与那国の各島に初めて陸上自衛隊部隊も派遣しました。護衛艦輸送艦自衛隊車両が慌ただしく行き交う様には既視感があります。3年前、やはり北朝鮮が「衛星」と称して弾道ミサイル発射実験を強行した際にも繰り広げられた光景です。
 当時わたしは東京にいました。購読していた東京新聞の連載コラムで、ルポライターの鎌田慧さんが「ミサイル防衛を嗤(わら)う」と題した短文を寄せていました。鎌田さんは文中では直接触れていませんでしたが、タイトルは明らかに、抵抗の新聞人として知られる桐生悠々の有名な論説「関東防空大演習を嗤う」から取られていました。鎌田さんの論考を読んで、わたしは次のようなエントリーを書いていました。今読み返して、現在の状況に重ねてみても、あまり違和感がありません。3年たって、再び「ミサイル防衛を嗤う」かのような事態になっているように思います。
※「ミサイル防衛を嗤う」=2009年4月3日
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20090403/1238694217

 3年前との相違は、北朝鮮金正日総書記の死去に伴う新指導体制固めの最中ということです。しかし、より一層留意すべき重要な相違は、自衛隊の“非常時展開”の舞台が沖縄であることだとわたしは感じています。ことし5月15日に日本復帰40年を迎える節目の時期。沖縄県は現在、米軍普天間飛行場の県内移設を拒否し続けています。その沖縄に、今までになかった自衛隊配備が短期間で進みました。そもそもMDは、自衛隊のミサイルが相手のミサイルに本当に命中するのかなど、実効性に疑問がつきまとっています。また、北朝鮮に対しては、国際協調による外交上の圧力で発射実験を思いとどまらせることにもっとも重点を置いてしかるべきだと思います。
 軍事的な「沖縄防衛」が強調されている観のある現状に対して、沖縄の地元紙である沖縄タイムスは4月4日付の社説で「日本政府は、外交の場でもっと存在感を発揮しなければならない。北朝鮮の『衛星打ち上げ=事実上のミサイル発射』に対しては、多くの県民が不安を抱いている。と同時に、PAC3の配備に対しても、心穏やかでない気持ちを抱いている。このままだと、日米一体となった沖縄の軍事要塞化が進むのではないか、との懸念が強い」と指摘しています。
沖縄タイムス社説「[PAC3沖縄配備]政府の取るべき道は…」(2012年4月4日)
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-04-04_32031/
 もう一つの地元紙の琉球新報も4月5日付の社説で「過重な米軍基地を抱える県内に自衛隊を増強する足掛かりとし、さらなる軍事要塞化の布石とすることがあってはならない。与那国島宮古島への陸自配備にらみ、防衛省内には『(沖縄に)自衛隊が受け入れられやすくなるとの期待がある』という。『衛星』発射に不安を抱き、急加速した迎撃態勢への反対やためらいを口にしにくい県民感情を突き、南西諸島の防衛力強化を図る防衛省の思惑がうかがえる」と指摘しています。
琉球新報社説「PAC3初配備 外交圧力強め平和的解決を」(2012年4月5日)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-189601-storytopic-11.html
 また琉球新報は5日付の紙面に琉球大教授の我部政明氏の「識者談話」を掲載。我部氏はPAC3の沖縄配備やMDの実効性に疑問を呈した上で、「抑止力」と沖縄の基地について以下のように指摘しています。

 「抑止力」についてだが、今回のように準備に1カ月もあれば、対応できることが示された。PAC3の輸送も船で間に合った。米軍基地が沖縄になければならないということではなく、本土にあってもいいということを示す。
 「いろいろな事態があるからそれだけじゃない」という意見もあるかもしれないが、実際に起きていることを見れば、沖縄に米軍基地を置かねばならない理由はない。
 武力衝突が起きそうになる事態は、数週間前から分かる。沖縄の基地の地理的優位性はないことが今回のことで示されている。

 これらの沖縄メディアの視点と問題意識を、自衛隊を送り出している側の日本本土のマスメディアももっと共有すべきだと思います。PAC3の命中率やMDの実効性を含めて、日本政府の対処策の検証を多面的に各メディアが競い合うような状況があっていいはずです。そして、これは3年前のエントリーにも書いたことですが、マスメディア自らが「有事の演出」に手を貸すことがあってはなりません。既に放送メディアは有事法制に組み込まれて久しいことを忘れてはなりません。