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「原発ゼロ」の中で決まった「節電の夏」〜再稼働問題の推移に注目

 「原発ゼロ」の中で、今夏の政府の電力対策が18日、決まりました。関西電力管内については、2010年比で約15%の供給不足になることを前提に15%の節電目標を設定。期間は7月2日〜9月7日です。計画停電の準備を進めますが、電力使用制限令は回避しました。翌19日に関西電力は、関西地区の府県や特別市でつくる関西広域連合に対し、需給見通しや節電対策を説明。これを受けて関西広域連合も、関電管内の企業や一般家庭に対して、10年比で15%以上の節電を要請することを公表しました。政府の節電対策は、電力供給に余力があると見込まれる中部、北陸、中国、四国の4社から関西、九州両社に電力を融通するとしています。このため政府は、中部など4社にも7〜5%の節電目標を設定しました。
 「節電の夏」に向かう大きな節目として、大阪や近県の新聞各紙も18日夕刊から20日付朝刊にかけて、紙面で関連の記事を大きく展開しています。関西電力の場合、節電対策に最終的には大飯原発3、4号機の再稼働は織り込まれていません。ただ、ここに至るまでの1週間ほどの間は、大飯原発の立地地元である福井県おおい町議会が再稼働容認を決めたこともあってか、「原発を再稼働すれば電力不足は大幅に改善できる」との仮定が、政府や電力会社側には色濃く意識されていたように感じます。それに対して、関西の自治体側は原発再稼働には慎重姿勢を崩さない、という基本的な構図は変わらないままです。本来、電力不足対策と原発再稼働は別の問題です。原発再稼働は短期的な電力需給の論点を切り離し、安全性だけの論点から議論されるべきだと思います。仮に「電力不足の解消のために、少々の不安があっても目をつぶって運転する」となってしまっては、東京電力福島第一原発事故が教訓にも何もなっていない、ということになりかねません。節電対策が決まったことで、大飯原発をはじめとして原発の再稼働問題は今夏の需給問題とリンクしない形で論議が深まるのかどうか。推移に注目したいと思います。

 この1週間ほどの間は、大阪や近県の各紙もさまざまに関連ニュースを報じました。主なものを備忘を兼ねて書き留めておきます。全国紙はいずれも大阪本社発行の最終版紙面です。

▽12日付京都新聞朝刊1面トップ「京滋加え安全監視協」「政府が新設検討」
 共同通信の配信記事。大飯原発の再稼働問題で、政府が福井県だけでなく京都府滋賀県も加えた安全規制監視のための協議会新設を検討しているとの内容です。京都府滋賀県は再稼働に慎重な姿勢を崩しておらず、政府の露骨な取り込み策のようにも思えます。また大阪府は含まれておらず、原発再稼働問題で政権批判を強めている橋下徹大阪市長と京都・滋賀両府県とを分断することにもなるでしょう。この協議会が実現するならば、記事も指摘していますが橋下市長の反発は必至です。毎日新聞も同じ配信記事を朝刊2面(総合面)に掲載。

▽13日付朝日新聞朝刊1面トップ「大飯再稼働 慎重6市町」「30キロ圏10首長 反対は2市町」
 大飯原発の再稼働について、半径30キロ圏にある福井、滋賀、京都3府県の11市町の首長に朝日新聞が行ったアンケート結果です。5月7日から実施し、12日までに立地地元のおおい町をのぞく10市町から回答があり、記事によると、2市町(京都府舞鶴市京都府京丹波町)が「反対」で「賛成」はゼロ、「その他」と答えた8市町のうち6市町が慎重意見だったとのことです。

▽13日付読売新聞朝刊1面トップ「再稼働前向き6首長」「34原発立地自治体調査 7割は保留」
 読売新聞が全国の原発の立地自治体の知事・市町村長34人に行ったアンケート結果です。政府が示した安全基準を満たした場合、6人が再稼働を前向きに考えていることが分かったとしています。「早期の再稼働」が北海道泊村、新潟県刈羽村福井県美浜町、「認める方向で検討」が福井県おおい町、同高浜町佐賀県玄海町。否定的な回答は5人で「絶対認めない」が福島県富岡町茨城県東海村、「当面認めない」が宮城県石巻市静岡県福島県双葉町でした。なお20面、21面には見開きで原発再稼働問題の特集記事を掲載しています。

※13日付朝刊では各紙とも一斉に「関電融通へ4社節電」(毎日新聞)などの見出しで、政府の需給検証委員会の検討状況を報じました。電力不足が見込まれる関西電力への融通のため、他電力にも節電を要請することや、企業に節電を義務付ける電力使用制限令は回避したい意向であることなどです。
※14日付夕刊では各紙とも、大飯原発の立地地元である福井県おおい町の町議会が原発再稼働を容認したことや、政府が関西電力の節電目標を、他社からの融通を前提に2010年夏比で15%とする方針を決めたことを報じました。
※続く15日付朝刊では各紙とも、14日にまとまった政府の節電対策の原案を詳しく報道。関西電力など4社で計画停電を準備することや、関西電力では電力使用制限令も検討することなどです。
※15日に開かれた大阪府大阪市の統合本部・エネルギー戦略会議で、関西電力が家庭用の電気料金プランなど、新たな節電対策を説明しました。他社からの融通に加え、諸々の対策で節電効果を積み上げれば、原発再稼働がなくても最大で300万キロワットの需給改善を見込むことができ、電力不足は5%にまで低下する、とのことです。各紙とも大きく報じました。ただあくまでも試算で、実現できるかどうかは天候などの条件にも左右されるようです。

▽17日付毎日新聞朝刊1面トップ「大飯フル稼働に6週間」「節電前 間に合わず」
 大飯原発3、4号機は、再稼働の作業を始めてからフル稼働までに6週間かかると関西電力が見込んでいるとの内容。通常の定期点検より長い間、停止しているため、発電前の点検に時間がかかることなどが理由としています。仮に5月末までに政府が再稼働を決定しても、7月初旬の節電要請期間入りにはフル稼働は間に合わない可能性が極めて高いと記事は指摘しています。通常の定期検査では作業開始から10日程度でフル稼働になるとしています。

▽17日付京都新聞1面トップ「5%強節電で不足回避」「余剰融通で可能 政府試算過大か」
 共同通信の配信記事。今夏が2010年並みの猛暑としても、西日本の電力6社が5%強の節電に努めて電力を融通すれば、原発の再稼働がなくても西日本全体の電力は足りる、との試算結果です。政府の電力需給データを共同通信が独自に分析した結果です。政府試算が前提にしている6社管内の最大需要9925万キロワットは、2010年夏の6社のピーク需要を足し合わせたものです。実際には10年夏の最大需要は9813万キロワットでした。各社のピーク需要が同じ日にそろったわけではないためです。11年夏も同様でした。同じデータでも別の読み方ができる例だと思います。

▽18日付毎日新聞社会面トップ「反原発 命の限り」「国の言う安全 誰が信用しますか」
 原発が立ち並ぶ福井県で反原発運動に取り組んできた小木曽美和子さん(76歳)を紹介する記事。現在、病床で末期がんと闘っていらっしゃるとのことです。1976年に結成された「原子力発電に反対する福井県民会議」の事務局長。原発関連の報道で、わたしも何度も小木曽さんのお名前やコメントを目にしていました。