橋下市長と「脱原発」の一つの仮説〜勉強会「原発再稼働の波紋」で報告

 以前のエントリー(「原発ゼロ」と関西のマスメディア・新聞)でもお知らせしていましたが、この週末26日の土曜日、日帰りで上京し、日比谷のプレスセンタービルで開かれた勉強会に参加しました。新聞・通信や放送のOBら10人の方々が幹事役になっている「土曜サロン」という任意の集まりです。2カ月に1度の開催で、マスメディアのOBや現役が集まって、ジャーナリズムが直面している折々の課題について意見交換する場で、今回が第65回。10年の歴史があり、実は以前から顔を出すようお誘いを受けていたのですが、今回が初めての参加でした。
 テーマは「原発再稼働の波紋」。野田政権が4月13日、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働を妥当と判断し、地元の福井県おおい町に理解を求めました。以後の様々な動きと、それを新聞やテレビの報道がどう伝えたかを出席者で議論しようとの趣旨です。大阪で勤務するわたしに、ゲストスピーカーとして与えられた役割は、地元の反応と在阪マスメディア、中でも新聞各紙の対応の報告でした。ほかに在京新聞の政治部長の方が、野田政権の再稼働への取り組みや政界の動きを報告されました。
 わたしが報告したのは主に3点です。会場で配布したメモ(レジュメと呼べるほどまとまった内容に整理できませんでした)では(1)二つの地元〜福井と関西(2)節電と原発再稼働〜在阪・関西各紙の報道(3)橋下徹大阪市長関西電力―の小見出しを付けました。
 (1)については、5月24日に福井県の西川一誠知事が注目すべき発言をしたことを紹介しました。用意した資料は朝日新聞の特集記事の切り抜きでしたが、ここでは地元紙福井新聞のサイトから引用します。
 ▽再稼働問題で知事、関西などに不快感 「無理に動かす理由ない」=福井新聞:2012年5月25日
  http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/politics/34853.html

 西川・福井県知事は24日の定例記者会見で、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働をめぐり、慎重姿勢を崩さない関西の首長に国が説明を繰り返す現状に「電力消費地が電気は必要ないと言い、国も必要性を感じないなら(大飯原発を)無理に動かす理由はない」と不快感を示した。一方で「関西の同意を待っているわけではない。政府が確たる姿勢を示すことで問題は解決できる」と強調。野田佳彦首相が先頭に立ち、長期的観点で再稼働の必要性を国民に説明するよう強く求めた。(伊豆倉知)

 立地の地元である福井と、電力消費地である関西とで、知事レベルで大きな温度差があることが明白になっています。では今後、「関西」はどういう意向を示し、どのような動きを見せていくのか。その前提として「関西」には多層・多面的な構造があることを説明しました。
 例えば滋賀県嘉田由紀子知事と京都府山田啓二知事は、原発政策への提言を共同発表するなど、共同歩調を取っています。また立地地元に対して、原発で事故が起きた場合の「被害地元」の立場を強調。嘉田知事がもともと琵琶湖の環境問題に詳しい研究者だったこともあるのでしょうか。滋賀県は独自に、福島第一原発事故と同規模の事故が大飯原発で起きた場合の、放射性物質の拡散予測を算出したりしています。データは京都府にも提供されており、たまたまですが勉強会当日26日の京都新聞1面トップは、情報開示請求で得たデータをグリーンピース・ジャパンなどが発表した記事。京都駅で新幹線に乗る直前に買い求めた京都新聞の紙面を、勉強会でも紹介しました。
 共同歩調の滋賀・京都に対して、大阪府大阪市のスタンスは、橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」のスタンスであり、さらに言えば橋下氏のスタンスです。滋賀・京都の両知事は明確に「脱原発」を主張しているわけではありませんが、橋下氏と維新の会は「脱原発」の方向性を濃厚に示しており、関西電力筆頭株主である大阪市は6月27日の株主総会への株主提案として、速やかな原発の全廃を求めています。関西電力の株主という点は、神戸市、京都市もそうです。大阪市と京都、神戸両市は株主総会にそろって初めての議案提案を行っていますが、原発についての内容は同一ではありません。
 「関西」の枠組みとしては、自治体間の最大公約数として小さくない役割を果たすのが関西広域連合です。滋賀、京都、大阪、兵庫、和歌山、徳島、鳥取の7府県で構成。節電策などでは関西電力のカウンターパートナーであり、原発再稼働についての政府側の説明を受ける受け皿になることもあります。
 以上のような「関西」の多層・多面的な構造の中で、今後、大きな要因になっていくのは、やはり強烈な存在感があり、大阪維新の会の国政進出を明言している橋下氏だろうとわたしは考えています。

 2点目の「節電と原発再稼働〜在阪・関西各紙の報道」は、5月18日に政府の今夏の節電対策がまとまるまでの間、電力の需給をめぐっていくつもの試算結果が飛び交ったことと、それがどう報道されたかを説明しました。
 結論としては、大飯原発が再稼働しない状況で、関西電力管内は2010年比で15%の電力不足となると予測され、15%以上の節電を要請することとなりました。しかしそれ以前の5月10日には、大飯原発が再稼働すれば電力不足はほぼ解消するとのシミュレーションが政府の需給検証委員会で示されました。表裏一体のように、大飯原発が再稼働しないなら電力制限令の発動も検討せざるを得ないとの報道が流れ、関西の自治体からは「原発再稼働のための脅しだ」との反応が出ているとの記事も、一部の新聞の紙面に載りました。
 5月15日には大阪府大阪市のエネルギー戦略会議の席上で関西電力が、大飯原発の再稼働がない状態でも、他社からの電力融通や節電策の積み重ねで電力不足は10年比5%に圧縮できる、との試算を唐突に説明。政府の委員会の場では示されていない内容でした。
 この10日ほどの間は、これらの数字がその都度、大きく報道されました。しかし、それぞれの試算の詳しい内容、根拠は報道では明らかになっていません。いわば「関西電力や政府がそう言っている」との状況です。本当にそれらの試算が合理的で妥当なのかどうか、自前でそれを検証することは、関西のマスメディアにとっては意識しておくべき課題だと、わたしは考えています。
 ※これらの報道については、以下の過去エントリーでも触れています。ご参照ください。
 ▽「大飯再稼働シミュレーション」の報じ方=2012年5月14日
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120514/1336930302
 ▽「原発ゼロ」の中で決まった「節電の夏」〜再稼働問題の推移に注目=2012年5月21日
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120521/1337554967

 3点目の「橋下徹大阪市長関西電力」では、原発再稼働問題に対する橋下氏のスタンスについて、わたしなりの仮説を説明しました。
 橋下氏は5月19日、大飯原発3、4号機の再稼働へ向けて理解を取り付けようと関西広域連合の会合に出席した細野豪志原発事故担当相に対し「需給問題で(安全対策の確立に)時間がかかるなら、臨時に1カ月、2カ月、3カ月という動かし方もある」(朝日新聞記事より引用)と述べ、期間を決めた臨時稼働を提案したと報じられました。ただ、橋下氏は会合後、記者団に「(政権が)再稼働をもう腹に決めていると分かってきた。このタイミングで(全面的な再稼働より)まだましということを言いたかった」(朝日記事)と本意を説明したと伝えられています。
 ※参考過去エントリー
 ▽大飯原発「臨時稼働」の橋下市長発言の報じ方=2012年5月22日
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120522/1337619983
 また、1カ月前のことになりますが、4月26日には、大飯原発の再稼働なしに今夏の電力需要ピークを乗り切るには、関西の住民に増税を含めた新たな負担が必要、との趣旨の発言もしています。節電に協力する企業への支援の財源として増税も必要で、その覚悟もないのに原発再稼働への反対を口にするのは無責任だ、ということのようです。
 ※橋下市長、再稼働反対で増税も 大飯原発=2012年4月26日(共同通信
  http://www.47news.jp/CN/201204/CN2012042601002127.html
 「脱原発」を標榜しているように見える橋下氏の、これらの言動をどう考えればいいのかは、今後の推移も見なければはっきりとは分かりません。ただ現時点では、橋下氏にとっては原発そのものへの賛否は二次的な問題であり、橋下氏は自治体首長と電力会社との関係をもっとも重要視している可能性がある、とわたしはみています。
 たとえば橋下氏は異論が絶えない日の丸・君が代起立斉唱条例について、内面の自由の問題ではなく公務員の規律の問題だと、終始一貫して主張しています。日の丸や君が代に対する橋下氏の価値観を反映したものではないということです。ここに表れている橋下氏の価値観は、公務員はかくあるべきという公務員観であり、一種の手続き論です。これにならって考えるなら、原発再稼働問題で橋下氏がもっともこだわっているのは、選挙で選ばれ民意を体現している首長である自分の意向を、地域の公益企業である関西電力は最大限に尊重すべきだ、という点にあるのではないかと思います。これも一種の手続き論です。もちろん、現在の国と自治体との関係の枠組みへの異論、現在の民主党政権に対する強烈な対抗意識なども相まっています。
 言い方を換えると、橋下氏個人は必ずしも「脱原発」を信念としているわけではなく、関西電力が首長との関係性を国と同等、ないしはそれ以上に重視するように企業としてスタンスを変えるかどうかにもっとも関心があるのではないか、との仮説です。そして、橋下氏から見た場合、関西電力と国の関係性の問題点は現在のところ、原発をめぐる問題点にもっとも凝縮されており、したがって現状の再稼働の動きにも激しく反発を示しているのではないか、ということです。
 以上はあくまでも現時点でのわたしの仮説ですが、昨年来の橋下氏と関西電力の確執も考慮すると、あながちまるっきり外れているわけでもないと思います。昨年夏の節電策では、関西電力と自治体側で十分な意思疎通がありませんでした。当時大阪府知事だった橋下氏は、関西電力が示した節電要請案に対して「原発が必要という議論の土俵に載せようという意図を感じる」と批判していました。
 ※節電要請に協力せずと橋下知事 関電の根拠分からず=2012年6月10日(共同通信
  http://www.47news.jp/CN/201106/CN2011061001000516.html
 いずれにせよ、今後の推移を注意深く見ていこうと思います。

 勉強会では、在京新聞の政治部長のお話もとても興味深く聞きました。わたしたちの報告をもとに、参加者からは次から次に質問や意見表明があり、予定の3時間が過ぎるのをとても早く感じました。わたし自身、頭の中の整理にもなりました。貴重な機会を与えていただいた主催者の皆さまや、多様なご意見を聞かせていただいた参加者の皆さまに、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。