大飯再稼働を超える首相会見の意味〜社会の意思はどう代表されればいいのか

 関西電力大飯原発3、4号機の再稼働問題をめぐり、野田佳彦首相は8日に記者会見し「国民生活を守るため、再稼働すべきだというのが私の判断だ」「今原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」と表明しました。5月30日に関西広域連合が事実上、再稼働容認を決めましたが、大阪市橋下徹市長は期間を夏季の需要ピーク期に限定することを主張。こうした状況に対して、福井県の西川一誠知事は6月4日の細野豪志原発事故担当相らとの会談で「国と消費地のやりとりに非常な迷惑感と不信感がある」と表明し、「再稼働が必要だと、首相が国民に直接表明することが安心につながる」として、首相が中長期的な原発の必要性を国民に説明するよう求めていました(4日の共同通信配信記事)。8日の首相の会見は、この福井県知事の要求を受け入れたもので、これにより福井県おおい町の再稼働への同意は事実上決定。手続きが一気に進むようです。
 大飯原発から送られる電気の消費地の関西でも、全国紙各紙(朝日、毎日、読売、産経、日経)ともこの首相会見を1面トップで大きく報じました(大阪本社発行の最終版)。再稼働が現実に動き出す大きな節目であり、社説では3紙が自社の社論を強く打ち出していることが特徴的でした。朝日新聞は「脱原発はどこへ」と題して首相を批判。書き出しは「原発政策を主題にした野田首相の記者会見は初めてだった。それが、こんな内容なのか」となっていて、挑発的だと感じます。対して、読売新聞は「国民生活を守る首相の決断」、産経新聞(「主張」)は「再稼働の決断を支持する」の見出しで、全面支持でした(毎日新聞日経新聞は関連の社説の掲載はありませんでした)。
 読売新聞は政治部長の署名評論記事も掲載。首相の会見が大飯原発の再稼働問題にとどまらず「原発を国の基幹エネルギーと明確に位置づけ、東京電力福島第一原発事故後の原発政策の迷走をただす意志を明示した点にこそ、画期的な意義がある」と評価しました。評価は正反対ながら、先の朝日新聞の社説も「政権の原発政策が大きく転換したと受け止められても仕方がない」と書いており、今回の首相の会見は、こと大飯原発問題に限らず、昨年3月11日を境に「脱原発依存」にかじを切っていた日本社会の流れの大きな転換点になるのかもしれません。その位置づけは、もう少し時間がたたなければ定まらないと思いますし、評価となるとさらに時間が必要だと思います。
 ただ、8日の首相会見がそういう意味を持ちうることを前提に考えると、マスメディアにとっては、この会見の反響、余波として何を伝えなければならないかが課題になっていると感じます。例えば、大飯原発をめぐる直接の当事者と地域は、立地地元の福井県と関西の各府県ですが、それ以外の地域でどういう受け止めがなされているか、とりわけ福島県の首長や住民の受け止め方は、福井と関西の双方の住民にとっていろいろな意味で参考になる情報だと思います。
 さらに、大飯原発再稼働問題をめぐる一連の経過は、社会のどの部分の意思をどういう形でだれが代表するか、という問題を提示しつつあるのではないか、と思います。より具体的に言えば、「3・11」後の原発をめぐる問題を、それ以前と同じように国と都道府県などの「自治体」のカウンターパートの枠組みで扱っていくことの妥当性、合理性という論点をはらんでいると感じています。言葉を変えれば、どういう枠組みで扱えば、社会全体の納得感が高まるか、です。
 少し話がずれますが、大飯原発の再稼働を「期間限定」と主張しつつ容認している橋下大阪市長は、かつて脱原発住民投票条例制定を求めた署名運動に対し、脱原発を掲げた自分が市長に当選したことで民意は明らか、との趣旨の発言をし、住民投票は経費のムダとして消極的な姿勢を見せました。このことも、「地域の意思をどういう形で代表するのか」という命題に関連して整理して考えておく必要があると思います。
 いずれにせよ原発再稼働は、マスメディアの報道も従来と同じ枠組み、発想では立ち行かないテーマなのは間違いありません。

 備忘を兼ねて、以下に9日付の全国紙5紙朝刊の主な記事と見出しを書き留めておきます(いずれも大阪本社発行の最終版)。

朝日新聞
1面トップ「大飯再稼働 首相が表明」「『生活守るため』強調」「夏限定の案は否定」※表「首相会見ポイント」
2面「首相 とにかく再稼働」記事4本「福井の要求丸のみ」「民主内から異論噴出」「首相の表明に知事執着」「橋下市長ら批判」
2面「電力不足より損得勘定」「原発ゼロで各社経営悪化」
3面「関西 需給なお綱渡り」「全稼働早くて来月末」
3面「節電目標 縮小を検討」
4面:首相会見要旨
8面(経済面)「停電回避へ企業安堵」
第1社会面トップ「再稼働安全なのか」「関西 割れる賛否」「節電 覚悟あった」「基準 厳しいはず」(消費者の反応)
第1社会面「周辺住民を軽視」「隣接市は不満」(立地地元の反応)

毎日新聞
1面トップ「首相 夏限定を否定」「16日にも政府決定」「大飯再稼働」※表「野田首相の会見骨子」
1面「『重く受け止める』」「西川福井知事コメント全文」
2面「知事ら同床異夢露呈」「広域連合 模索の末」
3面:クローズアップ「原発位置づけで難航」記事3本「『基幹電源』対応苦慮」「福井知事思惑通り」「事故対策 道半ば」
3面:首相会見要旨
9面(経済面)「関電の需給状況一変」「フル運転 節電開始に間に合わず」
第1社会面トップ「『遅い』『評価』『疑問』」「地元“二分”のまま」/「崖っぷち渡るよう 市民団体」/「再発防止の根拠を示せ 福島の避難者」/「大阪の関電本店市民ら100人抗議」
第1社会面「立地自治体も…」「『安心、優先に』福島知事」「『考え示した』島根知事」

【読売新聞】
1面トップ「首相 大飯再稼働を明言」「『国民生活守る』」「夏限定否定 来週にも最終決定」「福井知事ら評価」※図「想定されるスケジュール」
1面「節電目標 2段階で緩和 政府検討」
2面「迷走に終止符 強い決意」(永原伸・政治部長の署名評論)
2面「7月後半 電力なお厳しく」「4号機フル稼働せず 不足長期化も」
2面「計画停電2時間ずつ」「関電 8地区 各6グループに」
3面:スキャナー「再稼働 首相ぶれず」「『原発なし 立ちゆかぬ』」記事2本「生命・雇用の危機 訴え」「福井に配慮『感謝の念を』」
4面(政治面)「再稼働反対 くすぶる民主」「選挙への影響懸念、署名117人」※名簿「再稼働に慎重判断を求める民主党議員」
8面(経済面)「関西産業界は安堵」
15面:首相記者会見全文(質疑除く)・福井県知事コメント要旨
第1社会面「『原発と歩むしかない』」「地元おおい 揺れた」「町役場批判メール1000通」
第1社会面「周辺首長から懸念の声」
第1社会面「『停電リスク おじけづいた』」「橋下市長が容認理由」

産経新聞
1面トップ「『原発停止、日本立ち行かぬ』」「首相、大飯再稼働16日にも決定」「夏季限定は否定」※表「会見のポイント」
1面「混迷収束へ一転会見」「地元への配慮前面に」(解説)
1面「福井知事『重く受け止める』」
2面「関西 一定評価の声」記事2本「橋下市長 限定こだわる」「京都知事『唐突な印象』不信感」
3面「電力不足 解決遠く」記事4本「猛暑なら…計画停電の危機」「フル稼働 最短で来月24日」「企業『歓迎』と『不安』」「関電『大変意義深い』」
4面:首相会見要旨
第2社会面「おおい町 安堵と不信」「『ようやく』『帳尻合わせ』」/「町長『納得』」
第2社会面「橋下市長が関電に『賢明な認識ない』」「株主提案反対を批判」

日経新聞
1面トップ「原発なし『日本立ち行かず』」「大飯再稼働を来週決定」「福井知事、同意へ」※図「再稼働までの流れ」
3面「大飯の次『個別に判断』」記事3本「泊・伊方が焦点に 原発依存『中長期では減らす』」「関電、計画停電は準備」「国の政策揺らぎ不信感 首相説明求めた福井」
4面:首相会見の要旨