ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

ブルームバーグ元記者の解雇無効 ※追記:新聞労連が声明公表

 経済・金融情報をメインにする米ブルームバーグの東京支局で記者として働いていた男性(50)が、達成困難なノルマを会社に課せられた上、ノルマが達成できなかったことを理由に解雇されたのは不当だとして、ブルームバーグを相手に社員の地位の確認や賃金の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁(光岡弘志裁判官)が5日、解雇は無効として請求を全面的に認めました。

※msn産経「『能力不足』の解雇無効 ブルームバーグ元記者」
 http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/121005/trl12100518500005-n1.htm
 以下に一部を引用します。

 判決によると、男性は平成17年11月に米金融・経済情報サービスのブルームバーグ中途採用され、21年12月以降、週1本の独自記事や、月1本の編集局長賞級の記事などを要求する「業績改善プラン」に取り組むよう命じられた。
 同社は22年8月、記事本数の少なさや質の低さを理由に解雇したが、光岡裁判官は「労働契約の継続を期待できないほど重大だったとはいえず、会社側が記者と問題意識を共有した上で改善を図ったとも認められない」と指摘。「解雇理由に客観的な合理性はない」と判断した。

毎日新聞ブルームバーグ:東京地裁『元記者の解雇無効』」
 http://mainichi.jp/select/news/20121006k0000m040073000c.html
日本経済新聞「元記者を『ノルマ果たせず』解雇は違法 東京地裁判決」
 http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0504E_V01C12A0CR8000/
東京新聞「地裁判決、『能力不足』解雇無効 ブルームバーグ元記者」(共同通信配信)
 http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012100501002210.html

 弁護団によると、外資系企業を中心に無理な課題を設定する「業績改善プラン」の未達成を理由にした退職強要が相次いでおり、今回の判決はこの手法を経た解雇について無効と判断した初めてのケースという。

 この争議については、このブログでも以前触れていました。
※参考過去エントリー
 「『記事の評価』を理由にできれば記者の解雇は簡単」2010年12月12日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20101212/1292087756
 
 ブログ過去記事のタイトルを見ていただければ分かるとおり、わたしはブルームバーグのようなやり方で職を奪うのは行きすぎだと考えていました。元記者勝訴の結論は、裁判官が労働契約の重さをよく理解した上でくだしたものと受け止めています。

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※追記 2012年10月6日1時25分
 争議を全面支援している新聞労連と個人加盟労組の新聞通信合同ユニオン、弁護団の3者が連名で「見解」を公表していますので、紹介します。判決の意義を簡潔に紹介しています。

 PDFファイルは以下からダウンロードできます。
 20121005ブルームバーグ訴訟勝訴新聞労連見解.pdf 直

ブルームバーグPIP解雇事件・東京地裁判決についての声明

 (1)東京地方裁判所民事第36部(光岡弘志裁判官)は、2012年10月5日、ブルームバーグPIP解雇事件の裁判において、原告の請求を全面的に認容する判決を出した。本件は、2005年11月に通信社ブルームバーグに記者として中途採用された原告が、2009年12月から2010年3月にかけて会社からPIP(パフォーマンス・インプルーブメント・プラン:業績改善プラン)を実施された後、記者としての能力に欠けるとして解雇されたことから、会社を相手どり、解雇は無効であるとして従業員としての地位の確認を求めたものである。

 (2)判決は、まず、「勤務能力ないし適格性の低下を理由とする解雇に『客観的に合理的な理由』(労働契約法16条)があるか否かについては、…当該職務能力の低下が、」(1)「当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か」、(2)「使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か」、(3)「今後の指導による改善可能性の見込みの有無」等の事情を「総合考慮して決すべきである」との一般的な基準を立てた。

 (3)その上で、被告が解雇理由として挙げた、原告にコミュニケーション能力がない、記事の質が悪い、記事の本数が少ない等について、いずれも根拠に乏しいことを理由として「客観的合理性があるとはいえない」として、原告は今もブルームバーグの従業員としての地位があることを認めた。

 (4)ところで、原告が中途採用であるという点について、被告が、ブルームバーグのビジネスモデルは通常の新聞社と違い、記者として求められる能力等に大きな違いがあると主張していた。これについて、判決は、「社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められていると想定される職務能力との対比において…これを量的に超え又はこれと質的に異なる職務能力が求められているとまでは認められない」と一蹴した。違法・無効な解雇を行った会社は、控訴をせずに本判決を受け入れ、原告に謝罪した上でただちに復職に向けた協議を組合と行うべきである。

 (5)昨今、外資系企業を中心に、本件で問題となったPIPを利用した退職強要・解雇が流行している。共通するのは、会社が、「業績改善」の名のもとに対象労働者に無理な課題を設定し、達成出来ない場合には解雇することを示唆し、PIPの過程において、対象労働者に対して能力の否定や人格の攻撃を行うという点である。
 PIPの過程で、多くの労働者は自尊心を傷つけられ、自ら退職を選択していく。退職を選択しなかった者は、原告のように「能力不足」の烙印を押されて解雇される。 このような手法は、労働契約法に明記された解雇規制をくぐり抜けるために考案されたものであって、法的にも道義的にも到底許されるものではない。

 本判決は、従来の判例法理の枠組みによって判断されたものであり、その意味では解雇無効の判断は当然の帰結であるが、PIPという新たな手法を経ての解雇を断罪したおそらく初めての判決という点でその意義は大きい。

 私たちは、引き続き、このような手法による退職強要や不当解雇が一掃されるまで全力で闘うことをここに決意する。

2012年10月5日
日本新聞労働組合連合
新聞通信合同ユニオン
原告弁護団

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※追記 2012年10月6日9時20分
 原告は新聞通信合同ユニオンの組合員です。合同ユニオンは新聞労連の中で初めての個人加盟労組として、2005年に発足しました。わたしが新聞労連委員長の時でした。新聞産業も日本の産業界の例に漏れず、労働組合運動は企業別組合が主流です。しかし、社会全体を見渡せば、それは決して当たり前の姿ではなく、「団結権」という働く者の基本的な権利を手にしていない人たちが、いかにしてその権利を手にしていくかが切実な課題であることを、わたしは合同ユニオンの発足と、その後の活動を通じて学びました。
 今は、わたし自身の立場は異なっていますが、一人の働く者として、この争議に真正面から取り組んだ原告と、支え続けた新聞通信合同ユニオンに敬意を表します。