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石原知事辞職後の「第三極」報道と憲法〜基地と9条の今日的意味

 東京都の石原慎太郎知事が25日、都議会議長に辞表を提出しました。これに先立って開いた緊急会見では「新党をつくって仲間と一緒に国会に復帰しようと思う」と述べ、自身が代表となる新党を結成し、自身も次期衆院選に立候補する意向を明らかにしています。石原氏は、大阪市長橋下徹氏が代表を務める日本維新の会との「連携、連帯」を図ることも明らかにしており、各マスメディアとも焦点は民主、自民の二大政党に対抗する第三極勢力の結集だと伝えています。
 日本維新の会が大阪に本部を置いていることから、「石原都知事辞職」は全国紙の大阪本社発行紙面をはじめ関西の新聞各紙も大きなニュースととらえました。朝日新聞、読売新聞、京都新聞は25日夕に号外を発行し、それぞれ大阪市内や京都市内、滋賀県内の街頭で配布。26日付朝刊各紙は軒並み1面トップで、総合面や社会面でも関連記事を掲載しました。
 各紙の記事で目立つのは、やはり第三極の展望です。当の橋下氏は石原氏の新党立ち上げにも「政策の一致が必要」と強調して、安易な連携は取らない考えを表明しました。石原氏と橋下氏(ないしは日本維新の会)の政策の差異の代表例として、各紙が共通して挙げているのは原発憲法、消費税、TPPです。これらの差異をそのままに連携が深まっていくなら、「第三極」はキーワードとしては政策的な意味を持たずに、民主、自民に選挙対策として対抗する集団的なまとまりとしての意味しかなくなるでしょう。つまりは政争のレベルです。新聞をはじめマスメディアが今後の政策協議を注視していく意味は小さくありません。
 一方で、マスメディアの報道の今後の課題として「憲法」、中でも9条の比重も小さくないと感じています。民主、自民はともにもともと9条を含む改憲を指向しています。石原氏と橋下氏に、現憲法の破棄―新憲法制定か、現憲法の改変かで違いがあるとしても、内容の面で見ればそう大きな差異はないと感じます。特に戦争放棄と戦力不保持を定めた9条に関しては、橋下氏は国民投票で扱いを決めるとしつつ、決して肯定的にとらえていないことはこれまでの発言(大震災のがれき処理が進まないことと9条を結び付ける発言までありました)で明らかです。石原氏の9条に対するスタンスは、ここで改めてわたしが指摘するまでもありません。
 仮に民主、自民、第三極というくくりに報道が収れんしていくのだとすれば、憲法、中でも9条に関しては改変論しか取りざたされなくなる可能性があります。そうなると例えば選挙の争点としては埋没しかねません。しかし、9条を改変するか擁護するかが有権者の選択肢として明確に意識されることの必要性と意義は今日、格段に高まっていると思います。その最大の理由は沖縄の基地問題の現状です。最近の出来事として、欠陥の疑いが指摘されている米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイ普天間飛行場への配備が、県知事以下、沖縄を挙げての反対にもかかわらず実施されました。その後、10月16日には、米本国から来ていた米兵2人が女性を暴行した疑いで逮捕される事件も起きました。このブログでも触れてきたことですが、今は基地をめぐる沖縄の人々の怒りは「差別」の言葉とともに語られるようになっており、怒りの質が以前とは変わっているとわたしは受け止めています。
 追求すべきは基地負担をめぐる沖縄への差別の解消か(沖縄の負担の過重さの解消か)、あるいは沖縄のみならず米軍基地そのものの解消かなどの違いは意見や立場によってあるだろうと思います。しかし、日本国の政治に事実上、沖縄の基地機能の強化ないしは現状維持しか選択肢がない状況が固定化されてしまうのだとしたら、そのこと自体、沖縄差別の強化です。
 沖縄の人たちが自分たちで選び取れる、そういう意味での現実的な選択肢が現実のものになるには、さかのぼって米軍基地の存在を許している根拠である日米安保条約と日米同盟のありようについて、とりわけ日本本土でさまざまな意見や考えが表明され、知られることがまず必要だと思います。その根本にかかわるのが憲法9条です。今後の政治状況を報じる中で憲法をどう位置付けるかは、本土のマスメディアにとって小さくない問題だと考えています。沖縄への差別に自らも加担するのか否かが問われかねないくらいに―。


 以下に備忘を兼ねて、「石原都知事辞職」の関西発行26日付朝刊各紙の主な関連記事と見出しを書き留めておきます。全国紙は大阪本社発行の最終版です。

朝日新聞
1面トップ「石原都知事が辞職」「国政へ 新党、第三極目指す」「後継に猪瀬指名」
2面(総合面)「解散へ 揺さぶる石原氏」「『重大な決断』国会へ起爆剤」「『東と西で』維新からエール」「民自、警戒強める」=年表・石原慎太郎氏の歩み
3面(総合面)「都知事交代13年ぶり」「候補擁立 苦しい民自」「維新、猪瀬氏を支援」/「脱原発憲法 橋下氏とずれ」「橋下氏と維新公約案比較」=表・石原氏と橋下氏の政策の違い
社会面トップ「石原流 嵐呼ぶ80歳」「都政放り出し? 心外だな」「橋下氏 絶賛し合う仲」=表・石原知事の主な発言


毎日新聞
1面トップ「石原知事辞職 新党表明」「党首で衆院選出馬」「『維新と連帯、連携』」/「橋下代表『政策一致が条件』」
3面・クローズアップ「第三極主導へ駆け引き」「『西は橋下、東は石原』…難しく」「強い保守色足かせ」「維新、みんなと両にらみ」=石原新党をめぐる相関図、表・「石原新党」参加の意向を示している国会議員、年表・「石原新党」をめぐる経緯
5面(政策・総合面)「まず外務省やり玉」「官僚との対決 アピール 石原氏」
社会面トップ「未練消え 電撃決断」「尖閣国有化 決定打に」「伸晃氏敗北 追い打ち」/「官僚支配壊して」「80歳健康不安」(市民の声)/「『最後の機会』」「『右傾化加速』」「中韓も反応」/「京都知事『衝撃』」
社会面・識者談話「投げ出しは無責任」(新藤宗幸・千葉大名誉教授)/「維新との路線示せ」(評論家の大宅映子さん)


【読売新聞】
1面トップ「石原都知事 辞任」「新党結成、衆院出馬へ」「第3極結集 維新と連携視野」
2面(総合面)「中韓 石原新党を注視」「両国報道『領土巡り強硬姿勢』」/「経団連会長『日中関係悪化を懸念』」
3面・スキャナー「第3極結集に壁」「『原発』『憲法』維新と隔たり」=図・石原新党を含めた第3極の構図/「予想された辞任」「都政の課題『上の空』」
4面(政治)「民主 離党誘発を警戒」「執行部 引き締めに躍起」=表・主要政策に対するスタンスの違い(民自、維新、石原新党
社会面トップ「石原氏『最後のご奉公』」「80歳『大きな仕事する』」/「橋下氏『政策一致しないとダメ』」
社会面・識者談話「彼だけの論理ある」(30年近い親交、評論家の竹村健一さん)/「もう10年早ければ」(芥川賞作家の田中慎哉さん)
第2社会面「都政13年 光と影」「ディーゼル車規制○ 新銀行東京× 尖閣△ 五輪招致?」=年表・石原都政の足跡/「日本人は我欲になった」「東京が尖閣守る」(発言録)


日本経済新聞
1面「石原新党、来月上旬メド」「知事辞職表明 衆院選に出馬意向」
3面(総合面)「維新と連携模索」「衆院選へ第三極乱立」=図・強まる第三極の主導権争い、表・石原氏が言及した重点政策、年表・石原都政の主な出来事/「都知事選 12月中旬までに」
4面(政治面)「民主、解散戦略に波紋」「ブーム警戒 先送り論強まる」「離党けん制 過半数割れ懸念」=図・想定される衆院選シナリオ/「中国『不安要素増えた』韓国も右傾化懸念」/「石原氏 政界の歩み」/「新党への合流 伸晃氏が否定」
社会面「『官僚が改革妨害』」「石原知事、語気強め批判」/「橋下氏改めて国政転身否定」


産経新聞
1面トップ「石原知事が辞職」「新党結成、衆院選出馬へ」「『後継に猪瀬副知事』」/「決断『国家のために』」
2面(総合面)「『ポスト石原』猪瀬氏焦点」「知事選出馬、明言避ける」/「危機感が駆り立てた」(五嶋清・政治部長署名)
3面(総合面)「政界再編 最大の賭け」「第三極主導 維新と連携意欲」=図・石原新党と各党の関係/「民主、離党者続出の危機」「『不信任案可決』に現実味」/「石原氏と橋下氏『蜜月』も…」「憲法原発相違 維新内に警戒感」/「対中悪化『具合悪い』経団連会長」
7面(国際面)「石原新党、海外メディアが速報」「米『外交大混乱も』 中『構造変わらぬ』」
社会面トップ「石原流『最後のご奉公』」「国への憂い 独演20分」=年表・石原慎太郎氏の歩み/「橋下氏『政策一致譲れない』連携へ見極め」
第2社会面「『橋下市長とタッグを』」「大阪でも期待の声」
第2社会面・識者談話「いい決断ではない」(評論家の金美齢さん)/「潜在的な支持多い」(政治評論家の屋山太郎さん)


京都新聞
1面トップ「石原都知事が辞職」「新党結成 衆院選出馬へ」「第三極結集目指す」/「『投げ出し』批判免れず」(解説)
2面(政治面)「既成政党 警戒感強める」「民主 離党の動きけん制」「与党 世論動向見極め」「野党 再編へ影響必至」/「なぜ今なのか/『古い保守』時代錯誤」「京滋の国会議員
3面(総合面)表層深層「維新との連携 未知数」「『原発』大きな隔たり」「橋下氏『政策共有を』」「自民色に抵抗感も」=図・石原都知事をめぐる主な政界人脈/「たちあがれ解党 来月上旬に新党」「5人全員が参加」/「伸晃氏は合流否定」/「東京五輪招致 影響を否定」
3面・大型識者談話「好機とらえ最後の大勝負」(川上和久・明治学院大教授)/「『外交』トラブルメーカー」(佐々木信夫・中央大教授)
3面・識者談話「流動状態続く」(米シンクタンク知日派マイケル・グリーン氏)/「明確な路線を」(評論家の大宅映子さん)
6面(国際面)「中韓、右傾化を警戒」「『人気出ない』の声も」
社会面トップ「80歳『最後の奉公』」「質問にいら立ちも」/「京滋でも驚きの声」


神戸新聞
1面トップ「石原都知事 辞職表明」「新党結成 国政復帰へ」「『たちあがれ』母体 維新と連携意向」
2面(総合面)「与党 解散先送り論拡大」「民主内、離党者を警戒」=図・石原都知事をめぐる主な政界人脈/「日本の右傾化に警戒感」「中韓など相次ぎ速報」/「都知事選 12月16日投開票有力」/「後継指名の猪瀬氏 知事選立候補明言を避ける」
3面(総合面)「第三極結集は未知数」「原発政策で相違点」「維新、連携にはリスクも」/「『価値観一致が必要』維新橋下氏」/「11月上旬にも新党結成」
4面(総合面)「都政への意欲しぼむ」「五輪招致失敗、新銀行問題…」/「『石原節』、時に物議」「震災後には『天罰』発言」=年表・石原慎太郎氏の歩み
4面・大型識者談話「強い腕力、外交には課題」(佐々木信夫・中央大教授)/「好機とらえ大勝負に」(川上和久・明治学院大教授)
9面(経済面)「石原氏復帰『具合悪い』経団連会長 日商会頭は歓迎」
第2社会面「石原氏80歳の宣戦布告」「辞職会見 国、中央省庁をやり玉に」/「強引さの“行方”に戸惑い 県内有権者」/「影響力疑問の声 県関係議員」

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▽各紙の社説
【朝日】石原新党:国政復帰を言うのなら
【毎日】「石原新党」結成へ:「第三極」理念が問われる
【読売】石原都知事辞任:国政復帰に何が期待できるか
【日経】石原新党は何をめざすのか
【産経】石原新党:新憲法への流れ歓迎する 首相は年内解散を決断せよ
【京都】石原新党:期待の前に政策聞こう
【神戸】石原新党:第三極へ政策をどう示す