平和市長会議加盟「知らない」〜橋下徹氏の核発言と報道

 大阪市橋下徹市長は11月15日、記者団とのいわゆる囲み取材で、広島市長が会長を務め核廃絶に向けて活動している「世界平和市長会議」に大阪市が加盟していることを問われ「知らない」と答えました。

 日本維新の会代表の橋下徹大阪市長は15日、核兵器廃絶を目指す「平和市長会議」に大阪市が加盟していることを「知らない」と述べた。その上で、市長会議は核保有国への働き掛けなどの努力が不足しているとの認識を示した。
 市長会議について「行政としてやることは別にいいのではないか。名前を載せることを否定しているわけではない」と言及。一方で「核廃絶するのであれば、米中ロ各国から何らかの発言を引き出さないとだめだ」と指摘した。
中国新聞サイト「平和市長会議加盟『知らない』 橋下大阪市長
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201211160019.html

 昨年11月の市長選で当選して以来、民意の負託を強調し、市政上のあらゆる事項の決定権者が市長の自分であることを市役所組織の隅々にまで浸透させようとしている橋下氏にしては、この「知らない」発言は意外な感じがします。
 橋下氏は10日以降、断続的に核にかかわる発言をしていました。最初は10日、広島市での遊説を終えた後の囲み取材です。橋下氏は、基本は非核3原則を堅持としつつ、核持ち込みについては「アメリカの核に守られている以上、あり得るのではないか。現実にあるのであれば、国民に開示して議論をしなければならない」と述べ、容認する可能性に言及しました。さらに核廃絶について「現実は無理ですよ。今の国際政治で。日本はちょっと平和ぼけしている。核廃絶を日本がやると言ったって、誰ができるのか」と述べ、実現は困難との認識を示しました(共同通信の出稿記事や中国新聞の記事より)。
 この「核廃絶は無理」の発言に対し、広島県湯崎英彦知事が13日の記者会見で「国会議員も所属する公党の党首としては認識を改めてもらいたい」などと批判。広島市松井一実長崎市の田上富久両市長も14日、被爆の実相を理解した上で発言してほしいとの考えを明らかにしています。
 橋下氏は14日、広島県の湯崎知事の批判に反論。「核廃絶だけを叫んでいても何も動かない。広島県広島市は核保有国を相手にどうやって自分がプレーヤー(当事者)になるかを言わないと。訴えるだけの政治はだめだ」と述べました。
中国新聞
「橋下氏、非核三原則見直しも」
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201211110020.html
核廃絶『無理ではない』 広島知事が橋下発言批判」
http://www.hiroshimapeacemedia.jp/mediacenter/article.php?story=20121114102232505_ja
「橋下氏『被爆の実相』理解を」
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201211150141.html

 そうした発言の経緯があっての上での、平和市長会議加盟を「知らない」との発言でした。
 世界平和市長会議とは以下のようなものです。

 1982(昭和57)年6月24日、ニューヨークの国連本部で開催された第2回国連軍縮特別総会において、荒木武・広島市長(当時)が、世界の都市が国境を超えて連帯し、ともに核兵器廃絶への道を切り開こうと「核兵器廃絶に向けての都市連帯推進計画」を提唱し、広島・長崎両市長から世界各国の市長宛てにこの計画への賛同を求めました。
 平和市長会議は、この「核兵器廃絶に向けての都市連帯推進計画」に賛同する世界各国の都市で構成された団体で、1990(平成2)年3月に国連広報局NGOに、1991(平成3)年5月には国連経済社会理事会よりカテゴリーII(現在は「特殊協議資格」と改称)NGOとして登録されました。
※世界平和市長会議のサイトより引用
http://www.mayorsforpeace.org/jp/index.html

 ことし11月1日現在の加盟状況は、155カ国・地域の5443都市に広がっています。会長は広島市長。副会長は長崎市長とドイツ・ハノーバー、フランス・マラコフ、英国・マンチェスター、フィリピン・モンテンルパなどの自治体首長計13人。事務局は広島市に置かれています。2020年までの核兵器廃絶を目指す行動指針「2020ビジョン(核兵器廃絶のための緊急行動)」を策定し活動を展開しています。広島市長は毎年、8月6日の平和宣言の中でこの平和市長会議の活動も紹介しています。
 この世界平和市長会議に日本からは1241の自治体が加盟(ことし11月1日現在)し、その中には大阪市も含まれているのですが、橋下市長は前述のとおり、加盟を「知らない」と答えました。
 繰り返しになりますが、わたしはこの「知らない」発言は意外に感じました。なおかつ「行政としてやることは別にいいのではないか。名前を載せることを否定しているわけではない」との発言は、例えば市職員の服務や規律には極めて厳しく臨むなど、行政機構の裁量を極めて限定的にしようとする橋下氏の政治姿勢からは、これまた意外な感じがします。大阪市の加盟は2009年12月で、橋下氏の市長就任以前のことです。今後の選択肢として、大阪市長の政治判断としての平和市長会議からの脱退もありうるのではないでしょうか。当事者の一人であるはずの立場を離脱した上でなら、市長会議に対して努力不足との認識を示してみせることも、橋下氏の政治姿勢や核に対する政治的見解と一貫性を持つように思えます。
 ともあれ、マスメディアでこの平和市長会議加盟をめぐる「知らない」発言を報じたのは、共同通信の配信記事を掲載した地方紙などごく一部に限られました。政治家として核を語ることは、外交や安全保障を語ることでもあり、日本ではさらに憲法9条を始めとする憲法観を重ね合わせることで、有権者戦争と平和の問題に対するその政治家の考え方を類推し、判断することができます(昨年3月以降は、核は原子力発電の是非とも結びつく命題になりましたが、ここではひとまず置いておきます)。戦争はひとたび始まれば、個人の意思に関係なく個人の生命を奪っていきます。だからこそ、戦争と平和は政治家に問われる根本の命題であり、本来、政治にとって究極の命題は、いかに戦争に勝つかではなく、いかに戦争を防ぐかであるはずだとわたしは考えています。同様にマスメディアの報道も、いかに戦争を防ぐか、始まってしまった戦争があるならいかに早くそれを終わらせるかが究極の役割でありたいと考えています。戦争と平和にかかわる事柄なら、政治家の言動が報じられるのは多ければ多いほど社会にとって有益です。


 衆議院が16日解散され、衆院選12月4日公示、16日投開票の日程が決まりました。マスメディアの報道も当面は選挙が大きな比重を占めます。政権交代が実現した前回衆院選から3年4カ月。民主、自民の既成大政党に対抗する第三極の動きが連日、大きく報じられ、17日には橋下氏が率いる日本維新の会に、石原慎太郎・前東京都知事が共同代表を務める太陽の党が合流することが公表されました。日本維新の会の代表には石原氏が就き、橋下氏は代表代行とのこと。政策の違いを「小異」と言い切っての合流には既成政党の側から「野合」との批判が出ています。
 ここしばらくの選挙報道では、政治勢力間の合従連合の動きとともに、「大同」や「小異」の実相をも具体的に伝えていくことがマスメディアの課題だと感じています。とりわけ、沖縄への米軍のオスプレイ配備が強行され、それが沖縄に対する差別であることが本土でも少なからず意識されつつある中で、今回の衆院選憲法9条の意義と、それを今後も守り続けるのかどうかが論じられることの意味は小さくありません。