9条改正「反対」が過半数〜改憲ハードルが高いことの意味

 2012年最後の更新です。
 12月26日に自民党総裁安倍晋三氏が首相に選出され、第2次安倍内閣が発足しました。翌27日付の朝刊各紙は、1面トップの主見出しにこの政権がまずは経済対策に全力で取り組み姿勢を見せていることを据えました。社説でも、安倍政権に政治の安定と信頼回復を求める論調が目につきました。

▽27日付朝刊1面トップ主見出し ※全国紙は大阪本社発行最終版
【朝日】「安倍内閣発足/デフレ脱却最優先/5年ぶり首相復帰」
【毎日】「経済再生へ安定重視/第2次安倍内閣発足/3年ぶり自公政権
【読売】「第2次安倍内閣発足/『経済・復興・危機管理に全力』」
【日経】「『強い経済を回復』/金融・財政・政調一体で/安倍内閣が発足」
【産経】「危機突破 安倍内閣発足/『経済再生・復興に全力』/3年ぶり自公政権
京都新聞】「安倍内閣 発足/経済再生・復興に重点/首相 大型補正を指示」
神戸新聞】「第2次安倍内閣発足/デフレ脱却へ大型補正/人事は『人物、実力重視』」
▽27日付朝刊社説見出し
【朝日】「安倍内閣発足 再登板への期待と不安」
【毎日】「第2次安倍内閣 『自民の変化』示す政治を」
【読売】「第2次安倍内閣 危機突破へ政権の総力挙げよ/『強い経済』取り戻す知恵が要る」
【日経】「安倍自民の力結集し政治の安定を」
【産経】「第2次安倍内閣 『強い国』へ使命果たせ/スピードと成果こそが勝負だ」
【京都】「第2次安倍内閣 政治の安定と信頼回復急務」
【神戸】「安倍新政権 真に再生した姿を政策で示せ」

 翌28日付の朝刊では、朝日、毎日、読売、日経、共同通信世論調査結果が出そろい、内閣支持率、不支持率は以下の通りでした(支持率が高い順)。
【読売】支持65% 不支持27%
【日経】支持62% 不支持29%
【共同】支持62% 不支持21・8%
【朝日】支持59% 不支持24%
【毎日】支持52% 不支持26%
 直観的には低くはない支持率だと感じますが、各紙調査ごとの比較では、いずれも3年前の鳩山内閣発足時や、第1次安倍内閣の発足時よりも低い数値になっています。政権交代が実現した鳩山内閣はもちろん、小泉純一郎氏の後を継いだ前回の安倍政権の時ほどには、安倍氏再登板に対して民意に高揚感はみられないと言えそうです。
 ※毎日新聞の「支持52%」については、29日付の同紙朝刊に分析記事が掲載されています。毎日の調査には「関心がない」との選択肢があり今回は21%が回答。この数値は他社調査の「その他・無回答」よりも高く、その分、支持率が低く出たとみられるとのことです。


 この調査の中で朝日新聞毎日新聞は、自民党憲法9条の改変を掲げていることを受けて、その是非も尋ねています。それぞれ問いと答えは以下の通りです。

【朝日】自民党憲法9条を改正して、自衛隊国防軍にすることを主張しています。このことに賛成ですか、反対ですか。
 賛成32%
 反対53%
【毎日】自民党は「国防軍の保持」を明記するため、憲法9条を改正するよう主張しています。あなたは9条改正について賛成ですか、反対ですか。
 賛成36%(男性49% 女性28%)
 反対52%(男性47% 女性55%)

 朝日新聞改憲に関連してさらに、安倍首相が憲法96条の改憲発議の要件緩和に熱心な姿勢を見せていることに関連した質問を設けています。質問と答えは以下の通りです。

 憲法改正には、衆議院参議院でそれぞれ議員の3分の2以上が賛成して提案することが必要です。安倍首相は、憲法を変えやすくするために、この条件を緩めることを主張しています。憲法改正の条件を緩めることに賛成ですか。反対ですか。
 賛成41%
 反対43%

 以前にもこのブログで触れてきたように、今回の衆院選改憲問題に有権者の関心は一貫して低く、争点として議論が深まることもありませんでした。その中で安倍氏自民党が選挙中から経済対策を前面に掲げ、発足した政権の最重要課題に位置付けたことは、一見すると民意が求めるものをよく汲んでいると言えるかもしれません。第1次安倍内閣で、民意が求めているとは言い難かった教育基本法の改変を押し進めたものの、一向に内閣支持に結び付かなかった経緯から、安倍氏が教訓を得ているとも推察しています。
 選挙後の現在も、民意が改憲に、中でも9条の改変に積極的でないことは明らかです。しかし、自民党はもともと改憲を党是としており、このまま改憲を封印することはないでしょう。比例で第2党の得票と議席を得た日本維新の会は、自民党以上に現憲法には否定的で、石原慎太郎代表の持論の自主憲法制定を党としても掲げています。代表代行の橋下徹大阪市長も、大震災のがれき処理が進まないのは憲法9条があるから、という趣旨の発言を残すほど9条には否定的です。自民党日本維新の会が手を結んで改憲を志向する勢力の結集を図れば、民意が求めていないことが明らかであっても、選挙で信任を得たことを大義名分に掲げ、いわば「白紙委任」のように改憲手続きが進む恐れは常にあると私は考えています。96条の改変はその突破口になると改憲派は見据えているようです。
 朝日、毎日両紙の調査で、憲法9条改変と自衛隊の「国防軍」化への反対が賛成を相当に上回って過半数を占めているのに比べると、96条の改憲発議要件の緩和は賛否が拮抗しています。両院の議員の3分の2以上の賛成が必要との規定は、ハードルとして高すぎるものでしょうか。実際に改憲に進むかどうかとは別の問題として、この要件の見直し自体は容認してもいいのでしょうか。それは憲法を最高法規としてどのようにとらえるのか、その考え方によっても変わるのではないかと思います。
 96条についての論考を一つ引用、紹介します。わたしはこの指摘に同意です。

憲法の本質を変える96条改正

 「戦後レジームからの脱却」が持論で、憲法改正に執念を燃やす安倍晋三首相が再登板した。自民党衆院選の公約で、国防軍の設置や教科書検定近隣諸国条項の見直しを掲げるなどタカ派色を前面に打ち出している。圧勝を決めた衆院選翌日の17日、記者会見に臨んだ安倍氏は、憲法改正を進めるためにまず、改憲の発議要件を国会議員の3分の2以上と定めた憲法96条の改正に着手する方針を明らかにした。
 国内外の主なメディアは、右傾化の象徴として国防軍集団的自衛権の問題などはとりあげるが、96条改正が持つ問題の本質を十分に伝えきれていない。
 憲法とは何かを改めて確認しておきたい。それは権力を制限する規範であり、多数者によっても奪えない個人の自由や権利を守ることを柱とする法だ。改正要件が厳しいのは、憲法自身の性格による。
 つまり、改正の要件を緩めるということは、時の多数派にとって都合のいい改憲案が提案しやすくなるということを意味する。それは、権力を縛るという憲法の性質そのものを変えてしまう極めて危険な試みなのだ。最後に国民投票があるとはいえ、いったんハードルを下げてしまえば、「何でもあり」の世界が生まれかねない。
 自民党は1955年、自主憲法制定を党是に掲げて誕生した。以来57年。戦争放棄と戦力の不保持を定めた憲法9条は絶えず論争の的にさらされてきたが、結果的に日本人はそれを守り続けてきた。平和国家で生きていくという民意の支えがあったと同時に、96条という憲法が自ら課したハードルがあったことを私たちは忘れてはならない。
憲法メディアフォーラム「今週のひと言」2012年12月28日更新 http://www.kenpou-media.jp/ )

 改憲論を耳にするたびに思うことの一つに憲法99条のことがあります。公務員の憲法尊重擁護の義務を定めたもので、全文は以下の通りです。

第99条 天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 改憲論が報じられることはあっても、この99条のことはマスメディアもまったくと言っていいほど触れません。改憲を口にする閣僚や国会議員、公務員が現憲法を尊重し擁護する義務を果たしているのかどうか、もっと注視されてしかるべきだと思います。その義務を果たしていないのなら憲法違反です。そのチェックは、本来はマスメディアの役割の一つでもあると思います。
 現憲法は9条で戦争放棄と戦力不保持を規定し、そのことによってほかの国民の諸権利をも強固に保障していると私は理解しています。例えば、戦争をしないことによって、表現の自由も集会の自由も、結社の自由もより強固に保障されるとの理念です。逆に言えば、この憲法ができる前の戦争の時代、日本の社会では言論の規制がはびこっていました。思想信条の自由もなく、特定の政党が非合法とされ弾圧されました。横浜事件のように、レッテル張りによる凄まじい冤罪事件すら起きました。その歴史の上にあるのが今の日本国憲法です。そうした戦争の歴史と、現憲法の意義がわたしたちの社会できちんと継承されているのかどうか。わたしが身を置くマスメディアの報道も、そのことに大きな責任を負っていると考えています。
 多様な価値観、多様なものの見方・考え方がわたしたちの社会に担保されていなければならないのは当然ですが、その多様さの中に戦争容認までをも許容していいのかどうか。新年は、平和のために何が必要か、以前にもましてその考察に努めていきたいと思います。
 この1年、ご訪問ありがとうございました。新年も引き続き、よろしくお願いいたします。

※参考過去エントリー
「橋下氏の憲法観を報じる意味〜『集団的自衛権の行使容認』発言の報道」2012年9月15日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120915/1347674876

「なぜ橋下氏の憲法観を報じなければならないか」2012年3月3日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120303/1330782132