衆院選報道とこれから〜久しぶりの市民集会参加

 少し前のことになりますが、1月23日(水)夜に「京都ジャーナリスト九条の会」が京都市東山区の「いきいき市民活動センター」で開いた学習集会「講演と討論の夕べ」に参加させていただきました。テーマは「検証:選挙報道とその影響、選挙後の国政と暮らし、どうなる、どうする」。わたしがお話をさせていただいた後に、京都府立大名誉教授の広原盛明さんからコメント、その後に会場の参加者と質疑応答、討論という構成でした。新聞労連の専従役員のころは声を掛けていただいた市民集会には、都合がつく限り参加していました。今は管理職に立場も変わって、本当に久しぶりの参加でしたが、やはり直接、顔を合わせて市民の方と言葉を交わす、良いも悪いもマスメディアの現状に意見をいただく機会は貴重でした。
 わたしからは大きく3つの話をさせていただきました。(1)昨年12月の選挙を新聞各紙はどう報じたか(2)選挙結果について考えていること(3)これからどうするべきか、です。それぞれ、今までにこのブログで書いてきたことを中心にお話ししました。参考資料として、わたし自身も多々参考になることが多かった「憲法メディアフォーラム」の座談会のコピーを配布していただきました。なお、会場では所属と役職名も明らかにしていましたが、お話しした内容はすべて個人の責任に基づくもの、個人としての言論活動です。
 ※参考過去記事「【お知らせ】『憲法メディアフォーラム』に衆院選結果と今後を展望する座談会アップ」2013年1月2日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20130102/1357060320
 (1)昨年12月選挙の新聞各紙の報道について
 多党化の中で「どこが勝つか」を探ることに最大の労力を払い、情勢報道では世論調査や投開票日当日の出口調査などを含めて、調査と報道が細密化したことに特色がありました。マスメディアとしての組織力を発揮して、選挙期間中を通じてほぼ正確な情勢を報じたという評価ができると思います。「この問題はどういう形で決着するのか」という「落としどころ」を追い求めていくのはマスメディアの本能的な習い性のようなもので、そのこと自体は必ずしも悪いことでもないと思います。
 しかし一方では、早くから「民主」と「自民・公明」の既成政党と、日本維新の会みんなの党日本未来の党の「第3極」の争いとの構図が報じられたことにより、既成政党の中でも共産党社民党の主張が報道の中では埋没しがちでした。公示前に連日、日本維新の会と太陽の党の合流、嘉田由紀子滋賀県知事と小沢一郎氏の連携による日本未来の党の結成など、第3極の中での合従連合の動きが大きく報じられたことに比べると、報道の上では、共産党社民党の主張は各党の政策の一覧表記にとどまり、例えば新聞では、第1面で詳しく報じられることはありませんでした。結果的に、共産党社民党の護憲主張、改憲批判が見えづらくなりました。
 一方で、このブログでも取り上げてきましたが、沖縄の基地問題憲法改変をめぐっては、本土紙の報道は総花的で散発的に終わった印象があります。特に沖縄の基地問題は、わたしが目にした範囲では、これが全国的な争点にならないことに沖縄では怒りと落胆がある、という沖縄からの記事がいくつか載った程度でした。争点として掘り起こし、論議を深めようとする発想がマスメディアとして十分だったか、本土マスメディアに身を置く一人として、正直じくじたる思いがあります。
 世論調査については、有権者投票行動に大きく影響を与えるからやめた方がよい、という指摘をしばしば目にします。今回の選挙で言えば、公示直後に各メディアがそろって「自民単独過半数の勢い」と報じたことで、投票先を決めていなかった有権者が「勝ち馬に乗る」心理もあって大挙して自民党に票を投じた、との指摘もあります。この点については、わたし自身は正直なところ分からないことも多く、世論調査に詳しい研究者の解説などを待ちたいと考えています。ただ、自民党の圧勝も得票と獲得議席を見れば分かるように、小選挙区制の仕組みによる要因も大きいと感じています。
 (2)選挙結果について
 このブログでも再三書いてきたように、憲法、中でも9条改憲が「白紙委任」の扱いを受けたかのように進む恐れはないのか、危惧しています。衆院選公示前からのマスメディアの継続調査では、有権者の関心は景気や雇用、社会保障が高く、憲法は一貫して下位でした。
 共同通信が計5回実施した「トレンド調査」(各回とも1200人余が回答)によると、「何を最も重視して投票しますか」との問いには「年金や医療など社会保障」が26.0%〜30.3%、「景気や雇用」が28.4%〜32.8%で、この2つが常に1位と2位でした。対して「憲法改正」は1.6%〜3.0%。集団的自衛権の行使にかかわる「外交や安全保障」も5.5%〜6.9%でした。また、第2次安倍晋三内閣発足後の世論調査では、朝日新聞毎日新聞が9条改変の是非を問う質問を設けました。ともに過半数の人が反対と回答しています。
 ※参考過去記事「9条改正『反対』が過半数改憲ハードルが高いことの意味」2012年12月31日
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20121231/1356882070
 「高い」と評価していい支持率で発足した安倍内閣ですが、それでも世論は9条改変を望んでも期待してもいないと言っていいでしょう。ことし夏の参院選の結果にもよるのかもしれませんが、憲法に限って世論調査で質問すればこのような数字が出てくる状況で、憲法が必ずしも争点として深化しなかった選挙での勝利をもって、公約に掲げていたことを理由に改憲手続きが進み始めるのだとしたら、それは政権が有権者から「白紙委任」を受けたと開き直るのも同然でしょう。そうなると、いったい選挙によって、社会の中でだれが何を代表するのか、わたしたちの社会の民主主義の根幹が問われることになると感じます。
 選挙結果について、日本のマスメディアとの関連で感じていることの一つは「右傾化」報道の少なさです。衆院選の結果と第2次安倍内閣発足について、直接領土問題をかかえる中国や韓国のみならず、欧米のメディアからも「右傾化」の指摘がありますが、そのことがどこまで日本の社会で知られているか、報じられているかという点です。わたしたちの社会に対する海外からの指摘が当たっているか外れているかはともかく、わたしたちの社会が海外からどのように見られているのか、そのこと自体はもっと広く知られていいと思います。
 (3)これから
 とにもかくにも、憲法を知ることが重要だと考えています。「改憲」は昨日、きょう登場してきた政治テーマではありません。現憲法が誕生したその時には既に改憲論は存在していたのだと思います。それから長らく保守政権の時代が続きましたが、憲法は変わりなく今日まで来ています。その間の歴史的経緯も含めて、憲法のことが知られることが必要だと思います。改憲論議が高まるのなら、なおさらです。


 会場には40人ぐらいの方が参加されていました。いただいたご意見やご質問の中には、マスメディアの世論調査への批判や疑念が少なからずありました。「世論の誘導」への批判だと思います。わたし自身は、世論調査はそれでも有用だと考えています。政党支持や投票行動も含めて、社会の中で自分の考え方がどのような位置にあるのかを知る手がかりの一つです。会場では「世論調査は本当に社会の実相を表しているのか。信用できるのか」との質問をいただきました。世論調査は複数のマスメディアがそれぞれに行い、調査方法も一定程度開示しています。それらを総合的に見ていくことで、社会の実相は相当程度、正確につかめるのではないかと思うとの趣旨のことを、お答えとして話しました。
 大阪市橋下徹市長をめぐる報道にも、批判のご意見をいただきました。ほっとけばいいのに、毎日マスメディアが露出させて発言が垂れ流しにされている、日本維新の会のイメージ作りにマスメディアが加担している、との趣旨の批判です。民意の高い支持を背景にしている橋下氏と日本維新の会について、マスメディアが取り上げる機会が増えるのは当然と言えば当然です。発言が面白いから、というだけではなく、政治家としての発想やものの考え方を有権者に伝えるという側面もあります。ただ、垂れ流しであってはならないと思います。どこであれ、大阪のマスメディアは心がけていることだと思いますが、橋下氏の発言を伝えて終わりではなく、その発言や施策への異論や反論もまた可能な限り伝えていくことが必要です。
 こうしたことは、マスメディアの報道全般にも言えることです。選挙報道では、選挙戦の構図を規定し、どこが勝つかを探り続けるのはマスメディアの習い性です。そのことを追求してきた結果として、世論調査が細密化し、出口調査に基づいての開票開始前の「当確(当選確実)打ち」にまで行き着きました。そのこと自体がただちに問題があるわけではないだろうと思います。合わせて選挙の焦点を多面的にとらえ、争点が掘り起こされたり、論議が深まるのに資するような報道が必要だろうと。わたしなりの小さなまとめですが、会場ではそんなこともお話しさせていただきました。


 世論調査に対しては、朝日新聞社ジャーナリスト学校が編集・発行している「Journalism」1月号が特集「試練を受ける世論調査」を掲載しています。マスメディア関係者向けの雑誌ですが、多々参考になります。会場でも引用、紹介しました。
 http://www.asahi.com/shimbun/jschool/report/1301.html