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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「Journalism」2月号特集「沖縄報道を問い直す」

 朝日新聞社ジャーナリスト学校が編集・発行している「Journalism(ジャーナリズム)」の2月号が特集「沖縄報道を問い直す」を掲載しています。
 http://www.asahi.com/shimbun/jschool/report/1302.html
 特集の目次を以下に引用します。

◎[鼎談]本土紙と地元紙の溝を埋める 「沖縄報道」に欠けている視点
松元 剛(琉球新報政治部長
比屋根 照夫(琉球大学名誉教授)
外岡 秀俊(ジャーナリスト)
普天間問題の打開策を探る メディアの役割とメディアへの期待
長元 朝浩(沖縄タイムス論説委員長)
◎沖縄報道を考える 問われるのは国民国家としての日本
大野 博人(朝日新聞論説主幹)
◎地元メディアと本土メディア 沖縄報道を考えるための基礎知識
〈語り手〉音 好宏(上智大学文学部新聞学科教授)
◎復帰40年の幻想と現実を映す 沖縄イメージと地元雑誌の変遷
新城 和博(沖縄県産本編集者)
◎アメリカの大手メディアでは 「沖縄」はどう伝えられているのか
瀧口 範子(フリーランス編集者、ジャーナリスト)


 沖縄に在日米軍の専用施設の7割以上が集中していること、米軍普天間飛行場の返還が1996年に合意されながらいまだに実現しない一方で、日米両政府が合意した普天間飛行場の移設先として同じ沖縄県内の名護市辺野古地区が挙げられていること、県外移設を求める沖縄県や自治体の要請に日本政府や他自治体は正面から向き合おうとしないこと、欠陥機の指摘がある米軍の輸送機オスプレイ配備に県や全市町村を挙げて反対しているにもかかわらず、配備が強行されていること―等々。沖縄の現状を一つひとつ考えていくと、沖縄の基地問題は今や、日本国による沖縄に対する差別としか言いようがない状況だとわたしは受け止めています。少なくとも「差別だ」との指摘に説得力のある反論はできないはずです。地域の民意が総意として明白に示されているのに、民意を無視するかのように国策が押し付けられている地域は、日本国内には沖縄以外にはありません。
 しかし本土のマスメディアはそうした観点に必ずしも敏感ではないように思えます。差別的な国策押し付けへの怒りが沖縄で高まっており、しかも怒りの質が従来とは異なってきているというのに、本土メディアの報道はなかなか変わらないように見えます。関連の報道に「差別」という言葉を用いる本土メディアも出てきてはいますが、全体に共通の流れではありません。沖縄のメディアと本土メディアの意識には「温度差」では済まない「溝」「段差」があります。それをどうやって埋めていけばいいのか。
 もともと基地問題は特定の地域に固有のものではありません。国策をどこが引き受けるか(国策自体の是非はさておくとして)の問題です。その国策がもたらすものを享受しているどの地域も当事者です。そうとらえるなら、沖縄への差別の主体は日本政府だけではありません。結果を享受しながら沖縄に代わって国策を引き受けようとしない者もまた差別に加担している、という論理も成り立ちます。そしてマスメディアがそのことに気付かない、あるいは分かっていても気付かないふりをしているのだとしたら、差別に与するどころか、差別を増長することにもなりかねないことを危惧しています。自分が差別に与していることを指摘され、認めるのはつらいことですが、そのことなしには沖縄と本土の「溝」は埋めようがありません。今回のJournalism誌の特集は、特に本土メディアの内側にいる人にこそ読む価値が大きいと思います。



 少し日がたってしまいましたが、沖縄のメディアと本土のメディアの「溝」「段差」を感じた最近の出来事を書き留めておきます。
 1月27日の日曜日に、沖縄県内41の全市町村の首長、議長や県議らを含む約130人の要請団が東京を訪れ、日比谷音楽堂でオスプレイ配備撤回と普天間飛行場の県外移設を求める集会を開催しました。集会には約4千人が参加し、その後、銀座をデモ行進しました。沖縄からの参加者は28日には首相官邸を訪ね、安倍晋三首相に「建白書」を提出しました。
 このニュースを沖縄タイムス琉球新報の2紙は、前触れも含めて連日大きく取り上げました。写真は、自宅で購読している琉球新報の紙面の一部です。オスプレイ配備強行をめぐる別刷りの特集もありました。
 一方、わたしの住む大阪で目にする新聞紙面の扱いは後掲の通りでした(全国紙は大阪本社発行最終版)。関連記事が見当たらなかった新聞がありました(わたしの見落とし、チェック漏れの可能性も排除はできませんが)。また、ほかのニュースでもそうですが、全国紙の場合は同じ題号の紙面でも東京と大阪で見出しの大きさなど記事の扱いが異なることがままあります。今回も、集会とデモを東京の出来事と受け止めたならば、おのずと大阪では記事の扱いは東京とは異なることになっただろうと思います。
 沖縄メディアと本土メディアの「溝」「段差」に加えて、本土メディア内にも受け止め方に差が生じているとみるべきかもしれません。

▼沖縄要請団の東京行動の在阪、関西各紙の報道
朝日新聞
▽28日付朝刊1面「沖縄首長 上京デモ」「銀座でオスプレイ反対」=囲み全2段、写真2段(デモ風景)/社会面「『本土へ沖縄の決意を』」「反オスプレイ集会 上京者 最大規模」=見出し4段
▽28日夕刊第2社会面「オスプレイ撤回求める」「沖縄の首長ら、首相と面会」=見出し2段(写真なし)
▽29日付朝刊・社説「沖縄@東京 基地問う声が重く響く」
毎日新聞
▽28日付朝刊第2社会面「オスプレイ配備撤回へ沖縄の首長らも集会参加」=囲み全2段(写真なし)
▽28日夕刊7面(総合面)「オスプレイ配備撤回求め建白書」「沖縄の首長ら」=見出し1段(写真なし)
日経新聞
▽28日付朝刊社会面「沖縄の怒り 東京で」「オスプレイ配備反対集会」「全市町村の首長ら参加」=囲み全4段(写真なし)
産経新聞
▽29日付朝刊5面(総合面)「オスプレイ配備撤回求め建白書」「沖縄首長ら30人」=見出し1段(写真なし)
京都新聞
▽28日付朝刊第2社会面「東京で配備撤回を訴え」「オスプレイ 沖縄全市町村が集会」=見出し3段、写真2段(集会風景)、共同通信配信の本記
▽28日夕刊7面(総合面)「オスプレイ撤回首相に『建白書』」「沖縄の全市町村」=見出し1段(写真なし)
神戸新聞
▽28日付朝刊第2社会面「『沖縄は日本なのか』」「東京 地元首長ら4000人参加」=見出し3段(写真なし)時事通信配信の本記/第3社会面「沖縄全市町村から参加」「オスプレイ反対銀座デモ『歴史的な一歩』」=見出し3段、写真2段(デモ風景)共同通信配信の雑観
▽28日夕刊第2社会面「オスプレイ配備撤回を」「沖縄全市町村要請 政府に『建白書』」見出し3段、写真2段(記者の質問に答える翁長雄志・那覇市長)共同通信配信