伝わったのは人権感覚や人間観〜毎日新聞大阪編集局長の橋下氏への反論

 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長従軍慰安婦・風俗業発言問題は動きが続いています。
 橋下氏は5月27日に東京の日本外国特派員協会で記者会見し、持論をあらためて述べるとともに、自らの発言の影響で、参院選で日本維新が敗北すれば、共同代表を辞任することもありうるとの考えを示しました。翌28日には、6月中旬に計画していた訪米を断念。米国では発言への反発が続き、面会調整も難航が伝えられていました。「議会の意見などを総合的に判断し、中止と決定した」と表明しました。
 大阪市議会では、自民、民主、共産の市政野党に、ふだんは維新と共同歩調を取る公明も加わり、29日から橋下市長に対する問責決議案提出の動きが進みましたが、30日午前になって日本維新の会幹事長の松井一郎大阪府知事が「問責は不信任と同じ」として、問責決議案が可決された場合は橋下氏が市長を辞職して、参院選と同日に出直し市長選を行うことになるだろうと発言。市長選を避けたい公明の離脱で、問責決議案は否決されました。
 この間の大阪発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、産経、日経)と京都新聞神戸新聞の報じぶりを、備忘を兼ねてまとめておきます(後掲、全国紙は大阪本社発行の最終版)。
 目を引いたのは、従軍慰安婦についての発言をめぐり橋下氏がメディアの誤報と主張していることに対し、朝日新聞が5月29日付朝刊で、毎日新聞も同30日付朝刊で反論を掲載したことです。
 朝日は大阪本社の井手雅春社会部長名で、5月13〜14日の報道の経緯を振り返った上で以下のように記しています。反論と言うよりは、説明かもしれません。記事の一部を引用します。

 橋下氏は「14日の見出し」を「誤報」とした。14日付朝刊(大阪本社最終版)の記事の見出しは「『慰安婦は必要』波紋 橋下氏発言」となっている。前日夕刊の報道を踏まえ、橋下氏の発言に市民団体やNGO関係者の反発が広がっていることや識者の見解などで構成されている。同時に、13日午前の橋下氏の発言の全体の文脈がわかるよう、約630字にわたって発言要旨を掲載した。
 橋下氏が「誤報」とした記事の見出しは、13日の発言が影響を広げている状況を客観的に表現したものだ。「誤報」の指摘はあたらない。

 毎日新聞の反論は大阪本社の若菜英晴・編集局長名で、全文が毎日新聞のサイトにアップされています。
 ※慰安婦発言「誤報」の主張:橋下氏に反論する=大阪本社編集局長 若菜英晴(2013年5月30日)
 http://mainichi.jp/select/news/20130530mog00m040001000c.html
 若菜編集局長は13日以降の経緯を振り返り、毎日新聞が14日付朝刊に掲載した13日のやり取りを橋下氏がツイッターで「かなりフェアに発言要旨を出している。毎日の一問一答がある意味全て」と評価しながら、17日になって「誤報」を言い出したことを指摘して以下のように書いています。少し長くなりますが、共感するところが多いので引用します。

 橋下氏は「メディアは一文だけ聞いてそこだけ取る」「文脈をきちっと取って報道すべきだ」と言う。では、14日の一問一答全体や文脈から何が伝わったのか。沖縄の地方紙、琉球新報の18日社説はこう書いている。
 「『海兵隊の猛者の性的エネルギーをコントロール』するはけ口として、生身の女性をあてがおうとする発想そのものがおぞましいのだ」「(戦時中)『慰安婦制度が必要なのは誰だって分かる』と述べたが、『分かる』はずがない」「沖縄の代弁者であるかのように装うのはやめてもらいたい」。同感である。
 橋下氏は後に「風俗業発言」は撤回したが、文脈から伝わったのは、従軍慰安婦問題の見解や歴史認識以前の、橋下氏の人権感覚、人間観ではないだろうか。国内外に批判が広がったのもこの点にある。「報道で正反対の人物像・政治家像が流布してしまった」と橋下氏は言う。しかし、流布した原因は橋下氏の発言、言葉そのものにある。報道批判は責任転嫁だ。ましてや、「日本人の読解力不足」との指摘はあたらないし、「他国も同じようなことをした」との主張は論点のすりかえと映る。
 「バカ」「頭が悪い」……。橋下氏はツイッター毎日新聞や批判的なメディアに対してこのような言葉を繰り返しぶつける。これにはいちいち反論もしないが、政治家であるならば、冷静で吟味された言葉で語るべきだ。荒っぽい言葉を「本音」ともてはやすことは、人を傷つけるだけでなく、国益も損なうことを今回の問題は示している。.

 若菜編集局長が引用している琉球新報の18日社説は、このブログでも紹介しました。半月たった今、読み返しても、論点が整理された分かりやすい橋下氏発言批判だと感じます。
 ※【憲法メモ】5月13日〜21日:琉球新報:社説「橋下氏釈明 認識の根本が誤っている」ほか=2013年5月22日
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20130522/1369153201
 ただ、メディア側がどんなに反論しようが、橋下氏は慰安婦に関する発言はメディアの大誤報との主張を続けるでしょう。以前にも書きましたが、13日の発言は動画もネット上に残っています。今後は、橋下氏の一連の発言をトータルで社会の人たちがどう受け取り、どう解釈するか、どう評価するかの問題なのだと思います。

▽5月28日付朝刊=橋下氏が特派員協会で記者会見
【朝日】
1面「橋下氏 重ねて持論主張」「海外メディアに 慰安婦発言 撤回せず」
2面「橋下氏、慎重に釈明」「言葉選び2時間半」「外国特派員協会会見」/「各国メディア、冷静に分析」「謝罪 窮地だから・論点ずらし」/「与野党からも距離置く発言」/とはもの「河野談話」「在沖米軍と犯罪」/表・発言の変遷/橋下氏会見の要旨
社会面トップ「『橋下節』封印 真意は」「会見 やりとり無難」/「『細部は歴史学者に』貫く」現代史家 秦郁彦氏/「口先だけの反省 不誠実」中央大教授 吉見義明氏/「欧米は到底納得しない」元外交官 孫崎享氏/「日韓の対立と混迷深めた」世宗大教授 朴裕河
【毎日】
1面トップ「橋下氏強弁 2時間半」「『慰安婦 容認と誤報された』」「特派員協会で釈明」
3面クローズアップ「論点すり替え 矛盾露呈」「外相『悪印象が心配』」「友党・公明も批判 大阪府議会」/都構想を目指す市政運営も難航/表・発言の変遷、表・従軍慰安婦をめぐる経緯
5面「『慰安婦報道 真意と逆』」「『米英も女性利用 歴史的事実』」「橋下氏会見 一問一答」
社会面トップ「『責任逃れだ』『回答が不明瞭』」「特派員が批判」「『丁寧な答え』評価も」/「『米より沖縄に謝罪を』」/「『ずうずうしい』韓国与党が非難」/「『極めて不適切』大阪弁護士会
社説「橋下氏の説明 本質そらす責任転嫁だ」
【読売】
1面「参院選敗北なら辞任も」「慰安婦発言 橋下・維新代表が示唆」
4面(政治面)「『河野談話』逃げている」「橋下共同代表が強調」「慰安婦『日韓共同で事実確認を』」/橋下共同代表の記者会見要旨
社会面トップ「釈明2時間半 評価二分」「かみあわない議論」「丁寧対応は好印象」/「一連の発言 注目集める思惑も」/「『ざんげ』効果は疑問」現代史家の秦郁彦氏の話/「発言 守りの姿勢」ベストセラー「人は見た目が9割」の著者で、劇作家の竹内一郎宝塚大学教授の話/表・橋下氏のこれまでの発言
【産経】
1面「参院選敗北なら代表辞任も」「河野談話『肝腎な論点曖昧』」
5面(政治面)「橋下氏発言 女性8割が嫌悪感」
7面(国際面)「韓国『協議に日本応じない』」「橋下氏の『慰安婦』国際司法提訴案」
第2社会面「『反省 評価する』」「『信用性あるか』」「橋下氏会見 特派員賛否割れる」
第3社会面・橋下氏会見要旨
社説(「主張」)「慰安婦問題 不当な日本非難に反論を」
【日経】
4面「維新、収まらぬ混乱」「共同代表 選挙次第で辞任示唆」「慰安婦発言、橋下氏撤回せず」
社会面「海外記者『パフォーマンスだ』」「『謝罪は評価』の声も」
【京都】
1面「参院選次第 代表辞任も」「慰安婦発言 影響認める」「橋下氏会見」
3面・表層深層「『真意』説明 冷たい視線」「進退も言及、窮地に」「維新地方議員 落胆『士気下がる』」/「釈明『ずうずうしい』」「韓国与党が非難の論評」/「日韓高官会談『難しい』韓国外相」/表・発言問題の経過
5面・橋下氏の会見要旨
【神戸】
1面「橋下氏 代表辞任に言及」「慰安婦発言響き 参院選 維新敗北なら」
7面「日韓高官会談『難しい』」「韓国外相 橋下氏発言を批判」/「中韓非難、米は肯定的」「橋下氏会見で各国メディア」/橋下氏記者会見要旨
社会面トップ「『批判回避』思惑狂う」「外国人記者『焦点ぼかした』」「進退言及で より窮地に」

 外国特派員協会での記者会見に対しては、各紙とも特派員の受け止め方を紹介しています。興味深かったのは、いいにつけ悪いにつけ、橋下氏がもともと弁護士であることを踏まえた評価が少なからずあったことです。「彼はいい弁護士かもしれないが、今日の話では国際的には誰も納得しない。政治家としては失格だ」(ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネの東アジア特派員カーステン・ゲアミス記者=朝日記事)、「論点をすり替えようとしている印象を受けた。まさに弁護士だなと思った」(韓国の日本情報サイト「JPニュース」リ・ジホ記者=毎日記事)、「もともと弁護士の橋下氏は、普通の政治家に比べて記者会見がすごく上手」(デンマーク紙のトーマス・ホイ・デイビッドソン記者=産経記事)などです。

▽5月29日付朝刊=橋下氏が訪米断念
【朝日】
1面「橋下市長、訪米を断念」「発言への批判受け」
4面「橋下氏、反転苦しく」「訪米断念 面会次々拒まれ」/「女性議員、橋下氏発言に抗議」「特派員向け会見」
第2社会面「『誤報』の主張『認識の違い』」「慰安婦発言めぐり橋下氏」/「『誤報』の指摘あたらない」大阪本社社会部長 井手雅春
【毎日】
1面「橋下市長 訪米断念」「慰安婦発言 批判かわせず」
5面「『外交力』発信 思惑外れ」「維新 泥沼化回避へ歓迎も」/在日米軍司令部 謝罪を受け入れ」/「『歴史に反省を』中国外務省」
社会面「『自らまいた種 なぜ』」「『公費でキャンセル料』明言」
【読売】
1面「橋下氏、訪米断念」「慰安婦発言」
【産経】
第2社会面「橋下氏『総合判断で決定』」「来月の米視察中止を表明」/「内外から批判“外堀”埋められ」
【日経】
4面「橋下氏、訪米を中止」「慰安婦問題 混乱回避を優先」
社会面「『判断遅い』『自費弁済を』」「市議から批判の声」
【京都】
1面「橋下氏、訪米を断念」「慰安婦発言 反発止まず」
第2社会面「橋下氏、事態収拾に失敗」「『面会が難しい状況なので』」
【神戸】
1面「橋下氏が訪米断念」「慰安婦発言反発受け」
社説「橋下氏の釈明 責任転嫁では解決しない」

▽5月30日付朝刊
【毎日】
社会面:慰安婦発言「誤報」の主張:橋下氏に反論する=大阪本社編集局長 若菜英晴

▽5月31日付朝刊=市議会で問責決議案否決
【朝日】
1面「橋下市長の問責否決」「大阪市議会 公明、反対に転じる」
社会面トップ「問責 党略の攻防」「局面打開を探る 維新」「市長選避けたい 公明」/「市政停滞 揺らぐ足元」/「6月中旬に訪米 松井知事が表明」
【毎日】
1面トップ「橋下市長の問責否決」「出直し選回避 公明が反対」「大阪市議会」
5面「公明 参院選への影響懸念」「同日選 維新票伸び恐れ」
6面「橋下氏発言を非難 撤回・謝罪求める」「ノーベル平和賞受賞の女性5人」
社会面トップ「市議会 乱れた歩調」「橋下市長『瀬戸際戦術』奏功」/「市政停滞 続く不信」/「党利党略だ・出直し選挙を・責任追及は不要 市民ら」/「米国へ予定通り 松井知事視察へ」
【読売】
1面トップ「橋下市長問責を否決」「公明が反対 出直し選は回避」「慰安婦発言 橋下氏、市民に陳謝」
社会面トップ「参院選控え 苦肉の策」「市議会 揺さぶられ」/「発言 国内外で波紋」
第2社会面「二足のわらじ 裏目」「橋下市長 求心力低下 市政停滞」/橋下市長に対する問責決議案全文
【産経】
1面トップ「出直し市長選 回避」「橋下氏の問責否決」「公明が一転 独自案」/「窮地脱出も改革の前途多難」
3面「橋下・松井氏 けんか上手」「『出直し選』カード効果」/「公明譲歩 同日選は想定外」/「松井知事 予定通り訪米」「『誤解を解きたい』」
社会面トップ「『脅し』に議会ドタバタ」「他会派、足並み乱れ軋轢」/「橋下氏『出直し選 公には言ってない』」/「発言せず逃げ道作る」「慰安婦で問責 筋違い」「識者こう見る」
【日経】
4面「橋下市長の問責否決」「出直し選 可能性否定 橋下氏」
社会面トップ「問責騒動 市民置き去り」「『出直し選』発言 野党を揺さぶる」/「橋下氏『重く受け止める』」「慰安婦発言は撤回せず」/「『問責』と『不信任』法的拘束力に違い」/「松井府知事は来月に訪米へ」
【京都】
1面トップ「橋下氏の問責案否決」「公明、一転して反対」「出直し市長選回避」
3面「維新『奇策』中央に波紋」「連携視野 自民は不信感」「問責決議案に反対 公明は同日選憂慮」/「続く苦境、切り札に温存」
社会面トップ「市民不在のドタバタ劇」「調整遅れ議会空転」「傍聴席『ばかにするな』」/「橋下氏、強気の姿勢」「『問責は対話を打ち切る最後通告』」
【神戸】
1面トップ「出直し大阪市長選回避」「橋下氏の問責否決」「公明が一転反対」「慰安婦発言 陳謝も撤回せず」
2面「維新『奇策』に与野党反発」「連携視野の自民も不信感」
社会面トップ「橋下流大阪市会屈す」「切り札示され腰砕け」「市民ら『ばかにするな』」/「この話はもう終わり 橋下氏」