【憲法メモ】6月27日〜7月3日:琉球新報社説「高江通行妨害訴訟 表現の自由が二の次とは」など

 憲法に関連した論考やニュースで目に留まったものをまとめた【憲法メモ】です。

琉球新報社説「高江通行妨害訴訟 表現の自由が二の次とは」2013年6月27日
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-208634-storytopic-11.html

 東村高江の米軍ヘリ着陸帯建設工事への反対活動をしていた住民に対し、国が通行妨害禁止を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部(今泉秀和裁判長)が妨害禁止を命じた一審の那覇地裁判決を支持し、住民の控訴を棄却した。住民の活動を「違法な所有権侵害に当たる」と判断した。
 基本的人権を十分尊重すべき司法が、北部訓練場の一部返還に伴う着陸帯新設への住民の非暴力的な意思表示を封じた。公平・公正な判断とは思えず、極めて遺憾だ。
 控訴審は、住民の抗議が「表現の自由」か、違法な「通行妨害」かが最大の争点だった。高裁那覇支部は、現場作業員の間で短時間手を上げたり、座り込んだりした住民の反対活動を「表現行為としての側面を有する」としながらも、結論ではその不利益が国が「受認すべき限度を超える」と判断。こうした表現が複数見られる。
 しかし、判決文からは反対活動の「表現行為」の危険性について個別・具体的に検討した形跡が見当たらない。単に国の主張に最大限寄り添っただけでないのか。
 住民側は、今訴訟を表現の自由に根差した活動の萎縮を狙い権力側が提訴する「スラップ訴訟」だと主張。判決は、判例など根拠も示さず「萎縮目的ではない」と判断した。いかにも説得力が乏しい。

 前回の【憲法メモ】でも触れた判決に対する琉球新報の社説です。問題点を的確に指摘しています。加えて、以下の指摘も軽視できません。ことは沖縄という特定の地域にとどまる問題ではないことがよく分かります。本土のマスメディアもこの高裁那覇支部判決を深刻に受けとめるべきだと思います。

 もう一つ解せないのは、判決で公衆を公道から排除する理由として国の土地の所有権侵害が指摘されたことだ。公共の場で、表現の自由より所有権を優先することは、基本的人権の尊重を重視する憲法への挑戦にほかならない。
 これを自民党憲法改正草案の先取りと見る向きもある。基本的人権を制約する原理を「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」へ変更を目指している点だ。今回の判決が、三権分立や立憲政治の後退につながってはならない。


共同通信「吉永元検事総長が死去 特捜の顔、ロッキード事件指揮」(47news、2013年6月28日)
 http://www.47news.jp/CN/201306/CN2013062801001715.html
 「ミスター検察」「捜査の神様」「特捜の鬼」などなど、マスメディアがいくつもの称号を紹介している通り、吉永氏は1970年代以降の検察を代表した1人でした。なかでも特捜検察が「巨悪を眠らせない」とのコピーとともに、正義を実現させる存在として社会にそのイメージを浸透させていった際の象徴のような検事だったと思います。と同時に、3年前に発覚した大阪地検特捜部の証拠改ざん隠蔽事件に象徴される検察の腐敗、堕落の源流に「吉永特捜部」は位置していたのだと思います。このブログでも関連記事を書きました。
 ※関連過去記事「再び、検察の堕落とマスメディアの当事者性〜吉永元検事総長の訃報に考えたこと」(2013年6月29日)
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20130629/1372488871


北海道新聞社説「2013参院選 憲法論議の行方(上) 冷静な見極めこそ大切だ」(2013年6月30日)
 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/476658.html

*ネットに集まる民意
 議論の背景に社会の変化がある。
 バブル崩壊後の「失われた20年」。アジア発の金融危機、痛みを伴う構造改革格差社会の拡大に日本社会は揺れた。将来にツケを回す財政赤字の累積と年金財政の逼迫(ひっぱく)で、若い世代は将来に希望を持てない。
 社会にひずみが広がる中で、「憲法は本当に自分たちの権利を保障しているのか」と疑問を持つ人が増えた。憲法は古い時代の遺物のようなイメージで見られるようになった。
 ネット社会では、現実社会への不満が瞬時にして仮想世界の世論を形成する。改憲を訴える書き込みには即座に賛同が集まるが、護憲論は現実社会の既得権益のように敵視され、攻撃の対象となりがちだ。
 そこに集まった「民意」を一部の政治勢力が巧みにすくい取り、政治意思を形成しようとしていることに気が付いているだろうか。
 北朝鮮の核・ミサイル開発や尖閣諸島周辺の中国船にどう対処するのか。政治の側からのそんなメッセージを受け、改憲を求める世論がさらに拡大する構図がある。
 だが、社会の閉塞(へいそく)感は憲法によってもたらされたものではない。政治課題にしっかり取り組まず、目先の選挙や国会の駆け引きに明け暮れた政治に大きな責任がある。
 憲法を変えて今ある内外の課題が一気に解決するわけでもない。ことさら改憲論を振りかざす政治家の言動には、政治の至らなさを憲法問題にすり替えて注意をそらす意図が隠されていると考えざるを得ない。

 北海道新聞社説「2013参院選 憲法論議の行方(下) 駆け引きでなく見識示せ」(2013年7月1日)
 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/476821.html

*問題多い自民の草案
 改憲に向けて最も立場を明確にしているのは自民党だ。憲法改正草案は具体的な条文を示して、国民に賛否を問うている。だが、この草案はあまりに問題が多い。
 憲法改正の発議要件を定めた96条は両院議員の3分の2以上から過半数に緩めることとした。世界的に見ても改正しにくいという理由だ。
 過半数で変えられるのであれば通常の法律と同じである。憲法の最高法規性を否定するものだ。憲法が時の政権の都合で簡単に変更されれば、国が漂流しかねない。
 改憲論者として知られる小林節慶大教授ですら「憲法は紙切れに書かれた文字で国家権力を縛らなければならないから、そう簡単に権力者がふりほどけないよう、『硬さ』を与えるのが世界の相場だ」と語る。
 自民党と連立を組む公明党は、96条の要件緩和に反対している。首相はこれに配慮して、9条など一部を残して要件緩和する「妥協案」を口にするようになった。
 あまりに場当たり的ではないか。しかも一部緩和は改正手続きを複雑化させ、憲法の条文に軽重の差をつけることになる。過半数で改正できる条文は、果たして憲法として尊重されるだろうか。
 公明はまた、環境権やプライバシー権などの新しい人権を加える「加憲」を主張する。だが現憲法ですでに保障されているとの説が有力だ。

 北海道新聞参院選公示を前に2日間にわたって掲載した社説です。
 各政党も、マスメディアの報道もかつてなかったほど「憲法」に触れることが多い選挙戦になりそうです。ただ、憲法が「最大争点」になるのかどうかは分かりません。事前のマスメディアの世論調査では自民党の優勢が伝えられていますが、仮に自民党が選挙で勝利したとしても、それでただちに改憲有権者の支持が得られたと受け止めていいのかどうかは別の問題だと思います。


毎日新聞「自民:改憲草案見直しへ 発議要件・表現の自由焦点」(2013年7月2日)
 http://mainichi.jp/select/news/20130702k0000m010140000c.html

 自民党は2012年4月に発表した憲法改正草案を見直す方向で検討に入った。複数の同党幹部が明らかにした。96条に定められた憲法改正の発議要件を衆参各院の3分の2以上の賛成から過半数に緩和するための改正などに党内外から批判が出ているためで、参院選後に本格的な作業に着手する見通し。発議要件の緩和方法や、21条に定められた表現の自由の制限を盛り込んだ是非などが焦点になりそうだ。
 同党の船田元(はじめ)憲法改正推進本部長代行は毎日新聞の取材に、「昨年の衆院選でたくさん当選した新人の意見も取り入れられていない。改憲草案は金科玉条ではなく、議論して変える部分があってもいい」と語った。憲法改正を推進してきた幹部が見直しに言及しているのは、党内の不満が96条の改正にとどまらず、草案全般へ波及しているからだ。
 6月13日の衆院憲法審査会では、同党の河野太郎氏が「憲法の名を借りて国民の権利を制限したり、義務を課したりするのは今の日本にはふさわしくない」と公然と批判した。

 改憲のハードルを下げることを目的に96条の改変を先行させようとする自民党の方針や、その後に憲法をどのように改変しようとするかが描かれた同党の憲法改正草案に対しては、このブログでも再三紹介してきた通り、批判が高まっています。ようやく自民党内にもそうした批判を無視できないと考える所属国会議員が出てきたということでしょうか。毎日新聞の記事が指摘している通り、昨年の衆院選で所属国会議員が増えたという構造的な要因もあるようです。言い方を変えれば、昨年の衆院選まで、自民党国会議員の中では右傾化志向が幅を利かせていたということだと思います。2009年の自民党中心から民主党中心への政権交代を生んだ同年8月の衆院選後、自民党内では保守・穏健層の議員が激減していました。当時、わたしは東京で取材出稿部門に身を置いていましたが、自民党が惨敗した中で、それでも当選した顔ぶれに右傾化志向の議員が目立つことから、自民党は極右政党化していくのではないか、と漠然と感じていました。
 仮に今後、党内の声に押される形で、96条改変先行の方針や憲法改正草案の見直しが始まるのだとすれば、自民党のある種の健全さを示すことになるのだと思いますが、楽観はしないことにします。


高知新聞「68年前の戦禍伝える 高知市役所で5日まで『高知空襲展』」(2013年7月2日)
 http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=304431&nwIW=1&nwVt=knd

 1945年7月4日の「高知大空襲」の惨状を伝える高知空襲展が1日、高知市役所の玄関前で始まった。5日まで。
 高知市への空襲は45年1月19日から7月24日まで計8回あり、そのうち最大だった7月4日のものが高知大空襲と呼ばれる。同日の空襲では、米軍の爆撃機125機が焼夷(しょうい)弾を大量に投下し、同市内の1万1千戸以上が全焼、400人以上が犠牲になったとされる。
【写真】高知市中心部が焦土となった様子を伝える写真などが展示されている高知空襲展(高知市役所)

 68年前の1945年は、3月10日の東京大空襲を皮切りに8月の敗戦までの間、日本各地の主だった都市が米軍の空襲を受け、戦闘員ではない住民が犠牲になりました。わたしの住む大阪では、昭和天皇ポツダム宣言受け入れをラジオ放送で表明した8月15日の前日に空襲がありました。あと1日を生き延びることができなかった人たちがいました。
 全国各地にそれぞれの戦争の記録と記憶があります。戦争放棄と戦力不保持を定めた現憲法のいわば原点です。その憲法の改変が現実味を帯びてきた今日、そうした戦争の歴史に学び、戦争体験を社会で継承していくことには大きな意義があります。マスメディアが果たすことができる役割もあると思います。
※参考過去記事
「『あと1日』を許さなかった8月14日の大阪大空襲(再び)」2012年8月15日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120815/1344985658


朝日新聞改憲、自民にも温度差 (朝日・東大谷口研調査)」(2013年7月3日)
 http://www.asahi.com/politics/update/0702/TKY201307020425.html

 【山下剛憲法改正の時期や改憲の発議要件を緩める96条改正をめぐり、自民など改憲を掲げる政党の中でも温度差があることが、4日公示の参院選の立候補予定者に対する朝日新聞社東京大学谷口将紀研究室の共同調査でわかった。連立与党の公明や党内に改憲派を抱える民主でも、慎重姿勢が際だつ。
(中略)
 だが自民の立候補予定者では、次の参院任期中(6年間)に改憲を実現すべきかとの問いに「積極的に改正すべきだ」と答えた人は51%。一方、「機運が高まれば同意する」との回答も46%に上り、世論の行方を見定めたいという心理が根強いことも示された。

 手元の大阪本社発行の3日付朝刊紙面(13版)では1面の準トップに掲載されています。
 参院選は7月4日に公示です。マスメディアが憲法参院選をどう報じるのかもそれ自体、憲法をめぐる考察テーマの一つだと考えています。