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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

お知らせ「秘密保護法の制定に反対する言論・表現関係者の声明」

 特定秘密保護法の制定に反対して、ジャーナリストやメディア研究者らが呼び掛け人になって「秘密保護法の制定に反対する言論・表現関係者の声明」への賛同を募っています。呼び掛け人の中には、わたしが直接面識をいただいている方も少なくなく、ここで紹介させていただくこととしました。
 賛同する場合は、賛同署名集約先 mail@mediasoken.org か、FAX:03-3226-0684 まで、「氏名」「公表するときの肩書」を連絡すればよいそうです。第1次集約の締切は、11月15日(金)とのこと。
 わたしに連絡をいただいた元記者の大先輩はメールで「みなさまの仲間の言論・表現者、プロであるとアマチュアであると、企業に所属しているか、フリーであるかを問いませんし、新聞、放送、出版、広告、機関紙といったメディアの違いや、ペン、カメラ、映画、演劇、音楽、文学、美術など、ジャンルを問いませんので、みなさんに拡散していただき、賛同の声を広げていただきたいと思います」と呼び掛けています。


【連絡先】メディア総合研究所
〒160-0007  東京都新宿区荒木町1-22-203
FAX:03-3226-0684
Mail:mail@mediasoken.org
事務局長 岩崎貞明氏

秘密保護法の制定に反対する言論・表現関係者の声明


 安倍政権は、かねて準備してきた「特定秘密の保護に関する法律案」を10月15日開会の臨時国会に上程し、制定しようとしている。今回の法案は、秘密保護の名のもとに、民主社会に欠かせない市民の知る権利を踏みにじるだけでなく、ジャーナリズムやメディアも含む言論・表現活動を支える取材・報道・表現の自由を著しく侵害する立法であり、言論・表現活動に携わり、関わる者としてその制定に強く反対する。
今回の法案は、民主党政権下の秘密保全の法制化の試みも踏まえつつ、安倍自公政権のもとで、国家安全保障会議(日本版NSC)設置法とセットで成立を図ろうとする提案だ。その基本的な枠組みは、(1)「防衛」「外交」「特定有害活動の防止」「テロリズムの防止」という4分野の情報について、担当の大臣等の「行政機関の長」が「特定秘密」を指定し、(2)公務員等がそうした秘密を漏えいしたり、何人であれ、秘密保有者の管理を害するやり方で秘密を取得したりした場合には最高10年の懲役刑を科すとともに、それらに対する共謀・教唆・扇動にも重罰を科す一方で、(3)秘密を取り扱うことができる者を「適性評価」により選別された公務員等に限ることとする、というものである。
 広範な国の情報を「お上」(官僚)の一存で秘密に指定し、その漏えいや取得をはじめさまざまな行為を犯罪として厳罰に処し、適性評価制度で秘密の管理も厳格にするというまさに「まず秘密ありき」の露骨な法案なので、市民の知る権利や情報公開の理念に真っ向から反し、情報公開を広げる世界の潮流にも逆行する企てに他ならない。
言論、表現活動に携わり、関わる私たちにとって、取材・報道の自由や創作の自由も含む表現の自由は譲り渡すことのできない貴重な権利であり、市民の知る権利を充足する重要な手段でもある。法案は重要な国家秘密を取り扱う情報源たる公務員等の漏えいに重罰を科し、適性評価制度による選別で内部告発の回路を狭めることによって情報源の萎縮を促進し、取材者が入手できるはずの有用な情報を細らせ、枯渇させることになる。情報源の萎縮効果だけでなく、情報源に働きかける活動も共謀・教唆・扇動の罪として、あるいは秘密保有者の管理を害する方法での取得罪として、取材者たるジャーナリストや表現者、市民が直接捜査や処罰の対象となる。取材源との回路が閉ざされ、取材が制限されるところで、真実の追求や調査報道、権力監視をはじめ、自由闊達な報道・表現活動や豊かな創作活動を生み出すことはできず、その結果、情報を伝えるべき市民の知る権利を満たす役割も果せない。
 法案には、「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分配慮しなければなら」ず、「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によると認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」旨の規定(21条1項、2項)も入れられた。しかしながら、知る権利や取材・報道の自由は「配慮」を明記することで実現するわけではもとよりなく、また取材を正当業務行為と記した後者の規定も、取材を処罰対象としないと定めているわけでもない。加えて、「保護」されるのは、「不当な方法」ではない取材行為に限られ、正当、不当の線引きも当局の恣意的な判断に委ねられる。さらに、「保護」を受ける取材行為者の範囲は狭い出版、報道の職業人のみが対象とされ、調査、取材活動等に携わる市民などは想定されていない。何よりも本質的には、こうした措置によっても、「お上」の一存で広範な秘密が決められ、情報源を厳しく規制することで知る権利が損なわれ、取材の自由が形骸化される法案の危険性を根本的に取り去ることは不可能である。
 秘密保護法案と情報公開法改正とセットでという考え方も示されているが、「まず秘密ありき」の本法案と、情報公開を広げる改正案とは相対立するものであって、両立しがたいのは明らかである。いま必要なことはまず、現行の情報公開法を改正して知る権利の拡充を図ることであり、秘密保護の強化ではない。
 私たちは、言論・表現活動に携わり、関わる立場から、本法案の制定に重ねて強く反対する。

2013年10月22日


[呼びかけ人]
 青木理(ジャーナリスト)、*岩崎貞明(メディア総合研究所事務局長)、岡本厚(岩波書店社長、前『世界』編集長)、小黒純(同志社大学大学院教授)、桂敬一(ジャーナリズム研究者)、北村肇(『週刊金曜日』発行人)、斎藤貴男(ジャーナリスト)、佐高信(評論家)、篠田博之(『創』編集長)、柴田鉄治(JCJ代表委員)、白石草(OurPlanet-TV)、*田島泰彦(上智大学教授)、堤未果(ジャーナリスト)、中村悟郎(フォトジャーナリスト)、野中章弘(ジャーナリスト/大学教員)、橋場義之(元上智大学教授)、*服部孝章(立教大学教授)、原寿雄(ジャーナリスト)、藤森研(専修大学教員)、丸山重威(ジャーナリスト・元共同通信社)、元木昌彦(元『週刊現代』編集長)、森達也(作家・映画監督・明治大学特任教授)、*吉原功(明治学院大学名誉教授)
(*印は世話人)