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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「反対」を口にする人々を報じる新聞、報じない新聞〜秘密保護法、22日付の各紙

 特定秘密保護法案をめぐる22日付の新聞各紙朝刊を見ながら、各紙ごとの姿勢の違いがはっきり表れた紙面として、後世に残してもいいかもしれない、と思いました。前回のこのブログ記事で書きましたが、21日は全国各地でこの問題だらけの法案に反対する集会やデモが行われました。特に東京・日比谷野外音楽堂での集会は主催者発表で1万人が参加する大規模なものでした。大阪で見た朝刊各紙では、朝日新聞毎日新聞日経新聞京都新聞はこの東京の集会のことを報じていますが、読売新聞、産経新聞には記事が見当たりません(全国紙5紙は大阪本社発行の最終版。なお、いつもウオッチの対象にしている神戸新聞は、22日は都合により目にできませんでした)。朝日、毎日、日経、京都の4紙は既に社説で法案への反対を明言しています。一方、読売は法の整備自体は必要としながら法案の問題点を一部指摘しつつ、賛否は明確にしていません。産経はこの日、ほぼ1カ月ぶりの社説(紙面では「主張」)を掲載し「最後まで丁寧に議論せよ」と見出しに掲げましたが、基本的には成立を求める立場を明らかにしています。この6紙に限ってのことかもしれませんが、「反対」を口にする人たちのことを、伝えるべきニュースと判断したかどうかは、法案へのスタンスの違い、法案に反対を表明しているかどうかと一致しています。
 21日の集会は、全国各地で相当の数の人たちが、「表現の自由」が侵されることへの危機感から、憲法で保障された権利として自らの表現の自由(集会・結社の自由)を行使し、法案への反対を表明した、という出来事です。朝日新聞は社会面に大きく「黙ってられない」の見出しを取り、ページの半分以上を使って各地の集会やデモを紹介。写真は広島、東京、福井、富山、大阪の5枚を並べました。毎日新聞は1面に東京の集会の写真を大きく掲載しています。日経新聞は第2社会面に見出し1段の扱いですが、この日あらためて社説で「賛成できない」と表明しています。そして、4紙の中でもっとも目を引かれたのは京都新聞でした。社会面の半分近くを使って、地元京都での市民集会など法案に反対する人たちの動きを紹介。その下に、21日の東京の集会の様子も大きな写真とともに伝えています。紹介されている地元での集会には、このブログでも紹介した「京都ジャーナリスト9条の会」が12月5日に計画している市民集会も含まれています。
【写真説明】京都新聞(左)と朝日新聞(右)の22日付朝刊社会面

 おそらく全国各地で地方紙が、それぞれ地元での反対運動の様子を大きく報道しているのではないかと思います。国会では自公の巨大与党がみんなの党日本維新の会を取り込む形で〝超巨大〟与党を形成しつつありますが、だからこそ、そうした動きに不安を持ち、警戒を高める人たちもまた急速に増えてきているのだと思います。多くの人が「黙ってられない」と声を上げている、その状況をマスメディアは伝え続けるべきです。それが「表現の自由」を守ることにもつながると思います。


▼11月22日付朝刊の主な記事と見出し ※全国紙は大阪本社発行の最終版
【朝日】
1面肩「第三者機関 確約せず」「秘密保護法案 4党案、付則に」(修正案の全容判明)表・維新・みんなと与党の妥協案、なお問題多く
1面「保護より公開 取決め」作家・落合恵子さん:ワッペン「異議あり 特定秘密保護法案」
2面「4党案 中身は後退」「丸のみ 幹部も反発 維新」「協議引き伸ばしの構え 民主」
2面「修正、政府に好都合」「首相が第三者の矛盾」「チェック機能、担保せず」
2面「国会にチェック機関」「石破氏提案 付帯決議で調整」
2面「根底に国民軽視の思想」担当記者はこう見た
4面・主なやりとり/特定秘密保護法修正案(要旨)
社会面トップ「黙ってられない」「『主権奪われる』全国で抗議」「署名集め『無関心はだめ』」※集会やデモの写真5枚、東京、福井、富山、大阪、広島
社会面「『外交交渉の都合の悪い部分隠す』」「西山太吉さん 参院委で批判」/「海外からも反対声明」
社会面・表「市民は法案をどう受け止めているのか。21日にあった集会やその周辺で聞いた」


【毎日】
1面肩「国会提供義務づけ」「森担当相表明 自公、法案再修正へ」
1面・写真3段「私たちは知りたい」東京・日比谷野音での21日の反対集会
5面「維新内 広がる亀裂」「妥協した総務会長に怒声」表・与党とみんな・維新との主な修正点
5面「『秘密保護法案 議論足りぬ』」「毎日フォーラムで古賀誠氏」
第2社会面「秘密保護NOの輪」「各地で反対集会」写真(大阪「STOP!『秘密保護法』11・21大集会」


【読売】
2面「秘密保護法案 民主反対へ」「『第三者機関』折り合わず」
4面「重要法案にしわ寄せ」「『秘密保護』協議ずれ込み 終盤国会」表・主な積み残し法案などの見通し


【産経】
5面(政治面)「限界近い 我慢の国会 首相」「秘密保護法案 攻防続く」「『丁寧』心掛けるも、野党『中央公聴会求め戦う』」
5面「大阪系は不満…亀裂 維新」「橋下氏『少しでも修正を。不本意でもね』」


【日経】
4面(政治面)「『自公維み』路線探る」「秘密保護法案 修正テコに 与党」表・安倍政権の重要課題に対する主張
4面「国会に監視機関検討」「自民 民主に付帯決議提案」表・民主党の対案
第2社会面「秘密保護法案に1万人反対集会」「東京、市民ら『白紙に』」写真


【京都】
3面「秘密法案『世界潮流に逆行』」「『ツワネ原則』識者注目」「範囲制限や監視機関 提唱」「首相は『参考意見』」表・ツワネ原則と秘密保護法案
3面「与党と民主 協議平行線」「隔たり大きく」表・特定秘密保護法に関する与党と民主党の論点/「外部有識者起用を否定 監視機関で補佐官」
3面「市民活動を委縮させる」グリーン・アクション代表アイリーン・美緒子・スミスさん:ワッペン「こう見る 特定秘密保護法案」
5面「監視委の国会設置検討」「与党 付帯決議で調整」
5面「西山氏『秘密限定を』」
5面「維新くすぶる不満」「中堅、若手中心 世論の反発警戒」
5面・論戦のポイント
社会面トップ「情報統制 京でも危機感」「集会など相次ぎ開催」「報道への圧力解説/西山太吉元記者ら対談」表・集会4件の告知・案内
社会面「日比谷音楽堂で1万人反対集会」写真3段/「大阪でも反対集会」


▼社説
朝日「秘密保護法案 『翼賛野党』の情けなさ」
毎日「秘密保護法案を問う 維新も修正合意 まるで擦り寄り競争だ」
産経「秘密保護法案 最後まで丁寧に議論せよ」
日経「秘密保護法のこの修正は評価に値しない」


※追記 2013年11月23日8時30分
 東京の1万人反対集会の模様を、神戸新聞は22日付朝刊の第2社会面に見出し3段で掲載していました。知人に教示をいただきました。写真も3段。大きな扱いです。