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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「不断の努力」で守る自由と権利〜備忘・秘密保護法成立の各紙社説

 特定秘密保護法が6日に参院で採決が強行され可決、成立したことに対して、大阪で手にした各紙の扱いは前回の記事で紹介した通りです。ほかにネットのブロック紙、地方紙のサイトで社説を調べてみました。これまでと同じく網羅的な調査ではありませんが、12月7〜9日にかけて関連の社説を掲載しているのが確認できたのは31紙。臨時国会の閉会に合わせて、会期中の審議状況を振り返りながら特定秘密保護法審議を論評した社説も含みます。31紙のうち同法の可決成立を支持、ないし理解を示しているのは北國新聞(本社金沢市)だけで、ほかの30紙は激しい表現で安倍晋三首相と政権、与党を批判する内容でした(一部は見出しから判断)。北國新聞も手放しで評価しているわけではありません。既に紹介しているとおり、全国紙5紙では朝日、毎日、日経が批判の社説を掲載。読売、産経は課題や注文を挙げながらも支持、理解です。合わせると、支持・理解は3紙に対して、批判は33紙です。網羅的な調査ではありませんが、新聞各紙の評価として、一定の目安にはなると思います。
 備忘を兼ねて、各紙の社説を後段に紹介しておきます。ブロック紙、地方紙の社説のうち、内容を閲覧できたものは書き出しを中心に一部を引用しています。8日の日曜日は新聞休刊日で、数紙を除いて9日付朝刊は発行されていません。また、5日に秘密保護法が参院特別委で強行採決されたことに対しても、6日付朝刊で多くの社説が批判しています。見出しだけですが、6日付朝刊の社説も調べた範囲で書き留めておきます。
 各紙の社説からは、秘密保護法の採決強行と成立の問題点が多角的に浮かび上がります。その中で、高知新聞琉球新報憲法12条を引用していることが強く印象に残りました。

憲法12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

 高知新聞社説はこの12条の「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」を引用した上で「特定秘密保護法の成立は新たな段階の始まりだ。民主主義を堅持するため、多くの国民が意思を表明し続ける必要がある」と結んでいます。沖縄タイムスは「人権や民主主義について語った二つの言葉が、これまで以上に、重く響く。特定秘密保護法が成立した今、市民は何をなすべきか。その答えがこの二つの文章の中にある」として、やはり12条の同じ部分を引用しています。もう一つはロバート・H・ジャクソン米連邦最高裁判事が1950年に残した「政府が誤りを犯さないようにすることは、市民の役目である」との言葉です。高知は自由民権運動の発祥の地、沖縄は現に今、基地によって住民の人権が侵害され続けている地です。
 特定秘密保護法の成立は新たな段階の始まりです。これで終わりではありません。どうやって情報の不当な隠蔽を許さず、表現の自由と知る権利を守っていくか。憲法が求めている「国民の不断の努力」が今まさに必要なのだと思います。今問われている、そしてこれからますます問われるのはまさに憲法なのだということに、今更ながらに気付かされました。マスメディアは何をなすべきか、何ができるか。自由と権利は、それとして不断に適切に行使しなければ維持できません。今はまだ手の中にある表現の自由を最大限に行使して、知る権利に奉仕することに尽きると思います。憲法が「不断の努力」を直接的に求めているのは国民に対してですが、それ以上にマスメディアにこそ必要だと、頭に刻みつけておきます。


 郵送で購読している琉球新報の7日付の紙面が自宅に届きました。社会面は見開きで「戦前回帰へ危機感」「『国民監視』現実に」の大きな見出しを立てています。左側のページ、第1社会面には「『沖縄が標的に』」「反戦平和の声封じ」の見出し。このページの最初の記事、わたしたちが「社会面リード」と呼ぶ記事を引用、紹介します。

 国会とその周辺で廃案を求める怒号が響く中、特定秘密保護法参院本会議で6日深夜、可決された。多くの県民は住民を守らない軍の本質を沖縄戦で目の当たりにし、戦後は生命、安全を脅かす米軍基地に悩まされてきた。基地の運用に異議申し立てをしてきた住民は危機感をあらわにする。「国に反対する勢力の口封じだ」「住民によるチェックができず、基地問題の解決は遠のく」。衆参両方の特別委で強行採決され、担当相の問責決議が提出された特定秘密保護法が来春から施行される。

 右側のページ、第2社会面には「民主主義の根幹掘り崩す禍根に 琉球新報社」の見出しで、同社のコメントが掲載されています。これも引用、紹介します。

 特定秘密保護法が6日成立したことを受け、琉球新報社はコメントを発表した。
 ◇  ◇
 「特定秘密保護法」の成立は国民の知る権利を侵害し、民主主義の根幹を掘り崩す重大な禍根となりかねない。住民の安全に関わる在沖米軍基地取材や市民活動の監視にも矛先が向く懸念があるが、地域に根差す報道機関として「権力の乱用」をはねのけ、生活者に寄り添う報道姿勢を貫いていく。


 沖縄の状況を知り、少しだけ想像力を働かせれば、沖縄で秘密保護法が守るのは住民ではなく米軍や自衛隊であり、「日米同盟」が象徴する国家利益であることが理解できます。個々の住民より国家が優位にある、という国家意志が露骨に示されています。今後も沖縄のマスメディアに多くのことを学んでいきたいと思います。


◇12月7日、8日付の各紙社説
※個々の新聞社サイトへのリンクは張っていません。NPJの資料ページにリンク集があります。いずれはリンク切れになると思いますが、便利です。
 http://www.news-pj.net/siryou/shasetsu/2013.html#anchor-himitsuhozen

【支持・理解】
▼読売新聞
7日「秘密保護法成立 国家安保戦略の深化につなげよ」「統一的なルール明確に/知る権利とのバランス/『原則公開』も問われる」
8日「臨時国会閉幕 与野党は不毛な対立解消せよ」
産経新聞
7日「秘密保護法成立 適正運用で国の安全保て 知る権利との両立忘れるな」「国民のためにある秘密/NSCが機能する前提」
北國新聞
7日「秘密保護法が成立 懸念払拭に努めてほしい」

 野党を押し切るかたちで、特定秘密保護法が成立した。東アジア情勢が緊迫化するなか 、発足したばかりの国家安全保障会議(日本版NSC)の運営に不可欠な法案であり、与党が成立を急いだ理由は理解できる。ただ、国会での論議が深まり、成立の機が熟したとは言い難く、全般的に生煮えの印象は否めない。
(中略)
 情報が漏れやすい日本は、米国などから重要情報の提供を拒まれるケースがある。特定 秘密保護法は不完全な面はあるにせよ、安全保障上、極めて重要な法律である。軍事力に頼れない日本は、ウサギのように「長い耳」を持つ必要があり、新法を活用して、国益と国民の安全を守りたい。


【批判】
朝日新聞
7日「秘密保護法成立 憲法を骨抜きにする愚挙」「外される歯止め/権力集中の危うさ/国会と国民の決意を」
8日「秘密保護国会―異様な光景の果てに」
毎日新聞
7日「特定秘密保護法成立 民主主義を後退させぬ」「息苦しい監視社会に/民意を問うべきだ」
8日「劣化した国会 禍根残した数への過信」
日経新聞
7日「『知る権利』揺るがす秘密保護法成立を憂う」
北海道新聞
7日「秘密保護法成立 憲法を踏みにじる暴挙だ」

 日本の戦後の歩みに逆行する転換点になってしまうのではないか。
 政府が指定した機密の漏えいや取得に厳罰を科す特定秘密保護法参院本会議で成立した。政府・与党が強引な国会運営で押し切った。
 この法律は国民主権基本的人権尊重、平和主義という憲法の三大原則をことごとく踏みにじる。憲法に基づき、平和で民主的な社会をつくろうと丹念に積み上げてきた国民の努力を台無しにする。
 そんな悪法を、数に任せて力ずくで成立させた政府・与党の暴挙に、強い憤りを覚える。
 だが、「戦後レジームからの脱却」を主張する安倍晋三首相にとって、これは最初の一歩にすぎない。
 国民が黙っていれば、首相は今後も巨大与党を背景に、最終目標である改憲国防軍創設に向け突き進むだろう。
 秘密保護法廃止の声を上げ続けなければならない。同時に、同法の乱用を防ぐできるだけの手だてを講じ、厳しく監視することが必要だ。
 新法の欠陥は枚挙にいとまがないが、最大の問題は国民よりも国家を上位に置く点である。

8日「強行突破国会 民主主義担う責任感を」

 臨時国会特定秘密保護法の成立を受けて事実上閉幕した。
 10月に開幕した時に、安倍晋三首相は「成長戦略実行国会」と位置づけた。実際は「特定秘密保護法案強行国会」になってしまった。
 欠陥だらけの法案をごり押しする政府のお先棒を担ぐように、与党は強行採決を繰り返した。野党や多くの国民の「急ぎすぎだ」という声を圧殺した国会運営は、議会制民主主義に汚点を残した。
 国会議員は主権者である国民の代表としての自覚を取り戻さなければならない。政府を監視する責務を放棄したのでは、国権の最高機関としての地位を自ら損ねることになる。そう肝に銘じてもらいたい。
 特定秘密保護法案をめぐる審議の進め方は異常というほかなかった。
 与党はみんなの党日本維新の会と修正合意した後に暴走を始めた。衆院特別委員会で強行採決し、野党の抗議を無視し本会議で可決した。その勢いで参院も強行突破した。
 審議の中では法案の欠陥が次々と明らかになった。国民にも「知る権利」を脅かされる懸念が広がった。
 にもかかわらず、与党議員には首相に「待った」を言う勇気がなかった。「選挙や人事での仕返しが怖い」。それが本音だったのだろう。どこを向いて仕事をしているのか。
 公明党自民党の「ブレーキ役」にならず、逆に暴走に加担した。連立与党として存在意義が問われる。
 見逃せないのは衆院伊吹文明参院山崎正昭両議長の責任だ。

河北新報
8日「臨時国会閉会/1強体制の危うさ見えた」

 「1強国会」の現実を見せつけて、会期を2日延長した臨時国会が、きょう閉会する。
 自民党が政権を奪還し、衆参の多数が異なる「ねじれ国会」が解消してから初めての与野党による本格論戦。「決める政治」への期待に影が差し、巨大与党による「独断政治」への不安が高まった印象が否めない。
 その象徴を、6日成立した「特定秘密保護法」をめぐる攻防に見ることができる。
 保護法は秘密の範囲が曖昧で、チェックする第三者機関の内容や情報公開のルールも明確ではなく、国民の「知る権利」侵害など多くの疑念が最後まで消えることはなかった。
 日本維新の会みんなの党を誘い込み、独断批判の回避を狙ったが、付け焼き刃的な修正のあらが露呈。強引な運営に両党も離反し結局、自民、公明両党が強行採決を連発、数の力で押し切り、憲政に禍根を残した。
 衆院国家安全保障特別委員会では安倍晋三首相が退席した直後に採決を強行した。イメージの悪化を避けるためだという。姑息(こそく)のそしりを免れまい。
 衆院で修正案の質疑は2時間。世論に耳を傾けつつ審議を尽くすのが「決める政治」の前提のはずで、疑問点の多い重要法を成立ありきで通すのは乱暴に過ぎたと言わざるを得ない。
 「再考の府」を期待された参院でも議論はかみ合わず、理解が深まることはなかった。

東奥日報
8日「民主主義を危うくする/秘密保護法成立」

 安全保障に関わる機密漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法が成立した。政府による情報統制強化に道を開く内容だ。民主主義の基盤である国民の「知る権利」が侵害される恐れがある。
 国民の懸念や不安の声が高まる中、衆院に続き参院でも自民、公明両与党により強行可決された。審議は尽くされておらず、数の力に任せた強引な国会運営は容認し難い。
 防衛や外交に一定期間の秘匿が必要な情報があるのは確かだ。だが同法には秘密に対する外部チェックや秘密指定の解除など信頼に値する仕組みがない。政府による秘密指定が際限なく広がる恐れがあり、将来的な秘密の中身の検証も完全には保証されていない。
 国の情報は国民共有の財産という原則をないがしろにするものだ。事実上は官僚主導の情報管理に対し国会による監視も司法による抑制にも制限があり、行政の優位が際立つ。三権分立もゆがみかねない。国民主権や民主主義を危うくするものと言わざるを得ない。

▼デーリー東北
7日「臨時国会閉幕へ 苦い教訓 二の舞い避けよ」

 安倍晋三首相が「成長戦略実行国会」と位置付けた臨時国会は、最大の焦点となった特定秘密保護法案が与党側の採決強行で成立し、閉幕する見通しとなった。予算編成や外交日程を控え、大幅な会期延長に官邸サイドが難色を示したためだ。
 継続審議にすれば、1985年の国家秘密法(スパイ防止法)と同様、世論の強い反発を受け廃案になるのを危惧したともみられるが、強引な手法は今後の国会運営に禍根を残した。

秋田魁新報
7日「秘密保護法成立 “暴走”にブレーキ必要」

 深夜の参院本会議で、自民、公明両党は、特定秘密保護法案を可決、成立させた。審議不十分のまま、採決強行を繰り返した性急で強引な手法は、議会政治に大きな汚点を残すものであり、断じて許されるものではない。
 国会審議を通して、官僚機構による「情報隠し」や国民の「知る権利」侵害といった懸念は払拭(ふっしょく)されるどころか拡大した。会期末が迫る中、安倍晋三首相が自ら明らかにした特定秘密のチェック機関などの設置方針はあまりに唐突で、国民の安心感には到底つながらなかった。
 いろいろと問題点の多い法律であることは明らかだ。そもそも何が「秘密」なのかという根本すら判然としないままなのである。それでは不安が払拭されるはずもない。
政府・与党は「国と国民の安全を確保する」「海外から情報を得る」ため、不可欠な法律だと訴えた。そのような重要な法律が十分に練られておらず、欠点が目立つ内容であることを一体どう受け止めればよいのか。

岩手日報
7日「臨時国会閉会へ 民意とずれる与党政治」

 昨年12月の衆院選投票日当日付の論説で「政治に無関心な国民は、愚かな政治家に支配される」という古代ギリシャの格言とされる言葉を引いた。ふたを開ければ自民党の「1強」が鮮明になる一方、小選挙区投票率は全国平均も本県も過去最低だった。
 今年7月の参院選も過去3番目の低さ。その結果が今回の臨時国会のありようだ。
 初日、安倍晋三首相は所信表明演説で今国会を「成長戦略実行国会」と命名した。終わってみれば、そんな印象はみじんもない。あるのは特定秘密保護法案をめぐる「言語明瞭、意味不明」な政府答弁と、現在進行形で増幅する国民の疑念や不安、そして第1次安倍政権への「先祖返り」を思わせる乱暴な採決だ。
 一連の選挙戦ではベールに包み込んだ秘密法案に政権の情熱をつぎ込む一方、衆院被災復興特別委の質疑は最終盤にたった1回。与党政治の関心のありかが、民意とずれ始めている印象が強く残る。

福島民報
7日「【秘密保護法成立】原発の情報隠し許さない」

特定秘密保護法が6日深夜に成立した。与党が衆院に続き、参院でも「採決強行」した末だ。参院での審議は10日足らずだった。「反対」の声が高まる中、なぜ、それほど急ぐ必要があったのか。国民の「知る権利」に大きく関わる法律にしては、拙速の感を拭い切れない。
(中略)
特に本県では、原発の安全や事故に関する情報隠しが懸念される。本来明らかにすべき内容が「特定秘密」に名を借りて閉ざされかねない。指定されれば、何が秘密かも分からない。許してはならない。
 福島市で先月25日に開かれた衆院の地方公聴会では、与党推薦を含めた陳述人7人全員が反対や慎重審議を求めた。その後も、疑問の多くが解明されず、法案修正にも反映されなかった。平出孝朗県議会議長は「あらためて慎重な審議を求める」とする談話を5日に発表した。
 法成立で原発の取材はこれまで以上に難しくなろう。実態や事故原因を探ろうとすれば、罪に問われる恐れさえ出る。罰則は報道機関に限らず、一般国民にも及ぶ。万一、裁判になっても罪状などが明らかにされない可能性もある。しかし、「見えない影」に萎縮してはいられない。県民の立場に立った報道をさらに強めたい。

福島民友
8日「『秘密保護国会』/数におごる政治は許されぬ」

 安倍晋三首相は、今度の第185回臨時国会を「成長戦略実行国会」と位置付けていた。しかし外交、安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法が成立。最終盤では機密を漏らした公務員らの罰則強化などを盛り込んだ特定秘密保護法案をめぐり与野党が激しく対立し、この50日余りを振り返れば「安保・秘密保護国会」という様相だ。
 巨大与党による強行採決に、反対を押し切って開いた公聴会、そして野党の常任委員長解任。今夏の参院選では、野党が参院で多数を占める「ねじれ」が解消され、政治的に安定したことで「熟議の政治」が期待された。しかし、実行されたのは自民、公明両党の「数による強行政治」だった。強く反省を求めたい。
 秘密保護法の審議は、国会が国権の最高機関であり、唯一の立法機関であることを示す絶好の機会であると同時に、内閣に対して国会が現在と将来にわたりチェック機能を持ち得るかどうかが試された。しかし、それを自覚し、役割を十分に果たしたとは到底言えない。

茨城新聞
8日「秘密保護法成立 こんな法律はいらない」

 特定秘密保護法が成立した。報道機関や市民団体、日弁連、さらに科学者や憲法学者歴史学者、映画人とあらゆる分野の人々からどれほど反対や疑問、不安の声が上がろうと政府・与党にとっては、ただの「騒音」でしかなかったようだ。衆院に続いて参院でも、野党の追及を通り一遍の答弁でかわし、最後は「数の力」で押し切った。「単なる絶叫戦術はテロ行為とあまり変わらない」という自民党石破茂幹事長のブログにあった市民デモへの批判に通底する姿勢といっていいだろう。靖国神社参拝を自粛、集団的自衛権行使の解釈変更も先送りした安倍晋三首相は、やっと「安倍カラー」を出すことができたとほくそえんでいるかもしれない。
 だが、厳罰による国家秘密の囲い込みだけを考えてつくられた秘密保護法には、秘密に対する外部チェックをはじめ、違法秘密や疑似秘密(当局者の保身のための秘密)の禁止、指定解除などで信頼に値する仕組みがない。遅かれ早かれ、憲法が保障する「表現の自由」や「基本的人権」との深刻な対立が表面化することは避けられない。放っておいては、戦後民主主義の基盤が掘り崩されるのは目に見えている。各界各層がそれぞれの立場で法の運用に目を光らせ、抜本改正、あるいは廃止にたどり着くまで「こんな法律はいらない」と粘り強く訴え続けていくよう求めたい。

▼神奈川新聞
7日「秘密保護法の成立 任務放棄の国会は不要」

 特定秘密保護法の成立は、国民の「知る権利」を脅かすことにとどまらない。国会の任務放棄をも意味する。権威は失墜した。
 このような法を通す国会は信頼できないし、存在の必要も感じない。総辞職し、あらためて国民の審判を仰ぐべきだろう。そこまで指摘されてもおかしくない重大事であることを議員も国民も認識してほしい。
 中学校や高校の社会科レベルに立ち返り、説明しておく。
 国会の役割は憲法第41条に規定されている。「国権の最高機関」であり「唯一の立法機関」だ。立法府と呼ばれる。担い手たる各議員は、特定の地域や団体に拘束されない「全国民の代表」である。
 つまり、国民の生活や自由や安全を守るため、社会の規範である法をつくるのが仕事だ。例えば犯罪をめぐり、何が「してはいけない事」であり、それを逸脱した場合に「どのような処罰を受けるか」といった内容を決める。日本において法制定の権限を有するのは国会だけだ。
 ところが、特定秘密保護法では「これを漏らせば犯罪」という「特定秘密」を行政府(内閣)が決める。その漏えいを理由として国民へ刑罰が科せられてしまう。
 しかも国民には何が「特定秘密」であるのかが分からない。メールなどでの日常の情報のやりとりが刑事処分の対象となりかねない。

信濃毎日新聞
7日「秘密保護法 力ずくの成立 民主社会を守るために」「国民主権に背く法律/審議も乱暴で強引/次の選挙をにらんで」

 特定秘密保護法参院で可決、成立した。民主主義の基本に照らし問題を多く抱えた法律だ。政府が勝手に解釈、運用して国民の権利を侵害しないよう、目を光らせる必要がある。
 秘密保護法が民主主義にそぐわない、とここで書くのには二つの理由がある。第一は、法律の中身が国民主権をうたう憲法理念に反していること。第二は、審議の進め方が乱暴で、国民の代表である国会を軽視していることだ。
(中略)
<審議も乱暴で強引>
 国会審議も乱暴極まるものだった。福島市で開いた公聴会で反対意見が続出した翌日、与党は衆院委員会で採決を強行した。参院でも急ごしらえの公聴会を開いた翌日、慎重審議を求める野党の声を無視して委員会採決している。意見を反映させるつもりが初めからなかったのは明らかだ。
 参院では野党議員が務める委員長を解任してもいる。野党の委員長解任は衆参を通じ初めてだ。無理押しの極み、と言うほかない。法運用のポイントになる第三者機関については、衆院採決が終わってから首相が参院で説明するお粗末さだった。
 強引なやり方が重なるにつれ、国会の外では反対のデモや集会が盛り上がりを見せた。政府与党はそうした声に一切耳を傾けず、数の力で押し切った。
 国会の外の声に耳をふさぐようでは民主主義は死んでしまう。有権者は“選挙のときの1票”ではないのだから。民意をくみ取る努力を怠る政治を民主政治と呼ぶことはできない。

8日「秘密保護法 安倍政治 軍事優先には『ノー』を」「実質改憲を許すな/安保基本法の危うさ/憲法あっての平和だ」

 特定秘密保護法の成立は、安倍晋三政権による実質的な憲法改定作業が始まったことを意味する。
 自民党が昨年春に発表した改憲草案を読めば、どんな方向を目指しているか、見えてくる。
 ひと言で言えば、国家と国民の関係の逆転だ。国を上に、国民を下にしようとしているのだ。
 国民の「知る権利」は、憲法21条の「表現の自由」の中で保障されている。一方、自民の草案はこれに制限を加えた。
<実質改憲を許すな>
 表現の自由を保障するとした上で「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」などは認めないとの項目が入る。
 国民の権利より国家が優先するといっているようなものだ。秘密指定を勝手にでき、政府に都合の悪い情報を隠せる秘密法と重なりはしないか。秘密法は改憲の先取りと考えていい。
 秘密法をめぐっては市民の反対が日増しに高まったのに、採決強行を重ねた。安倍首相の衣の下のよろいがはっきり見えた。憲法の根幹を揺るがす荒っぽい政治を傍観しているわけにはいかない。次なる一手に目を光らせ、異議申し立てをしっかり行いたい。
 実質的な改憲は序章に入ったにすぎない。次は歴代政府が憲法解釈で禁じてきた集団的自衛権の行使容認である。

新潟日報
8日「秘密保護法成立 『廃止』が後世への責任だ」「国家による情報統制/安倍政権の姿勢象徴/歴史を逆行させるな」

 軍機保護法が制定された1899年。普通選挙法と引き換えに治安維持法が制定された1925年。あるいは大政翼賛会の1940年か。
 後世の人々は、この2013年を、そうした年と同様に思い起こすことになるのだろうか。
 国民の不安と懸念を押しつぶし、特定秘密保護法が成立した。政治が大きく舵を切り、越えてはならない一線を越えようとしている。強い憤りと、危機感を抱かざるを得ない。
◆国家による情報統制
 法が成立したからといって仕方がないと諦め、その危険性から目を背けることは許されない。
 本来国民のものである情報を国家が統制し、その統制を侵す者には厳罰を科すという法律である。
 そのような法律が大手を振る社会がどこへ向かうのか。それは歴史を振り返れば明らかだ。ここで目を背け沈黙することは、子や孫たちへの背任である。
 成立した法の廃止を目指すとともに、情報公開法の強化や公文書管理の適正化など、政治の密室化を防ぐあらゆる手段を尽くすことが私たちに課せられた責任だ。
 天皇統帥権のもと、軍部が権力を振るった戦前と、国民主権をうたう憲法と民主主義の下にある現在を同一視すべきではないという意見もあるだろう。
 だが、今年8月、憲法改正論議に絡み「ナチスの手口に学ぶべきだ」という内容で問題となった麻生太郎副総理による発言を思い起こさねばならない。
 ワイマール憲法による民主的手続きで多数を握ったナチス政権は1933年全権委任法を成立させ独裁体制を確立、憲法を有名無実化した。
 秘密保護法も、情報に関する「全権委任法」と呼べるものだ。

中日新聞東京新聞
7日「民主主義を取り戻せ 秘密保護法成立」「公約で触れぬ瑕疵/国民を『奴隷』視か/改憲に至る第一歩」

 国会の荒涼たる風景に怒りを禁じ得ない。国民の代表である「国権の最高機関」で、民意が踏みにじられる異常さ。取り戻すべきは、民主主義である。
 いったい、この臨時国会は何だったのか。召集日の十月十五日を振り返る。安倍晋三首相は、所信表明演説で「この国会は、成長戦略の『実行』が問われる国会です」と強調していた。
 しかし、決意は、その後提出された特定秘密保護法の今国会成立に、いつの間にか塗り替わってしまう。与党の国会運営の強引さばかりが目についた。
(中略)
 弥縫(びほう)策がまかり通るのも国政選挙は当分ないと、安倍政権が考えているからだろう。今は国民の批判が強くても衆参ダブル選挙が想定される三年後にはすっかり忘れている。そう考えているなら国民をばかにするなと言いたい。
 人民が自由なのは選挙をする間だけで、議員が選ばれるやいなや人民は奴隷となる−。議会制民主主義の欠陥を指摘したのは十八世紀の哲学者ルソーだ。
 特定秘密保護法原発再稼働に反対するデモを、石破茂自民党幹事長は「テロ」と切り捨てた。国民を奴隷視しているからこそ、こんな言説が吐けるのだろう。
 しかし、二十一世紀に生きるわれわれは奴隷となることを拒否する。有権者にとって選挙は、政治家や政策を選択する最大の機会だが、白紙委任をして唯々諾々と従うことを認めたわけではない。
 政治が自分たちの思いと違う方向に進もうとするのなら、声を上げるのは当然の権利であり、私たち言論機関には義務でもある。

8日「特定秘密保護法 官僚制に“鎖”をつけよ」「善良でも『省益』に走る/無力な国会でいいのか/知識で武装するために」

 「反対」の声を無視し、成立した特定秘密保護法は、官僚が情報支配する道具だ。国会議員は目を覚まし、官僚制にこそ“鎖”をつけるべきである。
 <自らの支配者たらんとする人民は、知識が与える力で自らを武装しなければならない>
 米国の第四代大統領のジェームズ・マディソンは、一八二二年に知人宛ての手紙にそう書いた。
 日本の支配者は、主権者たる国民のはずである。その国民が情報を十分に得られなかったら…。マディソンはこうも書いている。
 <人民が情報を持たず、または、それを獲得する手段を持たないような人民の政府は、喜劇への序幕か悲劇への序幕にすぎない>
(中略)
 先進国の中で、官僚制にこれほどフリーハンドを与えている国はあるまい。欠陥がぼろぼろと出てきたため、政府は改善と呼ぶ提案をトランプのカードのように次々と切ってきた。「保全監視委員会」を内閣官房に、「情報保全監察室」を内閣府に…。
 だが、行政機関を身内の行政機関が客観的に監視できるはずがない。法律本体が欠陥なのだから、取り繕う手段がないのだ。それならば、いったん成立した法律を次の国会で廃棄するのが、最も適切な対応だと考える。
 首相や与党幹部は、考え違いをしていないか。自民党石破茂幹事長は「絶叫デモはテロ行為と変わらない」とブログに書いた。
 同党の町村信孝氏も「知る権利が国家や国民の安全に優先するという考え方は、基本的に間違い」と述べた。憲法を否定し、「主権在民」ではなく、「主権在官」だと言っているのに等しい。国民あっての国家であることを忘れてはいないか。
 安倍晋三首相が目指すのは「美しい国」だ。世界中の民主主義国家では、多種多様な意見がひしめき合うのを前提に成り立っている。安倍首相の頭には、整然とした統制国家があるのではないかと思える。
 秘密保護法はまさに情報統制色を帯びている。だから、国民の代表者である国会議員をも処罰する規定を持たせている。特定秘密には国政調査権も及ばない。議員はまるで無力である。国会は政府の言いなりの存在になる。
 国権の最高機関よりも、行政権が優位に立つ不思議な国の姿になろう。三権分立を崩す法律には、議員こそ反対すべきだった。その反省に立ち、議員らは官僚の暴走を食い止める“鎖”となる仕組みを構築するべきだ。

岐阜新聞
8日「秘密保護法成立 こんな欠陥法はいらない」

 特定秘密保護法が成立した。報道機関や市民団体、日弁連、さらに科学者や憲法学者歴史学者、映画人とあらゆる分野の人々からどれほど反対や疑問、不安の声が上がろうと政府・与党にとっては、ただの「騒音」でしかなかったようだ。衆院に続いて参院でも、野党の追及を通り一遍の答弁でかわし、最後は「数の力」で押し切った。
 「単なる絶叫戦術はテロ行為とあまり変わらない」という自民党石破茂幹事長のブログにあった市民デモへの批判に通底する姿勢といっていいだろう。靖国神社参拝を自粛、集団的自衛権行使の解釈変更も先送りした安倍晋三首相は、やっと「安倍カラー」を出すことができたとほくそえんでいるかもしれない。
 だが、厳罰による国家秘密の囲い込みだけを考えてつくられた秘密保護法には、秘密に対する外部チェックをはじめ、違法秘密や疑似秘密(当局者の保身のための秘密)の禁止、指定解除などで信頼に値する仕組みがない。遅かれ早かれ、憲法が保障する「表現の自由」や「基本的人権」との深刻な対立が表面化することは避けられない。
 放っておいては、戦後民主主義の基盤が掘り崩されるのは目に見えている。各界各層がそれぞれの立場で法の運用に目を光らせ、抜本改正、あるいは廃止にたどり着くまで「こんな法律はいらない」と粘り強く訴え続けていくよう求めたい。

福井新聞
7日「秘密保護法 強行成立 知る権利の扉どう開くのか」

 常に国民の声に耳を傾け、真摯(しんし)に国策を推し進めていく。これが国民主権における行政、立法府の責務であろう。
 国民から募集したパブリックコメントの77%が反対、世論調査で反対が過半数を占め、慎重審議は8割以上に上る。地方公聴会でも反対・慎重が圧倒的。国会周辺、全国、県内でも反対の声が増した。それでも安倍政権は強引に正面突破を図った。安倍晋三首相は「国民の不安を払拭(ふっしょく)したい」と繰り返したが、どう払拭したというのか。
 主権者である国民の知る権利を担保しないまま参院でも強行され、特定秘密保護法が成立した。「言いたいことも言えない。聞きたいことも聞けないのは民主主義ではない」と言う都民の一主婦の不安を包み込むように、作家で日本ペンクラブ専務理事の吉岡忍氏は「いやな感じがする」と表現した。いつか来た道を想起させる巨大与党の暴走。憲政史上に汚点を残した。
(中略)
 福井県に関係の深い原子力に関する情報でも、核防護の観点から法規制のある燃料輸送情報が秘密保護法の対象となる可能性がある。「テロ防止」の対象となれば、県にも原発情報が入らず、都合の悪い情報が秘密化していく懸念は消えない。
 立地自治体の生命線である原発の安全性に関わる詳細情報が入手困難になることは、立地の根拠を失うことになる。

京都新聞
7日「秘密保護法成立 国民の『知る権利』」手放せぬ」「自民の右傾斜を憂慮/第三者の目が要る/ひるまず声上げたい」

 この国の前途に何とも言えぬ不安と不気味さを感じてしまう。
 特定秘密保護法参院本会議で成立した。日に日に高まる反対の声に耳をふさぎ、議席数に物を言わせて押し切った与党の横暴は国会の負の歴史として記憶されねばなるまい。
 政府の活動を、闇のベールで隠させてはならない。国民が事実を知り、判断できてこそ民主主義は機能する。主権者である国民は、声を上げ続けてほしい。
 自民・公明の連立与党の強権的な姿勢は目に余った。一連の国会審議では、議事を打ち切って採決を強行するなど、何が何でも会期中に成立させようとごり押しする姿勢は、焦りさえ感じさせた。
自民の右傾斜を憂慮
 かつての自民には懐の深さもあった。今や安倍カラーに染まり、タカ派路線一辺倒に変質してしまったかのようだ。
 30年近く前に国家秘密法案が提案された際は、党内からも反対論が出て廃案になった。しかし今回、党内からの異論は驚くほど少なかった。「反中嫌韓」を叫ぶインターネット上の偏狭な声に引きずられるように、自民が右傾斜を強めていることを深く憂慮する。
 連立与党を組む公明は、自民の暴走を止めるブレーキとして機能せず、期待を裏切った。反対世論の高まりにも、知らんぷりを決め込んでいるようでは情けない。
 何より残念だったのは、世論を追い風にできたはずの野党が、最後まで結束できなかったことだ。一貫して反対した野党が共産と社民だけでは寂しすぎる。

神戸新聞
7日「秘密保護法成立/懸念置き去りの危うい動き」「唐突な『第三者機関』/国際基準からも問題」

 反対や慎重審議を求める声が高まり、うねりとなる中、参院本会議で採決が強行され、特定秘密保護法が成立した。
 「知る権利」を侵害する恐れがある法律だ。国民にとって必要な情報が政府の都合で隠されるようにならないか。そんな懸念を置き去りにしたまま、数の力で押し切った与党の姿勢はあまりにも乱暴だ。
 安倍晋三首相は「国民の不安や懸念を払拭(ふっしょく)するよう説明を尽くす」と話していた。だが、熟議とはほど遠く、成立ありきの強引な国会運営が繰り広げられてきた。
 外交、防衛などに関して一定程度の情報管理はやむを得ない面はある。しかし、それはあくまでも例外で、情報は国民のものであることが原則だ。国民主権のためには大事な情報が公開されねばならない。情報規制を強めることは、戦後、日本が目指してきた、自由で開かれた市民社会づくりに逆行する。

山陽新聞
7日「秘密保護法成立 民意離れた『決める政治』」「調査では反対多数/知る権利守れるか/国会の存在意義」

 これが、安倍晋三首相が目指す「決める政治」なのか。国民の不安の声に真摯(しんし)に向き合おうとしない強引な国会運営は、巨大与党のおごりと言わざるを得ない。
 秘密をつくる役人らの裁量を広げ、国民の知る権利を侵しかねない特定秘密保護法参院で可決、成立した。
 これまでも指摘し続けたように、この法律は不完全かつ危うい。挑発を繰り返す中国や北朝鮮の存在などわが国の安全保障環境が緊迫する中、外交・防衛分野での秘密保持は重要だ。しかし、情報公開の流れを後退させ、権力による国民監視が強化される道を開きかねない。
 政府は「その懸念はない」というが、もっと丁寧に国民に説明し、法案の骨格を見直すなどして合意を探るべきだった。わずかな修正や、急ごしらえの組織設置を打ち出して済む話ではなかろう。
(中略)
 知る権利守れるか
 政府は、報道の自由や知る権利は尊重されるという。だが、本当にそうだろうか。
 取材行為は不当な手段でなければ罰しないとするが、不当かどうかは捜査しないと分からず、谷垣禎一法相も強制捜査を否定していない。もし、「取材源」が漏れて処罰されれば、ジャーナリズムは危機にひんする。
 秘密を漏らしたり入手していなくても、「共謀罪」と呼ばれる規定があるため、行政を監視する市民団体などが話し合うだけで罪に問われる可能性も拭えない。
 民主党政権が「秘密」にしていた尖閣諸島周辺での中国漁船衝突事件の映像を、ネット上で公開した元海上保安官のような使命感に基づく行為も萎縮するだろう。
 業務で秘密に触れる民間人も、精神疾患や飲酒の程度、経済状態、家族や親せきの名前などの報告を求められる。
 物の言いにくい、重苦しい社会が将来、現実とならない保証はないのである。

中国新聞
8日「秘密保護法成立 自由な社会 守れるのか」
山陰中央新報
8日「秘密保護法成立/こんな法律はいらない」
愛媛新聞
7日「秘密保護法成立 民意無視の国会運営許し難い」

 個人よりも国家優先の思想にもとづく安倍政権の本性、強権的体質をさらす暴挙と言えよう。
 国家機密の漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法参院本会議で採決され、自民、公明両党の賛成多数で可決、成立した。
 特定秘密の範囲が曖昧など多くの疑問点を残したまま、数の力で押し切った。廃案や慎重審議を求める野党の抵抗や国民の声を無視した「成立ありき」の強引な国会運営は、断じて許し難い。
 重ねて指摘したい。民主主義の根幹である「知る権利」や人権を脅かす恐れのある法律は廃止すべきだ。懸念が払拭(ふっしょく)されるよう廃止や法改正に向けた新たな取り組みを始めなければならない。併せて、情報公開制度の充実に一層、努めることが肝要だ。

8日「特定秘密保護法 反対の声を絶やしてはならぬ」

 「知る権利」は民主主義の根幹である。この認識を、今こそ全ての国民が共有しなければならない。
 特定秘密保護法が、与党の強行採決により成立した。世論との衝突も辞さない傲慢(ごうまん)な国会運営に憤りを覚える。
 成立で諦めムードが高まることを強く危惧する。与党幹部は「内閣支持率が多少落ちても仕方ない」と言い放ち、反発はじき収まると強気に見通す。廃止に向け反対の意思を届け続けることが重要だ。
 知る権利が脅かされると、憲法の基本原理である国民主権を危うくする。国政の課題などについて主権者たる国民が意思表示するには、判断に資する情報が欠かせない。
 三権分立の形骸化も深刻。内閣や官僚が都合の悪い情報を抱え込んでしまえば、国会や司法のチェック機能は低下する。民主主義の大原則を揺るがしかねないことを、政府・与党は肝に銘じるべきだ。

徳島新聞
7日「秘密保護法成立  民主社会に禍根を残す」

 国民の「知る権利」と表現の自由を侵す懸念が強い特定秘密保護法を成立させたことは、将来に禍根を残す。日々強まる国民の反対の声に耳を貸さず、国会採決を強行した安倍政権と与党の暴挙は、議会制民主主義を否定するものだ。
 この法律は、国民主権基本的人権の尊重という憲法の骨格に反し、戦後民主主義を破壊しかねない。
 年明けの通常国会か、次の国政選挙を経た新たな国会で、抜本的に改正するか、廃止するべきである。
 法律のどこが問題か、何度でも指摘しよう。民主党代表が党首討論でも述べたように、まず「官僚の、官僚による、官僚のための情報隠し」を可能にする点だ。官僚を政権や閣僚に言い換えることもできよう。恣(し)意(い)的な秘密指定の懸念が消えない。

高知新聞
7日「【秘密保護法 成立】今後を厳しく監視する」「普通の市民が/『不断の努力』」

 民主主義の根幹に関わる特定秘密保護法が成立した。
 国民の間に多くの不安や疑念があるにもかかわらず、自民、公明両党が数を頼んで採決を強行したのは言語道断というほかない。暴挙を指弾する。
 政府が今後、どのように運用していくか。国民主権を脅かしかねない動きを厳しく監視していかなければならない。
 民主主義の基盤は情報にあるといってよい。政府が保有する情報をはじめ、さまざまな情報を手にしてこそ、主権者である国民は適切な判断ができる。国民の「知る権利」の重要性はそこにある。
 政府の判断で秘密を指定し、厳罰によって漏えいを防ぐ狙いの特定秘密保護法を、そうした視点でみると「欠陥」だらけだ。知る権利を侵害する危険性は大きい。
(中略)
「不断の努力」
 政府による情報統制がこのまま進んでいけば、政策などの妥当性を判断したり、意思決定の過程を検証したりすることができなくなる恐れがある。国民は政府に付き従うだけでよい、といった社会になりかねない。
 国民主権が脅かされかねない危機に際して、私たち報道機関の責務があらためて問われていよう。国民の知る権利に奉仕し、権力を監視するという、戦前への厳しい反省に立って自らに課した使命を再度肝に銘じたい。
 憲法12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と定めている。特定秘密保護法の成立は新たな段階の始まりだ。民主主義を堅持するため、多くの国民が意思を表明し続ける必要がある。

西日本新聞
7日「秘密保護法成立 抜本的な欠陥是正を急げ」

 特定秘密保護法参院本会議で採決され、自民、公明両党の賛成多数で可決、成立した。
 国民の「知る権利」を侵害し、民主主義の根幹を揺るがしかねない法律である。私たちは今国会で廃案にすべきだと主張してきた。野党だけでなく、多くの国民の反対や徹底審議を求める声を押し切って強引に成立させた安倍晋三政権の政治姿勢に強く抗議したい。
 もちろん、成立したからといって「これで終わり」というわけではない。むしろ、法律の施行、運用、さらには抜本的な欠陥是正に向けて政権を一段と厳しく監視していく必要があると考える。
(中略)
 記者会見で菅義偉官房長官は「(法律が)適切に運用されるように万全の準備を行い、国民の理解を得て、懸念を払拭(ふっしょく)できるよう努力したい」と述べた。
 「数の力」で成立にこぎ着けたとはいえ、なお問題や課題を抱えた法律であり、国民の十分な理解も得られていないことを認めたも同然の発言ではないか。
 施行に向けて安倍政権は、より丁寧な説明を尽くすべきだ。野党との協議も踏まえ、情報公開法や公文書管理法を含めた法改正にも取り組む必要がある。
 さまざまな手を尽くしても、欠陥が改まらないならば、振り出しに戻って一から出直す選択もためらってはならない。

宮崎日日新聞
7日「秘密保護法成立 時代の逆行を監視すべきだ」「自民公約にない法案/重い国会議員の役割」

 日本がハンドルを大きく切った。いや、バックギアを入れて後退を始めたというべきか。特定秘密保護法参院で可決、成立した。全国で広がる法案反対のうねりを無視し、おごる巨大与党は強行採決に踏み切った。
 それにしても、国の行方を左右する法案を提出してから採決までの拙速さはどうしたものだろう。国会で十分な審議はなされず、それ以上に国民が考える時間が短すぎた。次々と明るみに出る問題点を隠そうという意図だったのか。
 国によって情報が徹底的に管理され、知らぬ間にプライバシーが侵害される社会の行き着く先に強い不安を覚える。

8日「臨時国会 おごりの強行政治は猛省を」「役割十分に果たさず/与党が『野党分断』策」

 安倍晋三首相が「成長戦略実行国会」と名付けた第185臨時国会が閉幕する。しかし、国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法が成立、特定秘密保護法も激しい与野党対立の末、成立した。振り返れば「安保・秘密保護国会」という印象だ。
 巨大与党による強行採決に、反対を押し切っての公聴会開催、野党の常任委員長解任―。「決める政治」とは自民、公明両党の「数によるおごりの強行政治」だった。猛省を求めたい。

佐賀新聞
7日「秘密保護法成立へ 官僚の情報支配が進む」

 機密を漏らした公務員らへの罰則強化を盛り込んだ特定秘密保護法が成立する。参院の審議で与野党の対立がより激化したが、巨大与党が押し通すつもりだ。政府の恣意(しい)的な「特定秘密」指定を防ぐため、「最低限備えるべき」と本欄でも主張してきた独立したチェック機関は実質的に見送られた。今後の運用に疑念が残った。
(中略)
 日に日に反対の声が強まる中、与党は採決を進めた。賛否が割れる問題で、「最後は多数決」というのは民主主義で許されたルールではある。だがこの法案は議論を終結する状況にはなく、仕切り直して法案を再修正する余地もあったと思う。
 この法案の審議は、行政に対して立法府が現在と将来にわたって監視する能力を持ち得るかどうかが試されてもいた。国民の代表である国会議員がそれを自覚し、役割を十分に果たした、とは言えそうにない。国会が秘密の提供を受けることに大きな壁が残ったままで、官僚による情報支配が進む恐れは残った。

熊本日日新聞
8日「秘密保護法成立 『決める政治』とは言えない」

 特定秘密保護法は6日深夜の参院本会議で採決され、自民、公明両党の賛成多数により成立した。「知る権利」の侵害や官僚機構による情報隠しの懸念など問題点を数多く抱えながら、論議が尽くされないまま成立したことは誠に残念である。このまま施行されれば、いずれ憲法が保障する「表現の自由」や「基本的人権」との深刻な対立が表面化することは避けられない。
 また、世論に反対や慎重意見が多いにもかかわらず今国会での成立にこだわった与党の強引な手法は、国権の最高機関である国会にとって大きな汚点となって残るだろう。
(中略)
 第1次安倍政権時代も、改正教育基本法国民投票法、改正イラク復興支援特別措置法など、野党の同意がないまま強行採決が連発された。それが2007年参院選自民党敗北の一因となり、野党が参院で多数を占める「ねじれ国会」が生まれることにつながった。そうしたこともあり安倍首相は、昨年12月の第2次政権発足時に「丁寧な国会運営」を掲げた。にもかかわらず、7月の参院選で衆参両院のねじれが解消されたとたん、さっそく「数は力」の強権的な姿勢に転じたようだ。
 安倍首相は「アベノミクス」によるデフレ脱却を政策の最優先にしてきたが、今回の国家安全保障会議(日本版NSC)創設や特定秘密保護法制定を第1ステップに、今後は「安倍カラー」の本質とも言える安全保障政策に力を入れていくとみられる。集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更への取り組みを進め、憲法改正も視野にあるはずだ。
 今回の経過を見ていると、国の在り方を大きく転換する重要な政策が、数の力を背景に十分な議論もなく進むのではないかと危ぐされる。安倍首相はねじれ解消を踏まえ、所信表明演説で「『決める政治』によって、国民の負託にしっかりと応えていこう」と述べたが、民意を無視した「決める政治」など国民は望んでいない。

南日本新聞
8日「[秘密保護法成立] 運営監視し制度を見直していきたい」「名ばかりの監視機関/情報公開にも道筋を」

 機密情報を漏らした国家公務員らに厳罰を科す特定秘密保護法が成立した。
 国民の多くが不安や疑問を呈し、数々の問題点を指摘したが、政府・与党にとっては雑音でしかなかったようだ。衆院に続いて参院でも、政府は野党の追及を通り一遍の答弁でかわし、最後は「数の力」で押し切った。
 再三にわたって指摘されたのは厳罰による国家秘密の囲い込みを考えてつくられた秘密保護法には、行政による恣意(しい)的な運用や秘密をチェックしたり、違法秘密や疑似秘密(当局者の保身のための秘密)を禁止したりする有効な仕組みがないことだ。
 官僚に情報管理を全面的に委ね国会の監視も司法による抑制も厳しく制限されている。三権分立の均衡をゆがめ、行政の比重を高める秘密保護法が施行されれば国民の「知る権利」は確実に侵害される。いずれは憲法が保障する「表現の自由」や「基本的人権」との深刻な対立が表面化するだろう。
 このままでは、戦後の日本に定着した民主主義の基盤が根底から崩れ去ってしまう恐れがある。これでは、国の安全と引き換えに失うものが大きすぎる。

沖縄タイムス
7日「[特定秘密保護法成立]おごり極まる強権ぶり」

 審議すればするほど「欠陥法案」のほころびが露呈した。これに泥縄式に対応することの連続だった。法案の危険性が明らかになるにつれ、全国各地で反対運動が急速に盛り上がり、国会議事堂が「人間の鎖」で包囲された。にもかかわらず、巨大与党は民意と向き合うことをせず、国会で議論を尽くすこともせず、反対の声を数の力で封じ込めた。安倍政権は向こう約3年間、国政選挙がないことを見越し、強行採決を繰り返したとしか考えられない。おごりの極みであり、有権者を見くびっていると言うほかない。
(中略)
 秘密保護は「知る権利」とのバランスが重要であることは言うまでもない。情報公開制度を充実させることなく、秘密保護だけが突出するのは制度設計の重大欠陥だ。
 驚くのは、国連人権保護機関トップのピレイ人権高等弁務官の懸念に対し、城内実外交部会長が「謝罪や罷免、分担金の凍結ぐらいやってもいい」と発言した、と報じられていることだ。
 思い上がりも甚だしい。国際的常識から外れた異様な反応である。
 高圧的な安倍政権の姿勢は、沖縄問題にも通じる。米軍普天間飛行場辺野古移設問題しかり、八重山の中学教科書採択問題しかりである。国会議員や県連に「県外移設」の公約撤回を迫り、民意を力ずくでねじ曲げているのだ。

8日「[危機の民主主義]『知る権利』守り抜こう」

 人権や民主主義について語った二つの言葉が、これまで以上に、重く響く。特定秘密保護法が成立した今、市民は何をなすべきか。その答えがこの二つの文章の中にある。
 「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と、主権者である国民の絶え間ない努力を強調するのは憲法第12条である。
 ロバート・H・ジャクソン米連邦最高裁判事は1950年に、「政府が誤りを犯さないようにすることは、市民の役目である」と言い切った。
 特定秘密保護法は、重大な欠陥を残したまま、強引に採決に持ち込まれ、可決・成立した。知る権利を後退させないためにも、追及の手を緩めるわけにはいかない。

琉球新報
7日「秘密法成立強行 許されぬ権力の暴走 解散し国民の審判仰げ」「主権の移動/似て非なる仕組み」

 あまりの強権国家ぶりに言葉もない。これで日本は本当に民主国家と言えるのか。
 安倍政権と自公両党は特定秘密保護法案を参院本会議で強行採決し、成立させた。担当大臣の答弁は二転三転、前言撤回の繰り返しで、徹底審議とは到底言えない中での強行だ。野党の反対だけでなく、ノーベル賞学者を含む内外の広範な批判をも力で押し切った。権力の暴走と断じざるを得ない。
 確かに自民党は総選挙と参院選で大勝した。とはいえ、国論を二分する問題まで国民が全権委任したわけではない。首相は速やかに解散し、法の是非をめぐり総選挙で国民に審判を仰ぐべきだ。
(中略)
 国会審議中、これらの欠陥は繰り返し指摘されてきた。だが欠陥の本質は何ら変わっていない。
 一部野党が巨大与党にすり寄り、安易に修正協議を競ったことが、悪法成立の事態を招いた。しかも国会外での密室協議だ。民主主義の重大な危機、憲政史上の汚点と言わざるを得ない。その意味で、みんなの党日本維新の会も自らの責任は重大と知るべきだ。
 今後は米軍の環境汚染も日米間の密約も秘密指定されかねない。県民は蚊帳の外だ。犠牲者は永久に犠牲になれと言わんばかりだ。
 真に法が必要なら、国民の理解は不可欠なはずだ。総選挙の争点とすることで、国民の認識も深まろう。首相はやはり一刻も早く解散し、信を問うべきだ。

9日「秘密法と世論 民主主義壊す悪法は廃止を」※新聞休刊日の8日も制作・発行

 特定秘密保護法の強行成立から一夜明けた安倍晋三首相は「嵐が過ぎ去った感じだ」と語ったという。首相はあくまで世論の反対に耳を傾けるつもりはないようだ。
 知る権利を侵害し、憲法を骨抜きにしかねない悪法に対する国民の怒りは収まっていない。週末は各地で反対集会があり、成立後も廃止を求めて市民が声を上げた。
 自民、公明両党による採決の強行は、焦りの裏返しでもある。審議が進むにつれて反対の声は日に日に高まり、各界各層から立場を超えて強い懸念が発せられていたからだ。
(中略)
 成立を受け、自民党は特定秘密の内容を監視する常設委員会を衆参両院に設置する方向で検討に入った。だがこれまでも政府によるあまたの情報隠しを見抜けなかった国会に監視機能が果たせるのか。そもそも成立直後にこうした議論をすること自体、同法に重大な欠陥があることの証左であり、国民を愚弄(ぐろう)している。
 秘密保護法を廃止すべきだ。弥縫(びほう)策を講じたくらいで、国民主権と衝突する悪法の本質は変わらない。この法律は選挙で信任を得たわけでもない。安倍政権は民意と向き合うべきだ。悪法でこの国の民主主義を破滅させてはならない。


※12月6日付の各紙社説
朝日新聞特定秘密保護法案―民主主義に禍根を残すな」
毎日新聞
「秘密保護法案、参院審議を問う 強行可決 議会政治を壊す暴挙だ」
「秘密保護法案、参院審議を問う 反対の声を無視 民主主義と人権の危機」
北海道新聞「秘密保護法案 強行採決は許されない」
茨城新聞臨時国会 強行政治に猛省求める」
岩手日報「秘密保護法案 民主主義が壊れ始める」
秋田魁新報「秘密法参院委可決 許し難い『数の横暴』だ」
河北新報「秘密法案強行可決/審議のあり方を問い直せ」
新潟日報「秘密法案採決 世論無視した横暴を憂う」
信濃毎日新聞
公安警察肥大 息の詰まる社会にするな」
「秘密保護法 採決強行 内外の懸念無視の暴挙」
中日新聞東京新聞特定秘密保護法案 知らされぬ国民の悲劇」
岐阜新聞臨時国会 数による強行政治鮮明に」
福井新聞「秘密法案強行採決 国家情報は国民のものだ」
京都新聞「秘密保護法案  民主主義壊す道を進むのか」
神戸新聞「秘密法案採決/審議は尽くされていない」
山陽新聞「秘密保護法案 『良識の府』も数の力とは」
中国新聞特定秘密保護法案 議論尽くしたといえぬ」
山陰中央新報臨時国会/数任せの運営でよいのか」
愛媛新聞「秘密保護法案、参院委強行可決 暴挙許せない」
高知新聞「【秘密保護法案】 立ち止まって考えたい」
西日本新聞「政治の暴走は許さない」
宮崎日日新聞「秘密保護法案 数頼みの政治は許されない」
熊本日日新聞臨時国会 『数のおごり』に猛省求める」
沖縄タイムス「[秘密保護法成立へ] 巨大与党暴走の序章だ」
琉球新報「秘密法強行採決 憲法を破壊する暴挙だ」