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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

本土住民ももはや他人事ではない〜名護市長選結果の各紙報道の記録

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設先として、日本政府が沖縄県名護市辺野古地区に新たな基地建設を進めようとしていることの是非が争点になった名護市長選が19日投開票され、移設阻止を訴えた無所属現職の稲嶺進氏(68)が、移設推進を掲げた無所属新人の末松文信氏(65)を破って再選されました。稲嶺氏の得票は1万9839票、末松氏は1万5684票で、差は4155票でした。この選挙結果の評価を沖縄の地元紙の琉球新報は次のように報じています。
名護市長選、稲嶺氏再選 辺野古移設を拒否
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-218094-storytopic-3.html

 日米両政府が進める辺野古移設に、名護市民があらためて「ノー」の審判を示した。市長権限を最大限に使って阻止すると明言する稲嶺氏の再選で、辺野古移設は事実上困難となり、安倍政権に大きな打撃となった。
 今回の市長選は移設問題で候補者の主張が「阻止」「推進」と初めて明確に分かれて争われた。安倍政権が移設作業を強権的に進めようとする中、国の埋め立て申請を承認した仲井真弘多知事の判断も含め、名護市民は移設拒否の意思を示したと言える。

 翌20日付の琉球新報沖縄タイムスの社説の書き出しを引用、紹介します。
琉球新報社説「稲嶺氏再選 誇り高い歴史的審判 日米は辺野古を断念せよ」
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-218090-storytopic-11.html

 米軍普天間飛行場の移設問題が最大の争点となった名護市長選で、辺野古移設阻止を主張した現職の稲嶺進氏が、移設推進を掲げた前県議の末松文信氏に大勝し、再選を果たした。
 選挙結果は、辺野古移設を拒む明快な市民の審判だ。地域の未来は自分たちで決めるという「自己決定権」を示した歴史的意思表明としても、重く受け止めたい。
 日米両政府は名護市の民主主義と自己決定権を尊重し、辺野古移設を断念すべきだ。普天間の危険性除去策も、県民が求める普天間飛行場の閉鎖・撤去、県外・国外移設こそ早道だと認識すべきだ。

沖縄タイムス社説「[稲嶺氏が再選]敗れたのは国と知事だ」
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=60995

 米軍普天間飛行場辺野古への移設に対し名護市民は「ノー」の民意を、圧倒的多数意思として示した。国の露骨な圧力をはね返して勝ち取った歴史的な大勝である。同時に仲井真弘多知事が、辺野古埋め立てを承認したことに対し、市民が明確に拒否したことも意味する。
 名護市長選で辺野古移設に反対する現職の稲嶺進氏(68)が、移設を積極推進する新人の末松文信氏(65)を破り、再選を果たした。
 普天間辺野古移設の是非が文字通り最大の争点となった市長選は今回が初めてだ。過去4度の市長選では、移設容認派が推す候補は選挙への影響を考慮して、問題を争点化しなかった。
 移設問題を明確に市民に問うたのは、1997年の市民投票以来である。市民投票では、条件付きを合わせた反対票が52・8%と過半を占めた。住民投票的な性格を帯びた今回の選挙で市民は再び移設反対の意思を明確にしたのだ。日米両政府は辺野古移設計画を撤回し、見直しに着手すべきだ。

 両紙が強調しているように、普天間飛行場の移設先を辺野古地区とすることへ反対する民意は明らかと言うべきでしょう。両紙とも日米両政府に対し、辺野古移設計画を撤回するよう求めています。琉球新報はさらに「本土住民も人ごとのように傍観するのではなく、普天間の閉鎖・撤去に強力な力添えをしてほしい」と訴えています。辺野古移設を押し進めようとしている安倍晋三首相とその政権は、曲がりなりにも民主的な手続きを経て選出された首相と政権です。民主主義の成り立ちようから考えれば、日本国の主権者である国民一人一人にとって、安倍首相と政権を支持する、しないにかかわらず、首相と政権は民意に支えられていることになります。首相と政権が何をしているのか、しようとしているのかに、主権者として無関係ではありえません。琉球新報の社説の「本土住民も人ごとのように傍観するのではなく」との指摘は、わたしはその通りだと思いますし、本土(ヤマト)に住む主権者が自らの問題としてとらえることから始めなければ、この問題は解決できないことをよく示していると思います。
 本土の住民も他人事ではない、傍観者にとどまるべきではない、ということで言えば、この選挙結果を本土マスメディアがどう伝えたか、その報道ぶりは軽視できない要因だと思います。以下に、わたしが身を置く大阪で、新聞各紙がこの選挙結果をどう伝えたか、20日付朝刊紙面での扱いや主な見出しを書き留めておきます。対象は朝日、毎日、読売、産経、日経の全国紙5紙と、関西の有力な地方紙である京都新聞神戸新聞の計7紙。全国紙5紙は大阪本社発行の最終版です。
 
 いずれも1面、日経を除く6紙がトップと大きな扱いです。そして、普天間飛行場の移設を今後どうするかについては、各紙の論調は二分されました。県外・国外移設も含めた再考・見直しが必要とする論調と、国の責任であくまでも辺野古移設を進めるべきだとする論調です。以下に各紙の社説の見出しを並べておきます。

▼再考・見直し必要と指摘
朝日「名護市長選 辺野古移設は再考せよ」
毎日「名護市長選 移設反対の民意生かせ/振興策の手法は限界だ/日米で将来像の議論を」
京都「名護市長選 移設反対 民意に応えよ」※21日付朝刊に掲載 
神戸「名護市長選 辺野古は見直すしかない」

辺野古移設を推進
読売「名護市長選 普天間移設は着実に進めたい」
産経「名護市長選 辺野古移設ひるまず進め」
日経「普天間移設の重要性を粘り強く説け」

 再考・見直しを指摘する社説の中には、例えば毎日新聞が「安全保障上の必要性を踏まえつつ、本土が広く基地負担を分かち合うことを含めて、地元の民意をいかす道はないのか。政府はもちろん、日米安全保障体制の受益者である私たち国民の一人一人が自分の問題としてとらえ、解決策を模索すべきだ」と書いているように、基地を沖縄固有の問題と捉えるのではなく、国民全体の問題として考えようという姿勢が出ていると感じます。琉球新報の「本土住民も人ごとのように傍観するのではなく、普天間の閉鎖・撤去に強力な力添えをしてほしい」との訴えに呼応しようとしている、というようにも思えます。長年に渡って沖縄が強いられてきた過剰な基地負担からすれば、真剣さや取り組みは決して十分ではないのでしょうが、それでも本土マスメディアの側に生じている変化には違いないと思います。そして、従前の態度をあらためて、ものごとを良い方向に変えていこうとするなら、何をなすにも「遅すぎる」ということは決してないだろうと思います。
 一方、それでも辺野古移設を推進を、と説く言説の根底には、安全保障は政府(=国家)の専権事項であって、自治体の関与にはおのずと限界がある、という考え方があるようです。読売新聞は総合面に「地方選を悪用するな」という見出しの政治部次長の署名記事を掲載。名護市長選のほか「脱原発」が争点になりそうな東京都知事選を引き合いに、「地方の首長選挙で国政の是非を前面に掲げて争うことは、現行憲法下の地方自治の仕組みからみて、好ましいことではない」「地方の首長選で国政の課題を争点化することはなじまないし、まして選挙の結果で、国政を揺るがすようなことはあってはならない」と主張しています。そういう考え方もあるのだとは思います。しかし、沖縄の基地問題で言えば、例えば欠陥機の指摘が絶えない米軍の輸送機オスプレイ普天間飛行場配備をめぐって、沖縄県内の全地方議会が反対決議をしても一顧だにされず配備が強行されるようなことが起きています。およそ沖縄以外の日本国内では考えられないような事態であり、沖縄に対する差別的な扱いと言うほかありません。そういう中では、地方の首長選挙でも国策の是非が争点になることはむしろ自然の流れでしょうし、それを「悪用」と断じてしまうことには個人的に違和感があります。そもそも明治憲法にはなかった「地方自治」の規定が現憲法に盛り込まれているのは、国と地方自治体とで役割の違いや分担はあっても、立場の本質は対等であることを示すものだとわたしは受け止めています。

▽1月20日付朝刊各紙の主な記事と見出し:全国紙は大阪本社発行の最終版
【朝日】
1面トップ「辺野古反対 稲嶺氏再選」「普天間移設 道険しく」「『埋め立て協議断る』」「政権、推進変えず」写真「再選し、万歳して喜ぶ稲嶺進氏」/「知事は戸惑い」
1面・解説「国と県 どちらにも『NO』」谷津憲郎・那覇総局長
2面「政権、民意見ぬふり」「負け見越して移設へ予防線」「名護市民『NO』」
2面「調査・工事滞る可能性」
社会面(ほぼ面の半分)
辺野古守る 名護の意志」「稲嶺氏『移設圧力への反発』」/「『金で沖縄を踏みにじるな』」(市民)/「振興訴え届かず 末松氏」/写真「当選確実の報道に喜ぶ稲嶺氏陣営の支持者たち」・表「名護市民の選択(ひと言集)」


【毎日】
1面トップ「辺野古反対 稲嶺氏再選」「普天間移設 混迷」「自民系大敗 安倍政権に打撃」/「『おのずと影響ある』沖縄知事」
1面・解説「『県外』一から議論を」
2面「政府 工事計画修正も」「『方針は変えぬ』強調」
3面クローズアップ「移設阻止へ市長権限」「民意受け 強気の抵抗」
3面「『辺野古』反対64% 出口調査
社会面見開き見出し「基地『ノー』揺るがず」「アメとムチ 通用せず」
第1社会面(面の半分以上)
「『振興策に頼らない』」「移設反対『先頭に立つ』」/「末松さん 出遅れ響く」/「政府も民意尊重せよ」「期待と心配 関西の沖縄出身者ら」/「命には変えられぬ」「『鉄の暴風』経験83歳」(写真)/写真「当選が確実となり支持者と『カチャーシー』を踊って喜ぶ稲嶺進さん」
第2社会面「金で民意曲がらぬ/本土も自分の問題」「米軍訓練地の反応」/「安全保障、地方大事に」前泊博盛・沖縄国際大教授


【読売】
1面トップ「名護市長 移設反対派再選」「稲嶺氏 辺野古推進派破る」「政府は近く着工調査」写真・顔
2面「地方選を悪用するな」松永宏朗・政治部次長
2面「無党派7割稲嶺氏に」出口調査
3面スキャナー「『辺野古』政府は粛々」「工事妨害 排除へ」「市長権限にも対抗策」「知事選 次の焦点に」
3面「普天間『終止符』望む声」藤井慎也・那覇支局長
社会面(ほぼ半分)
トップ「市民再び『辺野古は反対』」「地域経済に不安の声も」/「市民苦しめられた・国の交付金ないと…」/「『手応え感じたが』仲井真知事」/写真「花束を手に喜ぶ稲嶺さん」・「敗戦の弁を述べる末松さん」
社会面「政府は移設推進を」川上高司・拓殖大教授/「基地の危険性重視」富川盛武・前沖縄国際大学


【産経】
1面トップ「辺野古反対の現職再選」「名護市長選 普天間移設 影響必至」写真・顔
3面「辺野古 安倍政権に試練」「移設反対運動激化も」/「『県の利益・国益軽視』」/「沖縄知事が辞職否定」「埋め立て承認は維持」
社会面準トップ「『国からそっぽ向かれる』」「現職当選 辺野古住民 落胆の声も」写真「沖縄県名護市長選で敗れ、沈痛な面持ちで『結果は結果として受け止めなければならない』と語る末松文信氏」


【日経】
1面下「名護市長に移設反対派」「稲嶺氏再選『協議断る』」
2面「辺野古移設 遅れ懸念」「政府、計画通り着手」/「石破自民幹事長『残念だが惜敗』」
社会面トップ「『辺野古ノー』再び」「稲嶺氏『基地許さず』」「普天間移設、難路続く」/「国・県へ反発拡大」「『カネと引き換え』に怒り」/「末松氏『訴え浸透せず』」/「沖縄知事『いまから どうこう…』」「埋め立て承認見直しを否定」


【京都】
1面トップ「名護市長に辺野古反対派」「現職再選 移設の難航必至」写真「沖縄県名護市長選で再選を果たし、万歳する稲嶺進氏」
1面・解説「埋め立て承認 市民反発」
2面「自民『毅然と推進』」「共産・社民 計画断念要求へ」
2面「工事拒否の手段 模索」「漁港使用の許認可など」稲嶺氏
3面「移設阻止へ勢い」「国焦り 市権限で抗戦へ」/「米、計画停滞を懸念」
社会面(ほぼ半分)
トップ「辺野古ノー 名護の心」「推進派『経済が心配』」/「国施策のせい 市民いがみ合い」「基地翻弄 憤り 元知事・関係者ら」写真「沖縄県名護市長選で、稲嶺進氏の選挙事務所に集まり『当選確実』のテレビ速報に沸く支持者ら」


【神戸】
1面トップ「名護市長に辺野古反対派」「稲嶺氏再選『移設許さぬ』」写真「沖縄県名護市長選で再選を果たし、選挙事務所で万歳する稲嶺進氏」
2面「政権のシナリオ瓦解」「巨額振興策 市民逆なで」「知事の判断 裏目に」/「『一本化遅れが敗因』自民」
2面「市長に『拒否権』停滞も」「漁港や道路使用 河川の切り替え」
5面「知事も苦境 野党に勢い」「政権『方針変わらない』」
5面「出口調査辺野古反対』65%」「うち9割、稲嶺氏に投票」
第2社会面「地域分断 怒りの民意」「稲嶺氏『市民が良識』」「移設反対の陣営、歓喜の声」/「沖縄知事 埋め立て承認見直さず」「辞職は『全くない』と否定」