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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

護衛艦「たちかぜ」いじめ自殺訴訟と秘密保護法

 海上自衛隊護衛艦たちかぜ乗組員だった21歳の1等海士が2004年10月に自殺し、遺族が「先輩のいじめが原因だった」として、国と先輩の元隊員に賠償を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は4月23日、いじめを苦に自殺する恐れがあることを上官らが予見できたと認定し、1審横浜地裁判決よりも賠償額を大幅に増やして、国などに約7350万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。訴訟では1審判決後、国側の指定代理人だった3等海佐が、海自の内部調査文書の存在を内部告発で明らかにした経緯がありました。東京高裁は、判決に影響する重要な証拠を海自が意図的に隠蔽していたと認定しました。
※「海自隊員いじめ自殺『予測可能』 東京高裁判決、遺族への賠償増額」(4月23日 47news=共同通信
http://www.47news.jp/CN/201404/CN2014042301001266.html

 いじめを苦に自殺した海上自衛隊護衛艦「たちかぜ」乗組員の1等海士=当時(21)=の遺族が、国などに約1億5千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審で東京高裁は23日、賠償を一審の440万円から約7300万円に大幅に増額する判決を言い渡した。
 鈴木健太裁判長は、いじめと自殺の因果関係を認め「上司が適切に調査、指導をしていれば自殺は予測可能で、回避できた」と判断した。海自による調査記録文書の隠蔽があったことも認めた。
 一審横浜地裁判決は「予測できなかった」として、先輩による暴行と恐喝についての賠償責任だけ認めていた。

 
 判決を伝える東京新聞の記事によると、3佐は証人として出廷した際、「自衛隊は国民にうそをついてはいけないという信念で告発した」と述べていました。非があるのは海自組織ですが、現実には、3佐は内部調査文書のコピーを持ち出したとして懲戒処分手続きの対象になっています。その後、防衛省側は、上告を見送り、3佐の処分も行わない方針とも伝えられていますが、だからと言って海自の隠蔽体質がただちに是正されることが期待できるわけでもありませんし、内部告発者が厳しい立場に置かれる事態が今後は起こらないと期待できるわけでもありません。むしろ、特定秘密保護法の施行を控えて、自衛隊組織に都合の悪いことが恣意的に特定秘密に指定されかねず、3佐のような善意の告発者も厳罰規定の前に萎縮するのではないか、との危惧は何ら変わりがないように感じます。
※「海自いじめ訴訟、確定へ 『判決重い』と防衛相」(4月25日 47news=共同通信
http://www.47news.jp/CN/201404/CN2014042501001675.html

 小野寺五典防衛相は25日の閣議後記者会見で、海上自衛隊による文書隠蔽や上司の責任を認めた護衛艦「たちかぜ」のいじめ自殺訴訟の東京高裁判決について「しっかりと受け止める。判決は大変重い」と強調し、上告を断念する意向を表明した。原告の遺族も上告しない意向で、国側に約7300万円の損害賠償を命じた判決が確定する。
 また防衛省は25日、文書隠蔽を内部告発した3等海佐(46)を処分しない方針を固めた。同省関係者が明らかにした。小野寺防衛相は会見で「公益通報を理由に不利益なことをしてはならない。判決で隠蔽が指摘されているのを勘案する」と述べた。

 この判決を東京発行の新聞(在京紙)各紙はどう報じたか、主な見出しなどを書き留めておきます。4月23日の夕刊では、毎日新聞東京新聞が1面トップで伝えました。朝日新聞と読売新聞も1面。24日付朝刊では、朝日、毎日、日経、東京がそれぞれ総合面や社会面に続報を掲載。東京本社では夕刊を発行していない産経新聞は、24日付朝刊の第3社会面に本記とサイド記事を掲載しました。
 目を引かれたのは東京新聞です。23日夕刊の1面に、内部告発した3佐が懲戒処分の審理対象になっていることに焦点を当てたサイド記事を載せ「機密情報を漏らした公務員への罰則を強化する特定秘密保護法の成立は、機密性のない情報の内部告発までも委縮させるおそれもあり今後こうした告発者はますます出にくくなりそうだ」と指摘。24日付朝刊の総合面でも、同じ視点の関連記事を載せています。東京新聞は昨年12月、3佐の内部告発と特定秘密法の危険性に焦点を当てた記事を掲載していました。特定秘密法の問題点を具体的に報じようとする一貫した姿勢、視点を感じます。

※参考過去記事:2013年12月6日「毎日社説『与党議員は良心に照らし考えよ』神戸社説『全て白紙委任したわけではない』〜秘密保護法案、強行可決控えた5日付各紙 ※追記:東京新聞・『たちかぜ』訴訟遺族の危惧」
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20131206/1386261761


 以下は在京各紙の4月23日夕刊と24日付朝刊の記録です。いずれも東京本社発行の最終版紙面です。


▼4月23日夕刊
【朝日】
本記:1面準トップ「海自の文書隠し認定」「いじめ自殺『予見可能』」「東京高裁 7350万円に賠償増額」
社会面トップ「海自の隠蔽体質浮き彫り」「いじめ自殺 真実求め10年」「母『子の生きた証』」
【毎日】
本記:1面トップ「いじめ原因と認定」「東京高裁判決 『組織的証拠隠し』」「海自自殺訴訟」/とはもの「『たちかぜ』乗員いじめ自殺訴訟」
社会面トップ「『隠蔽体質変えて』」「告発の3佐、遺族 思い届く」「海自いじめ控訴審
【読売】
本記:1面「海自いじめ 文書隠し認定」「『自殺 国に責任』 賠償増額7300万円に」「東京高裁判決」
社会面トップ「『判決で自衛隊変わって』」「提訴8年 母『隠蔽』に憤り」「海自いじめ訴訟」
【日経】
本記:第2社会面「賠償7300万円に増額」「海自いじめ自殺『予見できた』」「東京高裁判決」「内部調査隠匿も認める」
【東京】
本記:1面トップ「海自いじめ 隠蔽認定」「『自殺予測できた』」「東京高裁判決 賠償7300万円に増額」
1面「告発 強まる萎縮」「3佐『秘密法成立で難しくなる』」
社会面トップ「母『生きた証残せた』」「長男失い苦悩『過ち繰り返すな』」


▼4月24日付朝刊
【朝日】
社会面トップ「海自、隠蔽重ねた10年」「3佐告発 文書が決め手」
社会面「母『判決無駄にしないで』」/「自殺・私的制裁減らぬ自衛隊
【毎日】
3面・クローズアップ2014「内部告発 隠蔽暴く」/「防衛省は処分検討」「省内からも批判の声」/「高裁、組織の体質指弾」
社会面準トップ「『息子の命 無駄にしない』」「勝訴の母、会見で涙」
社説「海自いじめ判決 隠蔽体質が断罪された」
【日経】
社会面準トップ「『勇気ある告発』と感謝」「海自いじめ自殺 勝訴の決め手に母」
【東京】
3面・核心「告発で隠蔽発覚」/「隠されていた証拠書類」/「秘密法 萎縮招く恐れ」
【産経】※夕刊発行なし
第3社会面「いじめ原因 賠償増額7300万円」「東京高裁『予見可』文書隠し認定」「海自自殺」
第3社会面「隊員『隠匿』を告発 海自トップ謝罪」


 大阪にいた時には、大阪で手にする新聞紙面の記録として、全国紙5紙(朝日、毎日、読売、日経、産経)と京都新聞神戸新聞の各紙を比較し、記録してきました。3年ぶりに東京で働き、生活することになって、今度は東京で手にする新聞として、朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の各紙紙面の記録を折に触れ書き留めていこうと思います。