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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

地方紙はやはり反対、批判が圧倒〜安倍首相の憲法解釈変更表明の報道

 安倍晋三首相が15日、集団的自衛権の行使容認へ向けて、憲法解釈を変更する方針を表明しました。第2次大戦後の日本社会が大きく変質しかねない分岐点に来ていると感じます。
「首相、憲法解釈変更の検討指示 集団的自衛権を限定容認」(47news=共同通信
 http://www.47news.jp/CN/201405/CN2014051501001207.html

 安倍晋三首相は15日、自ら設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)から集団的自衛権行使を容認すべきだとする報告書の提出を受けた。その後の記者会見で、行使の限定容認に向け、憲法解釈変更の基本的方向性を表明し、政府、与党に検討を指示した。
 政府は従来、憲法9条の平和主義の理念を踏まえ、集団的自衛権行使は許されないとの見解を維持してきた。首相の意向で行使を認める憲法解釈変更に踏み切れば、日本の安全保障政策の大転換で、専守防衛の理念から逸脱する恐れもある。

 16日付の新聞各紙朝刊はいずれもこのニュースを大きく扱っています。東京都内発行の全国紙5紙(朝日、毎日、読売、産経、日経)と東京新聞はいずれも1面トップ。社説でも取り上げているほか、政治部長論説委員長、編集委員が1面に署名入りの論評記事を掲載しています。社説の内容で大まかに判断すると、憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の容認に反対なのは朝日、毎日、東京の3紙。読売、産経、日経は支持ないし理解を示しています。ネット上の自社サイトで社説を公開しているブロック紙、地方紙もチェックしてみました。目を通した計24紙のうち安倍晋三首相の方針に理解を示したのは北國新聞。ほかの23紙は反対、批判でした。憲法記念日の5月3日付の社説と同じ傾向です。なお、これがブロック紙、地方紙のすべてではありません。あくまでもネット上でわたしがチェックできた新聞だけです。
※「地方紙は解釈改憲に反対、批判が圧倒〜憲法記念日の社説・論説」=2014年5月4日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20140504/1399213215

 以下に備忘として東京発行各紙の1面本記、社説、署名論評、社会面の主な見出しを書き留めておきます(いずれも東京本社発行の最終版)。目を引かれたのは東京新聞の1面トップの大きな見出し「『戦地に国民』へ道」でした。

【1面本記】
朝日新聞集団的自衛権行使へ転換」「首相、憲法解釈変更に意欲」
毎日新聞集団的自衛権 容認を指示」「首相、憲法解釈変更に意欲」
東京新聞「『戦地に国民』へ道」「解釈改憲検討 首相が表明」


読売新聞「集団的自衛権 限定容認へ協議」「憲法解釈見直し」
産経新聞「首相 行使容認へ強い決意」「集団的自衛権 政府の基本的方向性」
日経新聞「首相『憲法解釈の変更検討』」「集団的自衛権 容認に意欲」


【社説】※小見出しも含む
朝日新聞集団的自衛権―戦争に必要最小限はない」自衛権の行使=戦争/見過ごせぬ二重基準/9条のたがを外すな
毎日新聞集団的自衛権 根拠なき憲法の破壊だ」9条解釈の180度転換だ/本質そらす首相の会見
東京新聞「『集団的自衛権』報告書 行使ありきの危うさ」大国の介入を正当化/正統性なき私的機関/守るべきは平和主義

 
読売新聞「集団的自衛権 日本存立へ行使『限定容認』せよ」グレーゾーン事態法制も重要だ/解釈変更に問題はない/主眼は抑止力の強化/「切れ目のない」対応を
産経新聞「集団自衛権報告書 『異質の国』脱却の一歩だ 行使容認なくして国民守れぬ」緊張への備えは重要だ/グレーゾーン対応急げ/
日経新聞憲法解釈の変更へ丁寧な説明を」安保環境の大きな変化/与党以外とも対話を


【署名記事】
朝日新聞「最後の歯止め 外すのか」立松朗・政治部長(1面)
毎日新聞「これでは筋通らぬ」末松省三・政治部長(1面)
東京新聞「平和主義 根幹変わる」山田哲夫・論説主幹(1面)


読売新聞「吉田茂ならどうする」永原伸・政治部長(1面)
日経新聞「『何を、どこまで』担うか」秋田浩之・編集委員(1面)
産経新聞は連載企画「集団的自衛権 第3部越えるべきハードル」(上)を阿比留瑠比記者の署名で1面に掲載


【社会面】
朝日新聞「近づく 戦争できる国」「遠のく 憲法守る政治」(社会面〜第2社会面見開き)
毎日新聞「危険な任務現実に」「『不戦』大きな岐路」(社会面〜第2社会面見開き)
東京新聞「平和岐路 今こそ声」(社会面トップ)「主観的正義 繰り返すな」ノンフィクション作家保坂正康氏(第2社会面)


読売新聞「防衛の最前線 歓迎」「慎重対応 求める声も」(第2社会面)
日経新聞「『無関心ではいられず』『現実味感じられない』」「集団的自衛権 若者は」(社会面トップ)
産経新聞は社会面に関連記事掲載せず


 5月15日は沖縄が日本に復帰して42年の日でした。そのことに触れて、沖縄の人たちの反応を紹介する記事を朝日、毎日、東京の3紙は社会面に掲載しています。また日経も大学生たちの反応を紹介した社会面の記事の中で、沖縄県出身の東大生を取り上げています。沖縄の地元紙、琉球新報は16日付の社会面に「『捨て石』またか」「復帰の日 平和岐路」「沖縄戦体験者『戦争の道』不安」などの見出しとともに、第2次大戦末期の沖縄戦体験者らの反応を紹介。また、安倍首相が記者会見の際に使用した説明パネルの地図の日本に、北方領土はあるのに沖縄は描かれていなかったことを指摘した記事も「沖縄、保護の対象外?」との見出しとともに載せました。

 
 以下はネット上の自社サイトで閲覧できた5月16日付の地方紙、ブロック紙各紙の社説の見出しです。小見出しも含めて書き留めておきます。なお、ここには書いていませんが、中日新聞東京新聞と同一の社説です。

北國新聞「安倍首相が会見 抑止力強化へ現実対応」


北海道新聞集団的自衛権、首相が示す『方向性』 日本の安全を危うくする」憲法をゆがめる解釈/まやかしの限定容認/アジアの緊張高める
河北新報自衛権首相見解/集団容認の危うさ変わらず」
東奥日報憲法改正で問うのが本筋/集団的自衛権の行使」
秋田魁新報集団的自衛権 行使容認は許されない」
岩手日報集団的自衛権 平和憲法が溶けていく」
茨城新聞「安保法制懇報告書 慎重に議論を重ねよ」
信濃毎日新聞「安保をただす 集団的自衛権 危険な本質を覆い隠すな」抑制的と印象付け/小さく産んで…の恐れ/期限ありきが本音か
新潟日報集団的自衛権 『9条』を空文化させるな」容認へ突き進む首相/なぜ解釈変更を急ぐ/国民に問うべき課題
福井新聞集団的自衛権容認へ 危機感あおる危険な手法」
京都新聞集団的自衛権  憲法9条の骨抜き許されぬ」現実優先の解釈変更/先制攻撃も可能に/「アリの一穴」狙う?
神戸新聞集団的自衛権憲法を骨抜きにする行使容認」招く結果の重大さ/危機回避の努力を
山陽新聞自衛権の在り方 結論ありきでなく綿密に」
中国新聞「安保法制懇報告書 解釈改憲は許されない」二つの見解示す/首相に考え近い/なし崩しの恐れ
山陰中央新報「安保法制懇報告書/懸念強く慎重な議論を」
愛媛新聞集団的自衛権の報告書 9条の『曲解』は認められない」
徳島新聞「安保法制懇報告書 解釈改憲の暴走はやめよ」
高知新聞「【集団的自衛権解釈改憲は『禁じ手』だ」
西日本新聞集団的自衛権 民意問わず針路変えるな」容認論者で権威付け/危機感をあおる首相/解釈変更では無理だ
宮崎日日新聞集団的自衛権協議へ 戦争の不安招く憲法解釈だ」「専守防衛」から転換/与党内でも慎重姿勢
佐賀新聞「安保法制懇の報告書 条件を絞りさらに論議を」
南日本新聞「[集団的自衛権] 憲法にたがう行使容認」
沖縄タイムス「[安保法制懇報告書]戦争する国になるのか」
琉球新報集団的自衛権 憲法骨抜きにするな 『遠隔地の戦争』の危うさ」立憲主義に背向け/攻撃対象になる沖縄


 このほか、以下の2紙は本文は読めませんでしたが、見出しは以下の通りでした。
大分合同新聞「安保法制懇報告書 慎重に議論を重ねよ」
熊本日日新聞「安保法制懇報告 『解釈改憲』は許されない」


 今回も社説を連続で掲載している新聞もあります。16日付分も含めて見出しを書き留めておきます。

北海道新聞
16日「集団的自衛権、首相が示す『方向性』 日本の安全を危うくする」憲法をゆがめる解釈/まやかしの限定容認/アジアの緊張高める
17日「集団的自衛権 法制懇報告書 説得力を欠く行使事例」

信濃毎日新聞
16日「安保をただす 集団的自衛権 危険な本質を覆い隠すな」抑制的と印象付け/小さく産んで…の恐れ/期限ありきが本音か
17日「安保をただす 集団的自衛権 情緒論に流されまい」
17日「各党の対応 解散にらみの真剣勝負を」

神戸新聞
15日「集団的自衛権/無理やりかじを切るのか」
16日「集団的自衛権憲法を骨抜きにする行使容認」招く結果の重大さ/危機回避の努力を
17日「集団的自衛権/まず磨くべきは外交力だ」
17日「集団的自衛権/開かれた議論が足りない」

南日本新聞
16日「[集団的自衛権] 憲法にたがう行使容認」
17日「[憲法解釈の変更] 与野党で徹底的議論を」

琉球新報
16日「集団的自衛権 憲法骨抜きにするな 『遠隔地の戦争』の危うさ」立憲主義に背向け/攻撃対象になる沖縄
17日「法制局長官交代 『法の番人』の権威取り戻せ」


 先にも触れたように、安倍晋三首相が集団的自衛権の行使容認に向けて憲法解釈を変更する方針を表明した「5月15日」という日は、敗戦後、米国の統治下にあった沖縄が1972年に日本に復帰した日です。沖縄の人たちにとっては平和憲法のもとへの復帰が願いだったと、沖縄の新聞社の方から教わりました。16日付の沖縄タイムス琉球新報の社説の一部を引用し、書き留めておきます。
沖縄タイムス16日付社説「[安保法制懇報告書]戦争する国になるのか」
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=69663

 提言書には国連決議に基づく多国籍軍に参加できることも憲法解釈の変更で可能とする内容も盛り込まれている。

 武装集団が離島に上陸することなど「グレーゾーン事態」に対する自衛隊の活動を可能にする法整備の必要性にも触れている。念頭には尖閣諸島の領有権問題をめぐる中国の動きがある。

 「本土防衛のための捨て石」にされ、県民の4人に1人が犠牲になった苛烈な沖縄戦が戦後の沖縄の原点である。日中間で軍事衝突が起これば、沖縄が戦場になるのは目に見えている。

 政府が日本を取り巻く安全保障環境の変化を指摘しているのはその通りだが、隣国でありながらいまだに首脳会談を実現することができないのは、中国側の自国中心主義の強権的な振る舞いはもちろん、首相の靖国神社参拝など日本側にも原因がある。

 政府がやるべきなのは、軍事に軍事で対抗する「安全保障のジレンマ」に突入する道ではなく、対話の糸口を見つけ、外交による和解の道を探ることでなければならない。

琉球新報16日付社説「集団的自衛権 憲法骨抜きにするな 「遠隔地の戦争」の危うさ」
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-225439-storytopic-11.html

 会見で首相が用いたパネルの日本地図には、なぜか沖縄だけが抜け落ちていた。集団的自衛権の行使は米国の軍事行動との連携が念頭にある。もし行使されれば、本土から遠く、米軍基地と米兵が集中する遠隔地の沖縄が攻撃対象になる危険性が高まるだろう。
 1982年に起きたフォークランド紛争で、支持率低迷にあえいでいたサッチャー首相はアルゼンチンの侵攻に対抗して、遠く離れた領土を守る戦争に踏み切った。
 英本国には影響が乏しい「遠隔地の戦争」はナショナリズムを高揚して支持率を押し上げた。安倍氏が2004年にイギリスに送った腹心議員らの視察団は「フォークランド紛争を機に英国民が誇りを取り戻し、『自虐偏向教科書の是正』などの改革へ続いた」と評価する報告書を提出していた。
 「遠隔地での戦争」を通じてサッチャー長期政権に道を開いた史実を首相が認識していないはずがない。遠隔地はどこか。中国との領有権問題を抱える沖縄の「尖閣諸島」の名が第一に挙がるはずだ。
 「他人のけんかを買って出る」(評論家の内田樹氏)集団的自衛権行使は泥沼の戦争を招きかねない。世界では抑制的な流れが顕在化しているが、日本は逆に「戦争をしたがる国」との印象を持たれよう。基地の島・沖縄から歴史に根差す反対の声を上げ、解釈改憲の愚に歯止めをかけたい。