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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

民間船と船員の戦争犠牲の歴史〜毎日新聞「民間船員も戦地に」に感じたこと

 8月になりました。6日、9日の広島、長崎の原爆の日、15日の終戦の日を控えて例年この時期、新聞各紙には戦争と平和に関連した記事が目につくようになります。8月に顕著な傾向であることに対して、時に「8月ジャーナリズム」などの揶揄もありますが、それでも戦争と平和の問題を社会全体で考えていくうえで、とりわけ戦争体験の継承はマスメディアにとっても大きなテーマだと考えています。
 そんな中で、3日付の毎日新聞朝刊(東京本社発行の最終版)1面トップに掲載された「民間船員も戦地に」「有事の隊員輸送」「防衛省検討 予備自衛官として」などの見出しが並んだ記事に目が留まりました。南西諸島有事の際に民間フェリーで自衛隊員を戦闘地域に運ぶために、フェリーの船員を予備自衛官にすることを防衛省が検討している、との記事です。社会面にも関連記事が「戦地へ 誰が行くのか」などの見出しとともに掲載されています。いずれもネットの同紙サイトにも記事がアップされています。本記のリード部を引用して書き留めておきます。
▽民間船:有事の隊員輸送 船員を予備自衛官として戦地に
 http://mainichi.jp/select/news/20140803k0000e040096000c.html

 尖閣諸島を含む南西諸島の有事の際、自衛隊員を戦闘地域まで運ぶために民間フェリーの船員を予備自衛官とし、現地まで運航させる方向で防衛省が検討を始めた。すでに先月、2社から高速のフェリー2隻を借りる契約を結んだ。太平洋戦争では軍に徴用された民間船約2500隻が沈められ、6万人以上の船員が犠牲となった歴史があり、議論を呼びそうだ。

▽民間船:有事輸送 戦地へ誰が…船長「何も聞いてない」
 http://mainichi.jp/select/news/20140803k0000e040097000c.html
▽民間船:戦時中、徴用2500隻沈没 船員6万人死亡
 http://mainichi.jp/select/news/20140803k0000e040098000c.html
 毎日新聞が社会面の記事で伝えているように、日本は第2次大戦で商船と船員を大量に軍に徴用し、おびただしい犠牲を生みました。わたし自身がその歴史を知ったのは10年近く前、新聞労連の専従役員の時でした。新聞労連憲法改悪に反対する取り組みの中で、他の産業の産別労組とも共闘していました。そうした組合の一つに、船員で作る全日本海員組合がありました。当時、海員組合は直接的に憲法の問題に取り組むというよりは、第2次大戦の悲惨な歴史を踏まえて、民間の船員を有事体制に組み込むことに反対する運動に力を入れていました。そうしたことを海員組合の方々に教えていただきました。海員組合のホームページから、関係部分を引用します。
全日本海員組合:主要な政策活動
 http://www.jsu.or.jp/general/about/seisaku.html
全日本海員組合トップ http://www.jsu.or.jp/

平和な海を希求する活動、有事法制の制定に反対する
 かつての太平洋戦争では、民間船員は根こそぎ戦時動員され、記録されているだけでも6万2000人の先輩船員たちが過酷極まる戦場の海で戦没しました。死亡率は陸軍・海軍軍人のそれを大きく上回るという痛ましいものでした。
 当時、有無を言わさず民間船員を駆り出したものが、国家総動員法にもとづく「船員徴用令」をはじめとする有事法制です。「有事法制」には、罰則付きの「従事命令」が含まれると言われており、船員や海運業者もこの命令の対象です。
 従事命令は、船員や港湾関係者、航空・鉄道・自動車などの輸送関係者、医師・看護婦といった医療関係者、土木・建設関係者など広範な国民を戦争に強制動員できる仕組みをつくるもので、憲法が第18条で禁止する「苦役労働の強制」そのものです。 「有事関連3法案」は、5月15日衆議院本会議で可決後、6月6日の参議院本会議で可決、成立しました。
 今後、関連する個別法が審議されていくことになりますが、海上を職場とする私たちは、海の平和と安寧を求めて、引き続き有事関連3法、個別法の制定と有事法制の発動を許さない運動をいっそう推進していきます。
※引用者注:有事関連3法の成立は2003年のことです

 海員組合は、第2次大戦で犠牲になった船と船員を記録にとどめ継承するために、ネット上にも「戦没した船と海員の資料館」を開設しています。戦没した船の位置を記した地図もアップされています。
※「戦没した船と海員の資料館」 http://www.jsu.or.jp/siryo/
 毎日新聞が報じた防衛省の方針には賛否双方の意見や考え方があるだろうと思いますが、まずは海運や船員の分野で過去にどういうことが起きたのか、その歴史を踏まえておくことの意味は小さくないと思います。海員組合の取り組みは参考になるのではないかと思い、紹介することにしました。