11月16日の沖縄県知事選の結果に対し、ブロック紙、地方紙が社説でどのように論評しているか、ネットでチェックしてみました。対象は社説を自社サイトで公開している新聞のみになりますが、17日付と18日付で計20紙の社説を読むことができました。米軍普天間飛行場を名護市辺野古地区へ移設するとする日米政府の現行計画が最大争点になり、反対を掲げた前那覇市長の翁長雄志氏が大差で当選した結果に対して、これを沖縄の民意ととらえて尊重すべきだ、という点がいずれの社説にも共通しています。以前の記事で紹介したように、全国紙の社説では朝日、毎日が辺野古移設計画の白紙撤回を求めているのに対し、読売、産経は現行計画の推進を主張しており、論調は2分化しています。これに対してブロック紙、地方紙は、中止や撤回、ないしは慎重な対応を求める主張が圧倒していると言っていいと思います。
※参考過去記事
「沖縄知事選の結果を伝える在京紙紙面の記録 追記・朝日新聞那覇総局長「敗れたのは誰なのか」2014年11月18日
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20141118/1416285781
20紙の社説の見出しは以下の通りです。
【17日】
▼北海道新聞「沖縄県知事選 辺野古案拒む固い民意」
▼信濃毎日新聞「沖縄県知事選 辺野古移設は中止を」
▼中日新聞(東京新聞)「新基地拒否の重い選択 沖縄県知事に翁長氏」
▼福井新聞「沖縄県知事選 安倍政権は民意尊重せよ」
▼京都新聞「沖縄新知事 重い『移設ノー』の民意」
▼中国新聞「沖縄県知事に翁長氏 政府は重く受け止めよ」
▼徳島新聞「沖縄知事に翁長氏 辺野古反対の民意は重い」
▼高知新聞「【沖縄知事選】反対の民意は極めて重い」
▼西日本新聞「沖縄県知事選 民意の無視は許されない」
▼熊本日日新聞「沖縄知事選 辺野古『ノー』明確に示す」
▼南日本新聞「[沖縄県知事選] 移設反対の民意は重い」
【18日】
▼デーリー東北「沖縄県知事選 政府は民意を受け止めよ」
▼秋田魁新報「沖縄県知事選 基地移設論議やり直せ」
▼神奈川新聞「沖縄県知事選 基地政策転換は必至だ」
▼神戸新聞「沖縄県知事選/辺野古反対の民意は重い」
▼山陰中央新報「沖縄県知事選/県民の声に耳を傾けたい」
▼愛媛新聞「沖縄知事選 翁長氏圧勝 『辺野古ノー』黙殺許されない」
▼大分合同新聞「沖縄県知事選 民意はより明確になった」
▼宮崎日日新聞「沖縄県知事選 明確になった民意尊重せよ」
▼佐賀新聞「沖縄県知事選」
この中で、米軍基地問題を本土の日本人としてどう考えたらいいのか、との観点から、印象に残った社説の一部をいくつか引用し、書き留めておきます。
▼北海道新聞「沖縄県知事選 辺野古案拒む固い民意」
設を強引に進めてきた政府に対する強い拒絶反応である。安倍晋三首相はじめ政府・与党は重く受け止めなければならない。
辺野古での移設作業をこれ以上進めてはならない。地元の反対意見を無視する姿勢を改め、対話の道を模索することが不可欠だ。
県民の多数は県外、国外への移設を求めている。その民意に沿った具体策を講じる必要がある。
(中略)
政府は米国に言うべきことを言わず、沖縄にばかり負担を押しつけてきた。新型輸送機オスプレイの配備も同じだ。一方で経済政策を厚くして理解を得ようとするアメとムチの発想で臨んできた。
知事選の結果はこうした政策遂行の手法の見直しを迫っている。
大切なのは沖縄の人々の負担を軽減するため、あらゆる選択肢を検討することだ。軍備に頼るだけでなく、外交交渉や地域安全保障の取り組みを進めるなど多様な戦略を組み立ててこそ、アジア地域の安全は確保されるはずだ。
▼神奈川新聞「沖縄県知事選 基地政策転換は必至だ」
沖縄の基地負担軽減として同飛行場配備のオスプレイの県外訓練拡大が進む状況である。昨今、米海軍厚木基地にも頻繁に飛来しており、今回明確になった民意は本土の米軍基地周辺住民の思いにも通じるのではないか。従来、政府は選挙結果にかかわらず移設を進める考えを示してきた。このまま強硬姿勢を貫けば、沖縄だけでなく国民世論の反発を招くことは間違いない。
(中略)
北朝鮮の核開発や中国の海洋進出を念頭に置いた米軍基地の機能や日本の補完機能の強化。日米防衛協力指針の改定や安全保障法制の整備が具体化する来年は、くしくも「戦後70年」に当たる。この間、日本は平和を貫いてきた。沖縄知事選の結果に鑑み、戦争放棄を掲げた憲法の意味をあらためて確認したい。
普天間飛行場は宜野湾市の市街地にある。住宅地に近接し、危険性が高い。返還は一日も早く実現しなければならない課題だ。とはいえ、県内での移設は沖縄の負担軽減にならない。普天間の固定化か辺野古移設か―の二者択一を迫るのが、そもそもおかしい。
移設を強行すれば、地元との溝はますます深まる。政府は県外移設など県民が納得できる負担軽減策を真剣に検討すべきだ。
沖縄県知事選で、米軍基地に対する県民の意思が明確になった。普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古沿岸への移設に反対する前那覇市長翁長雄志(おながたけし)氏が、移設推進の現職仲井真弘多(なかいまひろかず)氏らを破り初当選した。基地問題は沖縄に押しつけているだけでは何も解決しない。沖縄が抱える厳しい現状を直視し政府、国民全体で「負担の解消」を考えていくべきではないか。
長く基地問題に翻弄(ほんろう)され続けてきた沖縄県民だ。住宅が密集し「世界一危険」とされる普天間飛行場を固定化させたい県民はいないだろう。また移設すれば解決するものでもなく、県民は米軍基地そのものに強い拒絶感を示したのだ。この日、那覇市長選でも移設反対の候補が当選した。
日本全体の0・6%にすぎない県土に米軍専用施設全体の約74%が集中。米兵による女性暴行事件や傷害事件などが相次ぎ、普天間隣接地でヘリ墜落事故も起きた。事故や事件が発生するたびに捜査は不平等な日米地位協定の厚い壁に阻まれてきた。県内移設や基地面積の縮小だけでは「基地負担軽減」には程遠い。
消費税の再増税を延期して解散・総選挙の方針を固めたとされる安倍晋三首相は、国民生活に大きな影響を与える課題は選挙で信を問うべきとの認識を示した。そうした考えに基づけば、重大な争点に対して示された民意の重みは、地方選挙でも変わらないはずではないか。
今回の選挙戦では「自己決定権」という言葉が目に付いた。「地元のことを住民抜きで決めるな」といった自治の根本だろう。最大限、尊重されなければなるまい。
今回の知事選で特徴的なのは、従来の「保守対革新」の構図が崩れ、保守政治家の翁長氏が自民党政権の政策に反旗を翻して、それを県民が支持したことだ。「基地負担を押し付ける本土」対「これ以上の基地負担を拒否する沖縄」という「本土対沖縄」の構図ができつつあることを示している。
もし、政権がこの状況を軽視し「国家の論理」を沖縄に押し付け続ければ、沖縄の心はますます本土から離れてしまう。沖縄と本土との一体感さえ揺らぎかねない。
安倍政権は、沖縄の民意を正面から受け止め、あらためて米国と協議して「辺野古」以外の選択肢を検討してほしい。一地域の犠牲の上に成り立つ安全保障政策など、もう限界だと悟るべきだ。
政府は、早ければ2015年夏ごろには埋め立て工事へ突入する構えだ。政府や自民党幹部の一部には、辺野古移設を進めるとともに、翁長氏の取り込みを模索する動きが出ている。
仲井真氏は当初「県外移設」を訴えながら、振興策などと引き換える形で、昨年末、辺野古沿岸部の埋め立てを承認した。翁長氏を翻意させて、いわば「第2の仲井真知事」にしようという戦略だ。
しかし「第2の仲井真知事」化による辺野古移設強行は、明確になった沖縄県の民意を踏みにじり、分断する試みにほかならない。万が一、実現にこぎ着けたとしても、これまでにない反発を招き、事態を深刻化させるだけだろう。
普天間飛行場移設は、在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄県の基地負担軽減の象徴である。そもそもの問題点は、基地負担軽減といいながら、その方法が「県内移設である」という矛盾にある。基地負担軽減は、沖縄県だけではなく日本全体の問題だという翁長氏の主張は問題の核心だ。
折しも安倍晋三首相は、来年10月に予定されている消費税の10%への増税を先送りし、衆院を解散する意向を固めた。この判断には、有権者がまず沖縄の声に耳を傾けて1票の選択に臨むべきだ。
【写真説明】17日付の琉球新報紙面。県知事選の結果を1面と最終面とをつないで大きく報じています。
沖縄の新聞2紙の関連の社説も見出しとリンクを紹介しておきます。沖縄タイムスの20日付「[普天間問題]「本土」が問われている」は、本土の新聞の論調を論じた内容です。
▼沖縄タイムス
17日「[県知事に翁長氏]辺野古に終止符を打て」
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=90861
18日「[10万票差の深層]意識変化 大きな流れに」
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=90982
20日「[普天間問題]「本土」が問われている」
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=91331
▼琉球新報
17日「新知事に翁長氏 辺野古移設阻止を 尊厳回復に歴史的意義」
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-234623-storytopic-11.html
18日「那覇市長に城間氏 果敢に公約実行を 県都でも民意が動いた」
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-234669-storytopic-11.html
※追記 2014年11月20日10時35分
この記事をアップした直後、北國新聞(本社金沢市)も20日付で関連の社説をサイトにアップしているのに気付きました。
▼北國新聞「普天間飛行場移設 振り出しに戻れるのか」
一部を引用します。
翁長氏は、国土面積の1%に満たない沖縄県に米軍施設の74%が集中する現状を改めるため、基地負担を日本全体で引き受けるべきと訴えた。そうした沖縄県民の心情を政府も本土の国民も重く受けとめなければならない。ただ、沖縄の厳しい現状を理解した上での長い議論の末に辺野古への移設に落ち着いた経緯があり、振り出しに戻すのも困難である。
日米安保条約によって東アジアの安定を保つ日本の安全保障戦略は、要衝に位置する沖縄の人たちの我慢の上に成り立ってきた。本土からすれば心苦しいことであるが、国防を担う政府としては負担軽減に努めながら、なお沖縄県民に受忍をお願いせざるを得ないことも翁長氏は分かってほしい。
そのためには、政府も沖縄振興費を取引材料に使うようなことはせず、真摯(しんし) な対話に努めなければなるまい。翁長氏は日米安保体制そのものの重要性は理解しているとされ、まず基本的な認識を共有するところから話し合いを始めるのがよいのではないか。