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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

解散翌日の地方紙社説の記録

 前回の記事(「やはり問われるべきは憲法改正―解散翌日の在京各紙社説の記録」)の続きになります。衆院解散翌日の22日付で、ブロック紙や地方紙がどのような社説を掲載しているか、ネット上の各紙のサイトをチェックしてみました。社説を読むことができた29紙の見出しを以下に書き留めておきます(これが地方紙の社説のすべてではありません)。
 おおまかな感想になりますが、大勢としては(1)解散の大義になお疑問=世論調査で6割が「理解できない」と回答(2)争点は国民が決める=菅義偉官房長官が「何を問うか問わないかは、政権が決める」と発言したことを批判(3)安倍政治の2年間の総体が問われる=争点はアベノミクスだけではない―などの点が共通点として目につきました。特にアベノミクス以外の争点では、特定秘密保護法集団的自衛権の行使を容認した憲法解釈の変更、原発再稼働を多くの地方紙社説が指摘しています。そうした傾向は各紙の社説の見出しからもうかがえるのではないでしょうか。特定秘密保護法集団的自衛権の問題の延長上に、憲法改正があることを指摘した社説もあります。

北海道新聞衆院解散 独断に疑問解けぬまま」
河北新報衆院解散/参加意欲高める選挙戦を」
東奥日報「安倍政権の手法 検証を/衆院選 師走決戦へ」
秋田魁新報衆院解散 『安倍政治』が問われる」
岩手日報解散、総選挙へ 『冷めた目』を意識せよ」
福島民報「【衆院解散】復興を止めるな」
福島民友新聞「【衆院選解散いざ臨戦/「復興」を置き去りにするな」
▼神奈川新聞「衆院選の課題 潮流捉えた政策論争を」
信濃毎日新聞「12・14衆院選 解散・総選挙へ 暮らしの将来像を示せ」財政再建の道筋は/痛みは伏せるのか/対抗軸が必要だ
新潟日報衆院解散 政策で選択肢を示さねば」増税先送りが大義か/再生への処方せんを/「平和」の理念を問う
中日新聞東京新聞)「争点決めるのは国民だ 衆院解散 12・14総選挙」解散、6割理解できぬ/政権の業績評価投票/岐路に立つ危機感を
北國新聞衆院解散・総選挙へ 『大義なし』の批判は疑問」
福井新聞衆院解散 『安倍政治』厳しく問われる」女性活躍も霧消/長期政権照準に/本県は人材不足
京都新聞衆院解散   対立軸示し論戦深めよ」
神戸新聞衆院解散/『安倍政治』そのものが争点だ」この道しかないのか/与野党伯仲への期待
山陽新聞衆院解散 問われるのは安倍政治だ」審判仰ぐ課題山積/存在感薄い野党
中国新聞衆院解散 争点は有権者が決める」見えない風向き/結論ありきでは/問われる選択肢
山陰中央新報衆院解散/本格的論戦に期待したい」
愛媛新聞衆院解散 政治をただす機会と捉えたい」
徳島新聞衆院解散 自衛権や秘密法も争点だ」
高知新聞「【衆院解散】今こそ安倍政治を問う」リセットはできない
西日本新聞衆院解散 『安倍政治』を見極めたい」「数の力」を背景に/具体的な政策で競え
大分合同新聞衆院解散 安倍政治に対立軸示せ」
宮崎日日新聞衆院解散 野党は明確な対立軸を示せ」生活者の視点前面に/候補者調整の戦術も
佐賀新聞衆院解散
熊本日日新聞衆院解散 『安倍政治』2年の審判だ」
南日本新聞「[首相の衆院解散 −2014衆院選−] 2年間の政権に審判を」
沖縄タイムス「[衆院解散辺野古では]民意無視の強行やめよ」
琉球新報衆院解散 国家像変えた政治に審判を 沖縄の民意軽視するな」憲法理念と乖離(かいり)/公約は選択の基礎


 地元からの視線として、東日本大震災東京電力福島第一原発事故に言及した福島民報福島民友新聞、米軍普天間飛行場の移設をめぐり、沖縄県知事選で移設計画に反対の候補が当選したばかりの沖縄タイムス琉球新報の各社説の一部を以下に引用、書き留めておきます。

福島民報「【衆院解散】復興を止めるな」

 2年前の衆院選で、政権は震災発生時の民主党から自民・公明両党の手に移った。いずれの首相も「福島の復興なくして、日本の再生はない」と被災地への対応を語ってきた。「経済の再生なくして財政健全化はできない」。18日の安倍首相の解散会見で、かつて聞いたフレーズに乗せられた言葉は「福島」や「復興」ではなく、「経済」「財政」だった。消費税の再増税や経済対策、2年間の安倍政権の評価が今回の争点の中心になるのは理解するが、解散後の会見でも首相は被災地の復興に触れなかった。被災地が置き去りにされているようで、残念でならない。
 本県の場合、原発事故によって長期にわたり古里を離れている避難区域の住民の帰還の動きが出始めた。新たなまちづくりに必要な施設を整備し、住みやすい環境をつくる重要な時期に差し掛かっている。戻る選択も、戻らない選択もある。いずれを選ぶにしても、将来の姿を思い描けるような復興政策のメニューがそろっていなければ、判断できない。各党、各候補者はその判断材料を具体的に提示してほしい。

福島民友新聞「【衆院選解散いざ臨戦/「復興」を置き去りにするな」

 「アベノミクス解散」と言い切った安倍首相の解散後の会見では、残念ながら復興政策については語られなかった。
 復興がかすむような選挙であってはならない。
 本県では、4度目の冬を迎えてもなお、避難生活が続く県民がいる。古里への帰還、生活の再建が見通せない住民の多くが風化や風評への懸念を拭えないでいる。
 東日本大震災東京電力福島第1原発事故からの復興が、最重要の国政課題であることを広く国民に訴えていくことを、与野党それぞれに強く求めたい。
 復興途上にある本県では、地域の現状や県民の声を吸い上げて公約に反映させることが重要になる。各党には、これまでの復興政策を点検し、復興の加速化に向けて必要な施策や道筋を明確に示してもらいたい。

沖縄タイムス「[衆院解散辺野古では]民意無視の強行やめよ」

 安倍晋三首相が衆院解散した。来月14日の投開票に向け、事実上選挙戦が走りだした。
 名護市辺野古の新基地建設に反対する圧倒的民意が示されたばかりなのに、基地問題が脇に押しやられそうで心配だ。言うまでもなく基地負担は日本全体で考えなければならない安全保障の問題である。降って湧いたような総選挙に埋没させるわけにはいかない。
 今、辺野古では知事選挙で中断していた工事が再開され、再び緊迫感が漂っている。
 沖縄防衛局は、間もなくキャンプ・シュワブ沿岸の辺野古崎近くに、長さ約300メートル、幅17〜25メートルの仮設岸壁を建設する。
 米軍普天間飛行場辺野古移設を最大の争点とした知事選で、辺野古への新基地建設に反対する翁長雄志氏が10万票もの大差で勝利した直後である。
 民意など意に介さないといった強硬な態度だ。
 安倍首相は、9月の所信表明で「沖縄の方々の気持ちに寄り添う」と演説した。寄り添うというのは、どういう意味なのか。
 内閣改造で沖縄基地負担軽減担当相を兼任することになった菅義偉官房長官は、選挙前に辺野古は「過去の問題」と言い放ち、選挙後は移設作業を「粛々と進める」とけん制した。
 もう決まったことだから選挙結果など関係ないという威圧的な態度が、政府の言う「寄り添う」や「負担軽減」の実態である。

琉球新報衆院解散 国家像変えた政治に審判を 沖縄の民意軽視するな」憲法理念と乖離(かいり)/公約は選択の基礎

 16日の知事選で、普天間飛行場辺野古移設反対を公約に掲げた翁長雄志氏が、現職の仲井真弘多氏に約10万票の大差をつけて当選した。普天間辺野古移設を拒否する沖縄の民意を明確に示した。
 総選挙に乗じて「辺野古ノー」の民意を軽視することがあってはならない。沖縄の民意を踏まえ普天間飛行場の県外・国外移設を模索するのが政府のあるべき姿だ。
 ところが沖縄防衛局は海上作業を再開した。大量の砕石を海に投じる仮設桟橋の建設も計画している。工事強行の既成事実を積み重ね、県民を萎縮させようともくろんでいるのなら大きな過ちだ。
 公約は民主主義的選択の基礎だ。その重みは言うまでもない。
 前回の総選挙で普天間の県外移設を唱(とな)えて議席を得たにもかかわらず、県内移設に転じた自民の4衆院議員には、自らの姿勢転換をきちんと説明してもらいたい。政治不信を有権者に植え付けた責任は重大だ。公約違反の事実と向き合わないまま選挙戦に挑むことがあってはならない。
 私たちは戦後民主主義の立脚点を問い、国の行方を定める重大な選挙に臨むことになる。各党には、国民の選択に役立つ真摯(しんし)な論戦を十分に展開してもらいたい。

 北國新聞(本社・石川県金沢市)は社説で「『大義なし』の批判は疑問」の見出しを取り、今回の衆院解散と総選挙を積極評価しています。一部を書き留めておきます。
北國新聞衆院解散・総選挙へ 『大義なし』の批判は疑問」

 解散が確定的になる過程で与党は一つにまとまり、民主党も大急ぎで方針を転換した。増税延期は大方の国民の意に沿う決断だったとはいえ、一気に大きな流れになったのは、安倍首相が伝家の宝刀を抜く覚悟を示したからだろう。
 税制は国民生活に深く関わる民主主義の根幹であり、国民の支持なくして政策の遂行はおぼつかない。安倍首相の決断は3党合意の大きな転換を意味するものであり、社会保障費の不足を懸念する声に加えて、「軽減税率」の導入や「景気条項」の撤廃という新たな動きもある。ここで国民に信を問うのは自然な流れであり、「大義がない」とする批判は疑問だ。
 仮に解散をせずに、増税延期の法案を成立させようとしたら、野党は「国民に信を問え」と要求したのではなかったか。特定秘密保護法が成立する過程や、集団的自衛権行使の限定容認を閣議決定した際、一部の野党やメディアは「国民に信を問え」と迫った。
 選挙で問われるのは安倍政権の2年間であり、特定秘密保護法の成立や集団的自衛権も争点の一つである。年明けには原発の再稼働や集団的自衛権の関連法案の提出、普天間飛行場返還に伴う名護市辺野古の新基地建設などの難題も山積している。選挙で国民の審判を仰ぐ良い機会ではないか。