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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

衆院選公示翌日の在京紙紙面の記録〜「反基地の民意 尊重して」(毎日)、「米軍県外移転か 経済か」(東京)、「亀裂 広がった2年」(朝日)、「『700億円』は無駄ではない」(産経) 

 衆院選が12月2日、公示されました。12月14日の投開票日へ向けて連日、マスメディアも大きな報道が続きます。
 公示翌日の東京発行の新聞各紙3日付朝刊の1面トップの主な見出しを抜き出してみます。

朝日新聞「国の行方 問う」「経済・安保・原発 幅広い争点」「安倍政治に審判」
毎日新聞「『経済』軸 論戦火ぶた」「衆院選公示 14日投票」
▼読売新聞「経済政策 9党競う」「衆院選1191人立候補」「アベノミクス争点」
日経新聞「安倍政権2年に審判」「自民『脱デフレの好機』」「民主『景気回復乏しい』」
産経新聞「安倍政権2年 是か非か」「衆院選公示 1191人立候補」
東京新聞「道選ぶ論戦スタート」「首相『まず企業に競争力』」「野党『暮らし安定出発点』」

 1面トップの見出しをどうするか、実際には前日夕刊との重複を避けたりなどの要因があるのですが、それでもそれぞれの新聞が今回の衆院選の性格をどのようにとらえているのか、新聞ごとの特色がある程度は読み取れるのではないかと思います。

 この選挙のマスメディアの報道で、わたしが個人的に注目しているのは沖縄です。11月16日の沖縄県知事選で、米軍普天間飛行場の県内移設に反対を掲げた翁長雄志・前那覇市長が圧勝したことで、米軍基地の過剰負担に対する沖縄の住民の意思は明確になっています。米軍基地をどうするかは日本国の選択の問題であり、衆院選はその日本国の主権者である日本国民が投票権を行使する機会です。そのための判断材料として、沖縄で何が起きているかは重要で、とりわけ本土に住む日本国民に本土マスメディアが伝える意味は格段に大きいと考えています。
 3日付の在京各紙朝刊では、毎日新聞東京新聞がいずれも第2社会面に写真付きで沖縄の関連記事を載せていました。毎日新聞は「反基地の民意 尊重して」の3段見出しで、普天間飛行場に隣接する小学校の元PTA会長の女性を取り上げています。併用写真は、普天間飛行場の移設先として日米両政府が合意している名護市辺野古地区の米軍キャンプ・シュワブゲート前で、候補者の演説に声援を送る人たちの様子。手に持つカードには「新基地反対」の文字が見えます。東京新聞は「基地負担いつまで」「米軍県外移転か 経済か」の見出しが6段と大きな扱い。普天間飛行場キャンプ・シュワブ前の2日午前の住民による抗議行動を紹介。米軍嘉手納基地がある沖縄市での与党候補の出陣式も取材し「辺野古はやむをえない」「基地があるから沖縄の経済も成り立っている」との住民の声も紹介しています。写真はやはりキャンプ・シュワブ前で演説する候補者に支持の声を上げる市民らの様子です。
 投開票日まで本土マスメディアが沖縄や米軍基地をどう報じていくのか、わたしが住む東京で実際に目にすることができる報道の実例として、在京各紙の報道を注視していこうと思います。
 ほかに各紙の3日付朝刊の紙面で印象に残ったのは、朝日新聞の社会面です。「亀裂 広がった2年」の見出しで、「株高・円安」と「賃金」の二つの側面で安倍晋三政権の2年間の政策で恩恵を受けた人とそうでない人を取り上げています。シリーズで掲載していくようで、タイトルカットは「分(わ)かつ国 2014衆院選」。記事には「安倍政権2年の政策が、私たちの社会を分かち、互いの距離を遠ざけてはいないか。各地の有権者を訪ね、この国のいまと課題を探る」とあります。アベノミクスで社会が二極化に進んでいるのではないか、との仮説でしょうか。わたしたちの社会は既に「格差」や「貧困」を抱えています。注意したいのは、安倍政治が一方では、軍事指向を極めて強く持っていることです。貧困と戦争は非常に親和性が高いとわたしは考えています。
 その安倍政権の軍事指向とも関連して、もう一つ、3日付朝刊の在京各紙の1面で目を引かれたのは、産経新聞政治部長の「『700億円』は無駄ではない」とのタイトルの署名入り論評記事です。安倍政権の2年間は中国を念頭に「平和時における有事への備え」を進めてきたとして「集団的自衛権を限定的に容認する7月1日の閣議決定をはじめ、機密を漏らした公務員らへの罰則を強める特定秘密保護法の制定、武器輸出三原則の見直しなどを行った」「来年春には、集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案を国会に提出する。その先には憲法改正がある」と指摘しています。そして「日本の歩むべき道筋を明確にしている安倍政権を信任するのか。12日間の選挙戦を通じて、各党には議論を深めてほしい」と書き、さらには「自民党一党支配が長く続いた冷戦時代には、政権を懲らしめることがあった。中国の存在が大きくなっている今の時代、そんな気持ちで投票所に足を運ぶべきではない。私たち一人一人が日本の方向性について考える選挙である」と結んでいます。安倍首相自身が今回の衆院解散・総選挙に際してはっきり口にしなかった本心を明確に代弁しているように思え、参考になりました。この論評記事はネットで読めます。
 ※産経ニュース「【衆院選2014】『700億円』は無駄ではない 政治部長・有元隆志」
  http://www.sankei.com/politics/news/141203/plt1412030008-n1.html
 
 ※貧困と戦争の親和性に対するわたしの私見は、以下の過去記事で、ILO憲章を引用しながら触れています。
 ▼「読書:『ルポ 貧困大国アメリカ』(堤未香 岩波新書)」=2008年4月27日
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20080427/1262048091
 ▼「秘密保護法から考える『マスメディアと戦争』〜民放労連の学習集会で話したこと」=2014年2月5日
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20140205/1391558240


 以下に、3日付の在京各紙朝刊の1面トップ記事と署名論評、社会面の衆院選に関連した主な記事の見出しを書き留めておきます。各紙紙面とも東京本社発行の最終版です。
朝日新聞
1面トップ「国の行方 問う」「経済・安保・原発 幅広い争点」「安倍政治に審判」
1面・署名論評「『白か黒か』競うだけでなく」立松朗政治部長
社会面見開き見出し「亀裂 広がった2年」「熟考 道探す12日間」
社会面「株高・円安 お金回ってこない/6600万円もうけた」「賃金 時給890円のまま/ベアで外食増えた」:ワッペン「分かつ国 2014衆院選 1」
第2社会面「秋田3区 人口減『農家つぶれる』」「東京5区 『一戸建ては争奪戦』」

毎日新聞
1面トップ「『経済』軸 論戦火ぶた」「衆院選公示 14日投票」
社会面トップ「働く母親 認めて」「子育てと両立 居場所なく」:ワッペン「わたしの争点 2014衆院選 1」
第2社会面「願い 1票に託す」「介護職場 若手増やして」/「反基地の民意尊重して」(沖縄、写真も)/「原発の将来考えて」(鹿児島・薩摩川内)/「復興の目標 示して」(東北の東日本大震災被災地)

▼読売新聞
1面トップ「経済政策 9党競う」「衆院選1191人立候補」「アベノミクス争点」
1面・署名論評「有権者の関心も焦点」望月公一編集委員
社会面見開き見出し「生き残りへ激突」「冬の陣 再び熱く」
社会面「元首相、元代表 必死のお願い」/「土菅対決4度目 東京18区」(菅直人・元首相)/「王国でドブ板 栃木3区」(渡辺喜美・元みんなの党党首)/「鬼門に有名候補 大阪11区」(平野博文・元官房長官
第2社会面「党首 列島駆け回る 被災地、首都圏へ」(自民、民主、維新、公明)
第2社会面「公認調整に戸惑いも」/「福島5区 公示前日に候補決定」/「福岡1区 『古賀・麻生 代理戦争』」

日経新聞
1面トップ「安倍政権2年に審判」「自民『脱デフレの好機』」「民主『景気回復乏しい』」
1面・署名論評「『不利益の分配』も問う時だ」芹川洋一論説委員
社会面トップ「激戦区 風吹くか」/「島しょの1票 逃がさぬ戦い 宿敵対決」(東京3区)/「『違いは政策、実績で』 3女性激突」(大阪7区)/「税金、安保…訴え多彩に 6候補混戦」(愛知1区)

産経新聞
1面トップ「安倍政権2年 是か非か」「衆院選公示 1191人立候補」
1面・署名論評「『700億円』は無駄ではない」有元隆志政治部長
社会面トップ「『政治とカネ』逆風下 再出発誓う」/「涙『一からやる覚悟』」小渕優子氏・群馬5区/「『党は消えても喜美は消えず』」渡辺喜美氏・栃木3区/「第一声で謝罪『全力で働く』」松島みどり氏・東京14区/「徳洲会関係者『選挙あることすら忘れていた』」鹿児島2区
第2社会面「『震災被災地』復興 一票どう使う」「津波でひしゃげた橋/『暮らしの先は…』」/「原発避難者『バラバラになる』」福島5区/「『地元の声拾ってくれる人に』」宮城6区

東京新聞
1面トップ「道選ぶ論戦スタート」「首相『まず企業に競争力』」「野党『暮らし安定出発点』」
社会面見開き見出し「『3つの岐路』の現場切実」「『痛み分かる政治』を信じて」
社会面「置き去りの声 届け」「東京 二極化恩恵は一部集中」
第2社会面「復興後の町の姿示して」「福島 原発避難 苦しみ続く」/「米軍県外移転か 経済か」「沖縄 基地負担いつまで」(写真も)
第2社会面「全国の注目選挙区」「民主の公認得て自民に挑む 北海道7区」/「渡辺さん『過去振り返らず』 栃木3区」/「また選挙…関心低下を懸念 鹿児島2区」